明星ヒマリ男の娘概念   作:めのこん

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39.明星ヒマリと『エリドゥ決戦』(1)


 

 

 おはようございます、皆様。

 儚げな微笑み、清楚な美貌、病弱な体と、過剰なほどの天才性を持つミレニアムの高嶺の花。

 超天才清楚系病弱美少女ハッカー、明星ヒマリです。

 

 ふふっ、本日もよろしくおねがいしますね♪

 

 

 ……え? なんだか機嫌が良さそう?

 …………そ、そう見えますか? 変ですね……。何もおかしい所は無かったと思うのですが。

 

 

 『先ほどの記録は何処へやった?』 って?

 

 

 ……な、なぜそのことを知っているのですか!?

 あ、あれは"私達だけの秘密"にしようと思って、誰にも見つからないよう最奥に秘していたというのにっ。

 ま、まさかハッキングを? いえ、しかし……。私の防壁(セキュリティ)を突破できる者など、世界中を探しても何処にも……。

 

 い、いえ、その……。決してやましい行為をした訳ではないのです。

 ただ、男女の関係として相応しい"契り"を交わしただけで……。

 み、皆様が想像しているような事は何もありませんでしたよ? ええ。

 

 こ、この清楚が服を着て歩いていると言っても過言ではない私が、そのような淫らな行為をする訳ないじゃありませんか。

 ですから、この話はここでおしまいです。……妙な勘繰りも禁止ですよ。

 いいですね?

 

 

 こほん。

 さて、気を取り直して……。

 

 

 

 現在、私達"勇者アリス救出(レスキュー)隊"*1は、エイミの運転するピックアップトラックに揺られ、ミレニアム外郭を走行中です。

 舗装されているとはいえ、ミレニアム中心部と比べるとややガタつく路面からの衝撃が座席を通して、この清楚なお尻に伝わってきます。

 

 広々かつゆったりとした前座席に腰掛けながら、ちらりと後部座席を見ます。

 そこにはぎゅうぎゅう詰めになったチーちゃんとゲーム開発部の方々の姿が。

 

 

「み、ミドリ! もうちょっとそっち詰めてよ~! 狭いってば!」

 

「お姉ちゃんこそ、足広げるのやめなよ。ただでさえ狭いんだから」

 

「ふ、二人とも、わたしを挟んで喧嘩しないで……」

 

「あなた達、少し静かにして。妨害電波(ジャミング)のノイズが聞こえないから」

 

「ご、ごめんなさい、チヒロ先輩……」

 

 

 チーちゃんに一喝され、少しばかり場が落ち着きました。

 三人用のシートに四人が乗っているのですから、さぞ窮屈でしょう。

 しかし、こればかりは致し方ないことなのです。申し訳なく思いつつも、しばしの間、我慢してもらうしかありません。

 

 このピックアップトラックはエンジニア部のとある部員が個人的に保有していたものです。

 何でも、趣味のキャンプに使う為に中古で購入していたものらしく、どこか古めかしいフォルムと、力強い排気音からは、その子の持つ趣味性を強く感じ取れますね。

 

 さて、この車両を借り受けたのには理由があります。

 それは……。

 

 

「ごめんなさい、少し窮屈かもしれませんが……。リオの元に向かうのであれば、GPSなどの電子機器類を搭載していない、こういった旧式(ロートル)な車両の方が好都合でして。前座席に乗ってしまっている私が言うのも何ですが、今しばらく我慢して頂ければと……」

 

 

 ミレニアムのほぼ全ての車両には走行補助のAIや、GPSによるナビゲーションシステムが搭載されています。

 普段であれば便利かつ、もはや私達の生活からは切り離せない程に一般化した技術ではありますが……。それは逆に、リオに対して何もかもが筒抜けになってしまうことを意味します。

 

 こうしてエリドゥに向かう車両があれば、まず間違いなくAMASによる検問を受けるでしょう。

 どころか、エリドゥ周辺に向かおうとした時点でGPSや車両AI等に介入され、物理的に"辿り着けない"ようにされている可能性があります。

 

 事実、この周辺に車両が通った痕跡はほとんどありません。リオが開発したAMAS等が運用する専用車両だけが通行可能な"領域"だと推測出来ます。

 

 ですから、あえてこういった旧式の車両を用いて、地図を見ながら進むという前時代的なやり方でしか、第三者はあの都市に近づくことが出来ないのです。

 きっと、こうしてエリドゥの機密は守られてきたのでしょう。

 

