山小屋に汚いガキがいたので虐待することにした   作:頭畜生

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第6話 ライバル

 

 

 

 

 

 そろそろ忘れてきた頃だと思うから改めて言うが、俺は兵士であり、所属先は名実ともにイカれているとお墨付きの変人集団───調査兵団だ。

 そのため、壁外調査のために日々訓練は欠かさずに行われている。

 

 さて、ここで疑問に思う凡夫どももいることだろう。

 俺が訓練している間、ミカサは一人になる時間が必ず発生する。

 ならばその留守の間、ミカサはどうしているのか?と。もしかしたら逃げ出せるチャンスがあるんじゃないのか?と。

 

 ……ククッ、クククッ!全く、これだから凡夫は頭が固い。

 俺が無闇矢鱈にそんな隙を晒すと本気で思っているのか?無論対策をしている。

 だが、ただの対策じゃねぇ。なんとも悍ましく、なんとも狡猾な手法でミカサを捕らえているんだぜェ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────コンコン

 

 「グリシャさん!俺だ!ミカサを連れてきたぜ!」

 

 社畜どもが重い瞼を垂れ下げながら家を出ていく時間帯、俺はミカサを連れてイェーガー家に訪れていた。

 その理由は至極単純、コイツを寺小屋に向かわせるためだッ!!

 俺が留守の間は基本的に寺小屋なる場所に通わせている。エレンやアルミン、その他ガキどもの監視の目を置くことで、決して逃れられない包囲網を完成させ、そして訓練を終えた俺が迎えに行き、手を繋ぎながら家に帰る。

 コイツを決して一人にしない作戦……まさしく完璧で最高の鳥籠だぜ!

 ん?なんて狡猾な男なんだってか?ククッ、むしろ褒め言葉をありがとうよ!

 

 「ミカサ、今日もしっかり学んでこい。あと精々怪我しないように気をつけろよ?怪我したら虐待できないからな、クククッ……!」

 「………うん」

 

 ………なんだ?ミカサの奴。今日はエラく不機嫌っつーか、やけに暗いじゃねぇか。

 まぁ、マフラーが陰を作っているせいかもしれないけどよ……

 

 「………ヴィラ、その────っ」

 「やぁ、ヴィラくん、ミカサ。よく来てくれたね、歓迎するよ」

 

 ミカサが意を決して何かを伝えようとするが、タイミング悪くグリシャさんが扉の奥から出てきた。

 その善意100%の静かな微笑みは、かつてこの街から疫病を退治した英雄の貫禄を如実に表しており、その微笑みの前にミカサの威勢も削がれてしまったのか、終ぞ出かけた言葉を出すことなく顔を俯かせた。

 何を言いたかったんだ、コイツは。

 

 「よォ、グリシャさん、毎度すまねぇな」

 「いいんだ。元々、この提案をしたのは私なんだからね。ヴィラ君が気に病む必要なんてない」

 

 そう言って笑うグリシャさんはまさしく医者の鑑───否、人の鑑なのだろう。俺と違ってな!

 それにしても、この提案は渡りに船だったぜ。以前、グリシャさんが『誰かが側にいてあげないと不安だ』ということで申し出てくれたわけだが、俺もその時ちょうど監視の目が欲しかった所だからなァ?上手く利用してやったぜ。

 人の善意すらも悪用するとは……なんて低俗で悪党なんだ、俺って奴はよォ!まったく、あまりの外道っぷりに惚れ惚れしちまうぜ……

 

 「そういやエレンの奴は?」

 「まだ寝ているよ。もうすぐ時間だというのに……エレンに何か?」

 「いや、いい。ミカサと仲良くなってもらってる礼でもしようと思っただけなんでな」

 

 無論そんなことは微塵も───いや、ちょっとだけ思っているが、それが趣旨として今の感情を支配しているわけではない。

 今、俺を支配している感情の名は“安堵”だ。

 あの野郎、俺を見かけた日には目をキラキラさせながら話を聞かせてくれと強請ってくるからな。

 アイツの執着心はハッキリ言って異常だ。何か話すまでは決して諦めねェ。足に掴み掛かろうが、マントを引っ張ろうがお構いなしに尋ねてきやがる。煩わしいったらありゃしない。

 アイツが寝ている時にさっさと退散するに限るぜ。

 

