明星ヒマリ男の娘概念   作:めのこん

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34.明星ヒマリと『お姫様抱っこ』


 

 

 リオとの通話を終えた私はすぐさま行動に移しました。

 

 既に深夜を回っていましたが、ミレニアムサイエンススクールへ向かっています。

 置きっぱなしにしてしまった車椅子を回収する為です。

 本来であれば翌日になってから取りに行けば良いと思っていたのですが……。事態の急変がそれを許しませんでした。

 

 もしあのままセーフハウスに滞在していたら、リオのエージェントとやらが私達を拘束すべくやってきていたかもしれません。

 万が一ということがあります。もし今、この段階で私達の身動きを封じられてしまえば……。

 アリスはリオの手によって「消し去られて」しまうでしょう。

 それだけは絶対に防がなくてはなりません。

 

 故にこのような深夜にも関わらず、学園に足を運んだのです。

 しかも、エイミに背負われたまま。

 

 

「あの(リオ)は本当に……! 0か1かしか無いのですか!? もう少し段階というものがあるでしょうに……!」

 

「部長、落ち着いて……」

 

「これが落ち着いていられるものですか……!」

 

「部長。あんまり暴れないで、動きづらいから」

 

 

 ぷんぷんと怒りの感情を隠すこともなく吐露します。

 エイミには申し訳ありませんが、この感情を抱えてなお、静かにしていろというのは土台無理な話です。

 

 静まり返った学園の敷地内に、鈴の音が鳴るような怒号が響き渡ります。

 エイミの背に乗せられ、夜の校舎を進む私。

 本来であればもっと早く到着できるはずでした。車を使って移動すれば、時計の針が24時を回る前にたどり着けたはずです。そうならなかったことにも、当然理由があります。

 

 

「まさか無人車両すら手配出来ないとは……。完全にリオの仕業ですね。ミレニアム中の交通網がストップしています。……おかげでエイミに余計な苦労を掛けさせてしまったではありませんか」

 

 

 タクシーやバスを含む交通サービスの全てが運休停止となっていました。

 非常事態宣言が為された際には、こういった措置が取られることもあります。

 しかし、情報統制が布かれたのはつい先程の筈。根回し済みだったとしても、あまりにも早い。

 

 あくまで予想ですが、こうなる可能性を考慮して予め準備していたに違いありません。

 "不可解な軍隊"が出現した際に、一般市民をミレニアムの都市圏から外に出さない為の措置でしょう。

 現状、ミレニアムサイエンススクール圏内が最も安全です。郊外に出てしまえば、いつあれらの機械が牙を剥くか分からないからです。

 

 ……相変わらず、危険を"未然に防ぐ"ことに関しては天才的な手腕だと言わざるを得ません。

 

 

「……ごめんなさい、エイミ。重かったでしょう?」

 

「私は別に気にしないけど。部長、軽いし。……っていうか、軽すぎ。ちゃんとご飯食べてる?」

 

「最近は立て込んでいましたからね。それに"入院"もしていましたし……。思えば病院食のようなものしか食べていませんでした。はぁ……。エイミの手料理が恋しいです」

 

「私の手料理って言っても、あんまり上手じゃなかったと思うんだけど……。割とインスタントで済ませることも多かったし」

 

「そんなことはありませんよ? 美味しかったと思いますが」

 

「……そっか。今度、料理の練習もしてみようかな」

 

「まぁ♪ それは楽しみですね。ふふ。天才美少女である私は味覚も超一流の筈ですから、味見の役割は任せてくださいね」

 

「自分で作る気は無いんだね。……まぁ、全然いいけど」

 

 

 軽口を叩きながら、校舎の敷地を進みます。

 夜の学園というものは、非日常感を味わえて中々ロマンチックだと思わなくもないのですが……。流石に全体的に暗すぎて、そんな感想すら吹き飛んでしまうものでした。

 

 

「真っ暗だね。いつもは深夜でもそこそこ明かりがついてるんだけど」

 

「そうですね。……箝口令の影響でしょうか?」

 

 

 外出禁止令は出されていませんが、自粛は促されています。

 周囲に"不可解な軍隊"が残存している可能性があるのですから、それも当然です。

 ミレニアムに似つかわしくない、明かりの消えた景色は、リオの持つ絶大な権力を表しているようにも思えました。

 

 

「部長、そろそろ着くよ」

 

「えぇ、分かりました。……あら、エンジニア部は明かりがついているのですね」

 

 

