皆様こんばんは。
ミレニアムが誇る全知、英才、才女。それら全ての称号を以てしても表現しきれない圧倒的な叡智を誇るであろう清楚系美少女。
そう、それが明星ヒマリという存在です。今晩もよろしくお願い致します♪
さて、リオと真面目な会話を繰り広げながら、私の私室に移動しました。
ロックを掛け、防音レベルをMAXに調整。これでこの部屋は"キヴォトスで最も安全な場所"に早変わりです。
私はベッドの側で車椅子を止めます。リオは化粧台の椅子に座りました。
「さて。ヒマリ、まずはあなたの症状を確認するわ。熱があるのでしょう?」
「えぇ、まぁ、はい。朝は37℃程で、現在は少し下がったくらいでしょうか」
「触診するわ。上着を脱いで頂戴」
「は……? え、嫌なんですが……」
何が悲しくてリオに上半身とは言え裸を見せなくてはならないのでしょう。
このきめ細やかで陶器のように白い美肌をあなたの前に晒すということ自体に抵抗があるのですが?
「ヒマリ。これは真面目な話よ。決して悪ふざけで言っているわけではないわ」
そう言ってリオはポーチから聴診器を取り出しました。
え、マジでやる流れですか? これ。
「自分で脱がないなら私が脱がせるわ。病人を無理やり脱がせるのは私も本意ではないけれど」
「わ、分かりましたから! 自分で脱ぎます。ですから近寄らないで下さい」
どうやら本気で私のことを脱がそうとしたのか、手つきが人の服を剥ぎ取るソレになっていたので、私は慌てて服を脱ぎ始めます。
……他人の前で肌を晒す経験がほとんどない私です。いくら相手がリオとはいえ、流石に恥ずかしさを覚えずにはいられません。
先日、エイミにお風呂で肌を見られた時とは、状況があまりに違いすぎます。
リオはそんな私の内心などお構いなしに、ジロジロと私の身体を凝視してくれやがります。
いくら私が清楚系美少女の容姿をしているとはいえ、一応は異性の身体なのですよ?
あなたには羞恥心というものがないのでしょうか。常々疑問に思います。
「あの、流石にじっと見られると恥ずかしいのでやめて頂けませんか?」
「それは間違っているわね。見て、聴かないと触診の意味がないわ」
「そ、それはそうなのですけれど……。―――ひゃんっ!?」
リオの手が私の胸に触れてきました。いきなりです。何の脈絡もなく!
花も恥じらう乙女の肌に気安く触れるなんて。この女はいったい何を考えているのですか!?
「り、リオ!? いきなり触らないで下さい! びっくりするでしょう!?」
「? 触診なのだから、触るのは当たり前でしょう?」
「そ、そうかもしれませんが! 私にも心の準備というものが……!」
第一、私の肌は敏感なのです! そうやって撫でるように触れられると、変な声が出てしまうのですよ!
いっそ叩かれたほうがまだマシです! あんなくすぐるように触るなど……!
だ、だいたい「ひゃんっ!」なんて……。この超天才かつ最高峰の叡智を備えたハッカーが出す声ではありません。
あんな声、エイミに聴かれたら恥ずかしくて死んでしまいます。
「体温は平熱よりやや高いわね。脈拍は普段より少し早いみたいだけれど」
「誰のせいだと思っているのですか、誰のせいだと……」
この女にまともに付き合ってはいけません。何をするにも合理を最優先に考える女です。
異性の身体にベタベタと触れるのは、いくらあなたでもどうかと思いますよ……!
