ふわぁ…………。
んん……。あら? ……もうこんな時間ですか。
思ったより長く眠ってしまったようです。
ほんの1時間程度の仮眠を取るつもりだったのですけれど。時間が過ぎるのは早いものですね。
おはようございます。
……といってもお外は真っ暗。時計の針は22時を指しています。
頭脳明晰、才色兼備。
清楚、知性、可憐さの三拍子が揃ったミレニアムが誇る高嶺の花。
皆様も御存知ですね。
超天才清楚系病弱美少女ハッカー、明星ヒマリです。
今夜もよろしくお願い致します。
さて、実は……。皆様に報告しなくてはならないことがあります。
不祥、この私。明星ヒマリ―――ついに“彼女”ができました。
ふふっ……驚かれましたか?
まさかこの私に恋人が……とお思いでしょう? ええ、よく言われます。
ですが、事実ですから仕方ありませんね。現実というものは時に、小説よりも大胆なのです。
強くて、頭も良くて、気配りもできて、それでいて少しだけお茶目な所もあって……。
そこがまた、たまらなく愛おしいのです。
ですが、この気持ちは―――ちょっと特別、かもしれません。
誰にも触れられることのないと思っていた、私の心に寄り添ってくれたのですから。
喜びも、感動もひとしおです。
まさかこの私が、自らの本心を曝け出してもなお、一緒に居たいと思える相手に出会えるとは。
きっとそれは、奇跡に等しい確率だったはずです。
一緒に紅茶を飲んで、お仕事の話をして、ほんの少しだけ寄り添って……。
そんな何でもないような時間が、私にとって、何よりもかけがえのない時間だったと。
そう気づかせてくれたのは、他ならぬエイミなのです。
彼女の頭を撫でて、暖かな体温に触れたとき、私は思います。
―――「生きていて、よかった」と。
そして彼女に向けて、心の中でこう告げるのです。
―――「私と出会ってくれて、ありがとう」と。
……あら、少しばかり重たかったでしょうか?
ふふっ、恋をすると、感傷的になるものですね。
ですがご安心を。私は変わらず、ミレニアムの超天才病弱美少女として、此処に居ますから。
ですから、もしも今後、私がいつもより少し上機嫌だったとしたら―――。
それはきっと、
私には……守るべきものがまた一つ、増えたようです。
それはミレニアムの全生徒を守るという"全知"の務めとは別に、です。
私は愛する人を守り、共に生きていくという責務を得たのです。
きっとそれは一筋縄ではいかないでしょう。苦難や困難に出くわすこともあるでしょう。
しかし、私は幾許かの不安も憶えていません。
だって、エイミが側に居てくれるのですから。
何も怖いものなどありません。
エイミとなら、どんな困難も乗り越えられると信じていますから。
さて、そのエイミですが……。すぅすぅと可愛らしい寝息を立てて、私の隣で眠っています。
つい先程まで寄り添って眠っていたのです。お互いの手を繋いで、心の繋がりを感じながら。
とても幸せな時間でした。それに、どうしようもないほどの安心感も。
だからでしょうね。ベッドに入って、すぐに眠りに入ってしまったのは。
隣に眠るエイミの髪を優しく撫でます。さらさらとした感触が手のひらに伝わってきます。
こうして触れているにも関わらず、エイミはすやすやと眠ったまま。
きっと疲れたのでしょう。だって、今日は色んなことがありましたから。
"不可解な軍隊"と戦闘したり、気を失った私をこのセーフハウスまで背負って運んでくれたり……。それに、先ほどは沢山泣いたりもしましたから。無理もありませんね。
本当に、エイミにはどれだけ感謝しても足りません。
私を守る為にこの子は私事を投げ打って、エージェントとしての務めを果たしてくれました。
きっとエイミは私を護る騎士様なのでしょうね。
男女の役割が逆転している気がしないでもないですが……病弱な身体を持つ私ですから、致し方ありません。適材適所、というものです。
ですから、私は私に出来ることをしなくてはなりません。
こうして二人きりの時間を大切にしたいのは山々ですが……。
今だけは、それを我慢しなくては。
私には、やらなければならないことが残っているのですから。
そう、私の可愛い後輩の一人である"アリス"。
彼女の身に起きた、そのことについて。
「……さて、案の定……騒ぎになっていますね」
エイミを起こさないように、携帯端末を起動し、ニュースサイトを立ち上げます。
するとそこには、セントラルエリアで爆発? などといったニュースが沢山。
同時にセミナーから今回の件に関する報道規制が敷かれているということも知りました。
しかし……人の口には戸は立てられないとは良く言ったもので。SNSなどに目を向けると、秘匿されていたはずの"不可解な軍隊"の存在が明らかになっているではありませんか。
既に残骸と化し無力化されているとはいえ、わざわざ撮影した人まで居るようです。
