「シャロンさん、槍教えてよー」
「はいはーい! この私の華麗な槍さばき、みせちゃいますよー」
「エクラー、なんか面白い話してー」
「こら、エクラさんでしょ。年上には敬意を持ちなさい敬意を」
「かけっこで勝てたら考えてやるよ、エ・ク・ラ」
数時間が経ち、子どもたちとエクラたちの距離はかなり縮まっていた。
子どもたちとじゃれ合う様子を見て、ミアロが微笑む。
「ふふっ、すっかりなつかれましたね」
「なつかれたっていうより、舐められてるだけのような……」
実情はどうあれ、子どもたちと仲良くなったことは事実である。2人は、束の間の異界間交流を楽しんでいた。
「──ここに何の用だ? 非感染者」
背後から、声がした。ひどく冷たい、男の声だ。手を伸ばせば触れられるほどの近さ。そんな距離に近づかれるまで、エクラは全く背後の人物の存在に気付かなかった。
シャロンもまた、声がするまでその男に気付かなかった。シャロンは慌てて槍を構え、警戒心をあらわにする。
「エクラさん……っ!」
「じ、自分は──」
「あ、ヤム兄ちゃんだー!」
「ヤム兄ちゃんかえってたの!?」
「よお、チビども。元気してたか」
2人の警戒心とは裏腹に、子どもたちは躊躇なくその男のほうに駆け寄った。どうやら、先ほど話に聞いた“ヤム兄ちゃん”のようだ。
エクラがゆっくりと振り返ると、そこにいたのは大きなクロスボウをもった獣人だった。子どもたちと耳の形が似ていることから、恐らくレプロバだろう。
「ヤム兄ちゃんお仕事終わったのー?」
「お土産! お土産あるでしょ!」
「おーし、ほらよ。クルビア製のラジコンカーだ。中古の安もんだが、結構速いぜ!」
「あ、これこの前店で見たやつじゃん!」
「前のと一緒に走らせてレースしようぜ!」
「よし。お前ら、前に作ったレース場に先に行っとけ。こいつは速えぞ」
「うん! ヤム兄ちゃんとミアロ先生とシャロンさんと、あとついでにエクラも。先行ってるぞ!」
ヤムの雰囲気は和やかだ。先ほどエクラに話しかけた時とはまるで違う声色。
子どもたちはラジコンをもってどこかへと去っていった。
「ヤムさん、お久しぶりです」
「ミアロ先生か。町の連中に聞いたぜ。ガキどもの相手してくれてんだって? いつも助かってる」
「いえ、それはいいのですが──その、妹さんの件は……」
「あー……ま、ミアロ先生が気に病むことじゃねえよ。オレたちはアンタには感謝してんだ」
一通りのあいさつを終えると、ヤムはエクラたちに向き直る。
「──で、だ。あんたたち旅人か? 非感染者がこんなとこに立ち入らないほうがいいぜ」
「えっと、ヤムさん? どうもこんにちは、エクラと申します」
「あ、私はシャロンです!」
「ご丁寧にどうも。で、アンタ達は何もんだ? 観光客か? それとも傭兵か?」
「自分は旅人で、ここには、えっと、この国のことが知りたくて来ました」
口調も声色も、先ほどまでとはまるで違う。かなり警戒しているようだ。
「はっ、それなら観光名所にでも行きゃあいい。見たところ、どっかの国のボンボンだろ? ここにおめえらの好きそうな儲け話なんてねえぞ。それとも、俺たち感染者を憐れみにきてくださったのか?」
「ヤムさん……! 彼らは──」
「いえ、ミアロ先生。いいんです。現地の人にとって自分が異物であることは間違いないので」
所詮エクラたちは別世界の人間で、この世界にとっては部外者だ。余所者に好き勝手に動き回られたくはないだろう。
だが、エクラにも矜持がある。様々な異界をめぐって来たものとして。常に余所者である者として。
「自分はこの国を……感染者のことを知るためにここに来ました。こちらが"見にきている"以上、"見られる"覚悟もあるつもりです。たとえどう見られようとも、自分はそれを受け入れます」
「……ふん、好きにしろ」
ヤムは間違いなく手練れだ。あれだけ大型の武器を持ちながら、音もなくエクラの背後まで近づくことができる。現状の戦力では、到底太刀打ちできない相手だ。それは、お互いに分かっている。だというのにまったく引きさがる気のないエクラに、ヤムも背を向ける。
子どもたちの待つレース場に向かったヤムが去ると、ミアロが頭を下げてくる。
