「──素晴らしい。素晴らしいよ君たち!! まさしく未知の世界! まさかこんなに心震わせる現象に出会えるなんて!」
興奮した様子でまくしたてるペペにアルフォンスが少し困惑したような顔をする。
「僕が言うのもおかしな話だが、そんな簡単に信じてもいいのかい? ここでは異界というものに馴染みがないんだろう?」
ペペの反応からして、この世界には異界という概念はないようだ。だというのにすぐに信じられるものだろうか。あるいは、異界ではないにしても似たようなものならあるのかもしれないが。
「こういくつも証拠を見せられては、信じるほかない、というものさ」
「証拠?」
「まずはこの獣。私はこんな生物見たことがない。空を飛んで複数人を運搬できる生物なんて、そんなものが実在したなら私の耳にも入っているはずさ」
ペペはエクラたちの背後にて銅像のようにたたずんでいた騎手と羽付き駄獣に近づくと、駄獣の頭をなでる。その体は、意外にも温かみがあった。
騎手は顔こそ同じだが、それぞれ手に持っているものが違った。1人は剣、1人は槍、そして1人は本を持っていた。その本をひょいと取ると、中をパラパラとめくる。
「次にこの本。見たところ、そっちのアルフォンスくんが持っている本と同じだね。そして……うん、やっぱり。この本には
「アーツ……僕らの世界でいうところの魔術かな」
「そしてこの城。かつてのリターニア様式に似ているが、細部が違う。それに、最近まで使われていた形跡もある。こんな大規模な城が、現在に至るまで使われているなんて話は聞いたことがないね」
「……すごいね。ほとんど一目見ただけなのに、そこまで分かるのか」
「こう見えても考古学者でね。どのくらい前に使われていたものなのかくらい、すぐに分かるよ」
ふふーん、と自慢げに胸を張るぺぺ。
「しかし、その異界とやらはどういうものなんだい? そんな簡単に行き来できるものなのかな?」
「うーん、簡単といえば簡単かな。門をくぐるだけだし」
「ほほう。つまり、私がそっちの世界に行くことは……」
「それは無理。実は、自分たちは今遭難中でさ」
「……ほう?」
「数日前、目が覚めたらいつの間にかこの世界でね。門を開こうにも素材がないから、どうにもできずに彷徨ってたんだ」
「それは……よく生きてたね」
「飛空城があったから、なんとかなったよ。食糧庫と畑は無事だったし」
「飛空城……先ほどから気になっていたんだが、この城はどこにあるんだい?」
「どこって……ああ、そうか。見てみる?」
ぺぺは空間を超えてこの城にやってきた。城は高い城壁に囲まれていて、周辺の景色は全く見えなかった。3人は城の外周部に行くと、側防塔から城壁を登る。
「うわぁ……すごいな、これは」
3人の下には、雲があった。多くの源石が混じり、黒々と輝く天災雲。その上を、この城は悠々と飛んでいた。
天災雲はその重さから通常の雲よりも低高度に形成される。しかし、いくら低いとはいえ雲は雲。天災雲を上から見ることなど、テラにおいては非常に珍しいことだった。
「召喚師の神器の1つ、飛空城。文字通り、雲の上を飛ぶ城だよ」
これだけの高度を飛んでいるというのに、空気が薄くなっていないことに、ぺぺは気づいた。それに、まったく風も吹いていない。なにか外界からの影響を抑える術があるのだろうか?