 「ほれ、ミカサ……………ミカサ?」

 「…………」

 

 いつも通りここまで繋いでいた手を離そうとするも、ガッチリと握られてなかなか離そうとしねぇ。

 なんだァ?叛逆かァ?地味に痛い叛逆をしてくるじゃねぇの。

 

 「………ミカサ。気持ちというものは自分にしか分からないものだ。それを相手に理解してもらいたいと思うのなら、君自身の言葉で伝えるしかないんだよ」

 

 何かを察したらしいグリシャさんがミカサと目線を合わせて、まるで諭すように語りかける。

 ククッ、グリシャさん、あんた人として出来すぎてんだろ。一体なに食ったらそんな風になれるんだ?本当に俺と同じ赤い血が流れている人間か?

 

 そんなこんなで、俺の中で【グリシャさん、現人神説】が勝手に信憑性が帯び始めてきたところで、握られている手をそっと引かれて現実に意識を戻された。

 

 「ヴィラ」

 「ククッ、なんだ?」

 「…………帰ったら、久しぶりに薪割りを一緒にしたい」

 「……あぁ?薪割りだぁ……?」

 

 聞いてみればなんてこともない、至って普通の要望だった。

 思い返してみれば、壁外調査が近いこともあってか訓練が厳しくなるわ、帰りは遅くなるわで、最近は一緒に薪割りを出来ていなかったように思う。

 一人でもサボらずやっていたから別に文句を付けることもなく任せっきりだったんだが……いや、そもそもこの任せっきりが気に食わなかったとかかね。お前だけサボりやがってとかそんな心情か?

 なるほど、つまり再び同じ土俵に立ち私と勝負しろと……そういうわけだな?

 

 「ククッ、その果し状、受け取ったぜ!帰ったらどちらがより多くの薪を割ったか勝負だ!」

 「ッ、うん」

 

 自身の挑戦状を受け取ってもらえたことがそんなに嬉しいのか、死んだ魚の目がデフォルトのミカサの瞳が僅かながらに光った。

 コイツは俺を飽きさせるということを知らないらしいなァ。まったく、なんて素晴らしい虐待サンドバックなんだ!

 

 

 

 

 

☆★

 

 

 

 

 

 ────調査兵団トロスト区支部

 

 

 調査兵団───それは唯一壁の外に出て巨人と戦うことを許された精鋭部隊の集まりである。

 しかし、同時にかなり頭のイカれた集団だ。世間一般から見てもそうだし、なんなら俺もそう思う。

 なんせ自身の意思で外に出て、生身一つで巨人と対峙するんだぞ?頭のネジが一本二本外れてないと入団するわけがない。

 

 そして、それを表すかのように、巨人に対話を試みようとするバカがいたり、チビの癖してめちゃんこ強いアホがいたり、超絶腹黒野郎なクソッタレもいやがる。

 おまけに、もう回復の余地が見込めないほどに衰退……いや、後退してしまったデコを持つ奴がこの組織のトップとか、たったこれだけで如何にここがストレスが溜まる職場だってことが分かると思う。

 俺ァ、絶対調査兵団の団長にはなんない。キース団長と邂逅したその瞬間からそう固く決心したね。

 

 「まぁ、そんな変人集団の中でも最もイカれてるのが俺なんだがなァ」

 「オイ、クソボケ野郎、なにブツブツ言ってやがる。気色悪りぃだろうが」

 

 俺の喜悦を阻害するかの如く、俺の思考にとあるノイズが入り込んできた。

 その声を聞いてゲンナリすると共にイライラ度が増していく。

 

 「あぁ、いたのかリヴァイ。小さすぎて気付かなかったぜ」

 

 俺の目の前には腕を組みながら不機嫌そうに睨みつけてくるチビ───リヴァイがいた。

 ククッ、つくづく人間という生き物は不可思議な生物だと思うよ。なんせこんなチビのどこに巨人を数十体倒せる力があるってんだよな?

