山小屋に汚いガキがいたので虐待することにした   作:頭畜生

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第7話 兆し

 

 

 

 

 

 早朝。暖かな日差しが射し、朝鳥が咽び鳴き、虞を纏った雰囲気が壁内の市街地に満ち足りている……が、市街地の中央通りを占領する色とりどりの愉快な集団のせいで何もかもぶち壊されているのが目に見えていた。

 

 さ〜〜て、やってきました!人生を賭けた一大イベント───壁外調査がなァ!!

 

 いや〜、今回は快晴で安心したぜ。前回なんて土砂降りに豪雨と最悪の初陣だったからな!

 雨は顔に当たるわ、地面はぬかるんで走りにくいわ、霧は濃くて先が見えないわで……当然寸分先も見えないから巨人の発見も遅れて気付けば喰われている、なんてこともあっただろう。

 ……イザベルとファーランもそんな感じで喰われたかもしんねェな。アイツらはリヴァイとつるんでた癖に明るくて素直でいい奴らだったからアイツらが死んだと知った時は……まぁ、結構驚いたってのが正直な感想だ。

 ククッ、リヴァイの奴、アイツらの件で壁外調査がトラウマになってるかもしんねェ。ちょっくら様子見てくるか!

 

 「オイ、リヴァイ!怖かったらお家でおねんねしていてもいいぜ!」

 「は?いきなり何言ってんだ、テメェは」

 

 コイツってチビの癖に睨め付けが様になってんだよな。見ろよ、下からでもこのド迫力だ。どんだけ治安の悪いトコで育ってきたんだか。

 

 「いやなに、ガタガタ震えてしょんべん撒き散らす()()の姿なんか見たくねェんで提案をしてやっただけだ。そう、あくまで()()()()()声をかけたんだからな!そこ勘違いすんじゃねェぞ!」

 「…………」

 

 そう言うと、リヴァイはクソデカため息を撒き散らかした後「余計な世話だ」と言い放ち、話は終いと言わんばかりに馬をほんの少し前に進ませた。

 ケッ、相変わらず愛想の悪い野郎だぜ。イザベルとファーランがいなくなってから更に悪化したんじゃね?………いやそうでもないか。

 

 「お〜い、ヴィラ〜。また性懲りも無くリヴァイに絡みに行っているのか〜い?君たち相性が最悪なんだから喧嘩する前に早く戻っておいで〜」

 

 ハンジが手を挙げながら俺に呼びかけてくる。なんだアイツ、俺の母ちゃんか何かか。

 だが、確かにこれ以上リヴァイに絡む必要はなし。嫌がらせも出来たし、さっさと退散するに限る────

 

 「─────おい」

 「あぁ?なんだよ」

 「お前は……………いや、何でもねぇ」

 

 リヴァイの奴から呼び止めるなんて珍しいことがあるもんだと思ったらコレかよ。

 なんだ?嫌がらせか?だとすればなんて陰湿な嫌がらせなんだ……だがとびっきりウザくて素晴らしいもの(嫌がらせ)だと感じてしまうのが尚更腹が立つな!今度真似しよ。

 

 「何話してたの?」

 「あ?何ってお前……アイツに全力の嫌がらせをしに行く以外何があるってんだよ!」

 「え〜?そういう割にはリヴァイの表情がさっきより柔らかくなったような気がするんだけど」

 「そりゃあお前の目が節穴なんだろう。そのゴーグルと一緒に目ん玉も入れ替えてもらえ」

 

 全く、何処をどう解釈すればあの仏頂面から“表情が柔らかくなった”なんて表現になるんだか。どう見ても不機嫌極まりないって顔だろ。

 そもそも嫌がらせを受けて嬉しい奴なんていねェだろうしな?ククッ、そんな嫌がらせを平気で行う俺は何とも悪どい人間なのだろうか。

 

 「スンスン……無駄話もそこまでにしておけ。そろそろ開門する」

 「アンタの嗅覚ってそういうのも分かんの?」

 「空気の匂いでな」

 

 などと意味分からん供述をしている野郎の名はミケ。初対面の人間の匂いを嗅いで鼻で笑うという一際尖った癖の持ち主であるらしい。

 俺も嗅がれたけど「………いい匂いだな」としか言われてないから真実は定かではないが。

 それとコイツの嗅覚は意味分からんぐらい正確だから、この意味分からん戯言も信じるに値する物であることは確かなため、一応身構えておくのが吉だろう。それでも空気の匂いって何だよとは思うが。

 

 さて、もう間も無く開門か───そんな時、ふと視線を感じた。俺を、俺だけを熱心に見つめる視線を。

 視線の先を辿る。鬱陶しい程に立ち並ぶ愚衆の中にハッキリと見えるのは、金髪マッシュと自由バカ、そして虐待サンドバック。

 何だアイツら、来てたのか……ッ!!ククッ、いいことを思いついたぜェ!!