リオは私の体に何箇所かペタペタとシールのようなものを貼っては、剥がしていきます。
恐らく体内バイタルを測るための装置でしょう。これだけ軽量化したものは見たことありませんから、きっとリオが直々に開発したものだと推察できます。
そうして数分ほどあれこれ調べ、私が脱衣状態故に少し肌寒さを感じたあたりで、リオは再び質問してきました。
「あの薬を最後に飲んだのはいつかしら?」
「…………言いたくありません」
「ヒマリ。何度も言うけれど、これはとても大事なことよ。あなたの身体に関わる重要なこと。決して無視していいものではないわ」
「……それでもっ! 嫌なものは嫌なんですっ」
こればかりは拒否の姿勢を崩しません。いくら私の秘密を唯一知る存在であるリオであろうとも、これだけは言いたくありませんでした。
「……そう。ヒマリ。あなたなら愚かな真似はしないと思っていたけれど。一時の感情で判断を誤る。あなたらしくないわ。非合理的よ」
「…………リオ。この世は合理と非合理だけで出来ているわけではありません。私にだって嫌なことくらいあるんです。感情的になることだってあるのですよ」
「そう。だったらいいわ。この手段は選ぶべきではないと思ったけれど、あなたがそうするなら、他に選択肢はないわね」
「リオ? あなた一体、何を―――」
次の瞬間。私は眼の前の光景に目を疑いました。
―――シュルシュル、ぱさっ―――
「―――へっ? リ、リオ……? あなた、何をして……?」
「何って、服を脱いでいるのよ」
パサリ、パサリと彼女の衣服があれよあれよと脱がれていきます。
ジャケット、シャツ、スカート、タイツ。またたく間に彼女は下着だけの姿に。
彼女は持って生まれた、あまりにもダイナミックな
大きく主張する胸。きゅっと引き締まったお腹。そして胴体に反比例するかの如く弾けるお尻。
いわゆる安産型というものでしょうか? グラビアアイドルもかくやという、あまりにも女子高生にしては成熟した体つき。
世の中の多くの男性が好むであろう、まさしく
―――って、そういうことを考えている場合ではなくって!!
「な、なぜ脱いでいるのですか!?!?」
思わずそう叫ばずにはいられませんでした。
エイミに聞こえてしまったかもしれません。しかしここは防音部屋。
銃の発砲音ですら隣室に届かないのです。ここから少し離れた場所にあるエイミの部屋にはまず届かないでしょう。
「あなたの"反応"を見る為よ。異性に対して正しく反応するかどうかも、身体の状態の確認には重要なことだわ」
「い、いやっ! そ、そうかもしれませんけれどっ! なぜあなたが脱ぐ必要があるのか、と聞いているのですが!?」
「今この場にいる異性は私だけよ。それともエイミのほうが良かったかしら?」
「い、いえっ……。それはそれで困りますが……」
リオは困惑する私に、お構いなしに近づいてきます。
お互いの吐息が当たるほどの至近距離です。彼女の豊満すぎる胸が、脚が、私の身体に触れ合います。
私も上半身は裸の状態で、リオも下着以外はほぼ裸という状態。
つまり裸の男女が二人、これほど近い距離で密着しているということです。
あまり想像したくありませんでしたが、それはいわゆる"男女の営み"を彷彿とさせる光景でした。
「あ、あのっ……離れて頂けませんか?」
「駄目よ」
リオは情け容赦なく、私に身体を密着させてきます。
私がぐいぐいと押しても、微動だにしません。
「……な、なにをするつもりなのですか!?」
「あなたがあの薬を服用しないのなら、より単純かつ合理的な手段を取るだけよ」
「は、はぁぁぁぁ!?」
リオはそう言うやいなや、私の身体を抱え、車椅子からベッドへと移動させます。
あまりに唐突なことだったので、呆気に取られた私は一切の抵抗ができません。
「これからあなたとするわ。抵抗しないで頂戴」
「する……? リオ、あなたいったい何を……! …………ま、まさかっ!?」
「セックスをするわ」
「セッ……!?!?」
聞き間違いでしょうか? 聞き間違いですよね? 聞き間違いだと言ってください!