危険なものかもしれないのに、よく近づいて撮影出来ますね。
恐れ知らずとはまさにこのことでしょう。
とはいえ、あれがどういったものなのか、そこまでは知られていないようです。
しかし未知の機械がミレニアムに突如として現れ、それが爆発したのではないか、という推測までは立てられている様子。
うーん、セミナーは情報封鎖に失敗してしまいましたか。
いえ、失敗というより、そもそも防ぐことの出来ない案件と言ったほうが正しいのでしょうか。
ミレニアムの方々は皆さん好奇心旺盛ですからね。
こういった未知の機械類の出現や、それに伴う事件などには目ざとく反応するでしょう。
事実、SNSで件の機械の画像をアップロードしている人たちがそれなりに見受けられます。
ほら、例えばこの方とか……。あら? アカウントが消去されましたね。
リアルタイムで消去された、ということは……。セミナーが何かしたのでしょうか。
不都合な投稿を消す為にアカウントごと消去するというのは、理にかなってはいますが……。
多分に乱暴なやり方です。もしかしたらリオの仕業かもしれません。
リオには少し前に、各種SNSサイトの内部データへ侵入する為のハッキングツールを渡してありましたから。やろうと思えばいくらでも出来るはずです。
悪用はしないで下さいね、と釘を刺してはおきましたが……。
これは悪用のうちには含まれないでしょうから、ひとまず目を瞑りましょう。
ミレニアムの生徒たちの安全が最優先です。多少の自由が奪われるのは致し方ない、そう考えるほかありません。
「……あぁ、そうでした。モモトークも山のように……」
ニュースサイトに気を取られておりましたが、モモトークの着信履歴もすごいことになっていました。
ヴェリタス、エンジニア部、そして個人的に私と関わりのある方々からの心配のメッセージ。
どうやら私が爆発に巻き込まれ、意識を失ったという情報が一部の間で出回っている様子。
これだけの人たちが私を心配してくれるという事実に感涙を禁じえません。
持つべきは友人です。性別を隠し、人と触れ合うことを避けてきた私ですが……。
こうして僅かながらの暖かな交流があったからこそ、私はミレニアムを守りたいと、そう思えるようになったのです。
ですから、私はそれらの思いに答えるべく、一つ一つ丁寧に返信していきます。
その中で、一つだけ。毛色の異なるメッセージがありました。
「…………あら? チーちゃん?」
チーちゃんにしては、少し切羽詰まったような書き方でした。
私は一度、モモトークの返信を取りやめ、言われた通りにチーちゃんに電話を掛けます。
ものの数秒、ワンコールもせずに通話が繋がります。
「もしもし、チーちゃんですか?」
『ヒマリ? ……今までどこに居たの? あの爆発に巻き込まれたって聞いたけど、大丈夫?』
「えぇ、私は無事です。エイミに運ばれて自宅に戻っていました」
『そう。……はぁ。あんまり心配させないで。これでも結構探し回ったんだから』
「ごめんなさい、チーちゃん。少々こちらも立て込んでおりまして……モモトークに気づくのが遅れてしまいました」
『とりあえず、ヒマリが無事だって分かったなら、それでいい。……ヴェリタスの皆にも伝えておくから』
「ありがとうございます。……ところで、もう夜遅いですけれど……。この時間に電話してしまっても大丈夫でしたか? 寮の方とかは……」
『大丈夫。すぐにでも連絡しなきゃいけないことがあったから。それに、ここ部室だし」
「あら、まだミレニアムに残っているのですか?」
時刻は22時過ぎです。大半のミレニアム生達は帰宅、または帰寮済みでしょう。
チーちゃんは何かと夜ふかしをしがちな人ですが、仕事が立て込んでいる時でもなければ、流石にヴェリタスに泊まり込むようなことはありません。家に帰っている時間帯です。
『かなり立て込んでるのよ、色々と。もう何から話せば良いのか分からないくらい』
「えぇと、それは……。今日の"爆発事故"の件で?」
『それもあるけど、それ以外にもね。……ちょっと長くなるけど、ヒマリ、いま大丈夫?』
「えぇと……」
ちらり、と横を見ます。
まだエイミが眠っています。安らかな寝顔です。
疲れているエイミを起こすのは忍びなく感じました。
できれば一度この部屋を離れて、エイミを起こさないように通話をしたいのですが……。
ふと、問題に気が付きます。
「あぁ……。そういえば車椅子が……。置きっぱなしでしたね」
『ヒマリ?』
「あ、いえ。こちらの話です」
そういえばそうでした。
"不可解な軍隊"による爆発が起きた際、私は爆風を受けて、車椅子から投げ出されてしまいました。
そしてそのまま気を失い……気がつけばエイミに背負われていて、目が覚めたのはセーフハウスの前でした。
つまり、車椅子をミレニアムに置きっぱなしにしてしまったのです。
今更ながらにその事実に気が付きました。
いえ、一応予備の車椅子はあるのですよ?