 

 「エルヴィン、少しいいか?あそこに知人がいんだ」

 「……分かった、許可しよう。だがそう長く話せる時間は残されていない事は理解しているな?」

 「ハッ、んな時間いらねェよ。一言声をかけに行くだけだ」

 

 許可は降りたので下馬し、アイツらがいる場所に向かう。

 ククッ、ガキどもめ、俺に気づかれて悲鳴じみた叫び声を上げておるわ。

 

 「テメェら、わざわざ見送りに来るとは随分と殊勝な心がけじゃねェか」

 「ヴィラさん!オレ、応援してます!巨人どもをたくさんぶっ殺して来てください!」

 「ぼ、僕も応援しています!」

 

 何やら興奮冷めやらぬ様子で捲し立てるガキ二人から溢れ出る熱量は凄まじいことか。

 なんで俺よりお前らの方が熱苦しいんだよ。可笑しいだろ。

 

 しかしまぁ、応援している、ねェ……

 はいダウト!虐待の被害者であるお前らが俺を応援するわけねェだろうが!

 よくもまぁ、本心でもない上っ面な言葉をペラペラと語れるモンだよ。思わず感心しちまったぜ!

 

 「それで?お前からは何かないのか?」

 「…………」

 

 ここで先ほどから黙りを決め込んでいるミカサに言葉を振る。しかし何も答えず、ただ顔を俯かせるだけだった。

 ククッ、答えは沈黙………つまりそれは俺とは一言も言葉を交わしたくないと、そういうことだな!

 どんな罵詈雑言が飛んでくるかと思えば結果はコレ……まぁ少し肩透かしを喰らった気分だが、コレもまた────

 

 

 「ヴィラ」

 

 

 ただ一言、短調に俺の名を呼び、懐から何かを取り出して俺に差し出す。

 それは毛糸で編み込まれた俺を模った人形だった。とはいえ、目は非対称だわ、ところどころに穴もあるわで、とても他所には売り出せないような不細工な人形だがな。

 

 「これは?」

 「お守りって言うらしい。先祖代々から伝わる縁起物らしくて、前にお母さんが教えてくれたものを見様見真似で真似してみた、けど……」

 

 そう言って再び俯くミカサは僅かながらでも自身が作った物が不出来であったことは自覚しているようだ。

 しかし、俺にとっちゃ不出来だとか不細工だとかはどうでも良くて。

 

 「ククッ、よく出来たお守りじゃねェか。ありがとうよ、ミカサ。ちゃんと持っていくぜ」

 「ッ、うん!」

 

 コイツ、段々と理解して来たようだな。

 俺に対して恨み辛みや呪詛の篭った呪物を渡すだけでは効果はないと。むしろ力を与えるだけであると。ならば幸福を願う縁起物を渡してやればいいと……そんな結論にとうとう至ったわけか。あぁ、なんて涙ぐましい努力をしてんだ、オイ!

 お前の縁起物と俺の悪意、どちらがより上か勝負といこうじゃねェか!

 

 「ヴィラ、約束してほしい。ちゃんと私の元に帰って来るって……」

 

 この俺に対してこんな縁起物を渡しておきながらよく言えたモンだが、これもまたジャブ程度の反撃というわけか。

 ここで安直に頭でも撫でて手軽に虐待するのもありだろう。しかし、それではなんとも味気ない。それにここには兵士志望のガキが二人もいるし……

 

 「───いいぜ。ちゃんと誓ってやるよ、この心臓とやらにな」

 

 俺は手向けの華だと言わんばかりに右手を心臓に。その手のひらにはミカサがくれた人形を持って威風堂々と敬礼する。

 これは公に心臓を捧げるポーズらしいが、そんなことは知らんと言わんばかりに、俺はその神聖なポージングを無惨に穢すかの如く邪悪に微笑んだ。

 ミカサ、エレン、そしてアルミンよ、よ〜〜く見ておけ。これが数多の人間を恐怖に陥れてきた暗黒微笑だッ!!

