明星ヒマリ男の娘概念   作:めのこん

27 / 50
27.明星ヒマリと『勇者』(2)

<A> <B>ボタンを押せ!!

 

 

 

 ドゴォッ!

 

 

 

 ~ GAME OVER ~

 


 

 

「あぁっ!惜しい!!」

 

「くっ……存外難しいものなのですね……!」

 

「だ、大丈夫です、ヒマリ先輩……! お、落ち着いてやれば必ず出来ますから……!」

 

「えぇ、分かっていますとも……! 私はこれでも全知と呼ばれた女です。このくらいの"試練"……乗り越えられない訳がありません……!」

 

「ヒマリの闘気(オーラ)が高まっていくのが分かります。いえ、賢者なので魔力(マナ)でしょうか?」

 

「もう残機はゼロだよっヒマリ先輩! 次でキメないと最初からなんだから!」

 

「分かっています。……さぁ、来なさいっ」

 

 

 

 

 


 

 

<B> ボタンを押せ!!

 

 

Weak! [152] damage !

 

    カキーンッ!!   

 

  シュババババッ

 

 

 

 

 

キラキラバシュゥゥゥン!!!

 

 

 

 

WINNER !! Himari of Super Zenchi

 

 

 


 

 

「や、やったあああああああああああ! すごいよヒマリ先輩!」

 

「おぉ……クリア出来た……」

 

「はぁ、はぁ……。や、やりましたよ、皆さん。ふふ……私の勝利です」

 

「ヒマリ、すごいです! 初めてなのに 3面をクリアできました!」

 

「な、中々ハードでしたが……。これで"全知"たる者の力量、お見せできましたでしょうか?」

 

 

 

 はぁ……はぁ……。い、息が……息が苦しいです。

 最近、激しい運動をしていなかったものですから……。

 少々呼吸を落ち着けましょう……。せっかくの勝利なのですし、勝ち際も美しく彩らなくては、全知の名折れですからね。

 

 

 

 ……ふぅ、落ち着いてきました。

 

 ごきげんよう、皆様。

 知を操り、未来を紡ぎ、情報の森に佇む知の幻影。

 電子の海に咲く白百合にして、美しく揺蕩う雪結晶の化身。

 

 ミレニアムの天才清楚系病弱美少女ハッカー。明星ヒマリです。

 

 ……え? 何をやっているのかって?

 あら、見てわかりませんか? もちろん、天童アリスさんの調査ですよ?

 

 ……ゲームで遊んでいるだけじゃないかって?

 まぁ、それは否定しませんけれど……。これには深い事情があるのですよ。

 

 

「……なんか演出強化されてない?」

 

「あ、分かる? あの後ちょっとグラフィック弄って、エフェクトを強化してみたの」

 

「そうなんだ。ミドリがやったの?」

 

「うん。こっちのほうが爽快感あるかなーって。どう思う?」

 

「いいんじゃないかな。こっちのほうが見てて楽しい。やっぱり派手なほうがいいよね」

 

「だよね。最初からこうすればよかったかも」

 

 

 何やら背後で腕組みをして見ていたミドリさんとエイミが話し合っています。

 ……なんでしょうね、あの二人が醸し出す玄人感。

 

 

「エイミ? 私がゲームクリアしたのですから、もっと褒めても良いのですよ?」

 

「おめでとう、部長。……でもそれまだ3面だから、続きあるよ?」

 

「え゛?」

 

 

 画面に目を戻します。すると、あるではありませんか。ネクストステージの文字が。

 

 

「ま、まだ続きがあるのですか!?」

 

「もちろん! 全部で9面まであるからね! ちなみに正式リリースの時はこの倍に増える予定だからよろしくね! ヒマリ先輩!」

 

「あ、ああぁぁ………」

 

 

 何ということでしょう。私はしなしなと崩れ落ちます。

 クリアしたと思っていたゲームが未だ1/3程度の進行度しかなかったという事実。

 あれだけ腕を縦横無尽に振り回して、やっとのことでクリアしたというのに。

 

