「大丈夫ですか? 意識はありますか? 敵にやられたのですか? 薬草は持っていますか?」
「え、えーっと……。大丈夫だと思うけど」
「いいえ! そんなに血を流してるのに、大丈夫なわけありません!」
ふと自分の服装を見ると、血が胸元を中心に広がっている。
たかが鼻血だというのに、えらいスプラッタな光景だ。
確かにこれは見ようによっては銃で打たれて出血しているように見えなくもない。
「アリス、知ってます! "ちょっと面貸せや"をされたんですね? 校舎裏に呼び出されてバトルが始まるのは、"ばいおれんすアクション"ではお決まりだと聞きました!」
「バイオレンス……? ええと、何を言ってるのかちょっと分からないんだけど」
「よく不良が気に入らないやつを"シメる"ためにボコボコにするそうです! あのチビメイド先輩も時々やっているという噂を聞きました。アリス、とても恐ろしいです……!」
どうしよう、話があまり通じないな。何一つとして理解の及ぶ単語が出てこない。
それとも私が知らないだけで、そういう意味を持つ言葉があるのだろうか?
今それを考えても仕方がないので、とりあえず自分の状況だけを簡潔に伝えてみる。
「ちょっと血が出ただけだから大丈夫だよ。……たぶん」
「いいえ、ダメージを甘く見てはいけません! ヒトは血を流しすぎると貧血というバッドステータスが発生して倒れてしまうそうです。そういうときは、"てつぶん"? を取得するのが良いと言われました!」
「あー、うん。それはそうらしいね。部長が前に言ってた……」
だいぶ前に、部長が
『エイミ? 病弱美少女である私は、体内の血液中のヘモグロビン濃度の低下、いわゆる貧血を起こしてしまうことがあるのです。これを無視してしまうと、めまい、倦怠感、動悸、息切れといった様々な症状を引き起こしてしまいます。どうです? この薄幸な美少女が倒れ伏す光景は見たくありませんよね? ですから今日の晩ごはんは鉄分の多いものでお願い致します。鉄分の多い食物の例を上げると、レバー、赤身の肉、魚介類、貝類、ほうれん草などがありますね。ですがレバー類は私が苦手なので、それ以外でお願い致しますね♪』
記憶の中ですら耳が滑りそうな長い講釈。思わず苦笑いを浮かべてしまう。
よくあれだけの長文を噛まずに一息で言えるものだ。部長より滑舌の良い人を見たことがない。
「ですがアリスは"てつぶん"がどういうものなのかを知りません……。どうすれば良いのでしょうか?」
「あー、えーっと……。鉄分は食べ物から摂るのが一般的らしいけど」
とりあえず目の前の小さな少女に話を合わせる。
誰だろう? ミレニアムに入学して数ヶ月は経つけど、この子はまだ見たことないな。
少なくとも知り合いの中には含まれない。そもそも友人が少ない私だから、知らない人のほうが多いのは至極当然ではあるのだが。
「! わかりました! 食べ物なら部室に沢山あります! この前モモイが箱買いしたポテチがあります!」
「いや、ポテチじゃ鉄分は取れないと思うけど……」
「急いで向かいましょう! 救護クエストには時間制限があることが付き物です。アリス、時限クエストは取り逃がしません!」
「え? あ、ちょっと……?」
そのままぐいぐい手を引っ張られ、あれよあれよと見知らぬ部屋へと連れて行かれる。
別に無理やり手を引き剥がすことも出来たが、相手が小さな女の子であったこと、そして今は任務が一切ない、完全な自由時間だった為、流されるままについていく。
「到着しました! ここがアリス達の拠点、ゲーム開発部です!」
部屋に入ると、そこはまさに趣味の世界だった。
沢山のゲーム機、雑多に並べられたゲームソフトの数々。棚には旧世代のハードや資料類、使われなくなったであろうコントローラーなどが所狭しと並べられている。
どちらかというと散らかっている部屋に見える。だがゴミが沢山あるというよりも、整理整頓がされていない故の雑多な印象。
その部屋の中心、地面に置かれた小さなソファーの上に、これまた小さな女の子が鎮座していた。
「アリスー! 遅いよー! 30秒でアイス買って来れるって言ってたじゃーん!」
「お姉ちゃん、アリスちゃんにパシらせるのやめなよ……」
「えー? だって外暑いじゃん! それに賭けMoF*1でアリスに勝ったんだよ? 賭けは私の勝ちなんだから、敗者は勝者に従う義務があるのだよ、ミドリ!」
