ドラゴンボール異伝 ヤムチャvs人造人間   作:村瀬裕二

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第六話

「ぐっ……!」

17号の攻撃で、ヤムチャが大きく吹き飛ばされる。

「ハアッ……! ハアッ……!」

既に十数回、ヤムチャは17号の攻撃を凌いでいる。

 

「いつまで遊んでんのさ~。さっさと終わらせなよ、17号」

17号が攻撃し、ヤムチャがぎりぎりでその攻撃を凌ぐ。

同じ展開の連続に、早々に興味を失った18号が自身の爪を眺めながらヤジを飛ばした。

 

――オイオイ、この面白さが分からないのか?

 

「つっ!!」

まただ。また防がれた。

宣言通り、17号は全力の10%程の力しか使っていない。

……逆に言えば、10%も力を出しているのにまだ止めを刺せていない。

17号は、14年前のことを思い出す。

孫悟空の仲間たち――ベジータ以外の地球人なら、この程度の力で確実に殺せていた。

 

17号は、高速でヤムチャの後ろに回り込み、頭部に手刀を――

「くっ……!」

落とした時には、ヤムチャは前に飛んで距離を取っていた。

 

また躱された。

こいつに、ベジータ並みの力があるとでもいうのか?

――違う。

ヤムチャの全身から噴き出す汗が、苦痛に歪む顔が、そうではないと物語っている。

――こいつは、弱い。

なのになぜ、オレの攻撃を避けられる?

17号は笑う。

新しく見つけた謎解きゲームに、のめり込んでいる。

 

 

「これならどうだ?」

さらに数度の攻防が繰り返された後、17号が距離のある場所からヤムチャに手を向ける。

この戦いで初めて、17号が気功波を放った。

「ぐあっ……!」

ヤムチャは気功波を躱しきれず、エネルギーの余波が左腕を掠めてしまう。

 

「……!」

こいつ、今……。

17号の目が、気功波を躱す際にヤムチャが一瞬だけ身にまとった赤いオーラを捉えていた。

 

僅かな間、考え込むように動きを止めていた17号が、ヤムチャの眼前に迫り拳を突き出した。

「がはっ……!」

ヤムチャの体が数メートル吹き飛ばされる。

一撃目の攻防の焼き直し――

だが、負傷した左腕の動作が遅れ、右腕一本で防御したヤムチャはダメージを殺しきれずに膝をついてしまう。

「か……かはっ……!」

ヤムチャは、肺から大きく息を吐き出した。

 

「……そういうことか」

膝をつき、荒い呼吸を繰り返すヤムチャを見下ろしながら17号は続ける。

「お前は、オレの攻撃が当たる瞬間――その一瞬だけ、爆発的にエネルギーを増大させているんだ」

だから防げる。

だから、避けられる。

「不思議な技だ……ただのエネルギーのコントロールとは違う。……だが、その技は体への負担が大きいんだろう? そうじゃないなら、一瞬ではなく常に技を発動し続けるはずだ」

 

――ばれたか。

ヤムチャは思った。

14年前のオレなら、最初の一撃で死んでいたはずだ。

14年の修行で、それを20発程度、防ぐことが出来た。

――ただ、それだけ。

初めから分かっていたことだ。

オレは、悟空にも……ベジータにもなれない。

――オレは、弱い。

 

「増やせる量は10倍か? 20倍か? だが、いくらエネルギーを増大させようと、悲しいことに肝心の元のエネルギー量が少なすぎる。オレが半分……いや、30%の力も出せば、どうであれお前は終わりだ。そうだろ?」

17号が、ヤムチャに近づく。

「涙ぐましい努力で必死にオレの攻撃を防いでいたが、そんなことをして何になる? 死ぬまでの時間が……苦しむ時間が長く続くだけじゃないか」

17号がヤムチャに近づいていく。

ゲームを、終わらせるために。

 

――そうだ。

ヤムチャは思った。

こんなものは時間稼ぎに過ぎない。

いくら20倍に高めたところで、オレの力で人造人間を倒すことは出来ない。

……だが、稼いだ時間には意味がある。

ヤムチャは、かけがえのない人たちを思った。

ブルマたちは、安全な場所まで避難できただろうか?

そして――

 

「タネが割れてしまえば面白みもなくなるな……。さあ、もう終わりにするか」

 

膝をついたヤムチャが――息も絶え絶えのヤムチャが、顔を上げる。

その目はまだ、死んでいない。

ヤムチャの魂の中で、炎はまだ燃え続けている。

――まだだ。

もう少しだけ……付き合ってもらうぞ、人造人間!