「すみません、エクラさん。普段はあんなこと言う人ではないのですが……」
「はい、良い人なのは分かります」
彼も余所者を警戒しているだけなのだ。エクラには、あれだけ子供に慕われている人が、悪い人だとは思えなかった。
「たとえ受け入れられなくても、自分はもう少しここにいてみようと思います。それが、この国を知ることだと思うので」
余所者であっても、いや余所者だからこそ、できることはあるはずだ。それが、彼の矜持だった。そのためなら、受け入れられずとも構わなかった。
──そして、数時間後
「だーっ! だからちげえって! 剣振る時はこう! そんでこう! 相手の出方次第ではこうだ!」
「そんな擬音ばっかで分かるわけないだろ! もうちょっと丁寧に教えろよ語彙なし野郎!」
「うっせえ! お前にセンスがねえんだよ運動音痴!」
エクラは、なぜかヤムに戦い方を教わることになっていた。
「……なんか、あっさり打ち解けましたね」
「……ですね」
シャロンとミアロは、出会って数時間で意気投合した2人を見て、初めの一触即発ぶりはなんだったのかと、若干のあきれ顔で見ていた。
「へったくそだな……ガキどものほうがまだ戦えんぞ」
「ふん、こちとら逃げ足だけで戦ってきた万年後方支援だからな。剣でなんて戦えるわけないだろ」
「なんで偉そうなんだよ」
エクラの戦場での役割は、召喚による相手に合わせた臨機応変な対応と、ブレイザブリクの銃撃による火力支援が主である。
体力がないわけではないが、近接戦闘のセンスは壊滅的だ。
「ってかお前、剣でも戦えるんだな。あんなバカでけえ弓もってるのに」
「バッカ野郎こちとら傭兵だぞ。戦場じゃなんでも使えねえと命取りなんだよ。それに、俺はアーツの影響もあるしな」
「アーツ?」
「ああ。というのも──」
「──あ、いたいた! おーい、エクラ!」
2人が話していると、遠くからこちらを呼ぶ声がした。アルフォンスの声だ。
「アルフォンス、ペペ! もうそっちの用は終わったの?」
「もうって……陽が沈みかけてるのにも気づいてないのかい?」
「あ、そんなに時間が経ってたか……」
気がつくと既に夕日の差す時間であり、アルフォンスたちとの待ち合わせ時間はとっくに過ぎていた。どうやらアルフォンスとぺぺは、いつまでも来ないエクラたちを探していたらしい。
「…………おいエクラ、そっちのフェリーンの嬢ちゃんは──」
「こっちはアルフォンスで、向こうがペペ。2人とも友達なんだ」
「……向こうの嬢ちゃんはサルゴン人だろ? だがお前らは違うよな。どういう知り合いだ?」
「ペペとはこの国に来てから会ったからね。今はペペの依頼で一緒に仕事をすることになってるんだ」
ヤムに2人を紹介する間に、2人が歩いてくる。アルフォンスがヤムに向かってお辞儀をした。
「どうもこんばんは。アルフォンスです。この度はエクラがお世話になりました」
「いや、むしろこっちが世話になったくらいだ。エクラも、まあ、会った時は悪かったな」
「気にしてないよ」
もう暗くなるので、今日はお開きという雰囲気だ。少ない荷物を手に取り、子どもたちと遊んでいるシャロンに目配せをする。
「シャロンさん、エクラ、帰るの?」
「ああ、今日のところはね。また来るよ」
「はい、また明日、ですよ!」
2人が帰るとなると、子どもたちとヤム、ミアロがそろって
お見送りをしてくれる。エクラは、彼らに軽く手を振り、背を向けた。
「じゃあ、また明日」
「おう。気ぃつけて帰れよ」
ここの人口見る感じ、アークナイツ知っててFEH知らない人はいても、その逆はいないだろうと思ってFEHの解説を載せてたんだけど、特に書くこともなくなってきたので、アークナイツの解説もちょこちょこ載せてきます。
アークナイツ
2019年からハイパーグリフより配信されているソシャゲ。ジャンルはタワーディフェンス。源石が蔓延るテラの大地にて、鉱石病の根絶を目指す『ロドス・アイランド製薬』を中心に、テラに生きる人々を描く。
なお、ロドス及び主人公たる『ドクター』は、しばらく出てこない。いつかどこかで描きたいが、まだ先の話。