2日後、エクラとシャロンは、ロングスプリング郊外にある感染者隔離区域に来ていた。
「うーん、カラッとしてて良い天気ですねー」
「今の時期は何か月も雨が降らないみたいだね」
2日間にわたる“ペペの異世界人向けテラの常識解説ツアー”もとい、ただのサルゴン観光を終えたエクラたちは、別行動をとることになった。
もとは全員で行動するはずだったのだが、エクラが感染者区域に行きたいと言い出したために、別れて行動することになった。
始め、ペペは1人で動こうとしていたのだが、レッドラベルに狙われている現状で単独行動はよくないというアルフォンスの言葉により、2人ずつで行動している。
「なんか、ジロジロ見られてますね」
「ここらじゃ見ない格好してるせい……ってだけじゃないよね」
シャロンはスケイルアーマーを着こんでおり、ここではかなり珍しい。
とはいえ、ローブを羽織ってある程度は隠しているので、それ自体が目立つ要因ではなさそうだ。
「この手のコミュニティは閉鎖的だし、知らないよそ者が来たら目立つんだろうね」
エクラもこういったスラム街に来るのは始めてではない。よそ者扱いには慣れている。
「──いてっ!」
「エクラさん!?」
その時、エクラの頭部をなにかが強襲した。また石でも投げ込まれたのかと思えば、そこにあったのはただのボールだった。
「そこの兄ちゃん。ボールとってー」
ボールが飛んできた方には、数人の子どもたちがいた。
年は10歳前後だろうか。よく見ると、体から黒い石が生えているのが見える。全員感染者なのだろう。
「こら、だめだよ。人にものをぶつけた時は、まず謝らないと」
エクラはボールを山なりに投げて、子どもたちに返す。それを受け取った男の子は、流れるようにボールを構えると、エクラに向かって勢いよく投げ返した。ボールは直線を描き、エクラの顔面にクリーンヒットした。
「ぶへっ」
「うっせーなー。よけねえのが悪いだろ」
「そうだ、大人ならよけろよな」
「どんくせえぞー」
「まぬけー」
子どもとは思えない膂力で投げ出されたボールによって、地面に倒れ伏すエクラ。慌ててシャロンが駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか、エクラさん!」
「……ふっふっふ。ようしクソガキども。──全員ぶっ潰す!!」
人に物をぶつけたあげく、煽り散らかしてくるクソガキ共に、エクラの怒りは有頂天だ。シャロンが見たその顔は、まさしく鬼神の如くであった。
エクラはぬるりと立ち上がると、ボールを構える。
「ちょ、エクラさん!? 子ども相手ですよ!?」
「お前ら全員このボールの餌食にしてやるぜ! 当たったら負けな!」
「おい、俺らのボールだぞ!」
「いったん散れ! 取り返すぞ!」
その後数十分に渡り、エクラと子どもたちの本気の鬼ごっこが行われた。始めは威勢の良かったエクラだったが、すぐに体力が尽きてボールを奪われ、最後には単なる的となっていた。
エクラは情けなく地面に転がり、激しく乱れた息を整えている。
「ゼェ……ゼェ……ゼェ……ここの子たち……足、速すぎ……」
「え、エクラさん……」
「……兄ちゃん、体力なさすぎだろ。大丈夫か?」
始めは良い的だと何度もボールを当てられていたが、あまりの必死さと運動能力のなさで、最後には子どもたちにも哀れみの目で見られていた。
「兄ちゃん、よそもんだろ。感染者じゃねえのか?」
「ハァ……ハァ……そうだよ」
「ふーん」
子どもの1人が、エクラの体をじっと見ている。エクラは暑いからとローブを脱いでおり、上半身はシャツ1枚の姿だ。もちろん、源石は生えていない。
「もっと鍛えねえとダメだぞ。男ならやっぱヤム兄ちゃんみたいにならねえとな」
「……ヤム、兄ちゃん?」
「村1番の狩人なんだぜ。足も速くてアーツも使えて、弓の扱いもめちゃめちゃうめぇんだぜ。砂嵐の中でも遠くの跳獣を狩れるんだ」
「へえ、すごい人なんだね」