セッ……って、私が知るあの行為ですよね? 男女が愛を営み、あるいは快楽を求めて行う行為。
私の知る限りそれは愛し合う男女が行うものであって、こんな形で行われる行為では決してないはずです。
「ちょ、ちょっとまって。待ちなさい! リオ!? どうしてそうなるのですか?」
「あなたがあの薬を服用しないからよ。自己処理ができないなら、異性に頼るしかないでしょう? だけれど、あなたは現状、異性に頼ることができない。であれば唯一あなたの事情を知る私が対処するのが合理的よ」
「そういう意味で言っているのではありません! こういう行為は愛し合っているからこそであって……! 第一、リオ! あなただって嫌でしょう!? いくら私の容姿が美少女だとしても、中身は男なのですよ!? 抵抗はないのですか!?」
「愛とか感情は考慮していないわ。これは医療行為よ、ヒマリ。元はと言えば、あなたが服用するべき時に薬を服用せず、結果状態が悪化したことにあるわ。これは私の監督責任でもあるの。監視を付けてでもあなたの体調管理を徹底するべきだったわね」
「それとこれとは話が別でしょう……!」
暖簾に腕押しとはまさにこのことです。何を言っても聞く気がありません。こうなれば実力行使でこの手を振り払う他ありません。
しかし、ベッドに押さえつけられた私は一切の抵抗ができないのも事実。
この女、存外に力が強いです……! いえ、私が非力すぎるのかもしれませんが、上に跨がられて腕を押さえつけられると本当に何もできないのです。
「わ、分かりました。飲みます、飲みますからっ! ですから、この手を離してください!」
「信用できないわ。これまでそう言って拒み続けてきたあなたに信頼があるとでも? あなたの知能や才覚には敬意を払っているけれど、あなたの性格と反りが合わないのは知っているつもりよ」
「そ、そうかもしれませんがっ! と、とにかくこんな無理やりの形は嫌なんです! い、いくら私が男性で、あなたが女性だとしても、こ、これは立派な強姦罪になりますよっ!?」
「なら、そうならないように受け入れなさい。大丈夫。経験はないけれど、知識は様々な媒体で学んだわ。それに、あなたの趣味趣向も把握しているから、私の身体はあなたの好みに十分に合致しているはずよ」
「それはそうかもしれませんけどぉ……!!」
確かに胸の大きい女が好みですとも! それもそんじょそこらの巨乳ではなく、シルエットのバランスが崩れるほどの爆乳が大好きですけど!
そして悔しいことにリオの女性らしい肉体は私のストライクゾーンドンピシャであることは否定しようのない事実ですけれど!
だからと言って見知った幼馴染に欲情するなんてこと、私としては絶対に認めたくないのです!
というか……リオ!? 私の好みを把握しているということは、私の秘蔵フォルダを覗きましたね?
私の爆乳ビキニフォルダと爆乳水着美少女フォルダの中身を見てしまったのですね!?
人のプライバシーを何だと思っているのですか、この女は!
最低! 変態! 歪んでます!