 私やヴェリタスのようなハッカーであれば、それらの妨害を無効化できるかもしれません。

 しかし、無効化されたという事実が向こう側に伝わった時点で、既にこちらの存在はリオにバレてしまいますから。

 大人数で押し寄せる訳にも行きません。近づいた瞬間、こちらの存在が露見してしまいます。

 

 故に、此度の作戦は少数精鋭で行う運びとなりました。

 私達の存在がバレないよう、隠密重視の作戦を行うことになったのです。

 

 ぐるり、とエイミがハンドルを回します。

 この先、複雑なルートを超えれば、いよいよ"要塞都市"が見えてくる筈です。

 

 

「エイミ、まもなく"エリドゥ"に到着するはずです」

 

「分かった。作戦通り、都市の入口で下ろすね」

 

 

 まがりくねった道を抜けると、いよいよ、その壮観な景色が姿を現します。

 

 

 

 


 

 

- 要塞都市エリドゥ 外郭 -

 

 

 トラックを止め、車両の荷台から車椅子や各種荷物等をエイミが下ろしている最中。

 チーちゃんは停車中の車が発見されないよう、偽装工作を行っています。

 バタン、と車のドアを閉め、周囲を見渡して、一言。

 

 

「うわっ……!? すっっっっっっご……!? なにこれ、こんな大きい街がミレニアムの側にあったの!?」

 

 

 トラックを降りて一言目に、モモイさんがそう零しました。

 他の方々も同様なようです。あまりにも巨大なその都市の様相に驚きを隠せていません。

 

 

「すごい……。まるでSFの世界みたい……!」

 

「ミレニアムのビル群も結構大きかったけど……これはそれ以上だよね」

 

「えぇ。……ここが"要塞都市 エリドゥ"。リオが作り上げた、史上最強の防衛都市です」

 

 

 高く聳え立つビル群。夕日差す光の中でも輝きを失うことのない、地面を照らす人工の照明。

 理路整然と並べられた、均一な形の道路。立ち並ぶ防衛機構の数々。

 

 まさにこの場所は"人類の英知の結晶"でしょう。

 現代で成し遂げることが出来る、あらゆる技術の粋を集めた、究極の要塞都市です。

 

 まだここは外郭で、都市の中に入っていないにも関わらず。

 一際目立つ、高く聳え立つ塔を指さして、ミドリさんが言い放ちました。

 

 

「ねぇ、見て、お姉ちゃん。あの一番大きい塔みたいなやつ。……RPGだったら、絶対あそこにラスボスいるよね」

 

「ほんとだ。明らかにボスが居る感じがするよ! ねぇ、ヒマリ先輩。もしかしてアリスって、あそこに閉じ込められてるんじゃ……!」

 

「……ご明察ですね。恐らくそうだと思います。あの場所がこの都市の中枢である"セントラルタワー"です。この都市機能をコントロールすべく建造された、まさに心臓部と言えるでしょう。……会長はあの塔に居ると思われますから、アリスさんもきっと……あそこに居るのでしょうね」

 

「そ、そうなんですか……? で、でも。あんな大きな建物に忍び込むのって、すごく難しいんじゃ」

 

「えぇ。なので、ハッキングを駆使して進もうと思います。チーちゃんと二人で力を合わせれば、監視カメラを含む全ての監視装置の目を欺くことも可能でしょう。仮に、もしAMASなどの機械類と戦闘になってしまったら、エイミとゲーム開発部の三人で対処して頂ければ、と思います」

 

「うん! 任せといてよ! 武器も弾薬も、トラックに沢山積んできたから! これだけあれば"10年"は戦えるね!」

 

「10年は流石に無理だよ、お姉ちゃん」

 

 

 各々の意気込みとやる気を発露している御三方。

 それを尻目に、チーちゃんが小さな声で私に耳打ちをして来ました。

 

 

「……ねぇ、ヒマリ。あなた、随分この都市について詳しいけど。……まさか」

 

「……ごめんなさい。知っていました。……といっても、気付いたのはつい最近ですが」

 

 

 ……やはり、チーちゃんは感づいてしまったようですね。

 この都市が"どうやって作られたのか"を。

 

 

「この規模の都市を個人で作り上げるのは不可能。……なら、自ずと会長が"しでかしたこと"に見当がつくんだけど」

 

「……チーちゃんの予想で、合っていますよ。アリスさんを救出するのも目的ですが……。もう一つ。私は会長(リオ)の暴走を止める為に、ここへ来たのです」

 