「それはそうだけど、ものすごく体裁悪いから……。それにユウカも怒るし……。アリスちゃんも嫌だったら言っていいんだよ?」
二人の少女が矢継ぎ早に話し始める。桃色と緑色の服をまとった二人は、まるで線対称のように見えて、一瞬だけ同じ人が二人居るのかと困惑した。
そんな私の内心もいざ知らず、私をここまで引っ張ってきた少女が高らかに宣言する。
「モモイ! ミドリ! それどころではありません! 緊急クエストです!」
「緊急クエスト? どしたのアリス……って、うわーっ!?!?」
猫耳のようなヘッドセットをつけた少女は、私のことを視界に入れた瞬間、驚いてひっくり返った。
「あ、アリスっ! そ、その人どうしちゃったの!? すっごい血出てるよ!?」
「はい! たくさん血が出ています! 大ダメージです! これはモモイが言っていた"ちょっと面貸せや"に間違いありません!」
「えっ!? ……ま、まさかアリス……。アリスが"ヤっちゃった"の!?」
「お、お姉ちゃん落ち着いて。まだそうだと決まったわけじゃ……。いや、でも監督責任が問われ……」
「あ、あわわわ……! わ、私のせいだ……! 私が"次のゲームはバイオレンスなクライムアクションにしよう"って言ったばっかりに、アリスが!!!」
まだ私は一言も発言していないのに、この慌てっぷり。
まるで何が起きているのか分からない現状に、私も流石に狼狽える。
「えーと……。これどういう状況?」
「ご、ごめんなさい! ミレニアムの先輩ですよね? 違うんです、アリスちゃんは悪さをしようとしたわけではなくて、次のゲームの参考になりそうな人を探していただけで……!」
緑色の服を着た少女がペコペコと頭を下げ始める。
先ほどの桃色のほうの子とは姿形がそっくりだ。もしかしたら双子なのかもしれない。
ひっくり返っていた桃色のほうの子に、この血まみれの制服の事情を伝える。
「なんか勘違いしてるかもしれないけど、この血はただの鼻血だよ……」
「えっ? そ、そうなの? 私てっきりアリスが校舎裏で"面貸せや"しちゃったのかと……」
「さっきからちらほら出てきてるけど、その"面貸せや"って何?」
「ええと……。何て説明したら良いのか……。不良漫画とかで校舎裏に呼び出されてバトルになる展開、みたいな……?」
「???」
言っている意味はなんとなく理解できたが、そうなるに至るまでの経路が分からなかった。
私が考え込んでいるうちに、自らをアリスと名乗っている少女がパタパタと部屋の隅から駆け出してきた。
「ポテチを発見しました! このアイテムを手渡します!」
「え? あ、うん。ありがとう」
そう言ってポテチを手渡される。ガーリックねばねば納豆味。見たことも聞いたこともないフレーバーだ。
「さぁ! 今すぐに食べて下さい! 急がないとHPが0になって倒れてしまいます! そうなってはクエスト失敗です。アリス、時限クエストに失敗してセーブデータを巻き戻すのは邪道だと思っています!」
「え、いや……遠慮しとく。別にいまお腹空いてないし」
「そ、そんな……。アイテムに使用条件があるなんて、見逃していました。どうすれば良いのでしょう……?」
「多分、これ食べても食べなくても倒れたりしないよ。これくらいの血なら勝手に止まるし、勝手に治るよ」
「!? ま、まさかリジェネレーション持ちなのですか? すごいです! 古今東西あらゆるゲームにおいて
「ごめんなさい! ごめんなさい! アリスちゃんがごめんなさい!」
「や、やばいよミドリぃ~! このことがバレたらまたユウカに廃部にされちゃう~!」
「あー、うん……えーっと……?」
いよいよ事態が混迷を極めてきた。これ以上黙ったままだと流石に誤解を招きそうだ。
私は改めて事情を説明し、ここに来た理由をこの子達に話すことにする。
「なぁんだ、びっくりしたぁ~! この前アリスと一緒にリアルQTEごっこしたから、てっきり実践のためにそのへんの人と
「ううん、QTEで合ってるよ! これから作るゲームは全部のバトルがQTEで決着する格闘ゲームだからね!」
「それ面白いの……?」
少しはゲームをするから用語くらいは分かる。しかしQTEだけのゲームというのは、それはもはやゲームと言って良い代物なのだろうか?
