仮面ライダー Rebirth   作:ななな

2 / 2
二話 情報

 

翌朝。

授業のノートを開いてはみたものの、ページの文字はまるで頭に入ってこなかった。

 

(……仮面ライダー)

 

昨夜、闇の中に現れたあの仮面の戦士。

人でもなく、怪物でもなく、ただ“人の形をした力”。

 

その名を聞いたとき――どこかで聞いたことがあるような気がした。

けれど、記憶は曖昧で、はっきりとした何かには結びつかない。

 

(あんなものが、現実に存在するなんて……でも、見たんだ、私は)

 

講義が終わるなり、ルリ子は図書館へ向かった。

医学部の専門書では、もちろんそんなことは書かれていない。

 

仕方なく、スマホを開いて検索を始める。

 

“仮面ライダー 正体”

“仮面ライダー 都市伝説 本当”

“仮面ライダー 実在 目撃”

 

次々と打ち込んでは、記事を辿る。

だが、出てくるのは決まって――

 

「1970年代に現れたという“仮面の改造人間”の噂」

「秘密結社ショッカーと戦った男の都市伝説」

「マフラーを巻いた戦士が怪人と戦っていた? ただのネタ?」

「目撃情報はあるが、証拠は存在せず。創作系掲示板が初出では?」

 

画像は加工くさいものばかり、文章も誰かの創作のように曖昧。

真実を証明するものは、ひとつもなかった。

 

(やっぱり、こんなの……)

 

 

 

画面を閉じ、ルリ子はそっと息を吐いた。

 

答えは見つからない。

でも、確かにあの夜、彼は存在した。

仮面の奥のその視線だけは、誰の作り話でもなかった。

 

「仮面ライダー……あなたは、誰……?」

 

再びその名前を呟きながら、ルリ子は心の中で決めていた。

 

――もう一度、あの人に会う。

そして、自分の目で確かめる。

 

 

その為には情報があまりにも少なすぎる。再び彼女は情報をかきあつめる。

 

 

 

 

赤い瞳、黒いシルエット、夜を裂くバイクの咆哮――

あの夜、現実離れした恐怖の中に突如現れた“仮面の戦士”は、確かに「仮面ライダー」と名乗った。

 

だが、それが何なのか。

どうしてそんな存在が実在していたのか。

ルリ子は一晩中、ネットの海を漂い続けた。

 

そして――ようやく、何か“引っかかる”言葉を見つけた。

 

G3。

 

警察庁の特別開発課と、防衛装備庁が共同で開発した試作型のパワードスーツ。ページの作りは意外なほど丁寧で、公式寄発表されているものだとひと目でわかる。

配備状況は「試験運用中」、公開されている範囲には実戦データの記録や、訓練映像と思われる動画まで掲載されていた。

 

■ G3システム 概要

G3(Generation-3)は、強化外骨格型パワードスーツ。

対未確認戦闘事象、及び強化人体犯罪への初動対応を目的とし、

特殊災害対応部隊「0課」にて試験導入されている。

 

スーツは人間の筋力を補助・増幅し、防弾・耐熱・対振動素材を用いた防護性能を持つ。

現行試作型では専属隊員の身体データに応じたカスタマイズが必要。

 

(……“未確認戦闘事象”?)

 

仮面ライダー。

それは、ルリ子の中でまだ実体を持たない“謎の戦士”だった。

 

でも――G3。

この名称には、明確な存在と管理の痕跡があった。

 

動画を再生してみる。

訓練映像。

黒地にメタリックブルーの装甲、そして――赤い複眼。

 

(……似てる)

 

あの夜、暗がりの中で見た仮面。

その赤い目と、無機質なフォルム。

確かに、どこか彼を思わせる。

 

だが、違った。

 

どこか“機械的すぎる”のだ。

 

動きには正確さがあったが、重々しく、制御されたようなモーション。

バイクも、あの荒々しい爆音のマシンとは違う。

映像に映るのは、装甲車両のように安定感ある白と青のバイク――ガードチェイサーと書かれていた。

 

そして、彼の放つ“生の圧”のようなものが、ここにはなかった。

 

(この人じゃない……)

 

どこか、ホッとした。

でも、同時にざわついた。

 

国家レベルで、**“未確認の脅威”**に対する兵器が存在している。

それはつまり――昨夜のような怪物が、想定の内にあるということだ。

 

(だったら、たけしくんは……あれは、何?)

 

仮面ライダー。

国家開発の兵器とも違う。

都市伝説とも違う。

 

その名だけを遺し、風のように現れた存在。

 

彼は、どこから来て、何と戦っているのだろうか。

 

再び映像を見返しながら、ルリ子はページをスクロールする手を止めた。

 

最後にQ&Aによる簡易的な疑問の解消が行われていた。

 

 

 

 

Q1:なぜG3システムの存在を公開したのですか?

