召喚師が危機契約に挑む話   作:暇人のアキ

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神階英雄召喚

 飛翔するペガサス。悲痛な顔で、エクラの両手を握るペペ。群がる遊砂獣たち。そのすべてが、静止画のように止まっている。

 エクラの隣には、色白で銀髪の美女がいた。彼女──グルヴェイグは空気を踏みしめて立っている。彼女こそがエクラの切り札、神階英雄グルヴェイグだ。

 

 彼女は遊砂獣に手を向けると、横に薙いだ。すると、遊砂獣の口が強制的に開き、中から人が浮き上がってくる。

 そこにいたのは、ヤムだった。丸呑みにされたのか、傷が増えたりはしていない。ヤムは重力にも慣性力にも逆らい、空中に固定されていた。

 

「はあ、はぁ、はあ……ありがとう、グルヴェイグ。助かった」

 

 エクラが言うと、グルヴェイグが振り向く。グルヴェイグがエクラの体に触れると、その体がふわりと浮き上がり、空気の上に着地した。

 

「礼は必要ない。私はあなたの女神であり、あなたの英雄」

 

 グルヴェイグはエクラの体をじっと見つめる。服は砂埃だらけで、全身に細かい切り傷や打撲痕がある。この場では比較的軽症だが、全身傷だらけだ。

 グルヴェイクは不満げな声を漏らす。

 

「……なぜ、早く私を呼ばなかったの?」

「ぶっつけ本番だし、成功するかは賭けだった。それに、この召喚方法が英雄にどんな影響を及ぼすのか分からない」

「無用な心配。あなたは、自分の身の安全を一番に考えるべき」

「自分は、なるべく英雄には真摯でありたいんだ。使い捨てるような真似はしたくない」

 

 グルヴェイグはなお不満げな顔をしていたが、一応は納得してくれたのか、それ以上の反論はしなかった。

 グルヴェイグがエクラの手を取ると、再び体が浮き上がる。そのままゆっくりと地面へと落下していき、今度は本物の大地へと着地した。

 エクラは宙に浮かぶヤムの顔を見る。その顔は、やけに晴れやかだった。

 

「勝手に死のうとするんじゃねえよ。子どもたちには、お前がきっちり説明するんだからな」

 

 エクラがヤムに触れるが、時が止まっているせいで感触も熱も伝わってこない。それでもたしかに、生きている者のエネルギーを感じさせた。

 

 グルヴェイグは、ヤムとペペを運んで飛空城へとつながる扉へと向かう。静止した世界の中でエクラにできることはほとんどない。二人のことはグルヴェイグに任せて、改めて周囲を見渡す。

 

 英雄召喚によって周囲の源石を消費した影響で、周りの景色は多少見えやすくなっていた。そのおかげか、少し離れたところに車が止まっているのが見えた。

 近づいてみると、車は遊砂獣に囲まれていた。その中には、メイソンに雇われていたレッドラベル契約の傭兵たちがいた。

 

「こいつら、生きてたのか」

 

 このまま時が動き出せば、彼らは死ぬだろう。エクラとしては、彼らに思うところはない。末端の兵士に責任を問うたところで仕方ないと思っているからだ。

 二人を運び終えたグルヴェイグが後ろからやってくる。

 

「グルヴェイグ、この人たちも運んでもらえる?」

 

 その言葉を聞いたグルヴェイグは、露骨に不機嫌そうな顔をした。

 

「なぜ? 彼らはあなたを殺そうとした。敵を救う必要もない」

 

 グルヴェイグは時の女神でありエクラの召喚英雄だ。ここでなにが起きたのかは、エクラの記憶からある程度把握していた。

 グルヴェイグにとっては、エクラを殺そうとした彼らを救おうとするのはまったく理解ができなかった。

 

「いや、この人たちには大した事されてないし。それに──」

 

