「うーん、実に壮観だね。こうして雲の上を飛んでいると、羽獣にでもなったかのようだよ」
飛空城。その城壁の上にてペペが伸びをする。景色の割に風を感じないのが残念でならないが、それでもこの景色は他にない物だった。
「この世界の街かー。どんなとこなんだろうな」
「ロングスプリングというところだ。サルゴンではありふれた街だが、君にとってはどうなのかな」
エクラとペペが話しているところに、アルフォンスが割って入ってくる。
「エクラ、ちょっといいかな」
アルフォンスに促され、城壁の下まで降りる。ペペに聞かれたくない話のようだ。
「そろそろ次のオーブが揃いそうだが、〝召喚の儀〟はどうする?」
「お、確かにそろそろだったね。今やろうか。おーい、ぺぺ! 今から面白いもの見せるから、ちょっとこっち来て!」
エクラが城壁の上へ大声で呼ぶ。それを見たアルフォンスは苦々しい顔をしていた。
「……わざわざ彼女に見せる必要もないと思うけどね」
「わざわざ隠す意味もないでしょ」
ペペが降りてくると、3人で城内へ向かって歩き始める。道中で、エクラはこれから行うことについて話す。
「召喚の儀? そういえば、君は自分のことを召喚師と呼んでいたね。君のアーツ……もとい、魔術に関連するものなのかな?」
「そうだよ。さっきまでそこにいたペガサスとその騎手も召喚の力の派生形なんだ」
「やはりあれは君の力で生み出していたのか……。しかし、3体も同時に操るとなると、かなり疲れないかい?」
「いや、自立して動いてくれるから、何体出しても疲れないよ」
「……同時に出せる数の制限とかは──」
「ないよ。今は素材がないからそう何体も生み出せないけど」
「それは……とんでもない力だな。1人で軍隊だって作れるじゃないか」
「あはは……人形はそこまで強くもないけどね。それに、召喚師の力の本分は別のところにあるし」
「ほう、それはいったい……」
「今見せるよ」
たどり着いた場所は城内でもかなり中心に近い場所だった。エクラが扉を開き、中に入る。召喚の間と呼ばれるその部屋は、荘厳な雰囲気に包まれていた。中心には魔法陣が描かれ、周囲には魔術的な装飾が施されている。それでいて、よく見ると装飾に使われているのは機械的な部品が多い。
「儀礼型のアーツ……まるでサルカズの巫術だね」
「まあ、本当は
エクラは、腰に下げていたアーツユニットのようなものを手に取る。よく見るとそれは銃のような形をしているが、サンクタの使うそれとは大きく違っていた。その銃は金色で、物理的な機能性よりも魔術的な意味合いを優先しているように見えた。
召喚銃ブレイザブリク。召喚師を召喚師たらしめる、彼にとって最も重要な神器だ。
エクラは部屋の端にある装置から水晶のような球体を取り出し、さらに懐からも取り出す。全部で5つの水晶をブレイザブリクにはめていく。これはオーブと呼ばれる英雄召喚の必須素材であり、英雄の肉体を形づくるものだ。先ほど呼び出したような単なる人形なら1つで十分だが、英雄に耐えられるような肉体を作るためには5つのオーブが必要となる。
魔法陣の中心に立つと、狙いを定めるかのようにブレイザブリクを構え、目を閉じる。10秒が経ち、1分が経ち、10分が経つ。しかし、何も起こらない。ペペは、こらえきれずにアルフォンスに尋ねる。
「これは何をしているのかな?」
「……オーブによって形づくった人形に、異界から呼び出した精神情報を降ろす。そうすることで、擬似的に別の異界の人間を呼び出すんだ」
「人間を強制的に呼び出すとは、なんでもありだな」
「強制ってわけじゃないよ。契約を結ばなければ召喚を断ることもできるし、帰りたくなったらいつでも帰れる」
「ふむふむ、意外と制約も大きいんだね」
エクラは普段であれば、ここまで召喚に時間はかからない。実際、アスクに繋ぐだけならそう難しくはなかった。しかし、それ以外の異界──アカネイアやバレンシア、フォドラやエレオス──に繋ぐとなるとかなり厳しい。
「……うーん。色々探ってみたけど、やっぱりつながりにくいな。ここからじゃアスクが限界か」
「それはしょうがないね。英雄たちに頼れないのは厄介だけど、ひとまず特務機関から呼んでみようか」
異界の英雄には頼れないが、元の世界の仲間なら呼べる。エクラは再び集中すると、アスク王国へのパスをつなぐ。
ブレイザブリクが光り輝き、足元に魔法陣が出現する。これまで何度も見てきた、召喚の儀の光景だ。光は銃口で収束し、一気に爆ぜた。
「──顕現せよ! 『アスク王国の王女』シャロン!」
光が収まると、そこには1人の少女がいた。金色の髪に、翡翠の瞳。アルフォンスと同じ、龍の鱗のような黄金の鎧。
「──こんにちは! あなたのシャロンです! 召喚に応じて参上しました!」