私が疑問を抱いていると、緑色の少女が心配そうな顔でこちらを覗き込んでいた。
「お姉ちゃんがごめんなさい……。あまり深く考えないでくれると……」
「うん、そうするよ」
「ありがとうございます。……えっと、私は才羽ミドリっていいます。で、こっちがモモイ……私のお姉ちゃんです。で、この子がアリスちゃん。みんな一年生です」
「アリスはアリスです! 強キャラ先輩、よろしくおねがいします!」
「和泉元エイミ。よろしく」
妹のほうがミドリで、姉のほうがモモイ。そしてこっちの長い髪の子がアリスか。
なんだかイメージカラーが分かりやすくていい。
「よろしくね! エイミ! いやーそれにしてもすごいスプラッターな出で立ちだね! バイオでハザードなあのゲームに出てきそう! ところでもう血は止まったの?」
「ちょっとお姉ちゃん……! 先輩に対して失礼だって……!」
「っていうか、私も一年だから。先輩じゃないよ」
「「えっ!?」」
モモイとミドリが綺麗にハモった。まるで信じられないようなものを見たかの如き表情をしている。
「なんかよく学年を間違われるんだよね。なんでだろう?」
「う、嘘でしょぉ!? そ、その
「アリスも完全に騙されてしまいました! 纏う
「こ、これで私達と同い年なの……?」
ミドリがまじまじと私の胸を見つめている。別に見られてもいいんだけど、じっと見られるとちょっとこそばゆいな。
まぁともかく。ここに居るのは全員一年生だということが分かった。
「だから気を遣わなくていいよ」
「う、うん……わかりま……、いや、分かったよ」
ミドリが未だ困惑を隠せないまま、頷いた。
流石に私も同学年に先輩と呼ばれるのは嫌なので、慣れてもらうしかない。
「でも、エイミって私達と同じ学年なのに、全然ミレニアムで見たことないけど……。何の部活に入ってるの?」
「今は特異現象捜査部のエージェントをやってるよ。だからあんまり学園に居る事はないかも」
「特異現象捜査部……?」
きょとんと首を傾げるモモイ。知らないのも当然だ。
この部活はほとんど活動が知られていない。せいぜい知られているのは明星ヒマリが部長を務めているオカルト関連の部活ということくらいだろう。
「一応、科学的に証明しがたい事象の調査っていう目的があるんだけど、まぁこれは割と建前で……。本業はセミナーからの依頼を受けて調査するのが仕事、みたいな感じかな」
「セミナー? ……ってことは、ユウカの手下ってこと!?」
「ユウカ……? あぁ、会計さんか。会ったことはあるけど、あの人から直接依頼されるようなことは無いね。大体はもっと上の……会長からの依頼がほとんどかな」
「か、会長……!? え、待って。もしかして、私達が思ってるより、エイミってすごい人だったりする……?」
「そんなにすごくはないと思うけど……。ただのエージェントだよ」
「エージェント……! か、かっこいいです……! 通常の方法では取得できない、上級ジョブに違いありません! アリス、エイミの話もっと聞きたいです!」
目をキラキラと輝かせるアリス。どうやらエージェントという響きが気に入ったらしい。
エージェントと格好つけて言ったはいいものの、やってることはほとんどが地味な調査だ。
つい最近になって、デカグラマトンの預言者やそれらが操る機械類との戦いがメイン業務になってきつつあるものの、基本は足を使った調査が仕事。