「……この城は天災を越えられるのかな?」
「天災? ってさっきの砂嵐のこと?」
「ああ、そうだ。例えば、砂嵐が中に入ってこないように保護しながら、荒野の狙った場所に着地することは可能かな?」
「できると思うけど……」
この城は召喚師たるエクラの操作で動いている。どういう原理で動いているかはまったく分かっていないが、何ができるのかくらいはエクラも把握している。飛空城を覆うバリアは砂嵐程度ならビクともしないし、ある程度の広さがあるのなら、地上に着陸することも可能だった。
ペペはなにやら真剣なまなざしで考え事をしているようだった。ほぼ初対面の彼らに、彼女の考えは分からない。なにかを言おうとして、やめる。それを繰り返してるようだった。ほんの数秒、沈黙が流れる。
「……なにか困ってることがあるなら、自分たちが力になるよ」
「………………いや、君たちは巻き込めないよ。さっきも助けてもらったばかりなのに、また借りを作ることになる」
「ひとまず、僕たちは自分の話をした。なら次は君の番だろう。そもそも、君はなぜあんな所にいたんだい? なぜ襲われていた?」
いったんの拒絶を見せたペペにアルフォンスがもっともな疑問を投げかける。2人はまだ、ペペの事情を何も聞いていなかった。
「……私は今、ある遺跡を探している。かつての諸王の王、シャアの残した宝物庫への手がかり。すでに場所は特定しているのだけど、その遺跡は天災多発区域を越えた先にある」
「君を襲っていた傭兵は、その宝物庫が狙いなのかな?」
「おそらく、そうだ。どこの手のものかは知らないけれど。シャアの宝物庫なんて、学者じゃなくても垂涎の代物だしね」
「天災って、1人で越えられるものなの?」
「……無理だろうな。それでも、私は……私には、時間がないんだ」
絞り出すように、ペペは話す。彼女には事情があった。少しでも早く成果を出さねばならない理由が。しかしそれはエクラには分からない。
だが、彼女がしたいことは分かった。してほしいことも分かった。ならば、エクラのすることは1つだ。
「──じゃあ、決まりだ。自分たちがペペを遺跡まで送り届ける」
「なっ……! ダメだ。君はまだこの世界のことを知らなすぎる。天災がどれだけ恐ろしいものかだって、分からないだろう」
「ペペはそんなに恐ろしいものに独りで挑もうとしてたの? なおさら放っておけないね」
「私を襲った傭兵だっている。どんな大物が裏にいるかも分からないんだぞ」
「けど、ペペは引くつもりないんでしょ?」
「それは……」
彼女はもちろん引く気はない。命を懸けてでも、とにかく早く成果を出す必要があった。だが、それに他人を付き合わせることは気が引けた。ましてや、右も左も分からないよその世界の人間を。
「……自分は、死の危険に身を投げようとしている人を放っておくことはできない」
「……私は、そんなに死にそうに見えたかな」
「なにかを、焦ってるようには見えた」
エクラは知っていた。自分を犠牲にしてでもなにかを成し遂げようとする者たちを。その命を散らしてしまった英雄たちを。ペペの姿は、そんな者たちとダブって見えた。
「──ダメだ。君たちは、この世界を知らない。私が言ったことが全部嘘で、君たちを謀っていたとしても分からないだろう」
「……」
「だから、まずは町に行って、もっとこの世界について知識を得て……それでも気が変わらなかったら。私に力を貸してくれないかな」
「──うん、分かった」
彼はきっと引かない。どんなに振り切っても、勝手について来て自分から巻き込まれに来るだろう。かといって、ペペも今更引く気はない。だから、ここが彼女の妥協点だった。
「ありがとう。エクラ」
ペペは、笑みを見せる。曇りのない笑みだ。それに対して、エクラも笑う。フードで顔の大部分は隠れていたが、確かに笑った。
そんな彼らの様子を傍らで見ていたアルフォンスは、真面目くさった顔でエクラに近づき、小声で言う。
「……エクラ、今回に関しては僕も反対しない。今の僕たちには信頼できる協力者が必要だし、恩を売っておくのは悪くない。けど、明らかに危険な任務を安請け合いするのは──」
「まあまあ、大丈夫でしょ。悪い子じゃなさそうだし、なんとかなるって」
アルフォンスは痛そうに頭を押さえて、ため息を吐く。お人好しなのは構わないが、もう少し慎重に行動してほしかった。そんなアルフォンスにエクラはどこ吹く風といった様子だ。アルフォンスはもう一度深くため息を吐くと、この先何事もありませんようにと、アスク神に祈るのだった。
──こうして、彼らの契約は成った。
エクラ
FEHの主人公にしてプレイヤーの代理人。名前はプレイヤーが決められるが、本作ではデフォルトネームのエクラを使用している。アスク王国に伝わる伝説の召喚師として、危機に瀕するアスクを救うために呼び出された。
性別不明だが、本作では男。けど作中で言及するすることはたぶんないと思う。
性格は不明。というか、原作では「……」しかセリフがない。そのため、本作の性格は完全に捏造。