明星ヒマリ男の娘概念   作:めのこん

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13.明星ヒマリの『嘘』

 

 

 皆さん、ごきげんよう。

 

 ヴェリタスの頭脳、ミレニアムの華。清楚で病弱、でも決して無力ではありません――美と知を両立する唯一無二の少女、明星ヒマリはこちらにおりますよ。

 

 さて、リオとのやり取り(逆レイプ未遂)を終えて、エイミをこちらに呼び寄せ、事情を説明しようと思っている現在。

 ひとまず、私がやるべきことは2つ。

 

 エイミに"入院することになった"ということを伝えること。

 そして"自らの体調を回復させること"。

 

 1つ目の項目ですが、これは真っ赤な嘘です。

 実際にはリオの監視下に置かれるべく、彼女の手配した場所に移動することになります。

 しかしこの真実を誰かに知られてはなりません。

 エイミもそうですが、ミレニアムの生徒はもちろん、あらゆる組織、団体にこの動きを悟られてはならないのです。

 

 それはリオと交わした約束……。私の性別という"秘密の遵守"を履行する為に、必要不可欠な最低条件です。

 

 2つ目の項目ですが、これは私にもどうなるか未知数。

 此度の体調不良は、私の心身のバランスの乱れ……つまり欲求不満がもとになっているようです。

 ですからこれが一体どの程度で快方に向かうか、正常な状態に戻れるかは予想がつかないのが現状です。

 

 ともかく、このセーフハウスから離れ、リオ以外の誰にも目の届かない場所に行かなければならない。その行き先を知られてはならないというのが、今回のリオとの契約には必須条件として含まれていました。

 

 ですので、ひとまずはエイミを説得しなくてはなりません。説得と言っても、彼女は良い子ですから、私の身体の事情を訝しんだりしない……はずです。

 しかし大切に思っている後輩を騙すのは、やはり良い気分はしません。

 普段から性別のことで偽り続けているというのに、これに加えて更に嘘を吐かないといけないという事実に、私の中の良心がミシミシと音を立てて軋んでいくのがわかります。

 

 

 ピピッ、とドアの横のライトが点灯します。来客の合図、即ちエイミのノック代わりの合図です。

 車椅子の端末を操作して、解錠します。

 

 

「おまたせしました、エイミ」

 

「…………」

 

 

 開いた自室のドアから入ってきたエイミですが、何故でしょう、どこか様子がおかしいです。

 普段であればすぐに何かしらの反応があるはずなのですが、今日は声をかけてもどこか上の空。

 

 加えて、顔が少し赤いです。こちらをじっと見ているので、意識はしっかりしていると思うのですが……。

 

 

(もしかして……風邪を感染(うつ)してしまいましたか……?)

 

 

 彼女には昨日、今日と看病をしてもらっていましたから、その可能性が頭にふっと浮かびます。

 仮にそうだとしたら、非常に申し訳ない気分で一杯になってしまいます。

 ひとまず、もう一度声をかけてみましょう。その様子を見て判断しても遅くはないはずです。

 

 

 

「えぇと、エイミ……?」

 

「―――あ、ごめん。なに? 部長」

 

「その、大丈夫ですか? なにやら上の空だったようですが……」

 

「ううん、なんでもないよ」

 

 

 そう言うと、いつもどおりのエイミが戻ってきました。紅潮していた顔もいつの間にか正常な状態に回帰しています。

 ハキハキとした口調。どうやら私の風邪が感染(うつ)ってしまったわけではないようです。

 ひとまず、一安心です。

 

 エイミはキョロキョロと辺りを見渡し、何かを探しているようです。

 

 

「リオ会長は?」

 

「用事が終わった瞬間、すぐに帰っていきましたよ。……今更あの女と世間話をしたいわけでもありませんが、それでもエイミに別れの挨拶くらいあっても良かったと思うのですけれどね」

 

「私は別に気にしないけど。前から会長はそんな感じだったし」

 

「まぁ、あの女のことはさておき……。エイミ、重要なお話があります」

 

「ん……」

 

 

 さて、ここからが本題です。

 私はすぅ、と小さく深呼吸をして、これから話さなければならない重要な話題に対して、心ばかりの気合を入れます。

 

 

「その……。一時的に入院することになりました。リオと相談して」

 

「―――えっ?」

 

 

 それを口にした瞬間、エイミの顔色が変わりました。

 普段あまり表情が変わることのないエイミですが、明らかに狼狽し、信じられないものを見るように目を見開いて。

 そしてみるみるうちに顔色が悪くなっていきます。

 先ほどの紅潮していた顔はどこへやら、真っ青になっていく顔色を見て、私は強い自責の念に駆られました。

 

 

(ごめんなさい、本当にごめんなさい、エイミ。私はあなたにそんな顔をさせたいわけではないのですよ)

 

 

 大切な後輩に嘘を吐いている。エイミが私を心配してくれて、気を揉んでいる。その事実が眼前に突きつけられ、思わず下唇を噛みそうになってしまいます。

 

