明星ヒマリ男の娘概念   作:めのこん

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25.明星ヒマリと『勇者』(1)

 

- エンジニア部 工房 -

 

 

「なるほど。会長(リオ)からの要請にはそういう事情があったんだね」

 

「えぇ。ひとまず、あの機械の解析は待ってもらって、申し訳ありませんが残骸はこちらで回収させて頂ければと思います」

 

「ふむ……。正直、興味をそそられる対象なんだが……。セミナーからの命令なら仕方ないね」

 

「ありがとうございます、ウタハ」

 

 

 ウタハは渋々と頷きました。好奇心旺盛な彼女のことです。内心ではすぐに解析・分解したい気持ちで一杯なのでしょう。

 それを押し留めてくれているのは、ひとえに私達が1年生の頃からの友人で、お互いの性質をよく知っているからにほかなりません。

 

 ちらり、と部屋の隅に安置されたそれらを見ます。不可解な軍隊。回収されたそれらは、ここ。エンジニア部の工房にありました。

 

 

「これが部長の言ってた"不可解な軍隊"?」

 

「えぇ。ヴェリタスが回収したものでしょうか?」

 

「そうだね。コタマとハレが見つけてきたんだ。あっちの部室に置くには狭いから、いったんここに置かせてくれって」

 

「なるほど、賢明な判断ですね」

 

「ふーん。確かに見たことない感じだね」

 

 

 エイミがしげしげとそれらを見つめます。

 既にボロボロに破壊されており、動く気配すらありません。きっとトキが破壊した個体なのでしょう。

 今は動いていないとはいえ、未知の技術で作られた機械です。あまり近づかない方が良いと思うのですが……。

 

 

「なんか……全体的に生き物みたいな見た目してるね。もっとメカメカしい感じなのかと思った。軍隊っていうくらいだし」

 

「そうだろう? 特に繋ぎ目がないというのが特徴的だと思うんだ。こういった技術はミレニアムどころか、キヴォトスのどこにも存在しない。とても興味をそそられるよ」

 

 

 ずいっとウタハが身を乗り出します。その目はキラキラと輝いており、まさしく興味を隠せないといった表情。

 ……あの、ウタハ? 先ほど私が言ったことを覚えていますよね?

 

 

「ウタハ? さっき言ったばかりですが、駄目ですよ?」

 

「分かっているとも。けど想像するだけならば自由だろう? この機械がどういった目的で作られ、どういう技術が用いられていて、どの程度の性能があるのか。未知の技術を手に入れ、それを自らの技術に昇華させる。それがエンジニアの本懐だと思うんだ」

 

「あなたも本当に昔から変わっていませんね……。いずれ安全対策を施したら解析許可が出ますから、それまで大人しくしてて下さいね?」

 

「あぁ。今は我慢するとも」

 

 

 ひとまずウタハには納得して頂きました。

 少なくとも今すぐに解析を始めるにはあまりにも危険ですからね。

 リオと協力し、万全の状態で解析を行わなくてはなりません。

 

 

「では、これらの残骸は回収しますね。エイミ、よろしくお願いします」

 

「了解」

 

 

 エイミがてきぱきとドローン類を操作して残骸を運んでいきます。

 後ほど、リオが回収に来るはずです。私達はこれらをミレニアムから持ち出すまでが仕事です。

 残骸とはいえ、未知の物体です。学園内に危険なものを放置しておけませんからね。

 

 

「では次の話なのですが……。アリスさんにレールガンを渡したと聞きましたが」

 

「あぁ、光の剣(スーパーノヴァ)のことかい? ほら、そこにあるだろう?」

 

「あら? アリスさんに譲渡した、という話を聞いていたのですが……」

 

「それは真実だよ。ただあれのメンテナンスは複雑でね。定期的に私達が預かって、メンテナンスを施しているのさ。ちょうどさっき終わったところだよ」

 

「そうでしたか。それにしても、よくあれを渡す気になりましたね? かなり値の張るものだと思っていたのですが」

 

「まぁ、それは否定しないよ。元は宇宙戦艦用に開発したものだからね。しかし、このような場所で腐らせるよりも使える者に使ってもらったほうがアレも喜ぶ。そうは思わないかい?」

 

「それは……そうかもしれませんね」

 

 

 技術は人の為にある。常々そう語っていたウタハです。

 机上の空論で終わる技術よりも、実際に使えるモノを作る。

 誰かに使ってもらってこその発明品です。彼女がアリスに剣を託したのはその信念からでしょう。

 

 

「……ですが、疑問に思ったりはしなかったのですか? ……その、アリスについて」

 

「もちろん思ったとも。アレを扱えるということは、ただの人間ではないだろう、とね」

 