全知たるもの、あらゆる事態に備えていなければいけませんから。
しかし、本来であればセーフハウスに備え付けてあるはずの車椅子ですが……今日に限ってそれはありません。
なぜなら、エリドゥに置いてきてしまったからです。
入院という体で向かいましたから、当然予備の車椅子も向こう側に配置するべく、輸送してしまったのです。
つまり、私は今、自前の移動手段がありません。
杖でもあれば何とか歩くことも可能かもしれませんが、それも今は手元にありません。
ですので、私はこの場で通話を続けることにしました。
ないものねだりをしても仕方がありませんからね。
あとでミレニアムに置いてきた車椅子を回収しなくてはなりません。
きっとバッテリーも切れているでしょうから、充電もしなくては。
「大丈夫です。お話を聞かせて頂けますか?」
『ん、分かった。それじゃあまずは……』
チーちゃんの口から語られた内容の要点は、このような感じでした。
1.ミレニアム内に"謎の機械"が出現したこと。そして、それに伴う爆発事故のこと。
2.それらの機械が今は姿を晦まし、行方が分からないこと。
3.これに伴い、セミナーから箝口令、及び報道規制が敷かれたこと。
これらは私もニュースサイトで得た情報でした。
ですが、次からの情報は、私もまだ知り得ていないもので。
「……なるほど。アリスさんを攫っていった"謎のメイド"ですか」
『そう。聞いた話だと、"会長のエージェント"らしいけど。私はそれに心当たりがなくて。ヒマリ、あなた何か知ってる?』
「ふむ………」
さて、どう答えたものでしょう。
恐らくですが、アリスを攫っていった謎のメイドとは十中八九、トキのことでしょう。
メイド服を着用していて、リオのエージェントである人物は他に心当たりがありません。
私は気を失っていて、その現場は見ていませんでしたが、トキならばアリスを何らかの手段で
何より、先程エイミがその事について言及していました。
これは正しい情報とみて間違いなさそうです。
「えぇ、一応面識はあります。……といっても、たった一度しか会ったことはありませんが」
『そう。……実は今、その件でかなり揉めてて。一触即発の状態なのよ』
「一触即発……? それはどういう成り行きで……?」
『ついさっき、爆発に巻き込まれたモモイって子が目を覚ましたんだけど……。目を覚ますまで、その子と同じ部活の……。ミドリとユズって名前だったかな。その子達がC&Cに殴り込みに行ったみたいで』
「え……? ミドリさんとユズさんがですか? 何故……?」
『C&Cってセミナー配下の武力組織でしょ。だからアリスを連れて行ったのがC&C所属のメイドだと思ったんだって。……ただ、当のC&Cは知らないの一点張り。それで揉めて、ちょっとね』
「そ、そうだったのですか……」
驚きました。ミドリさんとユズさんはどちらかというと穏やかそうな性格の方たちです。
以前、C&Cと交戦したことがあるとはリオから聞きましたが、まさか再びやり合うとは。
思ってもいなかった展開に驚愕を隠せません。
『私はそのアリスって子を知らないけど、とにかくあの子達はアリスと話がしたいみたい。……だけど、今は会長の元に居るから、会うことすら出来ないって。それで会長の居場所を教えろって、C&Cに詰めかけてね。……ついさっきまでずっとにらみ合いしてたよ。モモイって子が目を覚ましてから一時休戦になったみたいだけど』
「ふむ、なるほど……」
トキは書類上ではC&Cの所属になっていたはずです。
何より、見た目が完全にC&Cの証である、メイド服の装いをしていますからね。
アリスを攫っていった犯人がC&Cだと誤解してしまうのも無理はありません。
『……ねぇ、ヒマリ。あのアリスって子、何者なの? 監視カメラの映像を全部セミナーに持ってかれちゃって、あの爆発事故で何が起きたのかを把握してないんだけど。……あのアリスって子が何か関わっているんじゃないの? 違う?』
「そうですね……。些か複雑な事情があるのですが……」
アリスが
少なくともチーちゃんはアリスの正体については知らないはずです。
私がそれをここで言っても良いものか、悩みます。