 工房は明かりが溢れ、周囲の地面を照らしています。

 もしかしたら無人の可能性も考慮していましたから、安心しました。

 

 もし仮に、リオの手がここまで入っていたら、私達は"詰み"だったでしょうね。

 

 少し前の出来事を思い出します。

 

 


 

 

 

 


 

 

「エイミ、非常に不味い事態になりました。……リオを止めなくてはなりません」

 

「……どういうこと?」

 

「リオがアリスを……。"人工冬眠(コールドスリープ)"させようとしています」

 

人工冬眠(コールドスリープ)……? そんなこと、出来るの?」

 

「可能です。……人体の冷凍と異なり、機械の身体の冷凍であれば、より簡単に行うことができます。有機生命体と異なり、細胞を破壊してしまう危険性が無い為です。更に、極低温下ではあらゆる機体性能(スペック)が低下しますから、ジャミングに必要な強度も大きく下がります。……この二つを駆使すれば、アリスさんを人工冬眠(コールドスリープ)に追い込むことは不可能ではありません」

 

「会長は……。そこまでやるんだね」

 

「……私も、それが合理的なやり方であることは理解しています。最短で安全を確保するのであれば、アリスさん一人を拘束するだけでミレニアムの安全が担保されますから。……ですが」

 

 

 しかし、私はこうも思います。

 

 

「私はアリスさんもまた、ミレニアムの生徒だと思っています。いかに出自が特殊で、他の人とは異なる身体を持っていたとしてもです。……私は"全知"として、そしてあの子の先輩として、彼女(アリス)の抱える問題を解決し、再び元の学園生活に戻ってほしいと強く願っています」

 

 

そして、もう一人。私には守らなければならない"生徒"がいます。

 

 

「守らなくてはならないのは……リオも同じです。このやり方は間違っています。例えアリスさんを排除し、ミレニアムの安全を確保出来たとしても。……あとに残るのはアリスさんを消したという"罪"だけが残ります。きっとリオは……その"罪"を一人で背負うつもりなのでしょう。……私は、それが……」

 

「部長……?」

 

「エイミ。私は……怖いのです。リオは……あれでも私の大切な友人で、長い時間を共に過ごしてきた"幼馴染"なんです。いかに仲違いをし、袂を分かつことになってしまったとしても。それでも彼女一人に全ての責任を被せて、見て見ぬふりなんて……絶対に出来ません」

 

 

 そう。これもまた、私の偽らざる本心。

 

 

「きっとリオはこう考えています。"相手が機械だから、排除しても良い"と。ミレニアムに降りかかる火の粉を振り払う為、自らの手を汚してでも排さなければならない、と。そう思っているはずです。そうやってミレニアムに災禍を齎す存在を片っ端からその手で摘み取っていくのでしょう。……ですが」

 

 

 しかし、それでは。いつか取り返しのつかないことが起きてしまうでしょう。

 

 

「今回の件が上手くいったとして。……次に現れた災禍の元凶が"人"だったら? "人々"だったら? ……"生徒たち"だったら? リオは、それでも手を下し続けるでしょう。……"合理"の名の元に」

 

 

 それは、もはや合理性という名の(けだもの)にほかなりません。

 罪を喰らい、自らの傷ついた手足をも喰らう、怪物。

 後に残るのは……傷つき果てた、己の骸のみ。

 

 

「ですが、リオだって人間です。罪の意識を感じないはずがありません。むしろ、人一倍責任感の強い彼女のことです。全てが終わった後は、自らが罪を背負い、罰を受ければいい、とでも思っているのかもしれません」

 

 

 ですが、それでは。そんなのはあまりにも。

 

 

「私は……。リオが、自らの中にある罪の意識に押しつぶされて、二度と立ち上がれない程、傷ついてしまうのが……。それが怖いのです」

 

 

 幾度となく対立してきた私達ですが、それでも……リオをそんな辛い目に合わせたくはありません。

 そんなことをする為に、私達はミレニアムに来た訳では無かったはずです。

 

 

「ですから、エイミ……。どうか力を貸してくれませんか? 私は……。私はリオのやり方が何もかも間違っているとは言いません。しかし、もっと良いやり方があるのでは、と思うのです。困難で、厳しい道のりになるかもしれませんが……。それでもより良い"未来"があるのでは、と考えずにはいられないのです」

 

「部長……。うん、私もそう思う。……会長のやり方は間違ってないかもしれないけど、多分"最適解"じゃない。時間がないから、そのやり方を選んでるだけ。……私も、時間がないときは多少の傷は無視して進むから、似た者同士なのかもしれないけど」

