山小屋に汚いガキがいたので虐待することにした 作:頭畜生
「──────」
「zzz」
今日も今日とて最高に最悪の朝におはようございます!ヴィラだ!
ところで朝起きたらミカサが俺のベッドで寝ているんだが、これは一体どういう状況か説明してくれ!
「昨日いたか?いや、昨日の夜はなんかしつこく一緒に寝ようと駄々捏ねられたぐらいで、その後は何事もなく寝かしつけた筈だ……」
なるほど、ちょっと背筋が凍るような怖いお話だぜ。まさかこの俺にも恐怖心が残っていたとはな……
これはまさに未知に対する恐怖……!それを虐待サンドバックに教えられるとは何とも屈辱的だッ!末代までの恥だぜ!
「おい、起きろミカサ」
「んぅ……」
とりあえず仕方ないのでミカサを起こすために頬をぷにぷにしまくる。
だが悪いとは微塵も思っていない。全部コイツの頬がすべすべのぷにぷになのがいけねぇんだ!
悪党とは平気で人のせいにする……よく覚えておきな。
「あと五分……」
「図に乗るな」
問答無用で脇に抱えてリビングの椅子に座らせ、朝食を摂らせる。
今日はスープとパンwith自家製のジャムだ。俺の知恵を総動員した朝食に身を悶えさせるがいい!!
「チッ、今日も寝癖がヒデェな。髪質は悪くない癖に、どうしたらそんな芸術ボンバーみたいな髪型が出来上がるんだ?」
「……わかんない」
「ハァ〜、まぁいい。こちらとしては虐待出来て万々歳だからよ……!」
「ん」
ミカサが朝食を食べ始めたところで、俺はいつものようにミカサの背後に立ち、櫛と水を用意して髪を梳かし始める。
ククッ、まさか寝癖を発端に異性に髪を触られる虐待をされるなんて夢にも思っていなかっただろう。実際この俺ですらも全くの予想外だったからなァ。
自身の寝癖に首を絞められるとはなんて滑稽な奴なんだ!精々自身の寝相に恨みを抱くことだ!
「今日もエレンと遊ぶ約束でもしてんのか?」
「ううん、今日はヴィラの休養日だから行かない」
………普通俺が家にいる日にこそ遊びに行くと思うんだが、まぁいい。なんせ都合がいいからなァ。
「なら今日は俺と一緒に出かけるぞ。試したいものが山ほどあるんでな」
「試したいものって?」
「おっと、それは着いてからのお楽しみってヤツだぜ」
「何だろう」と何処か揚々を抑えきれていない声で喉を震わすミカサに内心ほくそ笑む。
やはりサプライズというのはどの年代層にも刺さる物だろう。何故ならそれは大抵嬉しい物をお出しされるからだ。
しかし、俺がテメェに贈るのは虐待だ!テメェに笑ってもらうためじゃねェ、顔面涙だらけになってもらうためにサプライズをするんだぜ!
ククッ、人類の進化は未知数で底なしであるように、俺の虐待もまた未知数であり底なしなのだ。
お前が想像することも遠く及ばないほどに残忍で、惨たらしい虐待をするために、俺はベストを尽くすのみよ!
☆★
「さぁ、ミカサ。選べ」
「えっ」
「選べと言っているのだ。お前の好きな方の地獄をなァ……?」
焦り、困惑、そして戸惑い。
ありとあらゆる感情を凝縮したような面立ちを見せてくれるミカサには感謝してもしきれない。
おかげで急速に虐待満足ポイントが増加していくぜ!
