山小屋に汚いガキがいたので虐待することにした   作:頭畜生

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第4話 悪夢

 

 

 

 

 

 「ミカサ。起きなさい、ミカサ」

 「んぅ……」

 

 誰かに肩を揺すられて瞼を開ける。

 そこにあった景色はつい最近まで身近にあった景色で、だけどもう決して戻ることのない景色だった。

 

 「お父さん、お母さん……?」

 

 私の呼びかけに応じるように、朗らかでお日様のような笑顔を返してくれた二人。

 

 「ど、どうしてここに……?」

 「変なことを聞くのね。どうしても何も、ずっとここにいたわよ。ね?」

 「そうだな」

 

 困ったように言葉を紡ぐ二人は、在りし日のあのままの頃とまったく一緒で────

 

 「それにしても、大事なお話をしている最中に寝ちゃうだなんて……まったく誰に似たのかしらね?」

 「い、いやぁ、誰だろうなぁ……?」

 「ふふっ」

 

 何ひとつ変わらない、私の日常。

 

 決して戻らないと思っていた風景が、当たり前のように目の前の事実が鎮座している。

 

 あぁ、そうか。あの日の全ては夢だったのだ。

 アレらは私が船を漕いでいる間に見せたタチの悪い悪夢で、今目の前に広がっているのが現実なんだ。

 

 お父さんもお母さんも死なない。

 

 理不尽に殴られることもない。

 

 もう、あんな寒さを感じなくてもいい。

 

 それに、それに──────

 

 

 

 『あったけぇだろ?』

 

 

 

 ふと、彼を思い出してしまった。

 

 私を助けてくれた人。

 私に温かさをくれた人。

 そして、私に帰る場所を作ってくれた人。

 

 あの日の全てが夢だとすれば、彼との出会いもなかったことになってしまうのではないか。

 

 それが、何故か、どうしようもなく寂しくて、悲しくなってしまう。

 

 「ねぇ、お母さん。調査兵団のヴィラって人知って、る……?」

 

 もう一度会いに行きたい。そう思ってダメ元でお母さんに呼びかけるも、笑顔を貼り付けたままピクリとも反応しない。

 まるで最初からそう在ることしかできないかのように、他の表情の差分を持ち合わせていないかのように。

 その事実に気づいて、背中に悪寒が奔った。不気味なほどに静けさが満ち足りたこの場所は、まるであの日の再現であるかのように見えた。

 

 「ミ、カサ」

 「お母さん?───ヒッ」

 

 ようやく語り出したかと思えば、とても曖昧で要領を得ない言葉で。

 しかし、その言葉を語った母の姿も変貌していく。右肩から斜めにぱっくりと肉が割れ、血飛沫をあげる母の姿となってしまい、咄嗟に離れてしまった。

 

 気づけば辺り一面は血の海で、お父さんも腹部を刺されて倒れ込んでいる。

 その光景は全て悪夢だと断じたものそのもので。

 

 

 「お父、さん………おかあ、さ……」

 

 

 咄嗟に震える声で呼びかけるが、二人は何も返してくれない。

 

 

 「オイ……お前は大人しくしろよ?でないと───こうだッ!!」

 

 

 胸ぐらを掴まれて、右手を大きく振り被る。その行為からくる衝撃に備えて、咄嗟に目を閉じて────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──────」

 

 ふと目が覚めると、そこにはここ最近で見慣れた天井があった。

 そこでようやく悪夢から抜け出せたことを知る。

 

 「…………」

 

 震わす肩を抑えて、ベッドの上で縮こまる。

 息は荒れて、心臓が高鳴る。ずっと、ずっとあの光景が瞼の裏から剥がれ落ちない。

 

 まただ。またあの日の夢を見る。

 父が血を噴きながら倒れて、母が鬼気迫る表情で突貫して、見知らぬ男の人たちが家に入り込んで来て私を殴り倒した、あの日を夢に見る。

 

 眠るのが怖い。寝てしまえば、またあの日の夢を見てしまうと思ってしまう。

 私は今もなお囚われている。あの日の悪夢に、その幻影に。

 

 「ヴィラ、助けて……」

 

 だから、私はただ泣きじゃくることしかできなかった。

 

 

 

 

 

☆★

 

 

 

 

 

 壁の端から端までおはようございま〜〜す!!!

 天上天下唯我独尊ことヴィラ様だぜ〜〜!!!

 

 ミカサを拾ってかれこれ一週間ぐらい経った。

 ここまで特にこれといった問題はなく、相変わらず無表情のアイツをどう崩してやろうかと試行錯誤している日々であるが、今日のミカサはどこか様子がおかしい。

 

 「ミカサ………オイ、ミカサ。聞いてんのか?」

 「ッ、な、なに?」

 

 こんな感じで上の空なのだ。ずっと心ここに在らずといった感じで、俺の呼びかけにも少しばかり反応が遅れている。

 

 「そういえばミカサ。お前が使っているあのベッドの寝心地はどうだァ?クククッ……!」

 

 下卑た笑い声を抑えることができず、ついつい漏れ出てしまったわ。

 しかしそんな俺をどうか許してほしい。なんせ、あんなベッドの寝心地なんて最悪以外の返答なんてないんだからなァ!

 

 「あのベッド?すごくフワフワでとても良い……ので、私に不満はない。むしろ申し訳ない……」

 「ククッ、いいってことよ。あのベッドはお前のために用意したんだからな」

 「………ありがとう」

 

 ハンッ、強がりやがって……さっさと白状したらどうだ?

 あんなベッド───フワフワすぎて人としてダメになりそうだってなァ!!