A:抑止力としての効果を意識しています。

我々警察組織が「このような対応力を備えている」という事実を明らかにすることで、

特定の脅威に対して“手を出させない”空気を作ることができます。

また、本装備は国家機密に該当するものではなく、隠すこと自体がかえって不信感を生むという判断です。

 

Q2:G3はどういった場面で使用されるのですか?

A:あくまで“試験的運用”という位置づけです。

想定されるのは、対強化犯罪、テロ、あるいは未確認特殊事象――

通常装備では対処困難な状況下で、選定された要員が出動します。

 

Q3:一般市民の目に触れる可能性は?

A:原則として夜間出動や封鎖地域での運用を前提にしています。

ただし緊急対応の性質上、例外的に一般空間に姿を見せることもあり得ます。

映像や目撃情報が拡散されたとしても、それを否定・隠蔽する意図はありません。

 

Q4:なぜ“仮面”のようなデザインに?

A:機能上の理由が大きいです。

視覚拡張センサーと防弾ヘルメットの複合構造で、結果としてあの形状になりました。

「威圧感がある」「不気味」という意見もありますが、任務遂行において一定の心理効果も考慮されています。

 

Q5:国民に向けて伝えたいことはありますか?

A:G3は、決して“力を誇示するための兵器”ではありません。

我々が目指しているのは、「誰かを守る力を、人の手に取り戻す」ことです。

安全を守るために必要な力は、正しく開示され、正しく運用されるべきと考えています。

 

 

 

 

「……なんだか、納得できちゃうね」

 

タップしながら次々と表示される開発者のコメントは、意外なほど誠実な語り口だった。

最初こそ不安や不信を抱かせるような装備の存在だったが――

 

(開示できる範囲で、ちゃんと伝えることで“信頼”を作るってことなんだ)

 

ルリ子は素直に感心した。

医療の現場でも、曖昧な情報ほど患者を混乱させる。

秘密主義では、守れるものも守れない。

 

「……でも、たしかに――こんなのが普通に歩いてたら、ネット大騒ぎだよね」

 

苦笑しながら、映像のG3が歩くシーンを再生する。

スーツの関節がぎしりと軋むような音を立てて、赤い複眼が光を反射していた。

 

これが夜道に現れたら、間違いなく誰かがスマホで撮る。

拡散されて、まとめられて、タグがついて、騒がれて――

 

(でも、昨夜の“仮面ライダー”は……)

 

それでも、彼は撮られていなかった。

SNSにも、掲示板にも、写真は上がっていない。

 

(……本当に、誰にも知られないように現れて、消えていくんだ)

 

G3が開示されるのは、国の信頼のため。

ならば――“彼”が名乗る「仮面ライダー」は、一体誰のために戦っているのか。

 

ルリ子は、答えのない問いを胸に、静かに画面を閉じたが、やはり気になりまた調べだしてしまう。

 

 

正規の情報からでは、もう限界があった。

G3については散々調べ尽くした。

警察によるパワードスーツ。公式記録。抑止力の一環――理屈は理解できた。

 

でも――違う。

あの夜、目の前で怪物を蹴り飛ばし、マフラーをなびかせて去っていった“彼”は、あんな機械のような存在じゃなかった。

 

(“仮面ライダー”って……本当に、それだけ?)

 

それから、ルリ子の検索は“裏”に潜っていった。

 

検索エンジンの上位を避け、タグ検索や投稿ログ、アーカイブ、動画コメントの断片。

目に付いた単語を拾っては、他の言葉と組み合わせて検索し直す。

「仮面ライダー」「未確認」「目撃」「赤い目」「角」「徒手空拳」――

 

深夜。

まぶたが重くなるのを無視して、画面を睨み続ける。

 

そのときだった。

 

画面の隅に、妙に無愛想な動画サムネイルが現れた。

説明もタイトルもない。

古びたアナログ映像のようなサムネイル。

 

半信半疑でタップする。

 

動画が開いた。

画面には“赤”が立っていた。

 

艶のある深紅の装甲。

黒く引き締まったボディライン。

額には黄金の角。

そして、燃えるような複眼。

 

(……!)

 

画質は粗く、音声も歪んでいる。

だが、その存在感は明確だった。

 

そのとき、画面の奥――異形の怪物が笑った。

甲高く、ケラケラと乾いた笑い声。

 

まるで、待ちに待った獲物がようやく罠にかかったかのように。

 

そして、咆哮のようにその名を叫んだ。

 

「――クウガ!!」

 

ルリ子は息を呑んだ。

 

それは、狂ったような声だった。

憎しみでも、恐怖でもない。

喜悦すら混じった、獣のような声。

 

(……クウガ……?)