 想像以上に辛かったのです。秘密の厳守のため、ちょっとした嘘を吐くだけ……。そう自分の中で折り合いをつけて納得していたつもりだったというのに。

 

 いざ眼の前にいるエイミの姿。その表情を見た瞬間、私はそれらがどれだけ甘い考えで、考えなしで、罪深い行いだったのかを悟ります。

 

 

「もしかして、最近の風邪が?」

 

「えぇ、まぁ。関係しているでしょうね」

 

「そっか……。最近の部長、忙しかったから。身体がついていかなかったのかも」

 

「そうですね……。エイミには心配を掛けてしまいましたし、申し訳なく思っています」

 

「私は……。ううん、なんでもない。それで、いつから入院するの?」

 

「明日からです。午前中のうちに迎えを呼びますので、それに乗って行こうかと」

 

「そっか。じゃあ入院に必要になりそうなもの準備しておくね」

 

「ありがとうございます。エイミ」

 

 

 それでもエイミは、私の吐いた嘘を何も疑わずにいてくれました。

 それを見て、私は胸の奥にじくじくと傷が開いていくような痛みを覚えます。

 

 

「まぁ、入院になっちゃったのは残念だけど。これを機に少し休めるといいね」

 

「……そう、ですね」

 

 

 こんなにも優しい後輩を、エイミを騙している。あまつさえ彼女の好意を利用して。

 エイミは私のことを心から心配してくれているというのに、私は彼女に"嘘"という形でしか返してあげられない。

 

 とても辛いです。その精神的負担からでしょうか、胃の中がむかむかするような吐き気すら覚えます。

 生唾を無理やり飲み込み、それを抑えました。

 

 

「……もしかして、あんまり良くない感じなの?」

 

「いえ、そういうわけではないのですよ。ただ、気乗りしないのは確かです」

 

「……?」

 

「ひとまず、特異現象捜査部の活動、デカグラマトンの預言者の追跡は一時的に中止にします。エイミは自宅待機……というより、自由時間になりますね」

 

「了解。部長が戻ってくるまでになにかしておくべきことはある?」

 

「えぇと……いつ戻ってこれるかが不明なので、特にエイミにお願いしたいことはないかもしれません」

 

「―――――え、待って。いつ帰ってこれるか分からないってどういうこと?」

 

 

 エイミの顔色が再び変わりました。先ほどまでとは違い、どこか怒気を孕んだ口調。

 そんな話は聞いていない、それは一体どういうことだ、と言わんばかりに。

 エイミは私に対して怒ってくれている、他ならぬ私の為に、です。

 

 

 もし私がここで全てを投げ捨てて、彼女に今までのことは全て真っ赤な嘘で、私の身体に対する事情を打ち明けられたら、どれだけ気持ちが楽になるでしょう、

 

 ですがここで真実を伝えるわけにはいきません。今更それらを投げ捨てて、リオとの契約を反故にすることは出来ないのです。

 それをしてしまったら、本当に取り返しのつかないことが起きるから。

 

 ですから私は、嘘の上に更に嘘を塗り固めるかのように、彼女に不義理な行いをし続けます。

 

 

「その、向こうで色々と検査をすることになっているんです。検査日程は向こうに着かないと分かりませんので、どれくらいで帰宅できるかも現時点だと不明なのです」

 

「……ねぇ、部長。誤魔化さないでほしいんだけど……。そんなに"悪い"の?」

 

「……ごめんなさい。エイミに心配掛けるつもりは無かったんです」

 

 

 もはや何を口にしても、ズキズキと心が痛むだけでした。

 こんなにもエイミは本気で私のことを心配してくれているのに。

 私はエイミに何もしてあげられないのです。真実を教えることも、どれだけ大切に想っているかも。

 

 

 

「―――わかった。今は何も聞かない。……必要なものがあったら言って。すぐ買ってくる。後からなにか欲しくなったらモモトークに連絡して。お見舞いの時に持っていくよ」

 

「……ありがとうございます、エイミ」

 

 

 それでもエイミは、私を信じて、何も聞かないでくれました。

 本当は何があったのかを知りたいだろうに、そういった思いすらも口をつぐんで。

 

 

(あぁ、エイミ。あなたは本当に、心の底から、私のことを案じてくれているのですね)

 

 

 それがどれだけ幸せなことか。それがどれだけ私の心の支えになってくれているか。

 私は、彼女の"優しさ"に感謝してもしきれません。

 

 だから、でしょうか。私は思わず彼女の名前を口にして―――

 

 

「エイミ」

 

 

 

 心からの感謝を、そして私が心の奥底に秘める、本当の想いを告げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にありがとう。あなたに会えて良かった」

 

 

(エイミ、私はあなたのことが…………好きなんですよ?)

 

 

 

 

 

 『心の中の声は、きっと届かないでしょうね』と。

 どこか冷めた目で見つめる、嘘つきの私だけがそれを遠目で見ていました。

 

 

 

 

 

 

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