「そっか。……分かった。今は何も聞かない。アリスを救出するのが最優先だもんね。……ただ、後で詳しく話は聞かせてもらうから」

 

「えぇ。……ありがとうございます、チーちゃん。あなたという得難い友人を得たからこそ、私はこの場に来られたのです。……この恩は、いつか必ず、返しますから」

 

「やめてよ。……そういう仰々しい言い方はしなくていいから。私はヴェリタス副部長で、あなたは部長。目的は同じでしょ? ……真理の探究者(ヴェリタス)としての努めを果たす。……ただ、それだけだから」

 

「えぇ。そうでしたね。……では、行きましょうか。会長(リオ)の暴走を止めに」

 

 

 そして、私達は各々が持ちうる限りの武装を持ち、エリドゥの都市部へ移動を始めました。

 

 


 

 

「……ねぇっ! あれ、あれ見てっ!」

 

「どうされましたか? モモイさん」

 

 

 外郭を進んでいる最中、急にモモイさんが指を指して大きな声を上げました。

 何事か、と思い。その指差す先を目を凝らしてよく見てみると。

 

 

「……戦闘中でしょうか? あの爆発音は……。それに、あの機械類は、まさか」

 

 

 かなり距離が離れていましたが、見間違える筈がありません。

 生物的で繋ぎ目の無い、特徴的なフォルム。

 此度の事件の、その元凶となった、私達と敵対する存在。

 

 

「Divi:Sion……!? しかも、あんなに……!?」

 

 

 ユズさんが目を見開いて驚いています。

 それもその筈です。目の前の光景は、私ですら目を疑うようなものでした。

 

 数百体のDivi:Sionの軍勢が、エリドゥの外壁に向かって突撃しています。

 耳を凝らして聞くと、銃声も聞こえます。そして、所々で鳴り響く爆発音も。

 明らかに戦闘中です。これがミレニアムの校舎内であれば、少しの被害では済まされない程の、大規模な戦闘。

 

 しかし、あれだけの数のDivi:Sionが押し寄せているというのに、エリドゥの外壁に取り付いた個体は一つたりともありませんでした。

 なぜなら、それは。

 

 

「あ、あの、人……。人みたいなのが、戦ってます!」

 

「えっ? ど、どれ? 私には何も見えないよー!」

 

「私にも見えないけど……。人って、どれ?」

 

「ユズちゃん、動体視力がすごいから……。この距離だと私にも全然見えないや」

 

「エイミ。双眼鏡を貸して頂けませんか?」

 

「うん。はい、これ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 エイミから双眼鏡を受け取り、詳しく様子を窺います。

 

 Divi:Sionの軍勢が襲い来る中、一つの小さな影が高速で動いているのが分かりました。

 それは、人というよりもむしろ……人型機械(ロボット)のシルエットに近く。

 ブースターを駆使して縦横無尽に駆けては、まるで紙束をナイフで割くかの如き勢いで、周囲のDivi:Sionを木っ端微塵に粉砕していきます。

 

 機械を"纏う"ように戦うそれは、私の知る"ある人物"で、間違いないようです。

 

 

「飛鳥馬トキ……。リオのエージェントですね、戦っているのは」

 

「トキ……って。もしかして、アリスを攫っていった、あのメイドの人?」

 

「えっ!? そうなの!?」

 

「で、でもあの時の格好とは全然違うような。なんか、ロボットみたいになってるよ……?」

 

 

 ユズさんが疑問に思うのも無理はありません。彼女にとっては未知の機械でしょうから。

 私の知識上に存在するデータから、こう表現するのが妥当だと感じ、それを出力します。

 

 

強化外骨格(パワードスーツ)……でしょうね。実用化された例は聞いたことがありませんでしたが……。恐らく会長(リオ)が作り上げたものでしょう。私も見たことがありません。……それにしても、凄まじい火力ですね。周りのDivi:Sionがまるで玩具のように吹き飛んでいきます」

 

「パワードスーツ!? な、なにそれ! もう完全にSFの世界じゃん! 会長ってそんなものまで作れるの!?」

 

「えぇ。……悔しいのですが、ハードウェア面においては、リオは私よりも数段上の天才だと認めざるを得ません。あれだけの性能を誇るスーツを既に実用可能な状態で配備しているなんて……」

 

「……どうする、部長。あれと戦う? それとも、手伝いに行った方がいい?」

 

 

