「…………あれ? ……ここは一体……どこでしょう? ……アリスは……」
「目が覚めたようね」
眠りから覚めた
エリドゥに到着してから数時間。行動不能からようやく回復した。
アリスはキョロキョロと周囲を見渡し……私の姿を捉えると、すかさず問いかけて来る。
「あなたは誰ですか? それに、ここはどこでしょう。……アリスには見覚えがありません」
「ここが何処なのか、あなたには関係ない。尤も関係があったとしても教える訳にはいかないけれど」
「え……?」
「妙な気を起こさないことね。"天童アリス"。……いえ、"
アリスが眠っている間に、多数のデータを取得出来た。
"無名の司祭"のことや"名もなき神々の王女"といった
無名の司祭が遺した古文書もある。全てを照らし合わせた結果、たどり着いた結論は一つ。
「あなたが妙な気を起こして、その椅子から離れようとした瞬間。あなたを"破壊"するわ。あなたの手駒であるDivi:Sionを操ろうとした場合も同様よ。この場で破壊されたくないのなら、大人しくしなさい。無駄な抵抗は考えないことね」
「……は、破壊……ですか? アリスを……?」
目の前の機械は事態を把握出来ていないのだろう。おろおろと慌てふためき、剣呑な言葉に息を呑んで所在なさげに佇んでいる。
まるで、何が起きたか分からない、とでも言いたげに。
……まさか、この後に及んで演技をしているとでも?
「まさか、覚えていない。と言うつもりではないでしょうね?」
「……ご、ごめんなさい……。あ、アリスが何かしてしまったのでしょうか……? それに………モモイは? ミドリは? ユズはどこですか?」
「…………」
まさか、本当にしらばっくれるつもりなのだろうか。
私は手に持った端末から、アリスの椅子に繋がれた"電流装置"のスイッチを押そうとする。
しかし
「リオ様、お待ち下さい。それはヒマリ様が目覚めてからのほうがよろしいかと」
「……何故かしら、トキ?」
「私達は此度の件については"後手"に回っております。この件に関してはヒマリ様のほうが先行調査に当たっていた分、あちらのほうが事情に通じていると思われます。現に、セントラルエリアでの事件発生時にも同じ場所に居ましたので、何らかの情報を持っていると見て間違いないかと」
「……そう。分かったわ、トキ。ひとまず様子見してから判断する」
「はい。……差し出がましいことを申し上げました。お許し下さい」
スッと、トキが一礼して後ろに下がる。
彼女にはアリスが再び暴走した際の備えとして、側に控えてもらっていた。
それが逆に、私の行動を止めるようなことをさせてしまうとは。
(……いけない。頭に血が上っているようね。冷静にならなくては。感情によって判断を誤ってはいけない)
いくら目の前の
合理的に判断しなくては。この機械が何を企んでいて、このミレニアムにどういった災禍を齎すのか。それを調べる必要がある。
感情のままに報復するのは容易い。しかしそれは愚か者の行いだ。
私はそのような事に手を染めてはならない。
「……天童アリス。あなたはあの場で何をしたのか、覚えていないと。あくまでそう言い張るつもりかしら?」
「あの場……? ごめんなさい、アリスは……アリスは、何も覚えていません。確か、みんなと一緒にミレニアムを歩いていて……それで……」
「…………そう。なら見せてあげるわ。あなたが"何を"したのかを」
端末を操作し、室内のスクリーンに映像を映す。
それはセミナーから没収した、ミレニアムサイエンススクール、セントラルエリアの監視カメラの映像。
そこにはその場で起きた全てが、余す所なく如実に記録されていた。
『アリス…………見たことあります』
『これ、は…………』
『…………起動開始。』
『…………コードネーム 「AL-1S」 起動完了。』
『プロトコル "ATRAHASIS" を実行します』
『―――攻撃開始。』
「……え? ……あ、え……? モモイ……? ヒマリ……?」
そして、爆発音で映像は幕を閉じる。そこで監視カメラが破壊された為だ。
自らが何をしたのかを知った彼女は、まるで信じられないものを見たかのように目を見開いていた。
映像にも音声にも残っている。
天童アリスがヒマリを、そしてゲーム開発部の面々を攻撃したこと。
殺傷能力を保有している機械群を使い、ミレニアムの生徒に危害を加えたという事実。
この映像を見て、言い逃れをすることは出来ない。
「アリスが……。アリスが、これをやったんですか……?」
「そうよ。あなたが実行し、彼女たちを傷つけた。それは紛れもない事実よ」