 

 ククッ、これにはガキどもも何も言えず黙りして俺を見つめることしか出来なくなってしまったな。

 きっと今のポーズを見て「うわっ、ちょっと嫌かも……」なんて思ったに違いない!もしかしたら兵士の夢も諦めちまったかもな!あまりに邪悪すぎて!

 

 もうそろそろで出立だろう───そんな空気感を肌で感じ取り、最後に別れの言葉を告げて馬に乗馬する。

 

 「……なんか澄ました感じ出してるけど、普通に手の甲が逆だったよ?ちょっと恥ずかしくない?いや、そもそも何で敬礼したのかもよく分かんないし。ねぇねぇ、何であの子たちの前で敬礼したの?ねぇ何で?」

 「…………いや、あれは……まぁ……」

 「分隊長、いくら格好がつかなくてもそういうことは本人の前で言わないのが優しさですよ」

 「…………」

 

 コイツら早く足滑らして頭打って死んでくれねェかな、なんて考えは前方から轟く咆哮によってかき消された。

 その鬨の声の中心地にいるのは、巨人を絶滅させる前に毛根が絶滅しかかっている男ことキースのオッサンである。

 オッサンはその強面を惜しみなく後方にいる俺たちにも振り撒き、そして喝を入れる。

 

 

 「いよいよだ!!これより人類はまた一歩前進するッ!!」

 

 

 「お前たちの訓練の成果を見せてくれッ!!」

 

 

 「第24回壁外調査を開始するッ!!!」

 

 

 野郎どもは叫ぶ。蛮勇に、豪胆に、雄渾に。

 それがたとえ恐怖を打ち消すための気揉みであったとしても。自身を奮い立たせる虚勢だったとしても、コイツらは叫ぶ。

 生と死の中間に位置する者たちから送られる生前葬───それはここに木霊し、奏でられた。

 

 

 「開門ッ!!!前進せよッ!!!」

 

 

 怒号と共に馬は駆け出し、俺たちは壁のない外の世界へ飛び出していく。

 門を潜り抜けるとそこには無限に続く青空が。その雄大さにこの俺ですら僅かに目を奪われるが、この世界はこんなにも綺麗な物ばかりでないことを知っている。

 なんせこの俺がこの世に生まれてきてしまったのだからなァ……!!

 

 さ〜〜て、憂さ晴らしのお時間だ〜!!待ってろよ木偶の坊ども〜〜!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「総員、撤退ッ!!」

 

 まぁ、今日も作戦失敗で終わったんだけどな〜!!

 

 いや〜、璧外で拠点作りたいのは気持ちはスッゲー分かるんよ。あったら便利そうだし。

 ただ、資源が……!俺たち調査兵団が持って行ける資源なんてたかが知れてるんだわ。だからあんな小規模かつ脆い拠点しか出来ず、最後は巨人どもによって簡単にぶっ壊される。

 もっと巨人を減らしてから……なんて言っても、アイツらって何処から来てんのかよく分かってないし、結局それも机上の空論に過ぎないんだよな。

 

 ハァ〜〜〜ア。今日も上からお叱りのお言葉を受けるんだろうなァ。主に団長が。今日こそは団長の毛根も死滅するんじゃね?

 

 「ヴィラ、撤退の準備は?」

 「もう終わってる。こっちはいつでも出せるぜ」

 

 ククッ、悪党とは手癖の悪さも手際の速さも常人とはかけ離れている者のことを指す。故にどれだけ会話していようと手は止めずパパッと帰宅の支度は済ませることが出来たってわけよ。

 それとな〜……いちいち確認を取ってくるエルヴィンに一言物申したい。俺を舐めるなと、ガキみたいに扱うんじゃねェと、そう言いたい。

 自分の支度ぐらい自分で出来るわってなァ?

