- ミレニアムサイエンススクール セントラルエリア -
ゲーム開発部でのひとときを過ごした後。
私と部長はアリス達の後ろに続き、ミレニアム校舎内を進んでいた。
どうやら彼女たちは預けていた光の剣を取りに行くようだ。
本来なら取りに行くのはアリスだけでいいはずなのだが、気分転換に散歩がてら歩こう、とモモイが言い出した。
この後は再び部室に戻って缶詰作業が待っているらしい。中々に気合の入ったことだと思う。
前方ではアリス達が騒がしいトークを繰り広げながら歩いている。
部長と私は彼女たちから一步引いた所で今後について話し合っていた。
「部長。これからどうするの? 今日はもう結構遅い時間だけど」
「そうですね……ひとまず、アリスの件についてリオに報告しなければなりません。私もリオも、アリスについて大きな勘違いをしていたようです。まずはその認識を改めないと」
「そっか。じゃあ、セーフハウスに戻る? それとも病院に戻ったほうがいいのかな」
「一旦セーフハウスに戻りましょう。リオに報告するなら、セキュリティが確かな場所で行いたいので…………あら?」
「どうしたの、部長?」
「いえ……車椅子が急に止まってしまって……」
「え、大丈夫なの? 故障?」
「そういう訳ではないと思うのですが……。あぁ、バッテリー低下の警告が出ていました」
「部長のそれ、電池切れることあるんだね。初めて見たかも」
「よほど無茶なことをしなければバッテリー切れになることはないのですが……。今日は少し酷使しすぎましたね」
「そっか」
「セーフハウスで充電するまでは省電力モードにしておきます。駆動系が使えなくなるので自走が不可能になってしまいますね。すみません、エイミ。押してもらってもいいですか?」
「分かった。セーフハウスまで押していけばいい?」
「いえ、学園内に充電可能な場所があるので、一度そこに寄ってから帰りましょう。……すみません、エイミ。迷惑を掛けてしまいますね」
「全然気にしてないよ。バッテリー切れなら仕方ないし」
「ありがとうございます。さてと……。それではアリス達の元に戻りましょうか」
「うん」
「ねぇ、お姉ちゃん。あれ、なんだろう?」
「ん? どしたのミドリ?」
「ほら、あそこ……何か落ちてない?」
「えー? どれどれー?」
「……あ。ほんとだ。ドローンかな……? 誰か落としちゃったのかも」
「捨てドローンはミレニアムではよくあることじゃない?」
「いや、それにしては何か見た目が変なような……」
「うわ! 何これー!? なんか生き物みたいなロボットだね?」
「こんなの見たことない……。どこの製品なんだろう?」
「私も見たことないな……。アリスちゃん、これ見たことある?」
「…………」
「…………アリスちゃん?」
「……………………」
「アリス…………」
「アリス…………見たことあります」
「これ、は…………」
「皆さん、お待たせしました……。あら? そんなに集まって、どうしたのですか?」
「あ、ヒマリ先輩。なんか見たことない機械が落ちてて。何だろうこれ?」
「見たことない機械? ……それはどういう―――っ!?」
「………ッ! 部長ッ! これ、動いてる!」
「……! 全員、離れて下さい!!」
「えっ、えっ!? なに、どういうこと!?」
ピピピピピピピ………!
「なに、この音……。お姉ちゃん、ゲーム機の音出てるよ?」
「え?」
「ま、待って……。アリスちゃんの様子が……おかしい」
「…………起動開始。」
「…………コードネーム 「AL-1S」 起動完了。」
地鳴りのような衝撃音が、空気を裂いた。
――瞬間、視界が真っ白に染まる。
鼓膜が破れたかと思うほどの爆音。全身が風圧に押し潰される。
地面が爆発の衝撃で跳ね上がり、足元が空中に浮いた。重力も、時間も、全部が吹き飛んだ気がした。
「げほっ、げほっ!」
黒煙をまともに吸い込んでしまい、肺が拒絶反応を示す。
身をかがめ、少しでも煙を吸わないようにした。
衝撃と煙でチカチカする目を擦り、何とか視界を保とうとする。
視界が開けるにつれ、徐々に状況が見えてきた。
(……爆発? いや、"不可解な軍隊"が自爆した……?)