 

映像の中、赤い戦士は何も言わない。

ただ、ゆっくりと構えをとり、じりじりと間合いを詰めていく。

 

怪物が飛びかかる。

その腕に、爪に、殺意がこもっているのが映像越しでもわかる。

だが、戦士は動じない。

鋭く踏み込み――そのまま拳を叩き込む。

 

(素手で……!)

 

鈍い音。

怪物の体が吹き飛ぶ。

間を置かず、続く肘打ち、回し蹴り、そして跳躍――

 

空中からの踵落としが、画面越しでも恐ろしいほどの迫力を放った。

 

「クウガ……この人が……仮面ライダー……?」

 

そう思った瞬間、胸の奥がざわついた。

 

“仮面ライダー”とは、こういう存在なのか。

名前を呼ばれるたびに、戦場へ現れ、拳をもって応える者。

 

あの夜の“彼”も、もしかしたら――

 

(たけしくん……)

 

そう呟こうとして、唇が止まった。

 

その名を呼ぶには、あまりにもこの映像は重すぎた。

“仮面ライダー”とは、ただのヒーローじゃない。

人の形をして、人の理を超えて、何かを背負って立つ“存在”だ。

 

ルリ子はそっと画面を閉じた。

けれど、その名は、耳から離れなかった。

 

クウガ。

 

それはきっと、始まりの名前だった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

仮面ライダー――

それは、かつて“正義の象徴”と呼ばれた存在だった。

 

だが今、その名はもう、誰も知らない。

忘れられた都市伝説のひとつとして、ネットの片隅に埋もれている。

 

けれど、確かに“仮面ライダー”は存在する。

そして――本郷猛は、その一人である。

 

ただし、それは自ら望んで選んだものではない。

運命だった。

抗いようのない、生まれついての呪いだった。

 

 

仮面ライダーは、本郷だけではない。

歴代の戦士たちがその名を継ぎ、誰に命じられるでもなく、

ただ人の自由のために、悪と戦ってきた。

 

誰にも気づかれず、誰にも知られず。

名も、栄光も、何も残さず。

 

彼らは影の中で、戦い、そして消えていった。

 

本郷猛の祖父――同じ名を持つ男も、かつてその一人だった。

かつての世界を震撼させた秘密結社「ショッカー」によって改造された肉体で、

その力を“人を守るため”に振るった、最初の仮面ライダー。

 

だが猛は、祖父のように**“後からなった”戦士**ではない。

 

彼は――生まれながらにして、仮面ライダーだった。

 

祖父の肉体に刻まれた“異質の因子”。

人の手によって組み込まれた非人間の力は、

世代を越え、血に染み込み、遺伝情報の奥にまで根を下ろした。

 

それは、猛の母の体を蝕んだ。

 

母は、猛を身ごもった末に、その因子の負荷に耐えきれず――出産と同時に死亡した。

 

そして父もまた、不可解な状況下で命を落とした。

事故とも、自殺とも、他殺とも断定されないまま、記録は封じられた。

 

結果として、猛は“ある男”の元に預けられることとなった。

 

その男の名は――風見志郎。

 

かつて仮面ライダー1号・2号と共に戦った、かつての戦士。

彼もまた改造人間であり、1号2号のふたりに直接改造を施された戦士だ。

 

風見は、猛にとって“育ての親”であり――師匠だった。

 

彼は本郷猛を「息子」として育てた。

だがそれ以上に、「いつか力を持つ者となる少年」への準備として、

その力の使い方を教え、闘いの意味を叩き込んだ。

 

少年は、幼い頃から異質だった。

反射神経、筋力、耐性、回復力――

成長するにつれ、“人間の域”を明らかに越えていく。

 

風見は、それがいつか外へ溢れ出すことを知っていた。

そして、猛自身がその力に飲まれてしまう日が来ることも。

 

だから、教えた。

拳の振るい方。

呼吸の整え方。

そして――誰かのためにしか、その力を使うなということ。

 

「力を持った者は、望まなくても見られる立場になる。

 ならば、どう見られるかじゃない。どう振る舞うかだ。

 いいか、猛。仮面ライダーってのはな……」

 

風見の声は、今も猛の中に残っている。

 

だが、その風見も――数年前、力を使い果たし、静かに命を閉じた。

 

ただの病死として処理されたその死を、

猛は一人きりで、墓の前で受け止めた。

 

あの日から、もう誰も彼に教えてはくれない。

 

戦うべき時は、自分で選ぶしかなかった。

 

 

猛は今、戦っている。

 

闇に潜む怪人と。

生き物の形をした“それ以外の何か”と。

それはもう、人の理の外にある脅威であり、

もはや国家や正義に語れる範疇ではない。

 

だが彼は、祖父の背を見て育ち、

風見の拳を受けて育ち、

今、自分の名を“仮面ライダー”と名乗っている。

 

名乗る理由は、一つだけだ。

 

それが、守る側の覚悟の名だからだ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。