 エイミが、ちらりと私の表情を窺うように問いかけてきました。

 しかし、きっぱりと断ります。

 

 

「いえ。あれ(トキ)と戦闘になるのは避けたい所です。それに、この作戦が発覚する事も。Divi:Sionの軍勢を相手取っているのですから、それの邪魔をする訳にもいきません。もしここでトキと戦闘になってしまえば……。この要塞都市に大量のDivi:Sionが流入する事態を引き起こしかねません。ひとまずここは、迂回し、別のルートから都市への侵入経路を探りましょう」

 

「う、うん。分かった。気づかれないように、そーっと離れよう……」

 

 

 抜き足差し足で、モモイさん達が移動を始めます。

 ここで足音を気にしても、特に意味は無いのですが……。

 彼女達なりの"隠密行動"なのでしょう。特に言及すること無く、その場を後にしました。

 

 

 


 

 

- 要塞都市エリドゥ セントラルタワー前 -

 

 

「なんか、案外あっさり進めたね……?」

 

 

 エリドゥ外郭から都市内に侵入し、ビルとビルの合間を縫うように進んでいる中、ユズさんがそう零します。

 

 ここまでは、全くの順調そのもの。

 AMASと戦闘になることもなく、監視装置は全て私とチーちゃんでハッキングし、無力化。

 警報の一つが鳴ることすらなく、セントラルタワーの側まで近づくことが出来ました。

 

 ある意味、拍子抜けです。

 リオのことですから、もっと厳重な警備を敷いていると思っていたのですが。

 

 

「というか、ヒマリ先輩とチヒロ先輩の性能(スペック)が高すぎるだけなんじゃ……?」

 

「だ、だよね? 開かない扉は秒で開くし、監視カメラは全部無効化するし。……こんなのステルスゲーだったら不正行為(チート)もいいとこだよね?」

 

「ふふ、まぁ、今は手を抜くような状況ではありませんから。大人げないかもしれませんが、私も"全力"で挑ませて頂いてますよ」

 

「そこそこセキュリティは硬いけど……。あくまで"そこそこ"だね。ヒマリの作った防壁(セキュリティ)と比べると、数段落ちる。この程度なら、セントラルタワーも安全に突破出来るかもね」

 

 

 希望的観測かもしれませんが、事実としてそうでした。

 

 リオの電子戦能力はミレニアムでも屈指のものです。

 ヴェリタスですら、個々人では一筋縄では行かないでしょう。

 いえ、むしろ複数人相手でようやく"いい勝負"になる可能性すらあります。それほどまでに、リオという女は多才で、天才の名に相応しい頭脳を保有しているのです。

 

 しかし、私とチーちゃんのタッグの前には、あまりに分が悪いと言わざるを得ません。

 2対1の時点でこちらが有利なのに、加えてこちらには、この私。"全知"が居るのですから。

 

 残念ながら、この組み合わせの前ではあらゆる防壁は無意味です。

 ミレニアム、いえ、キヴォトスでも屈指のハッカー2人を相手にしているのですから、いくらリオと言えども抗うことすら難しいでしょう。

 

 その言葉に安心したのか、モモイさんが笑みを浮かべました。

 安全の確認された、セントラルタワー入口へ向けて歩みを進めます。

 

 

「なーんだ! 要塞って聞いたからすごい敵が居るんだろうなーって思ってたけど。案外簡単(イージー)なんだね! この勢いのまま、すぐにアリスも助けられちゃうんじゃない?」

 

 

 と、楽観的な言葉を口にした瞬間。

 

 ドシン! と。何かが落下してきたような音が、周囲に響き渡りました。

 

 

「……お姉ちゃん、それ、フラグ」

 

「な、なに? 今の音……!?」

 

 

 ユズさんが周囲をキョロキョロと見渡します。

 しかし、その必要はありませんでした。

 

 セントラルタワーの前。私達が向かうべき先に"ソレ"が現れたからです。

 

 

「……あ、あれは……まさかっ!?」

 

「―――知っているの? ヒマリ」

 

 

 チーちゃんが困惑した表情で、こちらの様子を伺っています。

 

 えぇ、私はこれを知っています。いえ、見たことがある、と言うべきでしょうか。

 

 

 

 極めて独創的かつ前衛的(アバンギャルド)な、そのフォルム。

 小学生の工作のような頭部に、ミレニアムの校章がでかでかと描かれたボディ。

 正気を疑うようなデザイン性。合理の為に何か大切なものを失ってしまった、悲しき機械(けもの)

 

 ぐるぐると頭部が回転し、停止と同時に、その眼が赤く光った瞬間。

 耐えきれずに、私はその名を口にしてしまいました。

 

 

「あれは――――――。"アバンギャルド君"!?