「そ、そんな……。でも、アリスは……。Divi:Sion Systemに命令をした憶えは……。
……あれ? どうして、名前を知っているのでしょう? アリスは何も知らないはずなのに……」
ガクガクと震えだす。自らの記憶に不整合が生じたかのように。
「どうして……? モモイや、ヒマリを傷つけてしまうなんて、そんなこと、したくないのに。……なぜ、アリスはこんなことを。……こんなの、アリスの
「あなたの記憶や記録。それはもはや関係のないことよ。重要なことはただ一つ。
"あなたが彼女たちを傷つけた"。それだけよ」
「……っ!」
ぎゅっ、と唇を噛んで、涙を堪えるような表情を浮かべる。
これだけ見ると、まるで人間と区別がつかない。感情を外部に
それをこうまで容易く、自然に出力できるということは……いかに"天童アリス"が優れた技術で製造されたのかが見て取れる。
故に、警戒を怠ってはならない。
これだけの技術力を以てして作られた"
演技を用いてこちらを油断させ、再び軍勢をこの場に呼ぶつもりかもしれない。
私だけは油断をしてはいけない。
たった一度のミスが、全てを終わらせてしまうことだってあるのだから。
「セミナーの権限によって、あなたを拘束させて貰ったわ。先程も言ったけれど、妙な動きをした瞬間。私はあなたを"執行"しなくてはならない」
そう告げる。しかし目の前の
ぽたぽた、と。涙に極めて近い液体を零し、懺悔するように言葉を紡ぐ。
「ごめんなさい……。アリス、こんなことをしてしまうなんて。……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「……この場で謝罪を繰り返しても、何の意味も持たないわ」
「それでも……。アリスは、謝りたいです。ヒマリに、モモイに、それに、みんなに……。アリスはこの事を覚えていません。……でも、きっとみんなを傷つけてしまったのは、アリスです」
まるで神前にて罪を告白するかのように、アリスは懺悔を続ける。
「アリスは……勇者になりたかったんです。みんなを助けて、世界を救う勇者に」
ぽつりと。そう一言だけ零す。
「モモイが教えてくれました。勇者とは職業ではなく、"生き様"だと。仲間と一緒に困難を打ち破り、いずれ魔王を倒し世界を救うのだと。……そう信じて、アリスは。ゲーム開発部の皆と……。"仲間"と一緒に居たかっただけなのに。……どうして、こんなことに……」
「…………」
「……モモイに謝りたいです。ミドリとユズにも。……それに、ヒマリにも」
「駄目よ。あなたを彼女達に会わせる訳にはいかない」
「ど、どうしてですか? ……許してもらえなくたっていいんです。ただ、傷つけてごめんなさい、って……それだけは、伝えたくて、アリスは―――」
「諦めなさい。あなたをミレニアムに戻すわけにはいかない。……天童アリス。あなたを現時点を以て"退学処分"にするわ。今後、ミレニアムに近づくことの一切を禁じる」
「―――そ、そんな。……アリスは、アリスは……。みんなに、みんなに会いたいです。謝りたいんです。……おねがいします、一度だけでいいんです。……どうか、どうかお願いします……っ」
ボロボロと、大粒の
―――この後に及んで、まだ感情論で訴えかけて来るつもりだろうか。
危険分子であるアリスを、彼女達の元へと行かせる訳にはいかない。
ならば、教えてやらなくてはならない。
自分が、どういった存在なのかを。
「アリス。あなたは己を勇者と呼んでいるけれど……。勇者とは友人に剣を向ける存在かしら?」
「……っ!」
「むしろあなたがやったことは悪役ではなくて?」
貴方はミレニアムに破滅を齎す存在。
そのような存在を、私は"許容しない"。
「はっきり言うわ。……天童アリス。あなたは勇者などではない。貴方は―――」
「AL-1Sの様子はどうかしら?」
「眠っています。リオ様の命令通り、ジャミング装置を稼働させましたので、解除しない限り起きることはないでしょう」
「そう。……なら、あとはDivi:Sionの動向を探るだけ、ということね」
「はい、そうなります」
天童アリス、いや、AL-1SがDivi:Sionの軍勢を操っているというのは事実だった。
しかし、彼女の意識下でそれが行われていたか、それを確かめる術は現状では存在しない。
故に、次に取るべき行動は
だが、これについては既に予想の出来る内容だった。
「監視カメラの映像によると、廃墟のDivi:Sionが移動中です。方角はこちら、エリドゥに向いているものと思われます」
「……予想通りね。アリスが
