召喚師が危機契約に挑む話   作:暇人のアキ

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英雄

 遺跡内部にて、メイソンとヤムは奥へと向かって歩いていた。遺跡は随分と古めかしく、崩れてないのが不思議なほどだった。もちろん明かりなどないので、ライトで周囲を照らしながら進んでいく。

 ヤムは、メイソンが見慣れない機械を持っているのが気になっていた。上半身を覆うようなアームと、それにつながる機械的なバックパック。さらに、そのアームでタイヤのついた巨大なマシンを運んでいる。メイソンの身体能力では到底運べないそれを見るに、アームは筋力の補助をする役割なのだろう。

 

「その珍妙な機械は?」

「外骨格、それに簡易パラソルと折り畳み式のバギーだ。とっさに車の荷台から持ち出しておいて良かったな。こいつがあれば、遺跡の壁を壊して宝を持って逃げれるぞ」

「……外の連中はどうすんだ?」

「そんなもんは知るか。まあ、パラソルの効果時間が切れるまでに逃げ出せれば、鉱石病にかからなくてすむかもな。ああ、いや、あいつらはもともと感染者か。じゃあ問題はないな!」

「……そうかい」

 

 外で戦っている部下を見捨てて逃げる算段を立てているメイソンに、ヤムは無表情で応える。それ以来、2人の間に会話はなかった。

 しばらく進むと、少し大きめの部屋にたどり着いた。遺跡は大した大きさではない。ここが唯一の部屋だろう。

 

「ここが最奥か?」

 

 その部屋の中心には、台座が置いてあった。今はひび割れ苔むしているが、かつては神々しい威光を放っていたであろうことが分かる、その意匠。メイソンは足早に近づく。

 

「ふっふっふ、ついに暦法の王の遺産がこの手に……なんだ、これは?」

 

 台座の上にあったのは、半分になった円盤だった。その円盤は石製であり、黄金でできているというわけでもない。その円盤に、なにかアーツによる力は感じない。なんの希少性もない、ただの円盤。

 

「なんだ、これは!? 財宝はどうした!? 眩いばかりの金銀や宝石があるはずだろう!?」

「──誰がここに財宝があるなんて言ったのかな?」

 

 後ろからの声に、メイソンは振り返る。エクラたちが追い付いてきたのだ。

 

「なっ! バカな! もうここまで来たというのか!?」

「ここにあるのはあくまでも遺産への手がかり。つまり、君にとってはただの漬物石さ」

 

 そう、ここにあったのはあくまでも遺産への手がかりの、それまた手がかり。遺産そのものがあるというのは、メイソンの早とちりだったのだ。

 

「あの役立たず共め……! 時間稼ぎもまともにできんのか」

「それは君が価値を計りきれるものじゃない! こっちに渡してもらおうか!」

「……ふん、ここまで来て手ぶらで帰れるものか!! 遺産そのものでなくとも、遺産の手がかりであることに違いはあるまい! ヤム、こいつらを殺せぇ!」

 

 メイソンの命令を受けて、ヤムが動く。その手には、どこに隠し持っていたのだろうか、いつの間にかクロスボウが握られていた。

 

「ヤム! そんなやつに従う必要はない! こっちに来い!」

 

 エクラの叫びはただむなしく響き、ヤムは無慈悲にもクロスボウを構えた。

 

「……武器を構えろ、エクラ。でなきゃ──一瞬で終わるぞ?」

 

 ヤムが引き金を引き、クロスボウが発射される。エクラたちは当然、その矢に注視していた。だがヤムの本命は矢ではない。ほとんど予備動作も無しに走り出すと、矢に追従し自分自身が二の矢となった。向かう先はシャロンだ。その手には先ほどまで絶対になかったはずのナイフが握られていた。

 

 シャロンは紙一重で矢を躱し、自身の槍で二の矢を防ぐ。だが体勢の崩れた状態でヤムの攻撃は受けきれず、はじかれてしまう。

 

「きゃっ!」

 

 がら空きの腹に向かって、ナイフを振るう。凶刃がシャロンを引き裂く前に、横やりが入った。アルフォンスの風の魔法がヤムを襲う。ヤムは簡単にそれを躱す。

 すでにペペが攻撃の体勢に入っている。ヤムは振り回される大槌をナイフで受けようとするも受けきれず、ナイフは宙を舞う。そこをアルフォンスとシャロンの剣と槍が左右から襲う。

