「ん」
「…何」
「何じゃないよっ、一口ちょーだい!」
「ほんとにあんたは…」
もはや当たり前のように毎週行われている勉強会だったが、『無事テストが終わりました記念』と称して今日だけ勉強はナシで! と提案したのはさざみなの方だった。
「ねえ、そういえば、ゆうぐれちゃんの学校の友達の話とか聞いた事ないよね」
「あ〜それもそっか。ま、とは言え普通だよ。私友達少ないし」
「えー、嘘だ! ゆうぐれちゃんいい人だもん」
「…そうだといいけど」
テーブルの上には、いつものセットの他に追加で注文したポテトやナゲットなどが所狭しと並んでいて、腹を空かせたさざみながそれを貪るように食べていた。リスのように頬を膨らませ、眩しいほどの笑顔で美味しいね、と語りかけてくるさざみなに、私は妹達の姿を重ねていた。
さざみなは一人っ子らしい。加えて幼い頃父も亡くしシングルマザーで、母親も家計を支える為多忙であまり人に甘えられず育ったのだろう。私が面倒見がいいことを見抜いているのか、私がこいつに構ってやるのが良くないのか…とにかくさざみなは隙あらば私に甘えてきた。例えば、
「あたしソフトクリーム食べたい! いいでしょ? ねーねーいつも買ってくれないからたまにはさー!」
と小学生のようにねだって無理やりソフトクリームを追加させられたり、
「駅まで見送ってよー。暗い道歩くの怖いの」
なんて柄にもなく乙女らしいことを言って半ば強引に見送りをさせられたりもした。それで言うと私も乙女なんだけど、と思いつつも結局着いて行ったけど。
(いよいよ、本当に母親みたいになってきたな、私)
とはいえ、私の友達は松村しかいないようなもんだし、その松村すらマトモな人間とは言い難いから、ここまで私に付き合ってくれる人間がいることに感謝している自分もいた。さざみなの、良くも悪くも純真で裏表がなく、無邪気な姿を見ていると、勉強や将来の悩み事なんかが薄れていくから。
「難しい顔してるねー。将来のこととか、無駄なこと考えてそう!」
「案外ズバッと言うんだね、あんた…。まあ考えてるよ。てか、逆に考えないわけ?」
「うん、無駄じゃない? どれだけ考えたって、なるようにしかならないよ」
「人類が全員あんたみたいに頭空っぽだったらいいのにねぇ」
「…どういう意味?」
外は雨。勉強会も六週目ともなると、もうあまり話すこともないからこうして蔑み合いをするしかやることはなかったのだけれど、私は…というか恐らくさざみなも、雨の中歩きたくないなという一心だけでまだ店に居座っていた。
「梅雨でもないのに連日雨雨雨…。たまにはカラッと晴れて欲しいよ」
「うんー。あたしも雨はイヤかも、元気が出ないもん」
「あれだ、低気圧で頭とか痛くなるタイプだ」
「え! なんでわかったの?」
店内に居た人達は次々と帰っていく。天気予報アプリを見ると、やはり明日までこの雨は降り続くらしい。いつまでもここにいられないな、と思いつつも、ただただ無言で…たまに適当な言葉を交わしながら私達は時間を浪費していく。
「ね、ゆうぐれちゃんってメイクとかする?」
「んー。まあ多少。学校はなんかアレだから休日出かける時とかはするかな」
「そっか。あたしメイクしたことないし化粧品も全然わかんないけどさ、見るのは好きなんだよねー」
「ふーん。好きならウチくる? 女ばっかだし、化粧品だけはいっぱいあるよ」
ただなんとはなしに放った言葉だった。けどそれが目の前の彼女にとっては違ったらしく、ものすごい食いつきで目を輝かせてぐいぐいと近付いてきた。
「えーっほんとにほんとに!? 行きたい行きたい、てか絶対行く!」
「声がデカい…! わかったわかった、この週末でいい?」
「うん! あたしいつでも暇だしー。週に2回も会えちゃうなんて、嬉しいなぁ〜」
「なんか、調子狂うわ…」
自分の軽はずみな言動に頭を抱えながら、空の包装紙をトレーに纏めながら席を立つ。外を見ると、雨はさっきより強くなっていた。
「じゃあまた土曜日ねー!」
「はいはい。またね」
自動ドアが開いて外へ出る。傘を差して軽い足取りで遠ざかる背中。ぱしゃぱしゃと水溜まりを蹴飛ばしながらスキップしているのが、遠目にも見えるほどはしゃぎながら帰るさざみな。その姿が見えなくなるまで、私はそこに佇んでいた。
「お母さんただいまーっ! ねえねえ、あたし友達できたよーっ!」
お母さんからの返答はなくて、そっか、寝てるんだったとハッとして慌てて口を押さえる。今日も晩御飯は手付かずで、けど今日はいつもよりたくさん食べたからあたしもお腹いっぱいだから、この余ったご飯をどうしようか…と考えていた。
「明日の朝に食べよっ」
用意したお母さんの分のご飯を冷蔵庫にしまい直して、お風呂に直行。服も全部脱いで洗濯機に放り込む。いつもは基本シャワーで済ませちゃうけど、ホントは良くないと分かってる。でもやることは色々あるし、そんな中でも自分の好きなことはやりたいしで、湯船にゆっくり浸かるなんてことはあまりしていなかった。
「このシャンプーいい匂い〜」
最近変えたシャンプーは思いがけずいい香りで、思わず気分が高揚する。ゆうぐれちゃん、変えたこと気付くかな?
「ふっふ〜ん。土曜日、土曜日〜っ」
目を瞑ってシャンプーしながら、思わず我ながら意味不明な歌を口ずさんでいた。
〜ゆうぐれとさざみなのバーガー批評〜
・チーズバーガー
くれは「いつもの。可もなく不可もないけどそこがいい。スタンダードなハンバーガーはこれであるべき」
美奈「ちょっと味薄くない? パンチが足りないし、物足りない…。けど、全面的にはゆうぐれちゃんの意見に賛成!」
・てりやきバーガー
くれは「ちょっとしつこい。一個はいらない味。お年寄りって、こればっか頼んでない?」
美奈「味が濃くてちょーおいしい! こんなおいしいもの初めて食べたって思ったよ。これだけはなくなって欲しくないね!」