とは言え、この目を輝かせる少女が望む回答は、そんな無味乾燥な答えではないだろう。
さて、どう答えたものか。あまり外部に漏らしてはならない情報もある。そういった情報は除外しなくてはならない。
「最近だと……そうだな……。ミレニアムの廃墟って知ってる? あそこの地下から出てくる機械を倒したりしてたかな」
「は、廃墟!? エイミもあそこに入ったの!?」
「うん。…………"も"?」
「お、お姉ちゃん! それ言っちゃ駄目だって……!」
モモイがしまった! と言わんばかりの表情を浮かべ、慌てて手て口を塞ぐがもう遅い。
確かあそこは連邦生徒会によって立入禁止になっているはず。そうでなくても、ミレニアムからも進入禁止エリアとして指定されている場所だ。
何度か内部に侵入したことがあるが、それなりに危険な場所だ。封鎖も当然である。
デカグラマトンのうちの一体が存在し、兵器工廠と思われる場所から無尽蔵に戦闘ロボットが生産されている。
少なくとも一般生徒が立ち入っていい場所ではない。この子達はゲーム開発部らしいが、一体何者なんだろう。
「エイミ~! どうかこのことはユウカには内密に~! バレたらまた怒られる~!」
「……まぁ、チクったりはしないけど。でもどうして廃墟に立ち入ったの?」
「そのぉ~……。これには色々な事情がありましてぇ~……」
「私達、G.Bibleっていうゲームのマニュアルを探してて……。それが廃墟にあるって知って、探しに行ったんです」
もごもごと要領を得ないモモイに代わり、ミドリが説明を始める。
先ほど同学年だと言ったばかりだが、まだ敬語が抜けきらないあたり生真面目な子なのかもしれない。
「G.Bibleは見つけたんですけど、そこでその……。アリスちゃんと出会って、"意気投合"して、部活に入ってもらったんです。あのとき、人数不足のせいで廃部の危機だったから……」
「はい! アリスはあの場所で皆と出会いました! そして勇者としての使命に
「あの廃墟で……? 結構危ない場所だったと思うんだけど……。大丈夫だったんだ?」
「あの時は"先生"も一緒に居たので……。先生の指揮がなかったら多分入らなかったと思う」
「なるほどね」
中々込み入った事情がありそうだが、深く追求するのはやめておいた。
誰だって多かれ少なかれ事情は抱えているものだ。この子達はこの子達なりの考えがあって廃墟に入ったのだろう。
それに私はヴァルキューレ生でもなければ、連邦生徒会の人間でもない。
ここで廃墟に入ったことに目くじらを立てる必要性はない。
「アリスちゃんが無事に入部してくれたお陰で、セミナーからの廃部命令を撤回させることが出来たんです」
「今はここにいないけど、ユズっていう部長も居るんだよ! 4人揃って"ゲーム開発部"なんだ!」
「ゲーム開発部、か。だからこんなにゲーム機があるんだね」
今一度室内を見渡す。古今東西、あらゆる世代のゲーム機が集結している。
流石にアーケードの筐体は置かれていないようだが、それでも詳しくない人が見れば明らかに"専門的"に見える様相だ。
「! そうだ! エイミ、今ちょっと時間ある? 実はエイミにもプレイしてもらいたいゲームがあるの! 開発中のゲームで、テストプレイヤーを探してたんだよね!」
「いいけど……。私、あんまりゲーム上手くないと思うよ? あんまりやったことないから」