 すでにヤムに武器はなく、抵抗する手段はない。がら空きの両手を狙う。

 

「──っ!?」

 

 だが、それこそが罠だった。ヤムの手には、しっかりと武器が握られていた。なかったはずの槍が突然に出現し、2人の攻撃を迎い打った。

 無手と槍持ち。リーチの差を見誤らされた2人は抵抗できない。その槍がまずはアルフォンスの胸を貫こうとし──

 銃声が響いた。エクラがブレイザブリクの引き金を引いたのだ。その銃撃はヤムには当たらなかったが、一旦ひかせることに成功した。

 

 瞬きすら許さぬ数秒の攻防に、ようやく息を吐く。たった数合でわかる。この男は、この場の誰よりも強い。4人で挑んでも厳しい相手だろう。

 そして、一同には気になることがあった。それは、ヤムが持ってなかったはずの武器を持っている点。そしてその武器が、見知った形状であるという点だ。

 ヤムの持つ槍は、シャロンのフェンサリルとそっくりであった。

 

「あれって、私のフェンサリルですか!?」

「まさか、相手の武器をコピーできるのか?」

 

 この世界にはないはずの異界の武器。2つとないはずの神器が2つあるという異常。このことからアルフォンスは、相手の持つアーツが『物体の完全なるコピー』であると考えた。

 そしてその予測は、ペペにさらなる推察をもたらした。

 

「これで、謎が解けたね。どうやってこの場所を突き止めたのか。つまり君は、私に接触したあの日に地図をコピーしたんだ」

「……接触自体は、偶然だったよ。なんかの罠じゃねえかと疑ったぐらいだ」

 

 エクラと初めてあった日。エクラたちを迎えに来た時、ペペはヤムと出会っていた。その際に、ヤムはペペのポーチを中身ごとコピーし、地図を手に入れていたのだ。ペペと接触できたことも、ペペがポーチの中に地図をしまっていたことも、まったくの偶然であったが、それでもヤムは確かに地図を手に入れていた。

 そしてもう一つ、ペペの持つ疑問が氷解する。

 

「それになにより、あの封蝋だ。君は私の弟の封蝋をコピーして密書を偽造したね!?」

 

 領主邸にあったあの密書。普通ならば偽造などはできないが、アーツによる仕業であれば別だ。おそらく、ヤムは以前にセネドに会うか、その部屋に侵入したことでもあるのだろう。メイソンの護衛としてであれば、不可能ではない。セネドも、アーツによるコピーなど想像すらしなかったはずだ。

 

「……ふん。多少は弟の方に注意を向けてくれるかと思っての策だったが、無駄骨だったようだな」

「人の弟をなんだと思っているのさ! 絶対に許さないからね!」

 

 その卑劣な策謀に、ペペが怒りをあらわにする。姉弟の絆を利用したメイソンの策は、到底許せるものではなかった。

 

「……シャロン、そのまま口を開かずに聞いてくれ」

 

 ペペたちの言葉の応酬の裏で、アルフォンスがシャロンに耳打ちする。彼の言葉はその場の会話に紛れ、メイソンたちには届かない。

 

 ブレイザブリクを構えたエクラは、その銃口をヤムに向けている。だが、手は感情のままに震えており、まるで定まらない。

 エクラは始め、子どもたちのことを持ち出せばヤムはすぐにこちらにつくだろうと考えていた。だが、ヤムはこちらに剣を向けた。ヤムと戦闘になると思っていなかったエクラには、若干の迷いがあった。

 

「なあ、ヤム。なんで自分たちと戦おうとするんだ? お前、このままじゃ指名手配犯だぞ?」

「……覚悟の上だ。一度交わした契約、破るわけにはいかねえ」

「そんなやつとの契約守ってなんになる? 使い潰されるだけだぞ? そっちについたところで、未来はない!」

「……未来がなんだ? 俺は傭兵──天災の中で生きる者(レッドラベル)だ。もう、こういう生き方しかできねえ」

 

 未来。その言葉を聞いたヤムは、筆舌に尽くしがたい顔をしていた。エクラに分かったのは、激しい怒りと憎悪が渦巻いてることだけだ。

 なにに対してかは分からない。だが、ヤムはなにかにとらわれているようだった。

 