 

 今もなおバキバキに壊されていく拠点を尻目に、俺たちは馬で壁に向かって撤退していく。

 璧外に拠点を建てるという目標は失敗に終わったが、幸なことに今回は死者はいない。片腕喰いちぎられたり、片目無くなった奴はいるが……

 まぁ、それも“現段階では”と枕詞が付くけど、それでも前回に比べたら確実にマシな戦果だな!ガハハ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────なんて思ったのがよくなかったんだろうなァ〜……

 

 

 「巨人、多数襲来ッ!!」

 「数は……おそらく10体はいます!!」

 「団長、指示をッ!!」

 

 ドタドタと後ろから猛追をしてくるのは多種多様な巨人ども。

 変な走り方をしている奴もいるし、何匹か挙動不審な奴もいることから、数体奇行種も混ざっていると予測出来る。

 つまり何が言いたいのかというと……まぁまぁ最悪な状況ってことだな。

 

 つーか、このままだと追いつかれるな。

 キースのおっさんはこのまま前進を命じているが、いずれ何人かは喰われるのは目に見えている。

 となると残された選択肢は……殿か。とはいえ、殿を命じられる奴は憐れでならねェよ。なんせ巨人一体に対する殿でさえ生存率はごく僅か。それだというのにこの数相手は事実上死刑宣告に近い。

 ククッ、まぁ、まだまだ新兵の俺には関係ない話だろうがな!ガハハッ────

 

 

 「ヴィラ、リヴァイ」

 

 

 厳かに、そして突如として名を呼ばれる。

 いや、エルヴィン。待てよエルヴィン。この状況でリヴァイと俺の名前を呼ばれるとなかなか嫌な予感が拭えないんだが────

 

 

 

 

 

 

 

 「より最小限の損害に抑えるために、君たちの力が必要だ」

 

 

 「───君たちに殿を任せたい」

 

 

 

 テメェに赤い血は流れてんのかッ!?

 

 

 

 

 

☆★

 

 

 

 

 

 「………まだかな」

 

 あぁ、また呟いてしまった。さっきからこの言葉ばかり呟いている。

 

 彼らが……ヴィラが壁の外に出て半日以上経った。

 

 「ヴィラさんなら大丈夫だろ。だって………あんな元気そうだったし。きっと巨人どもをたくさんぶっ殺して帰ってくるって」

 「でも……」

 「エレンの言う通りだよ。ヴィラさんならきっと物凄い戦果を残して帰ってくるに違いな────あっ!調査兵団の帰還だ!」

 

 鐘の音と共に門が開いていく。それを聞いた瞬間、居ても立っても居られなくて、すぐに壁門の前まで駆け出した。

 もうとっくに限界だったのかもしれない。早く彼の姿を見て安心したい───たったそれだけを考えていた。

 

 人混みの間をかき分けて、ようやく最前列に躍り出ることが出来た。

 

 そして、私が見たものは────現実(地獄)だった。

 

 片腕がない人、足がない人、頭全体を包帯で巻いている人……むしろ怪我や欠損をしていない人を探す方が難しいと思わされるほどの光景を前にして、煩いほどに心臓が高鳴る。

 

 「何処に、いるの……ヴィラは何処に……!」

 

 脳裡に過ぎる最悪の予感から必死に目を逸らすように、隊列を成して歩く調査兵団の隅から隅まで隈なく探す。でも、そこには彼の姿はなくて。

 

 「はっ、はっ、はっ……!」

 

 上手く息が吸えない。頭はクラクラして、視界も霞んできた。

 そんな筈はない。きっと私の見落としがあっただけ。そう幾ら自分に言い聞かせても、答え()はいつになっても現れない。

 

 「あの、人は………」

 

 あれ、は。あの金髪の人。最後にヴィラが話しかけていた人だ。

 あの人ならヴィラが何処にいるのか知ってるかもしれない。

 

 後ろから二人の声が聞こえてくるが、もはや何も耳に入ってこなかった。

 ただただ早まる心音と共に金髪の人に近づく。金髪の人も私に気がついたのか、馬から降りてその場で待ってくれた。

 

 「君は……」

 「ヴィラ、は………ヴィラは何処ですか……?」

 「…………」

 

 金髪の人は何も答えない。ただ、静かに壁門の方へ顔を向けた。

 

 「……今、彼は璧外にいる。団の被害を最小限に留めるために巨人を足止めしろと、私がそう命じたからだ」

 「…………」

 「……随分と酷な命令であったと思っている。アレが最善策であったとはいえ、10体前後の巨人をたった二人で迎撃しろというのは、もはや死刑宣告と何も変わりはしない。人類のためにこの場で死んでくれと言っていたようなものだろう」

 