「こうならない為にあの
「それは、確かにそうかもしれませんけれど……!」
「これはあなたが招いた結果よ、ヒマリ。これ以上は座視できないと判断した。ただそれだけのこと」
「……ですが、ですがあれは! あの薬は……!」
それでも私は躊躇する。だって、だってあの薬は―――。
―――そう、あの薬は。 HSVは。
――――――
ここで話はミレニアム入学直後へと遡ります。
当時の私はミレニアムに馴染む為に、自らを美少女として遜色のないよう、見た目や仕草などを取り繕う為の努力に勤しんでいました。
幸い、私の外見は誰もが認める美しいものでしたからね。外面を取り繕う為の労力は想定以上に少なかったのです。
しかしリオはこう言いました。
『あなたの外見がどうであれ、肉体は男性のモノなのよ。であれば男性としての欲求も当然存在する。それを無理やり押さえつけているのだから、身体に不調が現れない訳がないわ』
彼女は私の抱える内面的なストレスが身体の不調を引き起こす可能性について示唆しました。
実際、そういった欲求を我慢し続けていると、熱を出してしまったり、ふらついてしまったりと、明らかに心身に悪影響が出ていたのも確かでした。
そうして作られたのが
どこでそんな知識を得たのかは知りませんが、リオが私の為に調合した特製品の媚薬です。
いわゆる男性としての機能が一般的男性と比較して遥かに弱い私は、自己が"溜まっている"という状態に気付けないことがしばしばあったのです。
何もしていないのに身体が不調を訴える。その原因の一つにそういった欲求が身体に現れず、結果として身体は欲求不満を訴えているのに、頭ではそれを受信出来ていない、という心身の不均衡が起きていました。
市販の薬にも似た効果のものはあります。しかしこの薬は身体の弱い私に負担の掛からないよう、特別に調整された薬品です。
リオ曰く、個人用にオーダーメイドしてあるそうで、飲んでも副作用が起きにくいとのこと。
ネーミングセンスの無さが成層圏すら突き抜けて、星を一周して戻って来るかの如きダサい名称をしていますが、効果は確かでした。
ミレニアムに入ってからの私は、これを月に最低1回は飲んで
……が、無視しました。
だって嫌でしょう!? これを飲むということは、今から私は自分を慰めますと宣言しているようなものなのですよ!?
恥ずかしいどころの話ではありません! 元は私の身体の問題なのかもしれませんが、こんなのって流石にあんまりです!
しかも、こともあろうにあの女……。体調管理の名目で、私が何回飲んだとか、何回……その、"シた"とかの報告を常に求めてくるんですよ!?
プライバシーも何もあったものではありません。というか普通にセクハラですよ、これ!
何が悲しくて媚薬を飲んでまで自家発電に勤しまなければならないのですか!
しかも最悪なことに、これを飲むと考えたくないものが頭の中に浮かんでしまうのですよ!
それこそリオとか、エイミとか、チーちゃんとか! 見知った人たちのあられもない姿を想像してしまうのです!
リオは最悪いいですよ、リオは。でもエイミとチーちゃんは駄目です。絶対に!
あの子達をそういった目で見ることは私自身が許せないのです。隠し事を抱えている私が、想像の中とはいえ彼女たちを慰み者にすることだけは絶対に嫌なのです。
それでも、入学したての頃は時折飲んでいました。私だって体調不良に苦しむのは嫌でしたから。
………しかし半年、一年、二年と経つ度に、服用頻度は減っていき……。
そして三年。デカグラマトンの調査に乗り出してからというものは、一度も飲んでいません。
その頃からでしょうか。慢性的な体調不良に苦しむようになったのは……。
現に少しばかり長風呂しただけで体調を崩し、あまつさえ風邪を引いてしまう始末。
いえ、もしかしたらこれは風邪ではなく、私の体自身から発せられた危険信号なのかもしれません。
そして結局、今日この時に至るまで、私はこの薬に頼らないということがどういう結果を生むか。それを知らずに過ごしてきてしまったのです。
「下を脱がすわね」
「いえ脱がさないで下さい!」
ナチュラルにスカートをずりおろそうとして来る手を必死に払い除けました。
これを許してしまったら本当に"する"ことになってしまいます!
確かにリオは見てくれだけは良いので、しろと言われたら多分出来てしまうでしょう。
なにせ私の好みの
あぁ不味いです!ここ数ヶ月全くしていなかったからでしょうか。心では嫌がっているのに
どうしてそこでやる気を出してしまうのですか!? 主人の言う事を聞けない我が子に、自身の体の一部とは言え腹が立ちます。
「観念しなさい、ヒマリ。……大丈夫、痛くはしないわ。こういう時は天井の染みを数えていれば終わると、本に書いてあったもの。あなたもそうするべきね」
「そのセリフは普通男女逆ではありませんか……!? というか、何の本で学んだのですか、それは……!?」
あぁいけません、このままでは本当に犯されてしまいます!!