 虚脱感からでしょうか。私はへなへなと車椅子に寄り掛かるように倒れ伏しました。

 

 

「あっ! ヒマリが倒れてしまいました! スタミナ切れです!」

 

「や、やっぱりちょっと難しすぎたのかな……? 6面くらいまでは難易度を抑え気味にしてたはずなんだけど……」

 

「えー? でもエイミはすんなり最後までクリア出来てたよ? それにユズだって」

 

「お姉ちゃん、エイミさんとかユズちゃんを基準にしちゃ駄目だよ……」

 

「いやこれは……。はっきり言って、部長あんまり上手くないよ、特にこのタイプのゲームは」

 

「え、エイミっ!?」

 

 

 急に身内から刺されてびっくりしてしまいました。

 先程までずっと私の後ろで見守っていてくれたではありませんか。

 どうして裏切ってしまったのですか!?

 

 

「身体動かすゲームだからってのもあるけど……。部長、あんまり反射神経良くないでしょ。この前だって家で『そこのキーホルダーを取って下さい』って言うから、下から投げて渡したらキャッチ出来ずにおでこにぶつけてたし」

 

「なっ……! あ、あれは急にエイミが投げてくるからでしょう! 身構えていれば私だってキャッチできます!」

 

「ちゃんと投げるよ、って言ったんだけどな……」

 

 

 全く、エイミは私を何だと思っているのでしょう。

 まるで私がおばあちゃん並の反射神経しか持っていないとでも言いたいのでしょうか?

 

 エイミ……いつからそんな悪い子になってしまったのでしょう!?

 

 

「エイミ……覚えておいてください。先ほどの自己紹介の件といい……。この恨みはいつか晴らしますからね」

 

「顔が怖いよ、部長」

 

 


 

 

「なんか……思ってたよりヒマリ先輩って……面白い人かも?」

 

「そうかもね……。来た時は"セミナーの偉い人が来た"って、お姉ちゃんビビリまくってたけど」

 

「だ、だってぇ~……。会長とかと同じくらい偉い人なんでしょ? もしかしてユウカの代わりに部活(うち)を潰しに来たんじゃないかって身構えちゃってぇ……」

 

「で、でも……。セミナーの偉い人が私達のゲームを遊びに来てくれるのって初めてだよね……?」

 

「はい! ヒマリはエイミの上司だと聞きました。きっとミレニアムの"ボス"の一人です。アリス、知ってます。上司の機嫌を取れば昇進は早いと」

 

「……アリスちゃん。どこでそんなこと聞いたの?」

 

「先生が言ってました! 何でも上司に"ごますり"? をする人ほど出世が早く、真面目に働く人ほど馬鹿を見る、と。どこか哀愁の漂う顔でそう言っていました! アリスはそうならないようにね、とも言われました。 ……ところで"ごますり"とはいったい何なのでしょう?」

 

「また先生なんだ。……先生も苦労してるんだね」

 

 

 


 

 

 時は少々遡ります。

 

 天童アリスさんの調査。

 その為にゲーム開発部の部室の扉を開いた私ですが、その先の光景に少々驚きました。

 私が入室したことにも気づかない程、全員凄まじい熱気で以てなにやら作業をしていたのです。

 

 ちらり、と彼女たちの様子を覗き込むと。

 恐らくシナリオを書いているであろう……才羽モモイさん。

 一心不乱にキーボードを叩いています。時々思いついたかのようにバックスペースを連打し、うんうんと唸る姿。きっと書いては直し、書いては直しを繰り返しているのでしょう。

 

 隣に目を向けると、ペンタブを使って絵を書いているであろう……才羽ミドリさん。

 イラストを書いて、それをドット絵に修正する作業をしているようです。

 一枚一枚、モーションごとに丁寧に。簡単な仕事ではありません。

 確かな技術と集中力を要する高度な作業です。

 

 そして次にコンピューターの前でキーボードを叩いている……花岡ユズさん。

 ソースコードを弄っているようです。

 ゲームなどに良く使われるプログラミング言語ですね。オーソドックスで使いやすいので、私もしばしば流用したことがあります。

 

 カタカタとコードを入力し続けるユズさん。その様子には鬼気迫るものがあります。

 なぜここまで皆さんは集中しているのでしょう? 思わず困惑してしまいました。

 ゲーム開発というものは、ここまで熱中するものなのでしょうか?