 

 俺とリヴァイの間に稲妻が飛び交う。

 周囲の音という音が死に絶え、空間は高まる緊張感にひっ迫されるのを感じながら、ただ目の前にいる奴を睨め付け────

 

 「は〜〜い、ストップ!」

 「イタッ!?」

 

 後頭部に強い衝撃が奔る。

 下手人を確認するべく後ろを振り返ると、そこには腹立つニヤケ面を晒すメガネ野郎がいた。

 

 「テメェ……ハンジ!今いいとこだったろうが!つーかなんで俺だけ殴ってリヴァイは殴らねェ!?」

 「え?だってリヴァイにやったらガチギレするでしょ?君ならキレるだけだし、良いかなって」

 

 ク、ククッ、どうやら俺のことを心底舐め腐っているらしい。

 いずれ人類史に名を残す悪党になるであろうこの俺にそんなセリフを吐けるとはァ……相変わらず随分と肝の据わった野郎だぜ。

 

 「まったく……君たちは目を離したらすぐこれだよね。調査兵団の歴史は長いけど、かつてこれほどまでに仲の悪い()()は存在しないんじゃないかな?」

 「ククッ、なんだ?いきなり褒め言葉を言いやがって」

 「あぁ、それに関しては同感だ。コイツと仲良しこよしをするぐらいなら、そこら辺の糞を身に纏った方がマシだ」

 「ハァ?」

 「あァ?」

 「う〜〜ん、ダメだこりゃ」

 

 このチビ……目に物を見せてやるよ!

 

 「そこまでにしろ、リヴァイ、ヴィラ。もうじき擬似訓練の時間だ」

 「あ?……なんだエルヴィンか」

 

 タイミングを見計らったように絶妙な間合いで入ってきた七三分けの男に目を向ける。

 エルヴィン・スミス……俺が調査兵団に加入する羽目になった原因でもあり、ある意味俺を救ってくれた男である。

 

 「仲間の不和は陣形を乱す要因の一つとなり得る。壁外調査が目前となっている今、より一層組織の一員として身を弁える必要があることを忘れるな」

 「……わーってるよ」

 「チッ」

 

 色々言いたかったし、『そもそもコイツが……』という気持ちもあったが、ここで言えば更に長引きそうだったので口を閉じる。

 それにエルヴィンに何言っても変な理屈捏ねられて、いつの間にか言いくるめられてるのが常だしな。

 

 ケッ、訓練前に気分を害したぜ。この鬱憤は訓練に全て当ててやるよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「次!準備はいいか!」

 「へ〜〜い」

 「間の抜けた返事はよせと言っているだろうが!ヴィラ!!」

 「へい!」

 

 毛根が駆逐寸前の男───キース団長のありがたいお言葉を頂戴しながら前を見据える。

 

 「では………始めッ!!!」

 

 開始の合図とともに勢いよく空中へと踊り出る。体は重力に身を任せ、ただ真っ直ぐに地面へと突っ込んでいく。

 お気づきだろうが、このままでは普通に落下死だ。しかし、そうはならない。なんせ俺にはこの窮地を救う唯一の手立てであり、かつ俺が『コイツらイカれてるやん……』と思う代物を腰に巻き付けているからだ。

 

 「ヒャッホオオオオオオオオオ!!!!立体機動装置最高ォ〜〜!!!!」

 

 その代物の名は立体機動装置。生身で鳥みたいにビュンビュン飛び回ることができるロマンの塊みたいな移動装置だ。

 仕掛けは単純。操縦装置から狙いを定めてワイヤーを飛ばし、ガスの噴出の勢いによってワイヤーが刺さった場所まで移動するといった画期的なものである。

 これを見た時は流石の俺でも驚きを隠せなかった。コイツら、とんでもないモンを開発していやがるなと心底胸が躍った。

 まぁ、同時にこんな物で巨人に真っ直ぐ突貫しようだなんて、余程物好きな奴らなんだなと思い知らされたわけだが。

 

 そうしてしばらく自由気ままに飛び回っていたわけだが、突如木々の間から巨人を模した木偶の坊が顔を覗かせてきやがった。

 数は二体ほど………ハーッハッハッハ!!余裕のよっちゃんだぜ!