「いかがなさいますか、リオ様?」
トキが問いかける。答えは既に決まっていた。
「エリドゥ外郭にて迎撃を行うわ。あの場所はもっとも火力が集中しやすく、かつ防御性能が最も高い。トキ、あなたは外郭に向かい、防衛装置を用いてDivi:Sionの迎撃に当たって頂戴。アビ・エシュフの限定的使用も許可するわ」
「イエス・マム」
トキが一礼をして退出する。
それと同時に、私の個人用の携帯端末に着信が入る。
この番号を知っているのは、世界でたった一人しかいない。
ノータイムで通話ボタンを押した。
「……ヒマリ。目を覚ましたのね。怪我の具合はどうかしら?」
『はい。リオ。お陰さまで全くと言って良いほど問題ありません。かすり傷程度で済みました』
「……………………そう。それなら良かったわ」
『ありがとうございます、リオ。あの場にトキを送ってくれて。彼女が居なければ、より事態は悪化していたでしょう。あなたの即座の判断に、感謝を』
「気にしないで頂戴。それに、あれはトキの判断よ。私が褒められることではないわね」
『そうなのですか? ……なるほど、優秀なエージェントですね、彼女は』
そこで一端、
何か言いづらいことがあるかのように言葉を選んでいる。
「それで、何の用かしら? あなたが連絡するということは、安否の確認の為だけではないでしょう?」
『はい。ですが、本題に入る前に……。ええと、その……。実は今、エイミが隣に居ます』
「……それを早く言いなさい。口にしてはならない情報だってあるはずよ」
彼の性別のことを口にしては、全てが水の泡と化す。
それを理解していない彼ではないはずだ。一体、何を考えているのだろう。
『いえその…………。リオ、落ち着いて聞いて下さいね?……エイミに、その……。
"知られて"しまいました。……いえ、教えてしまった、というべきでしょうか……』
「――――――そう。」
なるほど、そういうことか。
彼が所在なさげな口調をしているのも、私との通話にエイミを混ぜたのも、そういうことなのだろう。
彼がエイミのことを頼りにしている、というのは私も既に知っていた所だ。
故に、情に絆されるな、と警告したはずだったが……。
ああ見えて、情に弱い彼のことだ。良心の呵責に耐えかね、ついに口走ってしまったのだろう。
ストレスで体調を崩してしまう程に悩んでいたのだから、無理もない。
彼女に性別がバレてしまったという事実は変えられない。
ただ、それ自体に問題はない。これも可能性の一つとして、考慮していた事だった。
『……怒らないのですか?』
「怒る? 何をかしら」
『いえ、その。……私達の約束を破ってしまいましたから。絶対に明かさないと。そう誓ってミレニアムに入学した訳ですし。……リオとしては約束を破った私に対して、何か思う所があるのではないかと……』
「過ぎてしまったことを後悔しても何にもならないわ。それよりも、今後のことを考えるべきね」
エイミに
「確認するけれど、エイミはあなたの本来の性別を知って、何と? もしミレニアムに通報するというのなら、私もそれなりの"対処"をしなくてはならないのだけれど」
『い、いえっ! その必要はありませんよ、リオ。……エイミは、私の事情を知ってなお、私を支えてくれると言ってくれました。大切な後輩です。ですから、
「……そう。なら、差し迫った危険はない。そう判断して良いのね?」
『その認識で合っています。エイミは私達の味方です。私の秘密を守ると、誓ってくれました』
「……どこまでそれが信用できるかは分からないけれど、分かったわ。今はあなたの言を信じることにする」
『ありがとうございます、リオ。…………ふぅ、ひとまずこれで肩の荷が一つ降りましたね。……では、本題に入らせて頂きますね』
「……待ちなさい。その前に、エイミに一度代わってもらえるかしら?」
『……? えぇ、構いませんよ。 ……エイミ、リオが代わって下さいと。……え、怖い? ……何を言っているのですか。リオは私達の仲間ですよ。ちゃんとご挨拶して下さい……。お待たせしました、今代わりますね』
少しの静寂の後、電話先からかつての
『……久しぶり、会長』
「久しぶりね、エイミ。……まさか貴女が"
『えっと……それは……。ちょっと色々あって』
「そう。今は深くは問いかけないけれど、いずれ何があったのかは聞かせてもらうわ。その上で、貴女が本当に私達の"仲間"として相応しいかを判断させてもらう。それで構わないわね?」
『うん。分かった』
「……それと、エイミ」
『……なに、会長?』
「"