 

 私はこれらの光景に多少の困惑を覚えつつ……ふと、ユズさんの前のモニター……その中に表示されていた一行の文字列。

 プログラマーの血が騒いだのでしょうか? 余計なお世話かもしれないと思いつつも、それを指摘しました。

 

 

「……あら? ここの記述形式ですが、間違っていますね。条件式 >=じゃなくて >で……。こうすると、境界で意図しない動作が――ほら、バッファが1つずれてます」

 

「あっ……。本当だ。ありがとうございます」

 

 

 ユズさんは指摘した内容に気がつくと、すぐにコードを修正します。

 ふむ、中々に手早い修正です。間違いに気づいてすぐに対応できるというのは、プログラマーとしてそれなりの知識を持ち、経験を積まないと出来ないことですから。

 

 私も幼少期はよく間違えては、何処が悪かったのかをにらめっこをしていたのを覚えています。

 あの経験があったからこそ、今の私があるのです。

 ともすれば、今目の前に居るユズさんはプログラマーとしてのかつての私。成長期にあった頃の私の姿と重なるものがあるかもしれませんね。

 

 

「…………? …………!?  わぁぁぁっ!?!?

 

 

 お手本のような二度見の後。

 ガタン! とユズさんが勢いよくチェアから転げ落ちました。

 ようやくそれで静寂の均衡が崩れたのでしょう。作業に熱中していた他の方々が何事かとこちらを見ました。

 

 

「わぁっ!? なに、なに!? どうしたのユズっ!?」

 

「だ、だれっ、誰ですかっ!?」

 

「ごめんなさい、驚かせてしまいましたか?」

 

 

 ようやく私の姿に気づいた御三方は、各々驚いていました。

 誰かが入ってきたことに気づかないほど集中しているとは……。中々の集中力です。

 

 昔、チーちゃんと部室に缶詰になっていた頃を思い出します。

 あの頃もハレやコタマが来ても全く気づかず、頬に冷たいエナジードリンクを当てられて飛び跳ねるように気づくということがしばしばありました。

 

 

「モモイ! ミドリ! ユズ! 新しい実験体(テストプレイヤー)です! 潜在顧客(ビギナー)ですよ!」

 

「なぬっ!? アリスでかした! ちょうど今あたらしいのが出来たんだ! 早速プレイしてもらおうよ!」

 

「えーと、ここはゲーム開発部の部室……であってますよね?」

 

「はい、ヒマリ。ここがアリス達の拠点、ゲーム開発部です!」

 

 

 ちらりと周囲を見渡します。山のように積み上げられたゲーム機の数々。

 資料と思われる古い雑誌、そして大量のコントローラーなどの機材。

 なるほど、確かにここはゲームに携わる者として相応しい部室でしょう。

 

 ……足の踏み場がないほど散らかっているのがやや気になりますけれど。

 

 

「ちょっと待ってお姉ちゃん。……ごめんなさい、お姉ちゃんがいきなり。えっと、あなたは……?」

 

「ふふ、自己紹介を致しましょうか。私は―――」

 

「部長。さっきの長いやつ。あれは禁止ね」

 

「ミレニアムの叡智を結集した結晶にして、情報という名の―――。

 ――――――はい?」

 

 

 エイミ? どうして止めるのですか?

 これからこの天才美少女ハッカーに相応しい、完璧なる自己紹介を行おうと思っていたのですが?