 

「……ふふっ、似た者同士というのは、案外そうかもしれませんね」

 

 

 どちらも取り繕うのが上手で、一人で抱え込んで、その重さに押し潰されそうになって。

 ……ですが、私はエイミのその"重み"も、共に二人で分かち合うと誓いましたから。

 

 リオ。

 ……あなたもまた、私が守るべき生徒の一人なんです。

 

 あなたが自らの意思で破滅へと向かおうとするのなら。

 私は……。"全知"として、あなたを止めてみせます。

 

 それが私と貴女の間で交わした……。『約束(オルコス)』でしたからね。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「部長、一旦下ろすね。カードキーの認証が必要だから」

 

「えぇ、分かりました」

 

 

 学園内の主要な施設に入るには、学生証に備えられたカードキーによる認証が必要になります。

 昼間であればそういった手間は不要なのですが、深夜ですから。セキュリティ上の都合で、生徒以外の人間は立ち入り禁止になります。その為のカードキーです。

 

 両手が塞がっている状態では流石に無理がありますので、そっと地面に下ろしてもらいました。

 

 

「認証は大丈夫みたい。情報統制が敷かれてるから、もしかしたら駄目かもって思ったけど」

 

「リオも流石に私達にだけ構っている訳にはいかないでしょう。むしろ、"不可解な軍隊"への対処に最も意識を割かなければならない筈です」

 

 

 ひとまず、学園内の主要な施設は利用可能なことが分かりました。

 あとは学園内の通路を通り、エンジニア部の工房へと入り、車椅子を回収するだけ。

 

 再びエイミに背負ってもらい、中に入ろうと思ったとき。

 ふと、私は"良いこと"を思いつきました。

 

 

「エイミ? これから先もカードキーが必要になる場所が複数あります。その度にこうして下ろしてもらっては面倒ですから……。私を"前"に持つのはいかがでしょうか?」

 

「前に持つ?」

 

「はい。両腕でこう……。はい、そうです。そんな感じに。膝の裏と背中に手を回して頂いて……」

 

 

 はい、出来ました。

 

 "お姫様抱っこ"の完成です!

 

 

「これなら私がカードキーを通せば良いですから、とても効率的です、素晴らしいと思いませんか?」

 

「いや、部長が良いなら、私は別に構わないけど……。ちょっと恥ずかしいな、これ」

 

 

 ふふ、実はエイミにこうしてもらうのが夢だったのですよね。

 今まで触れ合い(スキンシップ)を避けてきた私ですが、エイミとは既に恋人になったのですから。

 このような触れ合いをしても、誰にも文句は言われない筈です。

 ぱっと見では女性同士ですから。女の子同士のスキンシップだと思えば、違和感など欠片も存在しないはず。

 

 それにしても、こうしてお姫様抱っこをしてもらうのは……なぜか心がときめいてしまいます。

 

 限りなく近く、彼女の側で、彼女に包まれながら運ばれるという状況(シチュエーション)

 恋愛漫画の中ではしばしば見かけた光景ですが、実際に体験してみると……中々良いではありませんか。

 強いて言えば……男女の位置(ポジション)が逆かもしれませんが……。些細なことです、気にしない方向で行きましょう。

 

 決して私を落とさないように、強く、しかし触れる手つきは優しく、いたわるように……。

 大事にされている、という感じがひしひしと伝わってきます。エイミのこういった細やかな気遣いが、愛情が、私の心を掴んで離さないのでしょうね。

 

 

「まぁ部長が良いなら、それでいいや」

 

「えぇ、ではエンジニア部の工房へ向かいましょうか、エイミ」

 

 

 


 

 

 

「こんなのぜったいおかしいー!」

 

「セミナーの横暴をゆるすなー!」

 

「そ、そうだそうだー!」

 

 

 エンジニア部の工房の扉を開いた瞬間、中から大声が聞こえてきました。

 ここの方々は夜を徹してメンテナンス作業や開発に勤しんでいる事もあるので、そのうちの誰かの声だと、最初は思ってしまいました。

 

 しかし、先程の大声の主に心当たりがあったものですから。

 それの意味するところを知って、安堵します。

 

 

「モモイさん達? の声ですよね? 今のは」

 

「そうみたいだね。……というか、結構人が居るみたい?」

 

 

 辺りの様子を窺うと、とても深夜とは思えない程の人だかりが出来ていました。

 普段から盛況な工房ですが、流石にこの時間にこれだけの部員が作業しているとも思えません。

 