 

「界王拳!!」

「むっ!?」

 

赤いオーラを身にまとったヤムチャが、大きく後方へ飛びのいた。

――界王拳。

ヤムチャの師の一人である界王が考案した奥義。

使用者の戦闘力を何倍にも高めることが出来るが、体への負担は大きい。

17号の推測通り、ヤムチャはこの技を攻撃を受ける一瞬のみ使用し、体にかかる負担を最小限に抑えてきた。

トランクスにはまだ不可能な繊細な気のコントロールが、この離れ業を実現させていた。

 

「逃げる気か!」

即座に、17号が追撃に移る。

「太陽拳!」

「ちっ!」

ヤムチャからまばゆい閃光が放たれる瞬間、17号は咄嗟に腕で目を庇った。

――やはりな。

あの時、ベジータの息子を助けに来たやつの使った技だ。

「同じ手を食うか……!」

閃光がおさまりきるのを待たず、17号はヤムチャの体を貫き――

「!?」

手ごたえが……ない?

光がおさまっていく中、17号は貫いたはずのヤムチャの体が薄れ、消えていくのを目の当たりにした。

そして、ヤムチャの体が消えていく先――小高い丘の上で両手を掲げるもう一人のヤムチャの姿を。

「分身……だと!?」

 

――四身の拳。

かつて、ヤムチャの好敵手であった天津飯が編み出した分身技。

初めにエアカーを攻撃した時には既に、ヤムチャは四身の拳を使って己の身を二つに分けていた。

一方に気の大部分を渡して時間を稼ぎ、もう一方は準備を続けていた。

 

――元気玉。

界王が考案したもう一つの奥義。

地球上のあらゆる生命から……いや、生命の宿らぬ物や大気をも含んだ地球全体、さらには周囲の惑星や太陽からも気を集める必殺技。

戦闘力の劣るヤムチャが、人造人間を倒し得る唯一の技の準備を……!

 

両手を掲げるヤムチャの上の元気玉が、輝きを増す。

――来た!

「はあああっ!!」

完成した元気玉が放たれる。

その向かう先は17号ではなく――

「くそっ……! 目がっ……!」

無防備な状態で太陽拳の直撃を食らい、視界を奪われている18号だった。

 

「避けろ、18号ーっ!!」

「!!」

 

17号が叫んだ瞬間、18号は地面を蹴った。

人間ではあり得ない、人造人間の驚異的な反応速度によって、18号を狙った元気玉は狙いを外され、彼方へと飛び去った。

 

 

――避けられた。

ヤムチャは、がっくりと膝をついた。

分身を解いたことにより、17号から受けたダメージと界王拳の反動がヤムチャの身を苛んでいた。

――あれを、躱すか。

ヤムチャは思った。

完璧なタイミングだった。

計画通り17号との一対一の状況を作り、計画通り18号の油断を誘った。

完璧なお膳立ての上で放った元気玉が――完全に狙い通りに進行した作戦が……ただの、超人的な反応速度で覆された。

 

――これを狙っていたのか。

元気玉を見送った17号が、ヤムチャの方に向き直る。

「……惜しかったな。あの玉にどれほどの威力があったのかは知らないが、当たらなければどうしようもない」

 

「こいつ……!」

視界を取り戻した18号が怒りで震えた。

「17号と戦うふりをして、わたしのことを狙ってやがったのか!?」

18号は、美しい顔を怒りで歪める。

「なあ、もう殺っちゃっていいだろ!? わたしにやらせなよ!」

 

「……いいだろう。好きにしろ」

17号は笑った。

十分だ。

思いのほか楽しめた。

特に、最後のあの玉……あれは、久しぶりにスリルを味わえたじゃないか。

 

「惜しかった……」

ヤムチャが、17号の言葉を繰り返した。

――いつも、こうだ。

「……オレは、いつもこうなんだ。肝心なところで、いつも詰めが甘くて失敗してしまう」

だから、栽培マンなんてやつに後れを取るし、シェンという偽名を使っていた神様にも敗れた。

――そうだった、あの時もオレは……。

 

「何をぶつくさ言ってやがるんだ? 殴られすぎて、ついに頭がおかしくなったか?」

ヤムチャに近づく18号が、苛立ちながら尋ねる。

 

ヤムチャは、激痛に顔をしかめながら身を起こした。

「人間は、過去に学ぶってことだよ、人造人間。……お前らはどうだ?」

過去に学ぶ向上心が――情けない自分を乗り越える”心”が、お前らにあるのか?

 

――何だ?