 

 

「この人は明星ヒマリ。私の上司で、特異現象捜査部の部長だよ」

 

「え、エイミっ!? なんてことをするのですかっ!? わ、私の華麗なる自己紹介を!」

 

「あんなのやったら、みんなびっくりしちゃうよ」

 

「あれ? エイミじゃーん! さっきぶりー!」

 

「ん、さっきぶり。モモイ」

 

「エイミさん、さっき言ってた任務は大丈夫なの?」

 

「うん。大丈夫。……むしろ、この人をここに連れてくるのが任務だから」

 

「そうなの? ……あれ、エイミの上司ってことは、もしかして……」

 

 

 ちらりと様子を窺うように、モモイさんが私の姿を捉えました。

 なぜだかぎこちない様子です。なぜでしょう?

 

 

「も、もしかして……ユウカより偉い人だったりする……?」

 

「? ユウカですか。偉い、というには語弊がありますが……。彼女に助言するような立場にはありますね。セミナーは会長の権限下で動きますが、私は会長(リオ)にある程度言うことを聞かせられる立場にありますので」

 

「つ、つまり……セミナーの偉い人ってこと!?」

 

「うーん……。まぁ、そう言えなくもないかもしれませんね」

 

 

 嘘は言っていません。リオとはデカグラマトンへの対策においては共闘関係にあります。

 セミナーからならば、ある程度であれば自由に資金を引き出せますし、活動のために特別な措置を取ってもらうこともあります。

 今回のケースであれば"不可解な軍隊"への接触禁止令。これに該当しますね。

 

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃっ! ご、ごめんなさい! ちゃんと活動してますから、廃部にはしないでください~~っ!!」

 

「えーっと……あの、モモイさん? で良かったでしょうか?」

 

「ごめんなさい、先輩。お姉ちゃんちょっと前の事件からセミナーのこと怖がってて……」

 

「……一体なにがあったのでしょう?」

 

「ユウカが……お姉ちゃん屋を……。いえ、聞かないでいただけると助かります……」

 

「そ、そうですか。では気にしないようにしますね」

 

 

 なんだか闇の深そうな事件の気配がしましたが、聞かなかったことにします。

 本当にヤバそうな案件なら、リオが動くはずだからです。

 それがないということは、私が気にしなくても良い程度の案件なのでしょう。そう自分を納得させました。

 

 

「こほん。それで……。エイミから聞きました。ここで皆さんがゲームを作っていると」

 

「うん! そうだよ!」

 

「よろしければ、どうやってゲーム開発をしているのか、それをお聞かせ願えませんか?」

 

「えっと……内部視察みたいなもの、でしょうか?」

 

「! アリス、知ってます。職場には時折"お偉いさん"がやってきて、その度に社員全員で出迎える必要があると。ヒマリはエイミの上司ですから、全身全霊を以て"歓迎"しなくてはなりません。モモイ、ミドリ、ユズ。頑張りましょう!」

 

「ねぇ、アリスちゃん。どこでそういう話を聞いてくるの?」

 

「はい! 先生が遠い目をしながら言っていました!」

 

「……先生も大変なんだね」

 

 

 賑やかに話が進んでいきます。私が口出ししなくても、流れるようにスムーズに。

 ……つい調査に来たことを忘れそうになってしまいました。

 私はアリスが脅威をもたらす存在なのか。それを見定めなければならないというのに。

 

 

「うーん……。でもどうやってゲームを作ってるって言っても……なんて言えばいいのかなぁ……?」

 

「専門的なものでなくても構いません。もっと気軽な質問だと思って下さい。例えば……ゲームを作る時の心構え、だとか」

 

「心構えか~。ミドリ、どう思う?」

 

「うーん……。私の場合はだけど、やっぱり"やってて楽しいゲーム"を作ることじゃない? 自分たちがプレイして面白くないものを出すのはちょっとね。そういうお姉ちゃんはどうなの?」

 

「私はね、面白いのは当然だとして、やっぱり"売れる"ゲームだね!」

 

「なんか印象悪いなそれ……」

 

「だまらっしゃいミドリ! 売れるゲームにはね、やっぱり面白い! って思える何かがあると思うんだよ! もちろん売上が全部ってわけじゃないけど、それでも沢山売れてるゲームには一定の面白さがあるよね!」

 

 

「ふむ、なるほど……」

 

 