まさか私の初体験がこんな無理やり、しかもリオ相手に純潔を散らされてしまうなんて。
超天才清楚系病弱美少女の称号に"非童貞"という文字が追加されてしまうでしょう。
それだけは嫌です! ……いえ、いずれは捨てなければならないものなのでしょうけれど!
とにかくリオ相手に"捨てる"のはもってのほか!
ぐいぐいとスカートを下げる手の力が強くなっていきます。
どうすればこの窮地を脱することが出来るか、必死に考えます。
「待って下さい、リオ! あなたは私の健康問題を解決するためにこのようなことをしている、その認識であっていますね!?」
「えぇ、そうよ」
「なら、こうしませんか? 私の体調が改善するまで、あなたの監視下に入ります。それであれば、あなたが今こうして事を急いで行為をしようとする必要もなくなるはずです! 違いますか?」
「……そうね。確かにそれが可能であれば、そちらのほうが合理的だわ。でもヒマリ? あなたは今まで私の監視下に入ることを拒んでいたはずよ? どういう心境の変化かしら?」
「今まさに貴女に犯されそうになっているからに決まっているでしょう……!」
少なくとも、この場で逆レイプをかまされるくらいなら、監視下に置かれて、あの薬を飲むほうが遥かにマシです。
もちろん、あのような趣味の悪い薬に頼るのは業腹かつ誠に遺憾の意を抱く他ありませんが、背に腹は代えられないという状況です。
そして、私にはもう一つ、この女に対して切り札を持っていました。
交渉材料として、このカードを切ってしまうことにしました。
「ちょうど良いではありませんか。あなたがこっそりと作っているあの"都市"にでも連れていけば良いでしょう。あそこでならば、私を監視下に置くにはうってつけでしょう?」
「っ……! ヒマリ、あなた何処でそれを……?」
「私のハッキング能力を甘く見ましたね、リオ? あらゆるデータログを隠蔽し、痕跡を隠したとしても。物流そのものは隠せません。……数ヶ月前から本格的に建設を始めたのでしょう?」
「……えぇ、そうよ。貴女にも秘密にするはずだったけれど、既に知られているのであれば隠す必要はないわね」
「納得して頂けたなら、この手をどけてくれませんか? ……強く握られていたので、正直少し痛いです」
「それは……。…………ごめんなさい」
そう言うとリオはようやく私の腕から手を放してくれました。
全く、この病弱美少女に対して無理やり迫るだなんて、この女は何を考えているのでしょう。
例え私の魅力が理性を溶かし、穢れなき美しさを前にして暴挙に至ってしまったにしても、もう少し優しく取り扱って頂きたいものです。
私はいそいそと上着を着直します。話に決着がついたからでしょうか、リオも無言で着替えました。
「ふぅ……。ひとまず、今後のことについて話し合いましょう。私の体調が戻るまであなたの元にいる。そういった契約でいかがでしょうか?」
「そうね。デカグラマトンへの対策の役割は一時的にこちらに移譲してもらう。代わりにこちらのエージェントを対応に回すわ」
「わかりました。では、具体的な日数についてですが……。ひとえに体調の改善と言っても、どういった基準を設けるつもりですか? あなたの主観で判断されては、私はいつまで経っても現場に復帰できず、なんてことにもなりかねません」
「検査結果にA判定が出た時、ということにしましょう。この基準は入学時に設定した時のものと同数値よ。A判定が出たならば、少なくとも1年時と同じ状態で安定していると見做すことにする。それでどうかしら?」
「了解しました。では、そのように……。ところで、その、エイミのことなのですが……」
「あなたが言いたいことは分かるけれど、駄目よ」
「……まだ何も言っていないではありませんか」
「エイミを連れて行くことは許可出来ない。彼女はあくまでエージェントよ。私達の"秘密"を知っていい存在ではない」
「それは、そうなんですけれど……」
私とリオがミレニアムに入学する際に交わした約束があります。
それはこの秘密を"二人以外の誰にも漏らさないこと"。