「……ウタハ、あなた、まさか」

 

「本体重量140kg、瞬間反動200kg超、平均弾速2,000m/s。まさに宇宙戦艦に相応しいド級の武器さ。これを扱えるのは……同じく埒外の存在である"彼女(アリス)"だけだろうね」

 

「……気づいていたのですね。アリスが"人間"ではないことに」

 

「一応、これでも技術者の端くれだからね。これを片手で振り回すのにどれだけのスペックが必要なのかは誰よりも理解しているつもりだよ。……そして、それがどういう意味を持つのかも、ね」

 

 

 ウタハは言外にこう言っているのです。

 

 

「アリスは"戦闘用機械(アンドロイド)"だと。あなたはそう言っているのですね」

 

「それ以外に考えられるかい? あれだけの出力(パワー)だ、戦闘用以外の何物でもない。逆に、もしそういう用途(戦闘用)で作られていないのだとしたら……むしろその方がすごいね。私達の知るテクノロジーとはあまりに隔絶しているよ」

 

「そうですね。そのほうが私達にとっては脅威かもしれません」

 

 

 仮にアリスが戦闘用メカではなく、ただの人間を模した機械人間(アンドロイド)だとしたら。

 私達はより一層の警戒をしなくてはなりません。

 戦闘用でないのに、あれだけの過剰性能(オーバースペック)を持っているのです。私達の技術では到底再現不可能な、まさしく古代文明の遺物(オーパーツ)そのもの。

 

 

「ヒマリ。きみはアリスのことを機械だと思っているのかい?」

 

「……はい。リオから預かった資料を見てそう判断しました」

 

「そうか。でもね、私はそうは思わないんだ」

 

「ウタハ……?」

 

「きみも一度、あの子(アリス)と話してみるといい。その目で見て、聞いて、判断するんだ。資料の上だけでは分からないことを感じ取れると思う」

 

「…………」

 

 

 ウタハがここまで断言したことに、私は少々驚いてしまいました。

 リオほどではありませんが、ウタハも合理的、効率主義的な側面を持っています。

 それらを凌駕するレベルでロマン志向が強いだけで、根っこの部分は私達と同じ、理詰めで考えるタイプなのです。

 

 その彼女が、アリスのことを"そうではない"と言っている。

 敏い彼女のことです。私がアリスのことを疑っているのに気づいたのでしょう。

 

 

「ヒマリ。アリスは"人間"だよ」

 

「っ! ですが」

 

「身体の作りが人と違うとか、生まれた経緯が違うとか、そういう物質的なものではなくてね。私が見た彼女(アリス)はただの一人の生徒で、私達の大切な後輩だよ」

 

「……ごめんなさい。私にはまだ、判断が出来ません」

 

「だろうね。だから、直接会って話すんだ。そしたらきみにも理解ができる。なにせ……ヒマリ。きみは"天才"だからね」

 

 

 ふっ、と軽く笑うウタハ。その笑みを見て、私はとても懐かしい時間を思い出しました。

 リオと決別せず、私がいまだ『全知』の称号を得ず、ウタハを入れて3人で様々な発明をしていた頃を。

 

 思えばあれが私の青春でした。難しいことを考えず、毎日を尊敬できる友人と過ごし、新たなる理論の開発に頭を悩ませていたあの頃。

 性別のことを隠すのに躍起になってはいましたが、それでも日々がキラキラと輝いていて、より良い明日が来ると信じていました。

 

 かけがえのない存在だったはずです。リオも、ウタハも、チーちゃんも。それに、ミレニアムの全ての生徒たちも。

 

 いつからこうなってしまったのでしょう。

 私が『全知』を得たから? リオとの方向性の違いで決別したから? ヴェリタスに引きこもり、他者との繋がりを避けたから?

 

 

「………分かりました。アリスさんと話してみます」

 

「それがいい。この後、光の剣(スーパーノヴァ)を取りに来るはずだ。そこでじっくりと話し合うといい。それで問題が解決してくれるのを祈っているよ」

 

「えぇ。……ウタハ、ありがとうございます。私は大事な何かを見失いかけていたかもしれません」

 

「礼には及ばないさ。私達は()()だろう?」

 

「……ふふっ、そうでしたね」

 

 

 親友。それは私達3人が1年生の頃にわざとらしくお互いのことを皮肉った表現でした。

 それを言う度にリオが真面目な顔で否定し、それをウタハと私でからかう。在りし日の思い出です。

 

 

「…………話は終わった?」

 

「あぁ、エイミ。えぇ、終わりましたよ。申し訳ありません、待たせてしまいましたね。"不可解な軍隊"の回収作業は終わりましたか?」

 

「うん、終わったよ」

 

「それでは撤収しましょうか。ウタハ、また今度」

 

「あぁ。また来るといい。いつでも歓迎するよ。あぁ、それとエイミ。君の予備の制服だけど、ここにストックがあるよ。その格好では暑いだろう。着替えていくといい」

 

「…………ありがとうございます、ウタハ先輩」

 

 

 エイミは制服を受け取ると、その場でいそいそと着替え始めます。

 ……女性しかいないとはいえ、人前で脱ぐのに抵抗はないのですか?