強烈な光の奔流が発生する直前、"不可解な軍隊"が起動しているのが見えた。
なぜ動いているのかは分からない。だがここまでの調査の結果で頭に浮かぶ予想はある。
しかし、今はそれよりも。
「―――――部長っ! 大丈夫っ!?」
パチパチと火が立ち昇る音。彼女からの返答はない。
瞬間、ゾクリとしたものが背中を駆け巡る。
(まさか、今の爆発で!?)
煙を振り払いながら、最悪の想像をも振り払おうとする。
「―――エイミ! エイミ、ここです!」
「……! 部長!」
部長の声が聞こえてくる。すぐ側だ。声の方向を頼りに進んでいく。
横倒しになった車椅子。倒れている部長を見つける。
上半身だけ起こしているが、爆発の衝撃で車椅子ごと倒れてしまったようだ。
「部長! 怪我はない!?」
「私は大丈夫です! ……他の皆さんは!?」
「……えほっ! えほっ! だ、大丈夫!」
煙から逃れるようにモモイ、ミドリ、ユズの三人が現れる。
どうやら爆発の直撃は避けられたようだ。ほっと胸を撫でおろす。
「ねぇ、アリスちゃんは? アリスちゃんが居ない!」
「……! まさか、そんな……!」
周囲を見渡す。アリスの姿はどこにも見当たらない。
まさか爆発に巻き込まれ……。
「……! 居た、あそこ!」
ミドリが指を指す。恐らく爆心地だったと思われる焼け焦げたモニュメント。
そのすぐ側にアリスの姿を見つけた。
「―――有機体の生存反応を確認。……失敗を確認しました。」
「アリス……?」
「ねぇ、アリス! 大丈夫!?」
モモイが瓦礫の山を掻き分けてアリスの元へ向かおうとする。
しかし途中でぴたっと足を止めた。
「な、なに、こいつら!?」
「っ! モモイ! 下がって!」
瓦礫の下から光る影が見えた。それと同時に奇妙な物体が現れる。
見覚えのあるシルエットをしていた。
機械でありながら、まるで生物的なフォルムを持つ"不可解な軍隊"。
それが、ミレニアムの学園内を闊歩している。
カチャリ、と。不気味な風体の中から銃口らしきものがこちらを捉えた。
「エイミ! 緊急事態です! "不可解な軍隊"を破壊して下さい!」
「了解っ!」
部長の命令が耳に入った瞬間、私の体はバネの如く前方に跳ねた。
―――全弾命中。ターゲットダウン。
突如として現れた"不可解な軍隊"はその機能を停止した。
ピクリとも動く気配がない。すべての関節部が破壊され、物理的に動くことが出来ないようだ。
「―――失敗を確認。プロトコルを再実行します。」
「ねぇっ! アリスッ! どうしちゃったの!? 私の声が聞こえないの!?」
「っ! モモイさん、下がってっ!」
アリスの声に呼応するように、再び瓦礫の影から鈍く光る影が現れる。
生物的なフォルムをしたそれは、1匹、2匹と増えていく。
気がつくと周囲には数十体もの機械が、私達を取り囲んでいた。
「な、なんでこんなに……!? も、もしかしてアリスちゃんが操ってるの……?」
「……いえ、これは……! あれはアリスではなく……!」
「部長! 今はそれどころじゃない、あれが全部爆発したら、ここらへん一帯全部吹き飛ぶ!」
先ほどの爆発。1匹ですらセントラルエリアのモニュメントを丸ごと吹き飛ばす威力があった。
周囲を取り囲んでいるこいつらが一斉に爆発したら……。無事では済まないだろう。
「……っ! 分かりました。エイミ、それにモモイさん、ミドリさん、ユズさん! 指示を出します。周囲の"機械類"を撃破して下さい!」
「了解!」
「わ、分かりました……!」
「行こう! お姉ちゃん!」
「わ、わけわかんないけど……。今はやるしかない!」
各々が銃を手に取り、身構えた。
「―――攻撃開始。」
アリスがそう呟いたと同時に、一斉に"不可解な軍隊"が動き出す。
それぞれの銃口がこちらに向けられ、まさに発射直前であることが分かる。
それを見た瞬間、私は脇目も振らずに前へと飛び出した。
「
そう告げた後、ありったけのショットガンの弾丸をばらまいた。
狙いを付ける必要はない。とにかく"当たれば"いい。