そうして、今も眼前に広がる地獄をまざまざと見せつけて、まるで舞台の役者のように腕を広げ宣った。
「さぁ選ぶのだ────この服屋からお気に入りの一着をなッ!!!!」
その名もエンドレス
この虐待を思いついたのはコイツの私服の少なさに気付かされた時であった。
コイツの元家から幾つか持ち出しはしたが、それにしたってどれも単調で面白みがねェってな。
故にこう考えた────コイツに服を買ってやるのはどうか、と。ついでに虐待も出来たらお得だよね、と。
この結果がこれだ。見ろ、あの何百着とある服に囲まれて目を回しているミカサを。さぞ悩みに悩み抜いて、今にも頭が爆発してしまうかもしれねェ。
「どうだ。良いのはあったか?」
「うん。でも、多すぎて選べない……」
ハーッハッハッハ!!悩む、そりゃあ悩むよなァ?なんせこんなにも服があるんだから。
これまでは自分の服装は全てお母さんに任せっきりだったのだろう。お前の困惑が手に取るように理解できるぜ。
ククッ、精々悩み抜け。そして服装界隈という深淵よりも深い闇に呑み込まれろ!!
……ん?なんだミカサのヤツ、突然袖を引っ張りやがって────
「ヴィラも一緒に来てほしい」
「あ?だからお前が────」
「お願い」
「…………………今回だけな!」
まぁ、いうて今日から初めてだし、今回限りの初回特典という名の温情を与えてやってもいいだろう。だが次はないと思え!
「やっぱり選べない……」
意気消沈と言わんばかりに落ち込むミカサを前にして、俺は愉悦を抑えられなかった。
少なすぎて困った時は多くあれど、多すぎて困ったことなど流石に今回ばかりだろう!
今もそのマフラーの下で口をへの字にして苦悩に冴えなまされていると思うと笑いが止まらないぜ!
しかし、よもやこれだけで虐待が終わると思っているんじゃあるまいな?
虐待の本番はここからだぜ……!
「じゃじゃーん!!これな〜〜んだ?」
「………ドレス?」
「惜しいな。これはワンピースっていうんだぜ」
俺が取り出したのは白のワンピースとピンクの羽織物だ。
こいつはあくまでミカサが踏ん切りつかないって時に用意しておいた保険ってヤツだ。
虐待するのは良いが、あまりに長引くのはあまり得策じゃない。
短時間でよりインパクトのある虐待を───それがヴィラ流の虐待法だ。今度本でも書いて売ってみようかな。
「そして、この服はお前のために選んだものだ」
そう言って半ば強引に渡せば、まるで唖然としたように服を見るミカサ。
ククッ、よほど呆れ果てているな?自信満々に渡されたかと思えば、こんな飾り気のないシンプルな服装を渡されちまってよォ……さぞ気落ちしたに違いないね!
それに何より男からのプレゼントに言いようもない嫌悪感を覚えていること間違いなし。
自身の服装を選ぶことすらできない未熟さを痛感し、その傷に塩を塗りたくるように俺からのプレゼント……なんて隙のない二段構えの虐待なんだ!!やはり俺は天才じゃったか……
「オラ、ミカサ!何をボーッとしていやがる!お楽しみはこれからだろォ?」
そう言うや否や、問答無用でミカサの手を握り、さらに店の奥へと進撃していく。
最初に一着だけと言ったな?あれは嘘だ。悪人は平気で嘘をつく。少なくともあと数着は確保しなければ……!あと下着もな!
☆★
そうして終わらない虐待ラッシュを敢行していれば、全て終わったのは夕陽がお空から『こんにちは!』と挨拶に来ている時間帯だった。
ククッ、まさかここまで時間がかかるとは……。コイツを着せ替え人形にするのが楽しくてついつい熱中しちまったぜ。お陰で明らかに過分な服も買ってしまったが……まぁ必要経費だろう!安いもんだ、小銭の一つや二つぐらい!
「これで色んなお前を見れるな」
少なくともこれでコイツを見て飽きるといったことは起きないだろう。
まぁ、いちいち反撃してくるので、ミカサに関しては今後一生飽きるなんてことはないと思うがな!