普段から何かと意見の対立をしている私とリオですが、この約束だけはあらゆる状況、状態、条件下であっても必ず遵守するという決まりを設けました。
それは、私の身を守るためであると同時に、リオの身を守るためでもあります。
そもそもこの学園に私を加入させたのはリオです。そして彼女はセミナーという組織でみるみるうちに頭角を現し、今ではセミナー会長というミレニアムにおける最高権力を握るまでになりました。
しかし、そのセミナー会長が入学時に不正を行っていたという事実。それは彼女の今まで築き上げてきたキャリアを無に帰すのと同意義です。
私はリオのことを好ましく思っていないかもしれませんが、さりとて蹴落としたいほど憎んでいるというわけではないのです。
彼女の考えに賛同しかねることが多いだけで、リオという一人の天才については全面的に認めています。
故に、私は最も大切な後輩にすら、私の正体を明かすことができない。
エイミが私の"秘密"を知ってしまうような行いは出来ないのです。
「……まさかとは思うけれど、情に絆された、なんてことは言わないでしょうね?」
「っ! ……それは、いえ……」
答えに詰まりました。
もしエイミが私の"秘密"を知って、なお側に居てくれるなら……これ以上望むべくこともありません。
彼女の前で自分を偽らなくても良いという事は、なお抗いがたい魅力として私の心の奥底で小さく鳴動しているのは確かです。
しかし、同時に受け入れてもらえなかった時の事を考えます。
当然です。今まで同じ屋根の下で暮らしてきた、同性だと思って過ごしてきた相手が「本当は男でした」なんて知ったら、エイミはどう思うでしょうか?
ショックを受けるでしょうか。それとも罵声を浴びせて詰ってくるでしょうか。最悪、殴られたりしても仕方ない所業だと思っています。
ですが何よりも私は……。あの子に嫌われ、あの子が私の下を去っていってしまうのが怖いのです。
都合の良い話かもしれません。エイミの優しさにつけこんで、エイミが何も知らないのをいいことに、彼女の心を欲しがっているのですから。
正直言って、最低の行いだと言われても何も反論できません。
私はエイミに自らの"本性"を隠しているというのに、エイミには側に居て欲しい、嫌わないでほしいなんて願い……こんなのは始めから破綻している願いです。
ですから私は……これ以上エイミに近寄るべきではないのでしょうね。
彼女に秘密を打ち明ける選択肢はありません。
自分の身を守るため、リオの身を守るため。そして、何より。
「……私はエイミのことを大切に思っています。ですから、彼女に秘密を打ち明けたりすることは、絶対にありませんよ、リオ」
「……そう。なら、この話はおしまいにしましょう。明日、迎えを寄越すわ。身の回りの整理をして待っていなさい」
「えぇ。では、エイミにも事情を説明しなければなりませんね。……もちろん、隠さなければならない部分は隠して、ですが」
「それについては問題ないわ。こうなる可能性を予想してカバーストーリーを用意しておいた。元から貴女が"バレた"時のために用意しておいたもの。内容としては、貴女にはしばらく"入院"してもらうことになると思って頂戴」
「わかりました。場所については……ぼかして説明しますね。何か不都合があった場合は、そのカバーストーリーとやらに沿って行動すれば良いのですね?」
「その認識で間違いないわ」
「ではエイミをここに呼びます。リオ、あなたはどうしますか?」
「私は帰らせてもらうわ。あなたを迎え入れる準備もしなくてはならないから」
そう言ってリオは踵を返し、部屋を出ていきました。
話は終わり、ということなのでしょう。相変わらず無愛想な人です。
私は彼女が玄関から出ていく姿をカメラで見て。携帯端末を手に取ります。
モモトークを起動し、慣れ親しんだ宛先―――エイミに向けて連絡を取ります。
すぐに既読が付き、返信が来ました。
相変わらず事務的なやり取りですが、私達の間ではこういうやり取りが普通です。
ふぅ、と小さくため息を吐き。
ひとまず、あとはエイミが来るのを待つだけですね。