召喚師が危機契約に挑む話   作:暇人のアキ

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鉱石病

 危機契約機構のサイと出会ってから数時間後、一行はアーツユニットを取り扱う個人商店を訪れていた。

 異世界の超常に興味をもったエクラたちのために、ペペが見せてくれることになったのだ。

 

「これがアーツユニットかー」

 

 店内には様々なアーツユニットが展示されており、その用途は様々だ。大きさに用途、値段に危険度。一様にアーツとくくるには無理があるようなラインナップだ。

 

「見てくださいよこれ! 中に入れたものを何日も冷やし続けてくれるんですって! それにこっちは、剣を5本も作れるそうですよ!」

「日用品から戦闘用まで、いろいろあるもんだなぁ」

「アンナ隊長が見たら大喜びしそうですよね!」

 

 店内の商品を見てはしゃぐエクラとシャロンの後ろで、ペペがアルフォンスと話している。

 

「やはり、君たちの世界のものとは違うのかな?」

「原理からして別物だね。これらからは魔力を感じない。どうやってそんな効果を生み出しているのかな?」

「ここに嵌っている源石(オリジニウム)を使うんだよ。これを媒介にしてアーツを引き出すんだよ。こんな風にね」

 

 ペペは懐からコップ型のアーツユニットを取り出すと、それを使ってみせる。すると、中から水が溢れ出てきた。

 

「なるほど。荒野では便利そうな道具だね」

「私としては、むしろ君たちの使う魔術の方が不思議だね」

 

 いくつかのアーツユニットを見ていたエクラが、それについている源石を見て難しい顔をしていた。

 

「うーん……」

「どうしました? エクラさん」

「この石、やっぱりちょっとだけ力を感じる……もしかしたら、召喚の素材にできるかもしれない」

「本当ですか!?」

 

 どうやら源石からは、エクラが普段召喚に使う力と似た力を感じるようだ。

 この世界において、エクラの力はかなり制限されていた。召喚を行使しようにも、そのための素材が無いのだ。だが、源石がそれを解決できるとなれば、話は変わる。もしかしたら、元の世界への機関の目途も立つかもしれない。

 

「うーん。けど、なんか違うんだよなー。少し足りないというか……あ」

「どうしました?」

「今、確かに力を感じた! これなら召喚にも使えるかも!」

「ええ! どれですか!」

「外だ! あっちの方」

 

 召喚の際に用いる各種素材。それらと同質の力を、エクラは店の外から感じた。

 それに気づいたエクラは、店を飛び出した。シャロンもエクラのすぐ後ろにつく。

 

「ちょっ、エクラ!?」

「向こうは確か……待ちたまえ! そっちは──」

 

 魔術談義をしていたペペとアルフォンスは、それに気づくのが一瞬遅れた。

 2人の制止も耳に届かず、すでにエクラたちは走り去ってしまっていた。

 

 しばらく走ると、随分と町の様子も様変わりしていた。

 徐々に人通りは少なくなっていき、貧相な家が立ち並ぶようになる。

 

「ここは……さっきよりさらに街の外れに来たみたいですね」

 

 家は今にも崩れ落ちそうなほどボロボロで、たまに見かける人も貧相な身なりをしている。

 ──スラム街。2人の頭に、そんな言葉が浮かんだ。

 やがて、完全に人のいない地区にたどり着いた。

 

「──この家だ」

 

 付近には人っ子一人いない。だというのに、このあたりの建物だけは他よりもしっかりした造りをしていた。

 そのうちの一軒。特に変哲のないその家から、エクラは召喚素材と同質の力を感じていた。

 

「ごめんくださーい! 誰かいませんかー!?」

 

 シャロンが中に向かって呼びかけるが、返事はない。この家には窓もなかったので、中の様子をうかがい知ることはできない。

 しばらく声をかけてみるが、どうやらこの付近には完全に人はいないようだった。

 

「……誰もいないみたいですね」

「うーん、そうだね。アルフォンスたちも置いてきちゃったし、一旦戻ろうか」

 

 まさか家主に無断で中に入るわけにもいかない。

 エクラたちが踵を返そうとしたその時、音が鳴り響いた。

 なにかが破裂したような爆発音だ。

 

「うわぁ! なに!?」

 

 振り向くと、家には大きな穴が開いていた。まるで壁が爆発してできたかのようなその穴からは、家の中の様子が見えた。

 そこにあったのは、異様な光景だった。家具も何もない、空虚なスペース。しかしその中では、黒い砂が舞い散ってっていた。その中央には、黒い結晶が花のように咲いている。その下には人が寝るためのシーツと布団があり、横には砂を被った花が添えられている。