「──じゃあ、ぶん殴ってでも天災の中から引きずり出してやるよ!」

 

 エクラは引き金を引き、魔弾が射出される。ヤムは簡単にそれを躱すと、再び武器を取り出した。その武器は、エクラの持つ召喚銃と全く同じ形状をしていた。

 

「な、ブレイザブリクまでコピーできるのか!?」

 

 ブレイザブリクは彼らの持つ武器の中でもとりわけて特別なものだ。まさか、こんな簡単にコピーできるとは思いもしない。

 ヤムは銃口をエクラに向け、引き金を引く。だが、ブレイザブリクは乾いた音を返すだけだった。

 

「……あ? アーツユニットじゃねえのか?」

 

 特務機関の扱う魔術は、この世界のアーツとは根本から違うものだ。ゆえに、ブレイザブリクはヤムには使えない。

 

「今だ!」

 

 アルフォンスはその隙を見逃す男ではない。一息に距離を詰めると、その剣──フォルグファングを振るう。ヤムは銃に気を取られて反応できていない。

 その切っ先は確かに胴体を切り裂いた──かに思えた。

 

「手ごたえが、ない?」

「ホログラムだ!」

 

 視覚と食い違う、空を切ったかのような感覚。それに疑問を感じる間に、現状に気が付く。その場に、ヤムが二人いた。アルフォンスが切った相手とは別の、剣先のわずかな先にもう一人のヤムがいた。

 おそらくは幻術の類で、ほんのすこしだけ距離を誤認させていたのだろう。アルフォンスがそれに気づくころには、ヤムは新たな武器を構えていた。アルフォンスのフォルグファングだ。

 振り下ろされた剣を、槌がはじいた。ペペがすでに距離を詰めていた。

 

「すまない、助かった」

「いいさ」

 

 再び、戦闘が始まる。エクラが後方から銃撃で牽制し、アルフォンスとペペが互いをフォローし合う。個人戦力ではヤムに及ばないながらも、数の利を生かしてどうにか食らいついていた。

 

 戦闘が始まったとみるや、ひっそりとその場から距離を取るものがいた。メイソンだ。彼は脱出のためにこっそりと壁際へと移動していた。この部屋は魔術による明かりで照らされているとはいえ、かなり薄暗い。戦闘

 この戦いの主目的は円盤だ。ゆえに、メイソンは円盤をもって遺跡の外に出てしまえば勝ちだ。あとは、いかにして気付かれずにこの壁を壊すか。

 そんなことを考えるメイソンの行く手を、人影が阻んだ。シャロンだ。

 

「おっと、残念でした! こっちには、私がいますよ!」

「なっ! どけ、女!」

 

 シャロンはアルフォンスに言われ、会話の最中にこっそりと移動していた。メイソンの抵抗もむなしく、シャロンは円盤を奪った。

 

 だがメイソンが騒いだことで、ヤムが事態に気付いた。ヤムは急反転してシャロンの方へと向かう。とっさの事態に反応できないシャロンに、フォルグファングを振り上げる。

 

「──僕の妹に、手出しはさせない!」

 

 アルフォンスの放った魔術が、剣の軌道をそらす。だがヤムはそれで止まる男ではない。すぐに二の太刀を──振るわなかった。

 

「いも、うと……」

 

 剣は振るわれた勢いのまま地面に突き刺さった。シャロンは脱兎のごとく駆け出し、エクラたちと合流する。シャロンは円盤をペペに手渡す。

 

「ぺぺさん、これです!」

「ありがとう、シャロン。これで、目的の半分は達したね」

 

 これで諸王の王の遺産を回収するという第一の目的は達成した。あとは、ヤムを連れ帰るだけだ。改めてヤムへと向き直る。

 

 その時だった。

 音が鳴る。ハンマーで地面を打ち鳴らしているような音だ。音はやがて増え、重なり、大きくなっていく。音は振動へと変わり、大地すらも震わせる。

 

「な、なんだ……? なぜ揺れている?」

 

 大地の振動が遺跡に伝わり、遺跡が揺れ始める。その振動はメイソンやエクラが立っていられなくなるほどに大きくなっていく。

 天災ではビクともしなかった遺跡が大きく揺れ、音を立てて軋み始める。天井は砂を吹き、壁にはヒビが入る。

 