しかしミカサは今の言葉をどう捉えたのか、「色んな私……」と深く味わうように呟けば、期待が篭められたような目で俺を見上げる。
「…………ヴィラは嬉しい?」
ククッ、何言ってんだコイツ。何故お前に喜怒哀楽を聞かれなきゃならんのだ。
しかし、言葉足らず過ぎて何がどう嬉しいと尋ねてきたのかさっぱり分からんが、安直にそのまま直球で返すとするならば────
「嬉しいに決まってんだろ。なんせ俺が選んだ服を着飾るんだからなァ!クククッ……!」
そう、お前が心底憎んで仕方がない男が選んだ服を強制的に着させられるんだ!それも何着と、毎日なァ!
屈辱に塗られた顔をしながら嫌々着させられる所をお目にできるとありゃあ……これを嬉しく思わない奴は悪じゃねェ!
「────そう…………そっか」
ミカサは首元に巻いてあるマフラーにさらに顔を埋めるように深く潜り、まるで俺に顔を見られないように隠しているではないか。
ククッ、どうやら相当気分を害したらしい。顔すらも見たくないし見られたくもないという領域まで来てしまったら、それはもうメドューサもビックリなバケモンに対する扱いなのよ。
「お〜いミカサ!それにヴィラさんも!」
「あぁん?」
遠くから俺たちの名を叫ぶ騒がしいガキの声が聞こえる。
黒髪のガキ……ありゃあエレンだな。そんでもう一人は金髪マッシュのガキ知らねぇガキだ。
俺は横にいるミカサを見て知り合いか尋ねる。その視線の意図を見事に読み取ってか、ミカサは「あれはエレンとアルミン」と簡易的に答えた。
いや、エレンの奴は知っとるわ、流石に。遠回しに俺のことを鳥頭とバカにしているのか?
「ケッ、それにしても相変わらずうるさいガキだ、テメェは。もう片方の金髪マッシュのガキを見習ってもう少し落ち着きというものを覚えたほうがいいんじゃねェか?」
「な、何だと!?」
「エレンはいつも考えなしに喧嘩する。少しはアルミンを見習った方がいい」
「ミ、ミカサまで何だよ!」
ククッ、随分とたじたじだなァ。まぁ今どきのガキなんてこんなもんか。
「あ、あの……」
「あぁん?」
「ヒッ」
金髪マッシュのガキが話しかけてきたので、普通に応対したらこの様だ。
確かに俺という極悪人のオーラに当てられたとありゃ、大の大人すらも裸足で逃げ出すことやむなしといったところだが、それにしても大袈裟なリアクションだと思わなくもない。
………ククッ、なるほど。コイツの顔をよく見てみれば理解できたぜ。随分と負け犬根性が染み付いているらしいなァ?
「それで?烏滸がましくも大悪党であるこの俺に話しかけにきたのには相応の理由があるんだろ?話してみろ」
「えっと、その………ヴィラ、さんは、調査兵団だとお聞きして……外の世界の話をお聞きしたくて……」
そう言って見上げる金髪マッシュ。しかし、そこには負け犬の顔などなく、ただただ好奇心に突き動かされるバカの顔があった。
………なるほど、いい顔をする。どっかのバカと同じ顔───夢追いバカの顔とそっくり同じだぜ。
「いいぜ!だが……それで本当にいいのか?」
「え?」
「そういうのはなァ────自分の目で、足で見に行くもんだろ!」
答えを求めているというのに、それを敢えて先送りにするような最悪の虐待ッ!!
これから先、コイツが外に出て実際に見るまでは常にこの悶々とした気持ちを抱いてしまうことだろう……
「───はい!僕はいつか壁の外に出て、必ず海を見に行きます!自分の足で、自分の目で見ます!」
「その調子だァ!!」
「……ヴィラさんってたまに良いこと言うよな」
「たまにじゃない。いつもそう」
おぉっと、これにはさしものエレンとミカサもドン引きのようだ。こそこそ話をしながら俺を見ているが、きっと「ないわー」、「さいてー」と噂しているに違いないぜ!
その後、完全に暗くなる直前までエレンの殴るトレーニングに付き合わされ、その日を終えた。
アイツ巨人を倒したいって言ってる割に格闘技練習してんのな。意味分からん奴だぜ……