 

「……黒い、砂? いや、石? これって──」

 

 2人はその異様な光景に目を奪われる。すると、背後から声が聞こえてきた。

 

「エクラ! シャロン! 今すぐ口と鼻を覆って! それから扉を塞ぐんだ!!」

「ぺぺ? 急になにを──」

「いいから早く! 呼吸はなるべくしないように!」

 

 後ろから来たのは、エクラたちを探してきたペペとアルフォンスだった。困惑気味のアルフォンスに対し、ペペは鬼気迫った顔をしている。

 何が何やらわからぬまま、エクラたちはペペの指示に従う。予備の衣服や布、果ては周囲の家の建材をはがしてまで、穴を確実にふさいでいく。ペペによると、この付近の家は全て空き家らしい。

 過剰なほどに穴をふさぎ切ると、ペペは勢いよくエクラたちに詰めよった。

 

「君たちは自分が何をしたのか分かっているのか!? 感染者隔離区でこういうタイプの家を見れば近づくべきじゃないと……ああ、いや、そうか。君たちは知らないんだったな」

「ええと……私たち、なにかマズイことをしたんでしょうか?」

「……そうだな。確かにマズイことをした。しかし、これは先に伝えておかなかった私に非があるだろう。怒鳴ってしまって申し訳ない」

「そんな、謝らないでください! 悪いのはペペさんの制止を聞かずに走り出した私たちですから!」

 

 始めの怒りも尻切れトンボに、ペペの語気は弱まっていく。ついには叱るどころか謝りだしたペペに、慌ててシャロンが否定する。

 

「この家にあったのは、活性化源石というものだ。天災に混じっている源石と同じ……いや、下手すればそれよりも強い感染リスクがある」

「感染……? いったい何に?」

鉱石病(オリパシー)。体から源石が生え、徐々にその命を蝕み、最後には死に至る。強い感染力を持ちながら、未だ根本的な治療はできていない。そんな恐ろしい病さ」

 

 鉱石病。この世界に蔓延る,不治の病。

 

「……そんな危険なものが、どうして街中に?」

「……ここは鉱石病の患者の集まる隔離区だ。感染者は死亡後、結晶となって周囲に強い感染性を持った粉塵を撒き散らす」

「……つまり、自分が見たあの黒い結晶は──」

「感染者の成れの果て、だろうね。この付近の家は、感染者が最期を迎える場所なんだ」

 

 エクラは思い出す。あの家の中の光景を。砂が舞い、石が転がり、結晶が咲き乱れる。あれが、人間だというのか。

 思えば、あの結晶の横には花が添えてあった。あれは、ここに眠る人への手向けだったのだろうか。

 

「しかし、だとしてもどうして家に穴なんて開けたんだい? 普段は2人ともそんなことしないだろう?」

「いや、自分たちじゃないって。なんか急に爆発したみたいな音が鳴って、気がついたら穴が空いてたんだ」

「爆発……?」

 

 エクラの証言に、ペペが不可解な顔をする。ペペの知る限り、活性源石がひとりでに爆発するなどの話は聞いたことが無い。もし源石が簡単に爆発するような性質なら、もっと知られているはずだ。

 

「いえ、爆発じゃありませんでしたよ。私には見えました。あれは石です。ここに石が投げ込まれたんです」

「そんなこと、いったい誰が……?」

 

 動体視力の良いシャロンが、それを訂正する。それを聞いてますます不思議がったのはペペだ。この世界にきたばかりの2人が、なぜそんなことをされるのかが分からない。

 

「君たち2人、狙われる心当たりは……あるわけないか。じゃあ、私と一緒にいたせいかな……すまない」

「いや、そうとも限らない。この場所に用があって、人を追い払いたかったのかも」

 

 考えてみても、相手の目的が分からない。石を投げ込んでおいて姿すら見せず、追い打ちをかけるでもない。これでは、推理のしようもない。

 とはいえ、爆発と見紛うほどの速度で石を投げられる膂力を持った敵が近くにいるかもしれない。その事実に、一行は警戒しながら周囲を探る。

 しかし、それらしき人物は見つからなかった。

 結局、その日はそのまま宿を取ることになった。




飛空城
 FEHにおけるエンドコンテンツ兼英雄とのふれあい場。
 なお、ストーリー中には一切登場しない。一応、英雄たちが普段くらしている場所で、四コマ漫画にはたまに登場する。
 また、テラの空には阻隔層があるため、高度的にはその下を飛んでいることになる。
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