 それぞれのゲーム哲学が語られていきます。やはり本業なのでしょうね。

 ゲームに対しては人一倍熱い想いを持っているのが分かります。

 彼女たちの迸る熱気、そして言葉から、それが伝わってきます。

 

 

「……モモイの言うこと、わたしもちょっと分かるな。ゲーム開発ってみんなに遊んでもらうことが目的だから、独りよがりなゲームを作ってもきっと遊んでもらえない……。売れるゲームだけを作るのは違うかもしれないけど、それでも"人気"とか、"流行り"とかを意識しないと、遊んでもらえるゲームは作れないんじゃないかなって」

 

「ユズちゃん……」

 

「あ、ごめんなさい……。その、わたしが言いたかったのはゲームって誰かと"共有"できて、初めて面白いって思うんじゃないかなって。ソロゲーでもマルチゲーでも、協力プレイでも対戦プレイでも。誰かに見てもらったり、一緒にプレイしたり、結果を報告したり……。そういうのが"ゲーム"の本質なんじゃないかなって」

 

 

 うんうん、とモモイさんとミドリさんが深く頷きます。

 

 素晴らしいゲーム哲学だと思います。ユズさんがどれだけゲームに対して強い想いを抱いているか、それが言葉から伝わってきました。

 

 ……少なくとも、ゲーム開発部は"不可解な軍隊"には関係していない、という考えが頭の中に浮かびました。

 これだけの熱意を持った人たちです。ゲームを愛し、ゲームで生まれる繋がりを大事にする。

 

 そんな方々が、ミレニアムに対して反旗を翻す、ましてや謎の機械を用いて破壊工作を行う……。そんなビジョンが見えてこなかったから。

 

 

 故に、私は最後にアリスさんに問いかけます。

 

 

「アリスさん。アリスさんにとって、ゲーム開発部とは何ですか?」

 

 

 ここまで一言も発さずに皆の意見を聞いていた彼女。

 もし、彼女が本当に"生徒"ではなく、ただの機械なのだとしたら。

 見極めなければ。彼女の意思を、想いを、目的を、用途を。

 

 私は全ての神経を集中させ、車椅子に内蔵されたスキャニング装置の出力を最大に上げます。

 対象の稼働状況、CPU使用率、心臓の駆動音、嘘、偽り。

 それらを一切見逃さず、データとして収集するために。

 

 そして。彼女は何の屈託もない笑顔で、こう言いました。

 

 

 

 

 

「はい! ゲーム開発部はアリスの大切な"仲間"です!」

 

 

 

「―――――――――。」

 

 

 

 これは、そういうことなのでしょうね。

 

 

「アリス、ゲームプレイヤーとしてはまだまだ初心者(ビギナー)です。ですが、モモイ達と一緒にゲームを作るのが楽しいです。これからゲーム開発者として、そして勇者としてのレベルを上げて、いつかミレニアムプライスで最優秀賞を取るのが目標です!」

 

「それに、まだまだプレイできていないゲームも沢山あります! ヴァイナルファンタジー、ドカポンクエスト、モヘットモンスター……。ゲーマーとして、これらの新作をプレイするのは、もはや義務だと思っています!」

 

「チビメイド先輩とのバトル*1もまだ終わっていません! 現在はアリスが50戦中50勝ですが、チビメイド先輩は戦う度に強くなっています! アリス、先輩とはいえ勝負には容赦しません! チビメイド先輩が挑んでくる度に、かならずボコボコにしてやるのが礼儀です!」

 

「あと、モモイもボコります! 先日はMoFにて痛恨の敗北をしてしまいましたが、次は負けません! なぜならユズにコンボのコツを教えてもらったからです! これにより1コンボ内でHPを40%以上削れるようになりました。 モモイの使用キャラは防御力が低いので、2コンボでHPを0に出来ます! 次はモモイがアイスを買ってくる番です!」

 

「ちょっとー!? ユズ!? なんでアリスにコンボの使い方教えちゃったの!?」

 

「だ、だって……。不公平かなって思って……。アリスちゃん初心者なんだし」

 