「崩れるぞ!」

「脱出する! 入り口へ急げ!」

「ヤム! 私を守れ!」

 

 各々が身を守ろうと動き始める。エクラたちは駆け出し、遺跡の入り口へと向かう。

 だが、時間が足りない。エクラたちが入り口にたどり着く前に、崩壊は加速する。まるでその役目を終えたかのように、遺跡は崩れた。

 

 崩壊に巻き込まれたエクラたちだったが、幸いにも致命傷は免れていた。瓦礫をどかしながらなんとか立ち上がる。

 

「いってて……」

「いったいなにが……」

 

 周囲の様子は、先ほどまでとすっかり変わっていた。遺跡が倒壊しているのはもちろん、一帯を砂嵐が支配し、数歩先すら見渡せないような状況になっていた。

 パラソルマシンによって、遺跡周辺の砂嵐は止んでいるはずだった。だが、視界情報がその前提を否定する。彼らは今、まさしく天災の渦中にいるのだ。

 

「砂嵐……? マズイ! 3人とも、持たせておいた源石防護装置を身に着けろ!」

 

 ぺぺは慌ててマスク型の源石防護装置を取り出し、他のメンバーへも同じくするように指示を出す。ここはまさに、活性化源石の渦の中だ。誰であっても、簡単に感染者と化すだろう。

 

「視界が悪いな。アンナ隊長は……?」

 

 遺跡の外では、アンナと傭兵たちが戦闘を繰り広げていたはずだ。だが、辺りは怖いくらいに静かだ。

 いや、違う。音がする。砂嵐とは違う音が、かすかに聞こえてくる。ハンマーで地面を打ち鳴らすような、あの音だ。あの音は地面から、いやさらにその下から聞こえてくるようだった。

 

「エクラ! 飛びなさい! 早く!」

 

 それとは反対方向、上空から声がした。アンナの声だ。アンナはペガサスに乗って空中を飛んでいた。エクラたちは、そちらを見上げた。

 

「エクラさん!」

 

 声がする。叫ぶような、必死な声だ。これは、シャロンの声だ。エクラは、シャロンが真横にいることに気づいた。シャロンは、エクラを突き飛ばした。その不意打ちに、受け身すら取れずに転がる。なぜ突き飛ばしたのか。混乱する頭で、シャロンのいた方を見る。シャロンを、見る。

 

 ──天災とは、人の身にあまる現象である。天災とは、人の世を壊す災厄である。天災とは、人の知の及ばぬ未知である。

 どれだけ人が天災に対抗しようと、その叡智を、技術を、力を磨こうと、天災の前では意味などない。

 その牙は、感染者も、英雄も、選り好みはしない。

 

 エクラが立っていた位置、そこにはシャロンがいた。その腹から長いくちばしを生やして。

 

「……シャロン?」

 

 それは一体の獣だった。龍のように長い胴体と、岩石のような鱗、ランスのように鋭いくちばしを持った、獣。

 獣は地面の下を泳いできたようだった。後ろ半分は地面に埋まっている。そして、飛び出した上半身の先には、シャロンがいた。

 その体は宙に浮き、仰向けになりながらも四肢は重力に従ってだらりと垂れ、腹からは獣のくちばしと赤黒い液体が飛び出している。

 

 彼女は、エクラの無事を確認すると、満足そうに微笑み、そしてゆっくりと目を閉じた。

 

「シャロンッ!」

 

 シャロンの体は光に還り、塵のように散っていく。

 その様はまるで、感染者が死後に撒き散らす源石のようだった。

 




強敵:遊砂重奏
     遊砂獣が追加で出現する


 源石
 テラのどこにでもある鉱物でありながら、莫大なエネルギーを秘めており、電気、ガス、半導体、銃に爆弾、果ては魔法まで、あらゆる物に使われる万能エネルギー源である。
 鉱物のくせに自分で勝手に増殖するという特徴を持っており、基本的になくならない。一定以上増えることで天災を引き起こし、周囲の環境に壊滅的なダメージを与える。また、人間の体内に蓄積すると鉱石病も引き起こす。
 ほぼ無限のエネルギーと引き換えに災害と病魔を振りまく、と言うとある意味でメリットとデメリットが釣り合っているのかもしれない。
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