エクラとしては、このそれなりに大きな町で〝村一番〟という表現は少し気になったものの、特に掘り下げはしない。
「ヤム兄ちゃんと言えば、最近ジィラ見ないよな」
「まあ、あいつのことだし、ヤム兄ちゃんについてってどっか行ってんじゃねえのか?」
「ジィラって?」
「ヤム兄ちゃんの妹だよ。うるさくて元気なやつ」
「──やっと見つけた!」
子どもたちと会話をしていると、遠くから、男の声が聞こえた。見ると、犬耳をつけた年若い男性だった。
「やべ、ミアロ兄ちゃんだ!」
「兄ちゃんじゃなくて先生な。せ・ん・せ・い」
「いいから逃げんぞ!」
「コラ! まだ診察は終わってませんよ! 今日やらなくても明日になるだけですからね!」
ミアロと呼ばれたその男性は、察するに医者のようだ。悪ガキ共が病院から逃げたので連れ戻しに来た、とエクラは推察した。
悪ガキ共は脱兎の如く逃げ出す。その足は速く、到底子どもとは思えない。ミアロは子どもを追いかけようとして、エクラたちに気付いて足を止めた。
「あなたは……」
「あ、どうも。さっきの子たちの保護者の方ですか?」
「いえ、保護者というわけではないのですが。私はこの街で医師の真似事をしているミアロと言います
……子どもたちと遊んでくれていたんですか?」
「いやあ、遊んでいたというか、遊ばれていたというか……ボールをぶつけられたので、そこからじゃれあってました」
「そ、それは……すみません、あの子たちが失礼なことをしてしまったようで」
「いえいえ、自分も楽しかったので大丈夫ですよ」
ローブを着ながら話すエクラを見て、ミアロはあることに気づいた。
「失礼ながら、あなたはもしや非感染者なのですか?」
「はい、そうですけど……」
この質問はここ数分で2度目だ。エクラは鉱石病を単なる珍しい病気の一種ととらえてるので、なぜ感染者かどうかを過剰に気にするのか分からなかった。
それを聞いたミアロは頭を下げた。
「──本当に、ありがとうございます」
「いえ、そんなお礼を言われるようなことは……」
顔を上げたミアロの顔は、少しだけ曇っていた。
「少し前の話になりますが、ある村を天災が襲いました。天災トランスポーターたちの予測は間に合わず、彼らのほとんどは逃げ遅れて天災に飲み込まれました。数人の腕利きの狩人とその人たちに守られた子どもたちだけが天災を脱することができました」
「それって……」
「はい、あの子たちです」
あの騒がしくも元気のいい子どもたちが、そんな過去を持っていたとは、エクラには想像もつかなかった。
「ここには、知らない村の子どもと全力で遊んでくれるほど余裕のある人はいません。それが非感染者となればなおのことです。彼らも聡い子たちですから、感染者がどんな扱いを受けるかはわかってると思います。──だから、お礼を言いたいんです」
あの悪ガキ共がなぜミアロ先生に聡い子たちと認識されているのか、エクラには想像もつかなかった。
それはそれとして。
「自分はエクラと言います。ここには感染者のことをもっと知りたいと思ってきました。だから──」
エクラがこの感染者隔離区に来た理由。それは、この世界のことを知るためだ。明るい町中も結構だが、こういった日の光の刺さらない場所にこそ、知る必要のある世界があると、エクラはそう思う。
ならば、ここですべきことは1つ。ここの人たちと、もっと仲良くなることだ。
「手伝いますよ。あのワルガキどもを病院に連れ戻すの」
シャロン
アスク王国の王女にして、特務機関の一員。明るく人懐っこい性格で、誰相手でも距離が近い。
英雄と友達になりたいと思っており『英友千人』を目標として掲げている。なお先日、FEHの実装キャラ数が千人を超えたことで、『英友千人突破記念パーティー』が開かれたりもした(シリーズラスボスとか悪堕ちキャラとかたくさん混じってるのに、それでいいのか)。
能力測定
【物理強度】 標準
【戦場機動】 優秀
【生理的耐性】 標準
【戦術立案】 普通
【戦闘技術】 標準
【魔術適性】 標準