怒涛の5連射。向こう側からも弾丸が放たれる。くるりと身を翻し、同時にリロードを行う。
予想通りというべきか、ショットガンの弾丸が軽く当たっただけでは倒れたりしてくれない。
こいつらを破壊するには、より至近弾で徹底的に攻撃しないと駄目だ。
しかし私を"敵"だと認識した機械達は、私を優先的に攻撃し始めた。
デカグラマトンの尖兵相手によく使う戦術だ。系統が異なるとはいえ、"不可解な軍隊"にも有効なのではないかと思って試したが、うまくいったようだった。
「モモイさん、ミドリさん! エイミを追っている個体に向けて掃射して下さい。フルオートで構いません!」
「わ、分かった!」
ダダダダダとアサルトライフルの射撃音が響き渡る。2人分の銃の掃射は"不可解な軍隊"を文字通り蜂の巣にし、数体が破壊され機能停止した。
しかし破壊しきれなかった個体が、くるりと向きを変え、モモイ達のほうへ銃口を向ける。
「ユズさん! グレネードを! あれに当てる必要はありません、敵の多い所へ!」
「は、はいっ……!」
ユズの持つ小型グレネードランチャーからポンっと間の抜けた音が聞こえた。
しかし可愛らしい音とは裏腹に、強烈な爆発。それに伴う爆風が身体へと伝わってくる。
何体かの"不可解な軍隊"が吹き飛び、その生物的な機械パーツが弾け飛ぶ。
より重要な敵対対象を発見した機械達は、その矛先をユズへと向ける。
そのタイミングを見計らって、私は再びショットガンの弾丸をばらまいた。
とにかく撃つ。倒す必要はない。敵の注目を引きつける事ができればいい。
目論見通りというべきか、先程の爆発によってユズへと向かっていた個体は、その全てが私のほうへと銃口を向けた。
(―――これならいける。数が多いだけで、そこまで"賢く"ない)
部長の指示も非常に的確だった。私の意図を素早く察したのだろう、ターゲットの分散を避ける為に、私を追う個体を徹底的に攻撃するよう指示し、その間に私は別の機械の敵視を奪う。
その繰り返しを続けているうちに、ほぼ全ての"不可解な軍隊"の破壊に成功した。
最後の一体に弾丸を打ち込み、機能停止を確認する。
「アリスっ! ねぇ、アリスってばっ!! 返事してよ!」
「アリスちゃん! 私達の声が聞こえないの!?」
前方ではモモイとミドリが懸命にアリスに呼びかけていた。
しかし当のアリスは全く反応がない。まるで別人かのように静かに、冷めた目つきでこちらを見ていた。
「―――失敗。……プロトコルの
その言葉が告げられた瞬間、先ほど倒したはずの機械類。その一部が動き出した。
ギィギィと鉄の軋む音を鳴らしながら、欠けた駆動部をものともせずにこちらに一斉に向かってくる。
紫色の点滅を繰り返し、ピピピピ……と電子音が不気味に木霊する。
この光景……さっきと同じだ。アリスの言葉通り自爆する気に違いない。
「エイミ!」
「分かってる!」
部長の言葉を待つことなく、再び動き出した個体に
駆動部を中心に狙い撃ち、行動不能に追い込むしかない。
だが……今度は上手くいかなかった。
「……っ!? こいつら、さっきと動きが違う!」
「ぜ、全部こっちに向かってくる……!」
いくら弾丸を浴びせても止まる気配がない。私の攻撃にも一切の反応を示さず、その全てが背後に控える部長やミドリ達のほうへと向かっていく。
「止まれ……!」
撃つ。脚部がひしゃげて一体が行動不能になる。
撃つ。コード部分が破損し、どくどくとオイルのようなものが流れ、停止する。
撃つ。ボディそのものが千切れ、ひっくり返って動かなくなる。
モモイ達も全力で抵抗している。ありったけの弾丸が打ち込まれ、機械類の侵攻を食い止めていた。
これならいける。そう思った瞬間。
部長へ向けて猛烈な勢いで突進する個体が見えた。
丸いボディをしたそれは、まるで手榴弾の如くゴロゴロと転がっていく。
―――不味い。距離が遠すぎる。
ショットガンの射程距離から離れすぎている。ここからでは破壊出来ない。
私は我をも忘れて部長の元へと駆け寄ろうとする。
―――あちらの方が速い、間に合わな…………!