 

 突き刺していたアンカーを外し、巨人(仮)どもの奥側にある丈夫な木に突き刺し、ガスを噴射して接近。

 そして────

 

 「死に晒せェェェェ!!!」

 

 ダミーの間を通過すると同時にうなじを斬る。

 奴らの弱点はうなじだ。故に如何に効率よくうなじを削げるかが鍵となる。うかうかとしていたら気づけば巨人の胃袋の中だしなァ。

 

 「フハハハッ!!絶好調だぜ!この調子なら今日こそは───!」

 

 超ご機嫌に次々とうなじを削いでいると、隣からザシュザシュとキレのいい音が聞こえてくる。

 嫌な予感を感じながら隣を見れば、なんとあの憎たらしいチビがうなじを削ぎまくっているではありませんか。

 

 ────その瞬間、リヴァイと視線が絡み合う。

 

 ……あぁ、なるほど。テメェが何を言いたいのかよ〜〜く分かったぜ。

 お前のその目。あの腹立つ三白眼の目つきがこう言ってんだ───『テメェはその程度か』ってなァ!!

 許せるか?否、断じて許さん!他の奴ならともかく、テメェだけはダメだリヴァイ!!

 

 「あのクソチビ……!!今日こそは俺が勝つッ!!」

 

 いつの間にか競うようになったダミー討伐数。

 毎度の如くいつも同点で終わり、この瞬間までケリがつかないままだったが………それも今日までだ!

 リヴァイ……テメェの天下も今日で終わりだぜェ!!

 

 心を燃やし、あの澄ましたチビの顔面を恥辱と後悔に濡らすべく、俺は森林の奥へと駆け抜けていった────

 

 

 

 

 

☆★

 

 

 

 

 

 「………凄まじいな」

 

 調査兵団本部の会議室にて、キースは資料を見てそう呟いた。

 その資料とは、先ほど行われた擬似訓練の成績───その一部である。

 

 「団長、何を見ておられるのですか?」

 「いや、今注目の新株二人の成績を見ていてな」

 「………リヴァイとヴィラですか」

 

 対面の席に着いて陣形の再確認を行っているエルヴィンの言葉に肯い、再び資料に目を落とす。

 

 エルヴィンのスカウトを受け、地下街から這い上がってきた元ゴロツキ───リヴァイ。

 そして、きっかけは違えど()()()()()()()()()()()()()によって調査兵団に加入した男───ヴィラ。

 この二人はたまたま同タイミングで調査兵団に加入しており、まだまだ若手ともいうべき立ち位置であるが、その成績はベテランのそれである。

 

 彗星の如く現れた二つの綺羅星は他の追随を許さぬ技術、速さ、力を見せつけて、遂には壁外調査でも成果を残し生還するまでに至った。

 『生きて帰って初めて一人前』……これが調査兵団の通説であるわけだが、その難易度は筆舌に尽くし難い。何故なら大半の新兵は巨人と相対せば成す術もなく巨人の餌になるからだ。事実、彼らの同期のうち二名は初陣の壁外調査にて無惨にもその命を散らしている。

 生きて帰れるだけでも十分な戦果だというのに、彼らはそれ以上の戦果を持って生還できるのだ。並大抵のことではない。

 

 お互いが不仲といった点や、些か自由奔放がすぎるなど、まだまだ問題点のある発展途上の二名……しかし、誰がどう見ても余りある才能の原石たちが互いに切磋琢磨し合い、今後どう成長していくのか、それがキースにとってほんの少しの楽しみでもあった。

 

 「壁外調査に絶対はない。しかし、彼ら二人ならば明日の遠征も必ず生き残る………そんな確信のようなものを抱いてしまうよ」

 「えぇ、むしろ生き残ってもらわねば困ります。彼らにはいずれ変革の両翼となってもらい、人類の矛として巨人に猛威を振り翳さねばなりませんから」

 

 そんなエルヴィンの手厳しい言葉にキースは内心苦笑いするも、彼ら二人を拾ってきた責任から来る言葉であり期待でもあるのだと思うと、なんとも律儀で彼らしい言葉だと納得した。

 非情なまでに合理的で、どのような状況であろうと俗心や主観を全く持ち出さない、冷酷で非の打ち所がない人間───それがエルヴィン・スミスという人間の評価だ。

 しかし、そんな彼だからこそ何かを変えることの出来る特別な人間で在れるのだろうと思えた…………自身のような何も結果を残せない人間とは違って。

 

 いずれ自身の後を継ぐであろう奇才と、それを支える両翼。

 キースはその未来に想いを馳せ、自身が去った後の調査兵団の安泰に安堵すると共に、何も残せていない自分自身にほんの僅かな焦りを覚えていた。

 




Q:何でアッカーマンと同じぐらい強いの?
A:精霊さんがなんかしてるから
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