『……うん。でも、完全には守りきれなかった。もう少し私がしっかりしてたら、かすり傷ひとつ負わせることも無かったって思うと、自分が情けない』
電話先の彼女の声は、深い後悔を滲ませるものだった。
彼を傷つけてしまったことに、強い自責の念を抱いている。
私は人の感情をそれほど理解出来ていないけれど、それでも今の彼女がヒマリの身を案じて、可能な限り守ろうとした、という意思は伝わってきた。
「結果は最善のものでは無かったけれど、それを実行した、という事実は変わらないわ。……もし、貴女が自らの力量が不足していると感じたのなら、再び私の元へ来なさい。トキにも使用した、エージェント養成プログラムを適用することも出来る。もちろん、あなたが望むのなら、だけれど」
『……うん。考えておくね。……ありがとう、会長。その、えっと。……今度は絶対にミスしない。必ず守るから、安心して』
「……そう。なら、私から言うことは何もないわ。……ヒマリに代わって頂戴」
『うん、了解。…………ヒマリ? 会長が代わって、って』
「………………
待って頂戴、と言う前に電話先からは
『代わりました。リオ。エイミとのお話が終わったのなら、本題に入らせて頂きますね』
「―――待って頂戴。ヒマリ? 貴方……、いつからエイミに名前で呼ばれるようになったのかしら?」
『……えっ!? いえ、あの、それは、その……。き、聞き間違いではないですか?』
「聞き間違いではないわ。それに、この端末の音声は常時録音されている。記録された音声を確認すれば、今のあなたの発言が間違いである事の証明が可能よ」
『そ、そうですよね。……いえ、きっとエイミが言い間違えたのではありませんか? 誰にだって間違えはあります。私だってチーちゃんのことを間違えて"
「…………そう。なら、そういう事にしておくわ。……本題に入って頂戴」
幾ばくかの疑念を抱きつつ、本題へと促す。
今はこんな事を考えている暇はない。ミレニアムの危機がすぐ側に迫っているのだから。
『えぇ、では……。リオ、あなたの元に天童アリスさんがいらっしゃいますね?』
「……そうよ。既に拘束し、ジャミング装置で眠らせてあるわ」
『そうですか。……では、確認をしましょう。リオ、あなたはアリスさんをどうするつもりでしょう?』
「セミナー会長の権限において、天童アリスを拘束し、更に"退学処分"とする。過去の例を踏襲するに、これは妥当な判断よ。ミレニアムの生徒に危害を与え、更に殺害も可能な兵器を用いてのテロ行為。これは連邦矯正局にて収監されるに等しい罰として、適正なものだと判断するわ」
『……なるほど。確かに落とし所としては妥当な所でしょうね。彼女の出自を考えるに、連邦矯正局に収監するには些か問題がありますから。ミレニアムにて拘束するのは間違った判断ではないと、私もそう思います』
しん、と静まり返る。静寂が訪れ、室内のエアコンの音だけが耳に木霊する。
『……はぁ。リオ。はっきりと言いますね。……私の前で下手な演技をするのはやめて下さい。……あなたがその程度で済ませる訳がないでしょう?』
「……ヒマリ。ここから先は、あなたには関係のないことよ。これはビッグシスターである私が負うべき責務。対して、あなたは特異現象捜査部の部長。調査には協力してもらったけれど、これの処罰についてとやかく言う権利は、貴方には存在しない」
『……それを本気で言っているのでしたら。……私も怒りますよ、リオ。あなたと私は一蓮托生。お互いの意見が衝突した際は、納得するまで話し合う。そう取り決めをして、ここに来たのではありませんか』
電話先の
しかし、ここで怯むわけにはいかない。
これから先、私が行うことは……。彼に関わらせてはいけない事だ。
私だけが負うべき責務。光の差す世界に住む彼に、地下深く、影の落ちた世界の住人である私の罪を背負わせるようなことは、決してあってはならない。
『……単刀直入に聞きます。"アリスさんのヘイローを破壊する"つもりではありませんか?』
「……それも一度は考えた。けれどリスクが大きすぎる。アレが解き放たれた時、Divi:Sionの軍勢がどう行動するかが未知数よ。で、あれば。現状、Divi:Sionの動きに統一性が見られている、今この瞬間こそが重要になる」
『……なるほど。エリドゥを囮にDivi:Sionの軍勢を集め、包囲殲滅するつもりなのですね』
「あなたと会話をしていると、理解が早くて助かるけれど。……今だけは少し後悔しているわ。情報を与えすぎたわね」
とはいえ、情報を与えようが与えまいが、結果は変わらないはず。