「……! ヒマリ先輩、危ないっ!!!」
「………っ!」
モモイが部長の側に飛びかかり。
―――次の瞬間、空間が爆ぜた。
「―――部長ッ!!!!」
「―――お姉ちゃんっ!?」
強烈な爆風が視界を遮る。再び黒煙が立ち登り、私の進行路を妨げた。
やがて、煙が晴れてきて視界が確保されると。
そこには倒れ伏すヒマリ部長とモモイの姿があった。
私は未だ残る煙を掻き分け、一心不乱に部長の元へと駆け寄る。
すぐ隣にはミドリの姿が見え、同じくモモイの元へと駆け寄った。
「部長! しっかりして、部長!」
「お姉ちゃん! 大丈夫!? お姉ちゃんっ!」
倒れ伏す部長に大声で呼びかけ、頬を軽く叩く。反応がない。
見たところ外傷は見当たらない。せいぜいが擦り傷程度で、大量に出血している訳でもない。……恐らく、モモイがかばってくれたお陰だろう。
隣に倒れているモモイの姿を見る。こちらも意識不明の状態で、ミドリが呼びかけているにも関わらず反応がない。
……部長より重症かもしれない。頭部から出血している。すぐに処置をしないとまずい。
二人ともヘイローが消えている。意識を失っているのか、それとも―――。
ぞわり、という悪寒が全身を駆け巡った。
あれだけの爆発だ。私でも無事でいられるか分からない。
それを至近距離で食らったのだ。部長のように身体が弱い人なら、命に関わってもおかしくないほどに。
(嘘……でしょ。部長―――。死んだりしないよね?)
最悪の想像が頭を過った。
それを振り払うべく、私は彼女の口元に耳を寄せる。
かすかだが、呼吸音が聞こえてきた。意識は無いが呼吸はしている。
(良かった……! 生きてる……!)
もし部長が目の前で命を落としていたら。どうなってしまっただろう。
想像するだけで全身を恐怖が襲う。思わず身の毛がよだつのが分かった。
……しかし、今はそれに支配される訳にはいかない。
冷静に考えなくては。緊急事態にこそ、エージェントとしての資質が求められる。
(部長は生きてる。……多分、モモイも生きてる)
モモイの方に目線を向けると、ミドリがモモイの呼吸音があることを確認していた。
ひとまず、最悪のケースは免れたことに安堵する。
……だが、依然として状況は悪いままだ。
「―――対象の
アリスは抑揚のない声で再び告げる。まるで私達のことを意に介していない。
部長の危惧していた通りになったのかもしれない、と思った。
アリスの状態は明らかに異常だ。先ほどから"不可解な軍隊"を操っているのは間違いなく彼女。
なぜ豹変したのかは分からない。しかし今考えるべきなのは、どうしてアリスが? という疑問を解くことではない。それだけは理解していた。
(今はとにかく部長を安全な場所に……! それに、モモイも)
このままではジリ貧だ。部長やモモイを庇ったまま戦闘を続行することは出来ない。
撤退の二文字が頭を掠める。もしくはこの場でアリスを行動不能に追い込むか。
二者択一。すぐに判断しなくてはならない。
私を"正解"に導いてくれる部長は居ない。彼女は今、私の手の中で意識を失っている。
(―――私は、どうすれば? いまここで出来る"最適解"って……?)