「ただでさえギリギリの勝利だったのに、アリスがコンボ覚えちゃったら勝ち目ないじゃん!」

 

「お姉ちゃん……。卑怯すぎ」

 

「ぐぬぬぬー! そこまで言うなら、良いだろう。アリス、あなたに決闘を申し込むよ! 今度は3on3で勝負ね!!」

 

「はい! アリス、負けません! モモイをボコってアイスを手にします!」

 

 

 

 わいわいと、がやがやと、青春の在り方をまざまざと見せつけられて。

 私は―――。分かってしまいました。理解してしまったのです。

 

 目の前にいる彼女(アリス)が、機械の身体を持つ、本来であれば生徒ですらない存在が。

 

 

 

 私達と変わらない、ただの一人の"人間"だということに。

 

 

 

(……あぁ、そうなのですね。私は、とんでもない思い違いを)

 

 

 もしかしたら、彼女(アリス)は敵かもしれません。

 "不可解な軍隊"との関わりの証明は未だに出来ていませんし、彼女の出自も不明瞭。それらを勘案すると、未だに警戒しなければならない対象であることに変わりはありません。

 

 ですが、私はこうも思うのです。

 これだけ"人"に近い存在が、そして人の"心"を持った存在を。

 

 (ヒマリ)というただ一人の人間の意思で決めつけてしまっても良いのかと。

 彼女は私達と同じく、人の心を持った存在で、他者と共感し、分かち合うことができる。

 例え身体が機械で出来ていたとしても……。そこに心があるのであれば"人間"なのではないかと。

 

 だから、私は考えを改めました。迷いを切り捨てるように、心の中で思います。

 

 

 

(―――私は、"全知"。ミレニアムの全ての生徒を守る義務があり、彼女達の未来(ミレニアム)を守る責務がある)

 

 

 かつてリオに連れられやってきたこの場所に想いを寄せます。

 

 

(―――私は、"罪人"。自らを偽り、彼女たちを騙し続けてきた私が出来る、唯一の贖罪)

 

 

 

 彼女たちの輝かしい青春(BlueArchive)を守ること。

 全ての生徒を、あまねく未来(ミレニアム)に降りかかる全ての災禍から守ること。

 ですから、その言葉を深く、深く胸の奥に刻み込みます。

 

 

 

 

 

 

 

(天童アリスさん。いえ、アリス。あなたもまた私が守るべき"可愛い後輩"なのですね)

 

 

 


 

 

 そして冒頭へと戻ります。迷いを振り払った私は、彼女たちの作るゲームを体感したい……。

 そう思って、テストプレイヤーになることを申し出ました。

 

 それからはお察しの通りです。啖呵を切ってゲームを始めたはいいものの、チュートリアルから四苦八苦し、慣れないコントローラーを振り回し、なんとか3面のステージまで辿り着き、何度も敗北して、ようやくクリアしたのです。

 すでに疲労困憊でした。なにせ普段はほとんど運動などしないのです。

 振り回していた腕は鉛のように重く、ぜぇはぁと息を荒げる肺はすでに限界を迎えています。

 

 

「わ、私はここまでのようです……。勇者アリス。私の遺志はあなたが継いで下さい……」

 

「大賢者ヒマリのHPが0になってしまいました!! 急いで教会に連れて行き、蘇生しなくてはなりません!」

 

「……やっぱりちょっと難しすぎたかなぁ?」

 

「どうだろうね。部長の場合はちょっとまた違うと思うから、あんまり参考にならないかも」

 

「エイミ? これ以上私に追い打ちをかけるつもりですか? いいのですか? 泣きますよ?」

 

「それ脅しになってるのかな……」

 

「とりあえず、テストプレイの結果は保存しとくね。バランス調整はユズちゃん任せになるけど」

 

「う、うん……。エイミさんのデータと、ヒマリさんのデータ……。両方見比べてからバランス調整するね」

 

「ねぇねぇ、ヒマリ先輩? 私たちのゲーム、どうだった!?」

 

「ふむ、そうですね……」

 

 