 それに疑問を感じていると、見知った人影が目に入ります。

 

 

「あら、ユウカ?」

 

「……え? あ、ヒマリ先輩。こんばんは。どうしたんですか? こんな夜更けに。……というか、なぜお姫様抱っこ……?」

 

「ふふ、どうですか? 華麗なる美少女に相応しい登場の仕方だと思いません?」

 

「え、何? まさかそういう趣向(プレイ)……? 和泉元さん、大変じゃない? それ」

 

「気にしないでいいよ。部長に言われてやってるだけだから」

 

「そ、そう……。…………次の予約(お姉ちゃん屋)はコレで行くのもアリね…………

 

「? 何か言いましたか、ユウカ?」

 

「あ、いえっ! なんでもありません」

 

「そ、そうですか? ……それにしても、この人だかりは一体……?」

 

「あー……。えっと、その。実は……。リオ会長のことで、あの子達がすごく怒ってて」

 

「あの子達……。あぁ、なるほど」

 

 

 ユウカの指差した先には、工房の端に座り込み、何やら抗議をしている3人の姿。

 間違えようもありません。ゲーム開発部の面々です。

 

 

「ヒマリ先輩、アリスちゃんの件、聞きました?」

 

「……えぇ、ある程度は」

 

「私、寝耳に水で。……まさかアリスちゃんが"退学"だなんて」

 

「あぁ、そちらの方で……。……それ以外に何か聞いたりはしていませんか?」

 

「いえ、それが何も……。少し前に、会長からセミナーに電子書類が送られてきたんです。そこにアリスちゃんの退学届けがあって……。どういうことか事情を聞こうと思ったんですけど、会長と連絡が取れないんです。ただ、何かしらのデータを回収しに来たのか、一度セミナーに立ち寄った形跡はあったんですけど……」

 

「なるほど……」

 

「一応、私の所で書類を止めてるので、正式に退学が受理された訳ではないんです。ですが、会長の電子捺印が捺されているので、そう長くは持ちません。このままだと本当にアリスちゃんは退学になってしまいます。何かの間違いじゃないかって思って、事情を聞きにゲーム開発部を探してたら……ここにたどり着いて、あんなことに」

 

「ふむ、そうだったのですね」

 

 

 どうやらリオはセミナーに対しても本当の目的を告げていないようです。

 アリスを退学にする、という事務処理だけ行ったのでしょう。

 

 ある意味では当然かもしれません。生徒一人を"冷凍刑"に処するなんてことは、いかにミレニアムの最高権力を握る彼女でも、一人で決定できることではありません。

 

 いえ、むしろキヴォトスにおいて公的な力を用いてそのような刑罰を与えることは事実上不可能です。学園ごとの自治権が大きく、犯罪に対する刑罰、それを与える裁量も認められてはおりますが、それでも"終身刑"に等しい刑罰を単独の自治区だけで行うことは出来ません。

 

 必ず連邦生徒会、もしくはヴァルキューレ警察学校との連名が欠かせません。

 リオ一人の意思で、アリスを永久に拘束するような行為は、法的には不可能なのです。

 

 ユウカはぐったりと肩を落とし、大きな溜息を吐きます。

 表情からも疲れが見て取れます。少しばかり隈がある所を見るに、激務に追われていたのでしょう。

 

 

「今日一日、ずっと"例の事件"の対応に追われっぱなしで……。あれについては、私も何がなんだか分かってないんです。あの子達は会長に会わせろって言うけど、当のリオ会長は行方を晦ませてるし」

 

「……なるほど、ユウカも大変ですね。セミナーとしては両者の板挟みになってしまう形だったでしょうに。……分かりました。あの子達の事ですが、一度、私に任せて頂けませんか?」

 

「お願いしてもいいですか? ……実は、まだセミナーの仕事が山程残ってて。今日は徹夜になりそうです。ノアも生徒会室に缶詰になってて……。早く手伝いにいってあげないと」

 

「それは……。ご苦労さまです。大変でしょうけれど、あまり根を詰めすぎないよう、適度に休憩を取って下さいね」

 

「ありがとうございます、ヒマリ先輩。では、あの子達のことお願いします」

 

 

 そう行って、ユウカは去っていきました。

 

 

「エイミ、あの子達の所へ着いたら、私を一度下ろして下さい。その間にエイミは、私の車椅子を探して頂ければ」

 

「うん、分かった」

 

 

 そして、ゲーム開発部の御三方の元へと向かいます。

 

 


 




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