少女──シャロンは快活な笑みを浮かべると、辺りを見回し、小首をかしげた。
「あれ? エクラさん? ……いえ、なんとなく分かります。やっぱり私の世界のエクラさんですよね? どうしてわざわざ召喚なんてしたんですか? 私に用があるなら、直接アスクに来ちゃえばいいじゃないですか」
彼女はたった今召喚された。ならば、召喚したのは異界の人間であるはずだ。だというのにそこにいたのは同じ世界のエクラだ。なぜわざわざ召喚なんてしたのだろうか。
「召喚は成功だね。やあ、シャロン」
「お兄様! お兄様も飛空城に来てたんですが!? あれ、けどちょっと前までアスクにいたような……。あ、知らない人がいますね! はじめまして、私はシャロンって言います! あなたも英雄さんですか!?」
「えっと……」
召喚という摩訶不思議な現象に好奇心を湧き立たせていたペペだったが、シャロンのテンションの高さにはついていけてないようだ。
「シャロン、とりあえず始めから説明するから、落ち着いて聞くんだ」
騒がしいシャロンをたしなめつつ、アルフォンスが一通りの説明をする。
「ええ!! 遭難!? エクラさんにお兄様、大丈夫だったんですか!?」
「ああ、特に問題はなかったよ」
「うーん。異界となるとエクラさんの力でどうにか帰れないんですか?」
「ちょっと難しいね。この異界はこれまで行ったどの異界よりも遠い。そもそも自分はあくまで召喚師だし、『呼びだす』のはできても『行く』のにはそれなりの手順がいる。今の状況だと素材が全然足りないよ」
「そうなんですか……」
エクラが力を使うには、素材が必要だ。オーブの他にも、英雄の翼に、神竜の花、英雄の聖杯などだ。しかし、これらの素材がこの世界にもあるのかは分からない。
現状、オーブだけは自力で生成可能だが、1日に生成できるのは一個だけだ。
「そもそも、どうしてこんなことになったんですか?」
「それは僕たちにも分からない。ただ、可能性があるとすれば、誰かに召喚されたのかもしれない」
「召喚……召喚師がこの世界にもいるってことですか?」
「それは分からない。付近にそれらしき人はいなかったし」
アスク王国は『開かれし王国』と呼ばれており、あらゆる異界への扉が存在している。だがこの世界はそんなアスクにもつながっていない、遠く離れた世界だ。そんな場所に迷い込んだならば、そこにはなにか強力な意志や力が働いているはずだ。
「少しいいかな。君たちは、最初にこの世界に来たとき、どこにいたのかな?」
「どこって……飛空城で目覚めて、下に降りたら荒野だったよ。その後はテキトーに走らせてきたからあんまり覚えてないけど、南の方から来たかな」
「南……フェーンホットランド……? ……まさか、ね」
ペペはエクラの言葉になにか思うところがあるようだった。しかし確信に至るほどではなく、結局なぜエクラはテラにきたのか、という話は流れてしまった。
「アスクは今どうなっている?」
「戦いが終わって、皆で祝勝会を挙げているところでした。エクラさんやお兄様も、少し前に会いましたよ」
「……やはり、召喚中は元の異界の時間はほとんど進まないのか」
「召喚英雄たちから話を聞いて、あらかじめ分かっていたことではあるけど、実際に自分で経験するとやっぱり不思議だね」
エクラたちがこの世界に来て、もう1週間になる。一方で、シャロンはついさっきまで2人と一緒に居たという。
召喚中に元の世界の時が進むことはないが、彼らがそれを自分で体験するのは初めてのことだった。
「そうだ。改めてはじめまして、ぺぺさん。私シャロンっていいます! そちらのアルフォンスお兄様の妹です! アスク王国の王女をやってます!」
「やあ、シャロン。私は考古学者のペペだ。君は……まて、王女?」
「はい! そうですよ! それで、ペペさんに色々お話を聞きたいんですけど、この異界は──」
「ちょっと待ってくれ! そんな簡単に流していいような話題だったかな!? ということは兄のアルフォンスは……」
先ほど思いっきり『アスク王国の王女』とエクラが呼んでいたが、聞き逃していたらしい。
「今日はもう遅いし、ひとまず食事にしようか。お互いの話はその時にするってことで」
「ああ、そうだな……」
アルフォンス
FEHの準主人公にしてプレイヤーの相棒的立ち位置のキャラ。
アスク王国の王子にして異界の英雄の力を使う特務機関の一員。
冷静で真面目な優等生気質で、作中では解説役を務めがち。
能力測定
【物理強度】 標準
【戦場機動】 普通
【生理的耐性】 標準
【戦術立案】 優秀
【戦闘技術】 優秀
【魔術適性】 標準
※本来はアーツ適性だが、黒塗りなのは分かりきってるので魔術適性としている