 何とお伝えすれば良いのでしょう。

 面白いか面白くなかったか、と聞かれると、確かに"面白かった"と言えるかもしれません。

 

 私はこういったゲームには不慣れですが、そんな私でもある程度は"さまになる"プレイができました。

 勿論、もっと体力や反射神経がある方ならば、楽にクリアできるでしょう。

 しかし私のような初心者でも、何度か繰り返しプレイをしてコツを掴めばクリア出来なくもない。そのような印象を抱きました。

 

 それに、ゲーム内容も独創的かつ刺激的で、ユニークでした。

 インディーズならではの発想なのでしょうね。まさかQTEだけで格闘ゲームを作り上げようなどとは、普通の方であれば思いつきもしないはずです。

 

 これは彼女たち"ゲーム開発部"ならではの独創性をフルに活用した体験型のゲーム。

 ゲームに疎い私ではありますが、十二分に"可能性"を感じさせる出来栄えでした。

 

 

「面白かった、と思います。強い独創性を持ちつつも、操作はとてもシンプル。けれど一筋縄ではいかない難易度……。グラフィックのチープさを前面に出しつつも、しっかりと爽快感を感じさせるエフェクト、それに合った世界観とシナリオ。なにぶん、ゲームには疎い私の意見ではありますが、今後次第ではミレニアムプライスの上位賞まで狙える可能性がある。そう感じました」

 

「!! や、やった! やったよ、お姉ちゃん!」

 

「エイミに引き続き、ヒマリ先輩まで……! い、行ける! これなら行けるよ!」

 

「え、えへ……えへへ……。これ、本当に神ゲーになっちゃうかも?」

 

「はい! このゲームはゲーム開発部の"代表作(エース)"になるかもしれません! ここからアリス達の破竹の快進撃(サクセスストーリー)が始まります!」

 

 

 各々がワイワイ、きゃあきゃあと騒ぎ立てます。

 次はどこをどうする、何を追加する、ボリュームを増やすなど、様々なアイデアが飛び交っているようです。

 青春の煌めき。彼女達が歩む現在(いま)しか味わえない、一生に残る思い出の時間。

 それをまざまざと見せつけられて、私は思わず頬が緩みました。

 

 

「……エイミ。あの子たちは本当に良い子ですね」

 

「…………そうだね」

 

「私は勘違いをしていたのかもしれません。……いえ、彼女(アリス)たちのことではなく、私自身のことを」

 

「……部長?」

 

「……私は、ミレニアムを守ることが責務だと思っていました。デカグラマトンの襲来も、此度の"不可解な軍隊"の件もそうです。私が守るべきものは"ミレニアムサイエンススクール"であり、それを脅かす者を退けることこそ、私の役目だと。そう思っていたんです。それが生徒たちを守ることに繋がると」

 

 

 リオとの約束。ミレニアムに対する脅威が生じた場合、必ず手を取り合って協力する。

 その契約に従い、今日までこうして戦ってきたのです。

 

 

「……ですが、私は勘違いをしていました。私が守るべきものはミレニアムの生徒ではなく。彼女たちの"想い"です。彼女たちが健やかに、伸びやかに未来へと謳歌できる。そんな環境を整えてあげることこそが、"全知"たる私の本当の役目だったのでしょう」

 

「部長、もしかして、アリスのことを」

 

「はい。エイミ。……私は決めました」

 

 

 すぅ、と深呼吸をして。

 

 

「―――アリスはミレニアムの生徒であり、私の可愛い後輩です。後輩を守るのは、先輩の責務ですよね?」

 

 

 

 例え、彼女(アリス)が"不可解な軍隊"に関わる、危険な存在だったとしても。

 

 ミレニアムの生徒である"アリス"を守る。彼女と、彼女を取り巻く全ての想いすらも。

 

 私達の、"全ての青春を守り抜く"

 

 その決意表明とも、言えるものでした。

 

 

 

 

*1
ゲーセンでの格闘ゲームの話。ネルが一方的に突っかかっているという噂がある。大体C&Cのメガネのメイドが現れてお開きになるらしい。




下準備完了。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。