ぐるぐると頭の中を思考が駆け巡る。
しかしそれらの思考は突如として現れた"何か"によって全て中断することになった。
「申し訳ありません。手荒な手段を取らせて頂きます」
「―――。あなたは―――。」
次の瞬間、どこからともなく現れたメイド服の女が、アリスの後頭部に何かを当てた。
拳に装着されたそれは、強烈な電流を引き起こし……。アリスの意識を一撃で刈り取った。
それと同時に、周囲に存在していた"不可解な軍隊"の動きが完全に停止する。
またたく間の出来事だった。一瞬にして周囲に静寂が訪れる。
混乱する中で、冷静な脳内の自分が現状を把握しようと行動を開始した。
ひとまず、直近の危機は去ったのは分かる。
しかし彼女は誰で、いつ、どこから、どうやって現れたのか。それが分からなかった。
メイド服の彼女は倒れかかるアリスを抱きかかえたまま、ヘッドセットに手を当てながら通話をしている。
「……はい、リオ様。確保しました。現在は沈黙しています。……いえ、残念ながら」
「……あなた、誰?」
私の姿を捉えた彼女は、しーっと口の前に指を当て"静かに"というジェスチャーをした。
未だ緊急事態であることに代わりはない。今は目の前の人物に従うことにする。
「ヒマリ様が負傷されました。……いえ、それは………。流石に不可能です。二人同時は物理的にも。……はい。……いえ、絶対に無理です。私の腕は二本しかありませんので。無茶を仰らないでください。…………はい、分かりました。そのように伝えます。では」
やがて、通話が終わったのだろう。ヘッドセットから手を離し、私のほうへ向き直った。
「和泉元エイミ様ですね? 私は飛鳥馬トキ。リオ様のエージェントです。緊急事態ですので、挨拶はそこそこに。リオ様からの指令を伝えます。"今すぐにセーフハウスに戻り、ヒマリ様を保護しろ"との事です」
「……見てわからないの? 部長、怪我してる。すぐに病院に連れて行かないと」
「エイミ様。会長の言う通りにして下さい。リオ様も考えあっての事です。ヒマリ様を危険に晒す選択をあの方は取られません。恐らくこれが現状最も"安全"な選択肢なのでしょう」
「……! でも……!」
「ま、待ってよ! お、お姉ちゃんは!? お姉ちゃんはどうすればいいの!?」
話を横で聞いていたミドリが吠えるように問いかける。
それも当然だ。出血をしている分、モモイのほうが重症に見える。
「申し訳ございません、そちらについては私からは……。救急医学部を呼ぶほかないでしょう」
「う……そ、そうだけど」
「ミドリちゃん……今は言う通りにしよう? すぐにモモイの処置しないと駄目だよ……!」
「わ、分かった……。すぐに電話する」
そう言ってミドリはスマートフォンから電話を掛け始めた。
現在地や状況をつぶさに伝えている。きっとすぐにこの場所に医学部が派遣されることだろう。
「エイミ様。急いで下さい。ヒマリ様をセーフハウスに」
「……分かった。けど、どうして医学部に預けちゃ駄目なの? そのほうが……」
「分かりません。しかし会長の命令は"絶対にセーフハウスで保護しろ"との事ですので。……あくまで予想ですが、専用の医療スタッフが派遣されるのではないでしょうか?」
「……分かった。……その、アリスはどうするの?」
「リオ様の指示に従い、このまま回収致します」
「でも、その子は……!」
「エイミ様。私達は面識はありませんが、お互いにエージェントの筈です。エイミ様はリオ様の指令にだけ集中して頂ければと」
「っ! ……そうだね。分かった。今はとにかく部長をセーフハウスに運ぶことだけ考える」
「よろしくお願い致します。では」
そう言って彼女……。トキはアリスを抱えて素早くその場を離れていった。
私は困惑を続けているユズに話しかける。
「ごめん。リオ会長の命令で、すぐにここを離れないと。……モモイのこと、本当は見ていてあげたいんだけど」
「ううん……大丈夫。すぐに救急医学部が来てくれるって」
「……分かった。部長を安全な場所に移動させたら連絡するね」
「うん、ありがとう、エイミさん……」
そして、モモイの側で看病を続けるミドリの側へ。
「……ミドリ、大丈夫?」
「……大丈夫。お姉ちゃん、気絶してるけど息はあるから。そのうち目が覚める……と思う。前にも爆発に巻き込まれて気絶したことあるし、このくらい何ともない……よ」
そうは言っているが、明らかに無理をしているのが分かった。
「それより……。ヒマリ先輩のほうこそ大丈夫?」
「……多分。一度セーフハウスに戻って容態を確認しなきゃいけないけど」
「……うん、そうだね。何ともないといいけど……」
そこで一度言葉を区切った。ぎこちない沈黙。
きっと考えていることは同じだろう。
「……アリスちゃん、どうしちゃったんだろう。急に人が変わったみたいに……。それに、あの変な機械達も、どこから……」
「……ごめん。あれについては、後で説明する。とにかく今は部長とモモイを安全な場所に」
「……うん、分かった。エイミさんも気をつけてね」
「うん。……じゃあ、私、行くね」
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