 その瞬間、ゴゴゴと何かが動く音が聞こえる。鎖のジャラジャラ音も聞こえてきた。

 見れば少しずつ門が閉まっていく。まだ璧外にヴィラがいるのに、まだ帰ってきていないのに、あの扉は無慈悲に閉じていく。

 私はそれを見ても何も出来ずただ見守るだけ。ただただ絶望して、膝をつくことしか出来なかった。

 

 頭が痛い。ズキズキと頭痛がする。

 脳裡を駆け巡るのは彼と過ごしたありふれた日常。それが少しずつ罅が入り、音を立てながら崩れていく。

 

 …………あぁ、そうだった。何で忘れていたんだろう。

 

 ────この世界は残酷なんだって、そんなこともうとっくに知っていた筈なのに。

 

 「………君、泣くのにはまだ少し早い」

 「───え?」

 「言い忘れていたが、私は何も諦めたというわけではない。確かに私がした命令は兵士にとって死刑宣告に近いものであったことは確かだ………()()()()()()()()()という話を除けばな」

 

 

 その時、とある二人の声が鼓膜を揺らした。

 

 

 「オイ、リヴァイ。最後の巨人、アレって俺がうなじを斬ったよなァ?」

 「あ?テメェの目にはクソでも詰まってるのか?どう見ても俺が先に斬っただろうが」

 「は!?何処をどう見たらそう言えるんだ、テメェの脳はよォ!テメェの方こそ節穴だろうが!」

 

 

 二人組の男性が何か言い争いをしているかのような声。いや、今はそんなことどうでもいい。

 

 

 「チッ、今日も結局平行線じゃねェか。あ〜〜あ、最後の一匹さえカウント出来たら今日こそ俺の勝ちだったんだがな〜」

 「………いや、俺の方が2体多く狩ってる」

 「テメェどんだけ負けず嫌いなんだ!?さっさと潔く負けを認めろッ!!」

 「別に負けず嫌いなわけじゃねぇ。ただテメェに見下されるのが癪なだけだ」

 

 

 ────だって、その声は今一番聞きたかった声なのだから。

 

 

 「……………オイ、ガキがこっちに走ってきてるぞ。テメェのファンか?」

 「は?冗談キツいぜ。こんな柄悪そうな悪党に誰が絡みに───「ヴィラッ!!」ゴルファア!?!?」

 

 

 周囲の目なんか気にせず、彼に思いっきり抱きついた。

 大怪我をしているのか、頭から血を被ったかのように全身が真っ赤に染まっていた。

 でも、それすらも考えられず、ただ彼の存在を確認するように強く抱きしめることしか出来なかった。

 

 「なんだ、やっぱテメェのファンじゃねぇか。それもとびっきりの熱量を持った」

 「違うわ!コイツは俺の───っていうかミカサ!さっさと離れろッ!誤解されちゃうだろうがッ!」

 「いやっ……いやだ……ッ!!」

 

 しばらくして、ヴィラは大きなため息を吐いた後、片手で私の体を抱き留めてくれた。

 多分、ヴィラの方から折れてくれたのは今日が初めてだったと思う。

 

 「………ごめんなさい」

 「ククッ、謝罪するなら俺の胸元にじゃなくて顔を見て言うんだなァ」

 「………それは出来ない。恥ずかしい」

 「…………え?なんかそれめっちゃ今更じゃね?」

 

 

 

 

 

 そこからしばらくして、今回の遠征の報告のために中央へと向かっていったヴィラの後ろ姿を見送った。

 

 ………初めて知った。待っていることがこんなにも辛く苦しいものなんだって。

 あの隊列の中にヴィラの姿がないと分かった時は血の気が引いた。私の知らない所で死んでしまったんじゃないかって、そう思うことすら怖くて堪らなかった。

 ……もうあんな瞬間は二度と味わいたくない。

 

 

 「────もう離れ離れはいやだ」

 

 

 この世界は残酷だ。

 弱いから泣くことしか出来ない。そして、世界は泣いている人間を待ってあげるほど優しくも何でもない。

 

 強くならないと。

 どんな敵も打ち払い、どんな危機も一蹴出来るぐらい強くなれば、私はヴィラの側にいられるのだろうか。

 

 ただヴィラの側にいたい。

 私がヴィラを守る。私でなければダメだ。私以外認めない。私が、私だけがヴィラの側にいられるのだ。

 ───死ぬ時も、ずっと一緒でなければ。

 

 血流が熱く滾るのを感じながら、私は新たな決意を胸に抱いた。

 

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