その気になれば、ヒマリはハッキングを駆使してエリドゥのデータサーバーにアクセス出来る。
そうすればこちらの作戦は全て筒抜けになってしまうだろう。
完全に電力供給を絶ち、システムをダウンさせれば防ぐことも出来るかもしれない。
しかしそれをすれば、今度はAL-1Sへのジャミング装置が働かなくなる。
で、あれば、ここで彼に情報の断片でも与え、納得してもらうほかない。
「ヒマリ。これは必要な措置よ。AL-1Sが存在する限り、Divi:Sionの軍勢の危険性は無くならない」
『貴女ならそう言うでしょうね。……ですが、アリスさんの意思はどうなるのでしょう?』
「意思……? ヒマリ。貴方は"アレ"に意思があるとでも?」
あれは機械だ。それ以上でもそれ以下でもない。
感情を持っているように振る舞っているのも、人懐こいような性格をしているのも、全ては彼女を作った"無名の司祭"の計略に他ならない。
他の誰もが彼女は"人間"だと言っても、私だけはそれを否定しなければならない。
ミレニアムの危機を未然に防ぐ為。それこそがビッグシスターに求められる"責務"。
『……リオっ! アリスさんは"人間"です。例えその身体が機械で作られていたとしても。そこに感情や意思があるのであれば……。彼女もまた、守るべき後輩の一人だと、私は思います』
「それは詭弁ね。ミレニアムに災禍を齎す存在が、同じ場所で共に過ごすことが許されるとでも? ……ヒマリ。あなたはいつ爆発するか分からない爆弾を隣に置いたまま過ごせるのかしら?」
『確かにそれは難しいでしょう。しかし危険な爆弾でも、悪意ある誰かの意思で爆発させなければ、それはただのモノに過ぎません。そういったものは、アリスさんに限らず……私達の誰もが持っているようなものなのではありませんか?』
「その悪意ある"誰か"とやらが、爆弾自身でないという保証が何処にあるのかしら? 私は爆弾そのものが自らの意思で火をつけることを、何よりも危険視しているのだけど」
『……ならば、爆弾から火薬を取り払ってしまいましょう。起爆装置を押しても、起動しないように。そうしてしまえば、もはやそれは脅威たり得ません。"かつて危険だったもの"でしかないはずです』
「リスクが生じないのであれば、その手段を選ぶこともあったかもしれないわね。……けれど、ヒマリ。今は緊急事態よ。ミレニアムに危機が迫っている。Divi:Sionの軍勢が起動し、貴方を含めて既に被害が生じている。そして、その被害が次はより多くの人間に及ばないとも限らない。……諦めなさい、ヒマリ。事は既に"生ぬるい"対処で済む次元を超えているのよ」
『……ですがっ、しかしっ!』
「……はっきりと言うわ、ヒマリ。……Divi:Sionの軍勢を殲滅した後。AL-1Sは"
『…………リオ!! あなたという人は…………っ!』
彼に似つかわしくないような大声。心の底から怒りを抱いているであろう声色。
……しかし、怯むわけにはいかない。
これはミレニアムを、キヴォトスを、そして
彼自身に何と言われようが、この計画を中断する訳にはいかない。
「ヒマリ。あなたをこの計画に加担させる訳にはいかない。現時点を以て。この件に対する協力要請を解除する。次の指示があるまで、
『……私がそれに従うとでも?』
「従わないなら、従わせるまでよ。……トキ以外にもエージェントは複数存在する。彼女達にあなたを拘束させる事は簡単よ」
『……っ! 分かりました、リオ。貴女がその気なら……。私も全力で貴女を止めます』
「……そう。ヒマリ。あなたは……あなただけは私を理解してくれると思っていたのだけど。……それも間違いだったようね」
もはや、これ以上話すことはない。
彼と反目した以上、彼にこれ以上の情報を与えるわけにはいかない。
「……全てが終わったら連絡するわ。それまでは大人しくしていなさい、ヒマリ」
『……! 待ちなさい、リオ! 話はまだ終わって―――』
彼の言葉に被せるように、一方的に告げる。
「…………身体に気をつけなさい、ヒマリ。あなたが傷ついたら、悲しむ人が沢山居るはずよ」
通話を切る。ツーツーツーといった電子音だけが、虚しく響いていた。
「なんだか思ったよりも曇ってきたようだね。せっかくドライブがてら海までやってきたというのに……。ふむ、雲行きが怪しい……という表現があるが、なるほど、良く
「セイアちゃん☆ なにお空に向かってブツブツ言ってるの? 不審者みたいだからやめたほうがいいと思うな☆」
「うぷ……。そ、それより、ミカさん……。ど、何処かに休める場所はございませんか……? こ、これ以上揺らされると……!」