「先に一つだけ言っておきますが、アリスさんは良い子ですよ。それは私が保証します」
『それ、マキも同じこと言ってた。同学年だから、知り合いなのかなって思ってたけど』
「マキが、ですか……? あぁ、いえ、なるほど。そういうことですか……」
そういえば、アリスの学生証は偽造されたものだったのを思い出しました。
当然です。彼女の出自は相当に特殊なものですから、通常の手段でミレニアムに入学することはまず不可能です。
今までは任務の優先度の都合、あまり考慮していませんでしたが……。
アリスの学生証を発行した人物が存在するはずです。
ミレニアムのデータサーバーに侵入するのですから、それなりに高度なハッキング技術が必要になるでしょう。それこそ、ヴェリタスのハッカーくらいには。
なるほど、あれはマキの仕業でしたか。
友達想いの彼女のことです。
きっとゲーム開発部に頼まれてミレニアムのサーバーに忍び込んだのでしょうね。
学生証の件を黙っていたのはきっと、チーちゃんにバレれば学生証の発行を取り消されると思ったからでしょう。
その辺、チーちゃんはかなり厳しいですから。ハッカー倫理について説く彼女の姿勢は、ヴェリタスの部員であれば誰しも知っていることです。
それにしても……マキもハッカーとして成長しているようですね。
チーちゃんにも見つからずにそれを達成するとは……。
痕跡を残さないのはハッカーの真髄です。後輩の成長に少しばかりの喜びを抱いてしまいます。
「私から言えることは、リオ……いえ、会長は理由があってアリスさんを攫っていったということです」
『……その言い方をするってことは、ヒマリは何か知ってるっぽいね』
「ごめんなさい。この件は会長から固く口止めされてまして。……少なくとも、ミレニアムの安全が保証されるまでは、私からは何も……」
『……ふぅ。分かった。深くは聞かない。ヒマリにも事情があるんだろうし』
「ごめんなさい、チーちゃん……。本当はチーちゃんにも共有するべき情報なのですが。安全が確保されるまでは、私も情報統制には賛成なんです」
『まぁ、ヒマリならそう言うよね。……分かった。
「ありがとうございます」
今回の一件で分かったことがあります。
それは"不可解な軍隊"が予想通り、ミレニアムを脅かしかねない危険な存在だったということです。
豹変したアリスの様子。それに呼応するかのように現れた"不可解な軍隊"。
これらは無関係ではありません。それを裏付ける証拠もあります。
検証すれば、きっと関係が明らかになるはずです。
ですが、ふと気づきます。その重要なデータは今……私の手元にありません。
アリスを
「……あ、そうそう。チーちゃん。まだミレニアムに居るんですよね?」
『うん、そうだけど。どうしたの?』
「実は車椅子をミレニアムに置きっぱなしにしてしまいまして。そちらで回収していたりしませんか?」
『あぁ、それの事ね。なら安心していいよ。現場からエンジニア部が回収してくれたみたい。それと壊れてた車輪の修理も。今は工房にあるはず』
「そうでしたか。相変わらず頼りになる方達ですね。あれがないと、私は動くこともままなりませんので」
爆発でなぎ倒されてしまったので、壊れていないかも心配です。
だって、あの車椅子は私の脚代わりであると同時に、高度な演算ツールでもあるからです。
そして、今回の件の重要な"証拠"も眠っているのです。
ですから、絶対に回収しなくてはなりません。
「ひとまず明日取りに伺いますね。……今日は流石にもう遅いので」
『了解。ウタハ達も居るから伝えておく。……それじゃ、ヒマリ。また明日』
「はい、チーちゃん。また明日」
通話を切り、ふと隣を見ると。
いつの間にかエイミが目を覚ましていました。
どこか上の空な、ぼーっとした表情。
きっと起きたばかりで眠いのでしょう。ごしごしと目を擦っています。
「あら、エイミ。おはようございます。ごめんなさい、起こしてしまいましたか?」
「ううん、大丈夫……。おはよう、部長」
「…………もう、エイミ。違うでしょう?」
「……ん」
全くエイミったら。さっき約束したばかりではありませんか。
もう忘れてしまったのですか?