こいつ、まだ……。

17号は、ヤムチャの目の光が消えていないことに気づいた。

だが、こいつはもうズタボロだ。

あの玉で、こいつは力を使い果たしたはず――

 

「お前ら……いくら何でもオレを舐めすぎだ」

――少しは、下調べをしておけ。

満身創痍のヤムチャが、不敵に口の端を持ち上げる。

 

「18号、今すぐそいつに止めを……!」

17号がヤムチャから目を逸らさずに叫んだ。

 

ヤムチャの右腕が、手招きをする様に動いた。

「オレは元盗賊……騙し討ちは、お手の物なのさ」

 

その言葉の真意を、17号が知ることはなかった。

――何かが光った。

それを認識した瞬間に、人造人間17号の意識は永遠に途絶えた。

 

それは、美しい光だった。

人造人間によって傷つき、奪われ続けた人々の、自然の、地球の祈りが込められた生命の放つ輝きだった。

 

人造人間たちは気づかなかった。

彼方へと飛び去ったはずの元気玉が彼らの視界の外、意識の外から舞い戻り、17号に直撃したことを。

人造人間たちは知らなかった。

自らの放った気弾を、自在にコントロールする術の存在を。

 

ドクター・ゲロの研究所のデータベースには記録されている。

スパイロボットによって収集されたヤムチャの戦闘データの中に残されている。

その術――ヤムチャが編み出した彼だけの技の名を、「繰気弾」といった。

 

 

「……見事だ」

地球から遠く離れた界王星で、この戦いを見守っている者がいた。

ヤムチャの師であり、彼に界王拳と元気玉を――その理論を授けた界王である。

ナメック星での孫悟空とフリーザの戦いの後、ポルンガによってヤムチャが生き返るまでの僅かな期間にしつこく懇願されて理論を授けはした。

だが、ヤムチャが界王拳と元気玉を使いこなせるようになるとは思わなかった。

 

界王拳と元気玉は、考案者である界王自身すら極められなかった技。

孫悟空という天才が、界王の直接の指導の元で完成させた、悟空にしか使えぬ技だと考えていた。

それをヤムチャは、授けられた理論だけを手掛かりに修行を続け、独力で界王拳と元気玉を完成せしめた。

あまつさえ、自らの技――繰気弾と組み合わせることで改良し、「避けられてしまった場合に二発目を用意することが不可能」という元気玉の弱点を克服してみせた。

「なんというやつじゃ……なんと……」

界王の声には、嗚咽が混じっていた。

 

「……ああ、ほんとにすげえ」

震える界王の背中に、そっと手が置かれた。

「本当にすげえやつだよ。おめえは」

ヤムチャの友であり、兄弟子に当たる男は静かに呟いた。

 

その男の――孫悟空の声は悲しげだった。

友の死が、避けられぬものだと気づいていたから……。

 

 

「17号……?」

元気玉の光が消えた時、17号の姿は跡形もなく消えていた。

「17号、どこだ……!?」

人造人間に気はない。

気を感じ取れもしない。

だから、気づかない。

17号がもうこの世のどこにも存在しないことを、18号が理解することはない。

ましてや、目の前の男に――自分たちが取るに足らないザコだと見下してきた男に17号が倒されるなど、完全に理解の範疇を越えていた。

 

理解できない怒りと不快感が、ヤムチャに向かって爆発した。

「ごふっ……!」

ヤムチャの体を、18号の右腕が貫いた。

仙豆の存在しないこの世界で、それが致命傷であることは誰の目にも明らかだった。

満身創痍のヤムチャに、怒りに任せた18号の攻撃を――手加減抜きの人造人間の攻撃を躱す術はなかった。

……いや、万全の状態であったとしても、結果は変わらなかっただろう。

それほどまでに、ヤムチャと人造人間の力の差は大きかった。

 

「17号はどこだ……!? 答えろ!」

ヤムチャは、その質問に答えることは出来なかった。

体に空いた穴だけが――自身にこの後訪れる確実な死だけが、その理由ではなかった。

予想の範疇を越えた出来事が、ヤムチャの側にも起こっていた。

 

「……言ったのに」

「……あ?」

 

――後を追うなって、ちゃんと伝えておいたはずなのに。

「……馬鹿弟子め」

言葉とは裏腹に、ヤムチャの声色は優しかった。

それは、まるで我が子を見守る――

 

「ちっ……もういい」

18号は思った。

頭を……いや、体全部を吹っ飛ばして終わりにしてやる。

その後で、17号を探す。

 

体から引き抜かれようとした18号の右腕を、瀕死のはずのヤムチャが抑え込んだ。

「界王拳……!」

最後の界王拳。

ヤムチャの力で人造人間を押さえ込んでいられる時間は、1秒に満たないかもしれない。

――だが、それで十分だった。

 

「ヤムチャさぁぁん!!」

黄金のオーラをまとった剣が、ヤムチャが抑え込んだ18号の右腕を斬り飛ばした。

 

ゆっくりと、ヤムチャの体が倒れる。

ヤムチャは、弟子の勝利を確信する。

 

――最後の戦いが、始まった。

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