 エクラは聖人ではない。自分を殺そうとした相手を命を懸けてまで救おうとは思わない。だが今は、それなりに余力のある状況だ。ここで彼らを見殺しにするのは忍びなかった。

 

「それにこの人たちもヤムと同じ、ただ雇われただけの人たちだ。なるべくなら殺したくはない」

「……あなたは甘すぎる」

 

 グルヴェイグは眉をひそめて、エクラと視線を合わせた。やがてふっと顔を背けると、車に触れて宙に浮かび上がらせた。

 

「やってくれるの?」

「……私が今ここにいるのは、あなたの優しさと、彼女の甘さのおかげ。そんなあなたといれる時間に、真摯でありたい」

 

 意趣返しのように、そんな言葉を返す。グルヴェイグはエクラから顔をそむけたまま、飛空城の扉へと向かった。

 傭兵たちは車から出され、武器を取り上げられ縄で縛られた。一通りの作業が終わり、エクラは息を漏らした。

 

「ふう。これで、一安心かな」

 

 エクラの隣に、グルヴェイグが立っている。彼女はなにかを待っているかのように、ジッとエクラを見ていた。

 

「ど、どうしたの?」

「ご褒美をちょうだい」

「ええっと……なにをすれば?」

「抱きしめて」

「……は、はい」

 

 ストレートなお願いに、思わず赤面しそうになるエクラ。対して言っている本人はまったくの無表情だ。特に変な意味はないのだろう。

 エクラは、若干心拍数を上げながらもグルヴェイグを抱きしめた。グルヴェイグのほうがやや背が高いため、むしろ抱かれているような構図だ。

 この静止した世界で、お互いが唯一の熱持つ存在だ。それゆえか、彼女の存在を強く感じた。耳元にかかる吐息が、やけにくすぐったかった。

 

「……時は満ちた」

 

 いったいなにが満ちたのか。一瞬そんなことを考えたエクラだったが、すぐに理解する。グルヴェイグの体が、淡く光り出していた。

 

「……やっぱり不完全だったか。ごめんね。次はちゃんと召喚するから」

 

 本来召喚英雄に時間制限などない。だが、源石という未知の素材で行う不安定な召喚。神を降ろす器を作るには、なにもかもが足りていなかった。

 時間にして数分。これが、今できる神階英雄召喚の限界だった。

 

「次はセイズを召喚して。あまりあなたの時間を独占するのは、彼女に申し訳ない」

「……じゃあ、次は一緒に召喚するよ」

 

 エクラのまっすぐな言葉に、グルヴェイグは嬉しそうに微笑んだ。名残惜しそうにエクラから離れると、二人の視線が合わさった。

 

「己の尾を噛む蛇のように、時は繰り返すもの。しかしあなたの時はすでに拓かれている。あなたの進む無限の未来に、祝福を」

 

 そして、グルヴェイグは光の粉塵となって消えていった。

 再び、世界の時は動き出す。

 飛空城の扉は閉ざされ、エクラは天災から脱出することに成功した。

 

 こうして、彼の危機契約は終わりを迎えた。

 

 

 

 




グルヴェイグ
 FEHにおける第7部のラスボスにして実質的なヒロインポジ。黄金の蛇によって心を蝕まれ、世界を滅ぼした後に過去へと戻るという無限ループに囚われていた。エクラたちに倒されたが、セイズの献身によって、その心はセイズの中で生き残ることができた。
 通称『顔だけで総選挙を取った女』。FEHには総選挙という、千人以上のFEシリーズ全キャラによる人気投票がある。そんな総選挙でグルヴェイグは、当時ほとんど喋っていないにも関わらず1位を獲得。第7回ということもあり既に人気キャラは殿堂入り済みだったとはいえ、ほぼセリフのないキャラが各シリーズの主人公・ヒロインを抑えて1位を取るという異例の事態となった。
 ちなみにエクラとの間に子どもがいる(ガチ)。


次回、ラストです。
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