「さっき約束したではありませんか。……二人きりの時は名前で呼んで、って」
「う、うん……。そうだった。ごめん、まだちょっと慣れてなくて」
「ふふっ。これから慣れていけば良いんです。さぁ、言ってみて下さい、エイミ」
「……お、おはよう、
「はい♪ おはようございます、エイミ」
うんうん。やはり、私の思っていた通りです。
こういう"二人きり"の時に呼び名が変わるのって、すごく特別感があって良いですよね。
せっかく"恋人同士"になったのですから、余すとこなくイチャラブしてやろうと、そう思って提案したことでしたが……。なるほど、中々に良いものですね、これは。
何というか……あなたの特別な人、っていう感じがひしひしと伝わってきて……。
胸の高鳴りを抑えきれません。案外、私はロマンチストなのかもしれませんね。
それにちょっと照れくさそうな表情を浮かべるエイミも大変可愛らしいですから。
まさに
強いて言えば……、できれば呼び捨てにしてほしいのですが……。
いきなり慣れない呼び方をさせすぎるのもいけませんよね。今はこれで満足しておきましょう。
「誰と電話してたの?」
「チーちゃんです。……どうやら、ミレニアムの方でちょっとトラブルがあったそうで。かなりごたついているようです」
「………それってもしかして、アリスの件?」
「当たらずとも遠からず、といった所ですね。調べたところ、ミレニアムでは現在、情報統制が敷かれていますが、"不可解な軍隊"の件は明るみになっても、アリスさんの件については公になっていません。ですから、アリスさんの件について知っているのは、あの現場に居た当事者だけ、ということになるでしょうね」
「そっか……」
エイミは、しゅんと俯きます。
その気持ちも分かります。実際にアリスと対峙した張本人で、"不可解な軍隊"をアリスが操っている光景を目の当たりにしてしまったのです。
あの子の人となりを知っていればそんなのはあり得ないと切って捨てることも出来たでしょう。
しかし私達は特異現象捜査部として、アリスの抱える問題について、ある程度知ってしまっていますから。
見て見ぬふりは出来ません。
私達はあの"問題"に真正面から、向き合わなくてはならないのです。
「エイミ。あくまでこれは私の予想……というか、取得したデータからの推察になるのですが」
「部長?」
「あれは"アリス"さんではありません。正確には、アリスさんの中にある"何か"が原因だと思っています」
「……それって、どういうこと?」
「言葉通りの意味です。この場に車椅子があればすぐにでも解析が始められるのですが……。ひとまず、この仮説を確かめる前に……。先に連絡しておかなければならない相手がいます」
そう。この件の最大の責任者かつ、恐らく今現在アリスと共に居るであろう
「これからリオに連絡します。エイミ。あなたにも聞いていて欲しいのです。……それに、彼女に"報告"しなくてはならないこともありますからね」
「……いいの? こういう時の会長と部長の話って、私が聞いちゃいけない類のものなんだって思ってたんだけど」
「これまではそうでした。……ですが、エイミ。私はもうあなたに隠し事をするつもりはありません。エイミには、ありのままの私を見ていてほしいのです」
「そっか。……私なら大丈夫。ちゃんと聞くよ」
「ありがとうございます、エイミ。……それでは、リオに繋ぎますね」