 俺も一度使ったことがあるが、あれは人を虜にする魔力を帯びた魔性のベッドだと断言できるね。一度入ってしまえばそれまで、抗い違い毛布に身を包まれることになるだろう。

 ククッ、さぞ出るのに苦労しただろうなァ?お前が魅惑の毛布に抵抗しながらも必死に抜け出そうとする姿が容易に思い浮かべられるぜ……

 

 しかし、ここでコイツの顔を注視してあることに気づく。

 

 「オイ、その目元の黒いのはなんだ?隈のように見えるが……」

 「ッ」

 

 オイオイオイ……そんな必死に隠されちゃうとよォ……何か隠し事をしていますと言っているようなモンじゃねぇか!?

 寝不足というのはあり得ない。何故ならコイツには22時ぐらいには寝ろと命令しており、コイツが22時前に自室に入っていくところを見ているから、間違いなく床に着いている筈だ。

 

 ……………本当にそうなのか?

 

 「いや、まさか……そんな……」

 

 ククッ、そういうことか。分かったぜェ?お前のトリックがなァ!

 ミカサ……もしやテメェ、夜更かしをしていやがるなァ!?

 俺との約束で決めた22時に寝ろという命令を反故して、コイツは日を跨いで起きていやがるんだ!

 なんて奴だ……お前の年齢で日を跨ぐ行為は禁忌だというのに……!俺でもやったことがねェ悪しき行為だッ!

 それを俺の虐待サンドバックがやるなんてな……100年早いんだよ!!

 

 「ミカサ、帰ってきたらこれ以上ない虐待をしてやる。精々首を洗って待ってるんだな」

 「ッ!!分かった、待ってる」

 

 異様にテンションが高くなりやがったな、コイツ。

 まぁ大方、俺の見知らぬ所で悪しき行為をしていることに対する背徳感からくる快楽だろうが……しかし、それも今日までだと知れッ!!

 

 俺がお前を改めて調教してやるよ!

 俺の命令に逆らったことを後悔させてやるぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「─────つーことで今日は一緒に寝てやるよ!」

 「えっ」

 

 ハーッハッハッハ!!ショックすぎて言葉も出ないってか?

 しかしそれもそうだろうな。なんせお前の唯一の安心できる時間である睡眠時間すらも俺と一緒なのだからな!

 

 「なんだ?不満か?」

 「う、ううん。そんなことない」

 

 ササっとベッドの端へと移動し、俺が寝るスペースを空けてくれたミカサに愉悦の意を感じながら、消灯と共に潜り込んだ。

 う〜〜む、このベッド、やはり魔性のベッドすぎる。フワフワすぎてすぐに意識を手放しちまいそうになったぜ。

 俺だから抵抗できるものの、ミカサのようなガキには些か刺激的すぎるな。

 

 「ヴィラ、その……」

 「あ〜?」

 「────手を……手を握って欲しい……」

 

 ほぼ眠りかかっている頭でミカサの言葉を咀嚼する。

 手を握って欲しい………ってことは、普通に手を握ればいいだけだよなァ?ククッ、赤ん坊でもできるぜ。

 ほぼ眠りかけの頭でそう判断して、ミカサの小さな手を握れば、ほんの少しの震え。そして、微かに握り返される感触を感じたと同時に、俺の意識は暗闇へとダイブした。

 

 

 

 

 

☆★

 

 

 

 

 

 「────ここは……」

 

 気がつけばあの丘にいた。

 緑豊かで、いい匂いがして、最近は二人でよく眠っている、あの木の丘に。

 

 どうしてここにいるのだろうか。今日もあの日の夢を見ると思っていたのに……もしかしたら、ヴィラが一緒に寝てくれたからだろうか。

 咄嗟にヴィラを探す……が、手の甲に感じる温かさが私にその存在を気づかせてくれた。

 

 「ヴィラ……?」

 「zzz」

 

 隣にいるヴィラは気持ちよさそうに熟睡している。

 その寝顔がとても穏やかで、あまりにも気持ち良さそうに寝ているから、さっきまで緊張で強張っていた体が自然と力が抜けていく。

 

 「…………あったかい」

 

 それはこの快晴の青空の下にいるからか、それとも彼に手を握られているからなのか、もしくはその両方か。

 私には分からないけど、この温かさは私の好きな温かさだった。

 

 ………もっと近づけば、もっとあったかくなれるのだろうか。

 

 そんな微かな、されど決して止めることのできない好奇心に突き動かされ、恐る恐る彼の胸元に顔を埋める。

 これは夢だからできること。きっと現実だったら怒られてしまう。だから、今ここでしかできないことをしてみたかった。

 …………悪くない。むしろ良い。そう思っていたら───

 

 「むにゃむにゃ……ミカサ〜……やったな〜……zzz」

 「んぐッ」

 

 何やら寝言を呟きながら、私を優しく抱きしめ返してくれた。

 落ち着く体温。落ち着く匂い。それらがまるで私を悪夢から守ってくれるように、私の四肢を包み隠す。

 …………やっぱり悪くない。

 

 「あったかい……」

 

 あぁ、なんて温かな夢なのだろう。なんて優しい夢なんだろう。なんて……なんて美しい世界なんだろう。

 

 ずっとこんな世界にいれたらいいのに……そんなことを考えながら、徐々に迫り来る睡魔に抗うことなく、自然と瞼を閉じていく。

 

 朦朧としてきた意識の中、徐々に掠れて滲む視界。

 丘の奥から、私と同年代らしき金髪の少女が、微笑みながら私たちをじっと見ているような気がした。

 

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