「大丈夫! 今回のは操作も簡単だから、初心者でも楽しめると思う! ゲーム開発者たるもの、常に新規顧客を取り込む"企業努力"が必要だからね! ライトユーザーあってのゲーム業界だもん!」
「お姉ちゃん、それユズちゃんにこの前ダメ出しされた時の受け売りでしょ……。いくら格闘ゲームだからって操作の組み合わせで4000種類のコマンド分岐はやりすぎだって」
「う、うるさいなーミドリは! だから今回は操作をできるだけ簡略化して、QTEだけで戦えるようにしたんじゃん!」
専門用語や独自の哲学が飛び交う中、モモイがゲーム機をセットしていく。
ゲーム自体はPCに接続するタイプのようだが、コントローラーはあまり見たことのない形状のものだった。
「はいこれ! このゲームは専用のコントローラーを使うから、これを使って操作してね!」
「見たことないね、これ。 もしかして自分たちで作ったの?」
「そう!! このコントローラーはプレイヤーの動きを反映する為にセンサーを内蔵してて、プレイヤーの手の動きに合わせて画面にリアルタイムに反映されるんだよ!」
「そうなんだ。結構本格的なんだね」
コントローラーを手に持つ。左右両方に一つずつ持つタイプのようで、手首には安全対策の為かゴムバンドまで取り付けられている。
思ったよりもしっかりしている感触。企業が作る既製品とも遜色ない出来栄えだ。
「じゃ、起動するね! チュートリアルがあるから、それを見れば操作方法はすぐに分かるはずだよ!」
「ん、了解」
画面が起動し、ロゴ表示の後、タイトル画面が開く。
荒野のような背景、廃れてボロボロになった校舎、向かい合う屈強な二人。
バーン!と唐突にタイトルメニューが表示される。
Start ⇐
Tutorial
Option
Exit
やけにレトロなグラフィックだな、と思いつつ。
言われた通りにチュートリアルにカーソルを合わせて選択する。
チュートリアルが始まると、ドット絵で描かれた不良生徒が目の前に現れる。
『ンだてめぇ何見てんだよ!』
いきなり因縁を付けられた。そしてすぐさまパンチが飛んでくる。
<B>ボタンを押せ!!
突如として画面いっぱいに、でかでかと指示が出てくる。
私は言われた通りにBボタンを押した。
ドゴォッ!
~ GAME OVER ~
「は?」
思わず声が出た。おかしいな、言われた通りにBボタンを押したはずなのだが。
「あっ! エイミのキャラが倒れてしまいました! ゲームオーバーです!」
「あはは! 最初は皆そうなるよね~! 実はね、このゲームはボタンを押すのと同時に、実際にガードしなきゃいけないんだ!」
「実際にガード……っていうと?」
「さっきパンチが飛んできたでしょ? そしたら、パンチが飛んできた所に合わせて、コントローラーを向けるの! その状態で対応するボタンを押せば"ガード成功"! 反撃に移れるんだ!」
「なるほどね」
それをチュートリアルの最初に説明するべきではないか、と思ったが追求するのはやめた。
私はゲームに詳しくない。もしかしたら最近のゲームはこんな感じで進んでいくのかもしれない。
ともかく、もう一度やってみる。
『ンだてめぇ何見てんだよ!』
先ほどと同じセリフ。そして同じくパンチが飛んでくる。
<B>ボタンを押せ!!
先ほどと同じく、画面いっぱいに指示が表示される。
今度は間違えない。パンチが飛んでくるであろう場所にコントローラーを合わせつつ、Bボタンを押した。
ドゴォッ!