 

 そう思って、視界に入れまいと車椅子を回転させたとき。

 ウタハが私に耳打ちをしてきました。

 

 

「……ヒマリ。彼女(エイミ)のことだけれど、私は何か失礼をしてしまったのだろうか?」

 

「……? いえ、そんなことはないと思うのですが」

 

 

 エイミは私達が話している間、不可解な軍隊の残骸の回収をしていました。

 ウタハが何かをしてしまったわけではないと思うのですが……。

 

 

「いや、なんだか時々視線を……というか、睨まれてるような気がしてね」

 

「エイミが……? いえ、あの子はそのようなことをするタイプではないと思いますけれど……」

 

「そうか、なら私の気の所為かもしれない。忘れてくれ」

 

「???」

 

 

 エイミがウタハを睨みつけるようなことは無いと思いますが……。

 ちらりとエイミに目線を移します。

 いつも通り、無表情です。特段睨みつけるほどに怒っていたり不満を抱いているようには見えません。

 

 

「ひとまず、私達はこれで」

 

「あぁ。またおいで」

 

 

 ぺこり、と軽く会釈をして、エンジニア部の工房を後にしました。

 

 

 


 

 

「はぁ……」

 

 

 学園内の廊下を進んでいると、おもむろにエイミがため息を漏らしました。

 どうしたのでしょう。

 

 

「エイミ? どうしましたか? ……やはりまだ、熱中症の影響があるのでは」

 

「あ、ううん。なんでもない。気にしないで、部長」

 

「? そうですか」

 

 

 彼女はこう言ってはいますが、まだ体調が万全ではないのかもしれません。

 保健室では任務続行の意思統一を図りましたが、今日はなるべく早く帰って休ませたほうがいいかもしれませんね。

 

 

「ひとまず、ゲーム開発部に向かおうと思います。先ほどの言葉を翻すようで申し訳ありませんが、やはりアリスさんとは一度お会いしてお話をしてみなければいけません」

 

「分かった。なら、部室はこっちだね」

 

 

 エレベーターに乗り込み、階を移動します。

 ミレニアムは広い上に高階層の建物が多いですから。

 こうしてエレベーターを利用することがとても多いのです。それに応じてエレベーターの数も十分に備えられてます。

 階段を使わずとも移動できるのは、私の身体の都合上非常に助かります。バリアフリーが万全なのもミレニアムサイエンススクールの強みですね。

 

 チン♪ と小気味いい音を立てて、目的の階に到着しました。

 そして、扉が開くと。

 

 

「あっ! エージェント、エイミを発見しました! アリス、今日は二度目のエンカウントです!」

 

「―――あら」

 

 

 目の前に現れたのは渦中の人物……。"天童アリス"さん。

 まさかこのような場所で出会うとは思っていませんでした。てっきり部室に居ると思っていたものですから。

 

 

「アリス、さっきぶり。……他の皆は?」

 

「モモイ達は部室で缶詰になってます。アリスはデバッガーですから、サンプルが出来るまでは自由行動です。なので今のうちに光の剣の耐久度を回復しに行きます!」

 

「そっか、あのすごい砲みたいなの、アリスのだったんだね」

 

「! エイミも光の剣を知っているのですか?」

 

「さっき見たよ。エンジニア部に用事があったから」

 

 

 エイミがアリスとやり取りをする間、私は素早く端末を操作し、スキャニングを開始しました。

 対象のデータを得るために使う、非ホログラム型のスカウターのようなものです。

 主に戦闘用に使用する、状況分析システムです。バッテリーを著しく消費してしまいますが、今こそが使い時だと思いました。

 

 

「ところでエイミの側のその方は……。まさか、エイミの"上司"でしょうか?」

 

「うん、そうだよ。ヒマリ部長。特異現象捜査部の部長。私の上司だね」

 

 

 ここまで紹介されてしまったのですから、名乗らないわけにはいきませんね。

 すぅ、と息を吸って。私の頭脳が誇る完璧かつ究極、そして麗しき自己紹介をしましょうか。

 

 

「ふふ、天童アリスさん、ですね? 自己紹介を致しましょう。

 