~ GAME OVER ~
「えぇ……」
しっかりとコントローラーを合わせたはずだが、無情にもパンチが命中。
鈍い音を立ててプレイヤーは倒れ伏す。哀れ、ゲームオーバー。
「今、ちゃんとコントローラー向けてたと思うんだけど……」
「あれぇ? おかしいなぁ……?」
そう言ってモモイはカチカチとPCを操作し、何やら内部データを覗いているようだ。
「お姉ちゃん、それ見て分かるの?」
「ごめん! ぜーんぜん分かんない! ユズがいないとお手上げだよ~!」
頭をわしゃわしゃと掻きむしっている。どうやらその"ユズ"がいないといけないようだ。
「あの……呼んだ?」
その瞬間、私の背後から見知らぬ人の声が聞こえてきた。
「わぁっ!? びっくりした! ……あれ、ユズ? いつの間に来たの?」
「その、さっきから……。知らない人、居たから、ロッカーに……」
「もぉ~! 来たなら言ってよユズ~!」
「ご、ごめんね……。そ、それで、えっと、この人は……?」
おずおずとこちらを所在なさげに見つめる少女。
チラチラと様子を窺いつつ、もじもじとしている姿はどこか小動物を思わせる。
ひとまず私が誰なのか気になっているようなので、素直に答える。
「和泉元エイミ。特異現象捜査部所属。よろしくね」
「あっ……! え、えっと……! は、花岡ユズです……。 い、一応ゲーム開発部の部長をしています……。よ、よろしくお願いします……」
人見知りなのだろうか。あまり視線を合わせようとしない子だ。
それも相まってか、ますます小動物的な可愛らしさを感じてしまう。例えるならリスのような。
「それで……。もしかして、わたしのこと呼んでた……?」
「はい! 実はミレごとのテストプレイをエイミにお願いしていたのですが、チュートリアルがうまく動かないんです! モモイでは完全にお手上げです!」
「あ、そうなんだ……。えっと、動作ファイル見せてもらっていい?」
「はい! お願いします!」
「ユズ~! ユズだけが頼りだよ~! 何とか直してぇ~!」
そう言ってユズはカタカタとキーボードを叩く。
なるほど、ゲーム開発部だけあってちゃんとそういうプログラミング的なことも出来るんだな。
すごく手慣れた動きだ。先程までのオドオドした様子とは打って変わって、プロフェッショナルな雰囲気を感じる。
「あ……分かった。これ、テストプレイヤーの身長データがアリスちゃん基準になってる。 それで照準システムがずれてるんだ」
「そういえば……ユズちゃん、β版作る時にとりあえずアリスちゃん基準で全部作ってたよね」
「はい! アリスがテストした時はしっかり動作してました!」
「そっか! じゃあエイミの身長に合わせれば直るってことだよね? ねぇねぇ! エイミって身長いくつ?」
「167cmくらいかな。今年の初めに測った数値だから、正確かどうかは分からないけど」
「おっけー! じゃあぱぱっと修正しちゃおう! ユズ、任せた~!」
「う、うん。簡単なデータ修正だから、すぐ終わるよ」
再びユズがキーボードを叩いていく。
その光景をまじまじと見ていると、ミドリが小さな声でぼやいていた。
「……胸だけでもすごいのに、背も高いんだ……。なんか同い年なのに、すごく格差を感じる……」
「ミドリ? 何か言った?」
「……あっ! ううん、なんでもないよ」
ぶんぶんと両手を振るミドリ。よく聞こえなかったが、独り言だったのだろう。
「……うん、これで大丈夫かな。データ修正、終わったよ」
「本当にすぐ終わったね」
思ったよりも数倍早かった。私はゲーム制作に詳しくないものの、こんなにすぐデータの修正が出来るのだろうか。
もしかしたらこのユズって子、すごく優秀なのかもしれない。
「よ~し! じゃあ気を取り直してやってみよう!」
「了解、じゃあもう一度、チュートリアルから始めるね」
再びコントローラーを握り直す。
束の間の休憩時間はまだまだ続きそうだ。
水着セイアちゃんすっごく強そう