 ミレニアムの叡智を結集した結晶にして、情報という名の海を自在に泳ぎ、データの迷宮を軽やかに舞い踊る、白百合の如き天才ハッカー。万物を解き明かす“全知”の学位を持ちながら、ハッキングの神域にまで至るこの頭脳。そしてこの清楚さを彩る美貌と気品。僅かながらの病弱さが儚げな印象を醸し出す、雪月花の如き麗しさ。全てを兼ね備えた、完璧なる美少女……。そう、私こそが超天才清楚系病弱美少女ハッカー"明星 ヒマリ"です。よろしくお願いしますね♪」

 

 

 ふふん、決めてやりましたよ。

 最近はこうして他人に自らの優秀さを示すべき挨拶ができていませんでしたから、つい気合が入ってしまいました。

 

 予想通り、アリスさんも驚いているようです。それも当然ですね。

 これほどの美貌を持つ美少女が目の前に居るのですから。例え身体が機械で出来ていたとしても、私の持つあまりの美しさに情報処理が追いつかないのでしょう。

 物事は全て先手必勝と言います。これで私のほうが圧倒的に有利になったと言えますね!

 

 

「叡智……。頭脳……。神域……。 はっ、アリス、分かりました! つまりヒマリは上司でありながら"大賢者(アークセージ)"なのですね?」

 

「はい、そうです。私こそが大賢者……。……はい?」

 

「アリス、知ってます。RPGのパーティーメンバーは、バランスよく配分しなくてはなりません。エイミのジョブがエージェントで、クラスが格闘家(ファイター)なら、ヒマリのジョブは上司で、クラスが大賢者(アークセージ)です! 前衛と後衛、アタッカーとサポーター。とてもバランスの良いパーティーです! アリス、羨ましいです!」

 

「えーっと……クラス? ジョブ? というと……?」

 

「部長。こういう子だから。慣れたほうがいいよ」

 

「な、なるほど。そうなのですね」

 

 

 いきなり出鼻を挫かれました。がーん、ですね。

 会話のイニシアチブを握ろうとしましたが、逆に握られてしまいました。

 案外強敵かもしれません。

 

 

「ところで、どうしてエイミとヒマリはここにいるのですか?」

 

「ちょっとアリスに用事があって。……部長が話したいんだってさ」

 

「えぇ。エイミからアリスさんの話を聞いて、少し会ってみたくなったものですから。それに、先ほどエイミから聞きました。ゲームを作っているのでしょう?」

 

「はい! 絶賛制作作業中です! 一つ前のミレニアムプライスでは特別賞でしたが、次のゲームでは最優秀賞を狙っています。モモイもミドリもユズも次に向けて命を削る勢いで戦っています! 今日は全員で徹夜になると、ミドリが言っていました! これぞまさしく死の行進(デスマーチ)です!」

 

「で、デスマーチを行わなくてはいけないほどなのですね、ゲーム開発というのは」

 

 

 プログラミングは私の専業ですから分かります。しかしゲーム開発がそのように過酷な現場であるとは知りませんでした。

 

 

「アリスさんがよければ、私にも少し見せて頂けませんか? あまりゲームは嗜みませんが、興味があるのです」

 

「!! 分かりました! アリス、"潜在顧客(ビギナー)"は見逃しません! 更なるファンの確保の為にも、全力で営業を実行します!」

 

 

 むん! と意気込んだアリスさん。私はその隙に収集しつつあるデータに目を通します。

 

 

(……機械人間(アンドロイド)であることは確実。……ですが、こんなにも"人"らしく振る舞えるなんて。……遺物(オーパーツ)というものは、これほどまでに)

 

 "人"らしくなれるのか、と思っていた矢先。

 

 

「では、アリスに同行して下さい。ゲーム開発部まで案内します。……ぱんぱかぱーん! エージェントエイミと、賢者ヒマリがパーティーに合流しました! アリス、クエストを開始します!」

 

 

 大きく片手を上げて、その小さな脚でトテトテと歩き始めました。

 彼女に遅れないよう、私達もついていきます。

 

 

(……大丈夫。エイミが側に居てくれるのですから)

 

 

 この先、何が起こるかわかりません。

 私はちらりと横で歩くエイミの姿を捉えます。

 エイミもどこか緊張した面持ちです。ですから、私は思わず彼女の手を取りました。

 

 

―――っ!? ぶ、部長?

 

「行きましょう、エイミ」

 

 

 手を握った瞬間、エイミがびくりと震えました。

 理由は分かりません。きっといきなり手を握られたので、驚いたのでしょう。

 

 ……ですが私は。この暖かな手を握っていれば、勇気が湧いてくるのです。

 ここからが正念場。私は目の前を歩く可愛らしい少女(アリス)の背中を見つめ、そう思いました。

 

 

 

 

 

 

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