 

「うわあっ!?ダサ……」

 

「確かに、あんまり可愛いデザインじゃないけど……」

 

 

 ザザー、と。アバンギャルド君に取り付けられていたスピーカーからノイズ混じりの声が聞こえてきます。

 

 

『……見た目は、関係ないわ』

 

「……! リオっ!」

 

 

 彼女の声が聞こえてきた瞬間、警戒度を高めます。

 これがこの場に投入されたということは……。私達の行動が既に知られているということだからです。

 

 

『ヒマリ。まさかあなたが此処に来てしまうなんて。……これを避ける為に、自宅謹慎を命じていたのだけれど。……エイミ。どうやら貴女も、()()の味方をしているのね』

 

「……うん。ごめん、会長。私は……部長のエージェントだから。部長の命令に従うよ」

 

『そう。……なら、もう話すことは無いわ。私の計画の邪魔になるなら……貴女も排除する』

 

 

 そう言った瞬間、アバンギャルド君の様子が激変します。

 四本の腕が別々に稼働し、それぞれの武装が取り出され、こちらへと銃口が向きます。

 

 

「リオ。この場に私達が来た時点で、貴女の負けです。……ここで戦っても何にもなりません。大人しく投降して下さい」

 

『それは出来ない相談ね。私には為すべき"義務"がある。それを達成するまで、あなた達をここに近づかせる訳にはいかない』

 

 

 義務。即ち、天童アリスの"排除"。

 もしそれを実行されてしまったら……取り返しのつかない事態になるでしょう。

 ですから、私は一歩も引きません。

 

 

『下がりなさい、ヒマリ。怪我をするわよ』

 

「……部長、下がって。見た感じだけど、あのロボット……武装がかなり強い。流れ弾が当たったら、不味いよ」

 

「……いいえ、引きません。私は……リオを止める為に此処に来たんです」

 

 

 エイミに庇われながら、私は機械の向こうに居るであろうリオに、宣言しました。

 

 

「リオ。あなたを止めます。"全知"として。……そして、あなたの"友人"として。私が負うべき、責務を果たします。……このような玩具で、私を止められるとは思わないでくださいね?」

 

『……そう。……残念ね、ヒマリ。……私は、あなたを……。いえ、もう何を言っても遅いわね』

 

 

 そして、スピーカーからは最後の言葉が聞こえてきます。

 

 

『この場所を死守しなさい。……"アバンギャルド君 Type-B(バトルフォーム)" 発進』

 

 

 ブツリとスピーカーの音が途切れた瞬間、私は勢いよく背後へと引き寄せられました。

 

 

「ヒマリッ! 下がって!」

 

 

 チーちゃんの声です。勢いよく車椅子を引き、この場所から距離を取ろうとしてくれたのでしょう。

 次の瞬間、目の前の機械から銃弾の嵐が吹きすさびます。

 

 

「うわぁっ!? う、撃ってきた!?」

 

 

 間一髪の所で回避に成功したようです。銃弾はモモイさんの足元を掠めました。

 

 

「ど、どうしよう!? ヒマリ先輩!」

 

「仕方ありません。もはや隠密作戦は失敗です。……計画を変更します。

 ―――目の前の機械(ロボット)、"アバンギャルド君"を破壊して下さい!」

 

「―――了解」

 

 

 その命令を下した瞬間、エイミが勢いよく前方へと駆け出しました。

 至近距離での白兵戦。エイミが最も得意とする戦術です。

 

 彼女の持つ散弾銃(ショットガン)から火花が散ります。息もつかせぬ程の連続射撃です。

 Divi:Sionすら穴だらけになる程の高威力を誇るそれは、カテゴリが異なるとはいえ、同じ機械であるアバンギャルド君にも有効だと思われました。

 

 ―――しかし。

 

 

「……!? 効いてない?」

 

 

 散弾の尽くが四本のアームの内の一本が操るシールドに防がれ、有効打たり得ません。

 それどころか、信じられない程の速度で攻撃動作へと移り、エイミの居た場所へ向け、再び銃弾の嵐が降り注ぎます。

 

 

「エイミっ! 無事ですかっ!?」

 

「ッ! 平気! かすり傷!」

 

 

 何発か命中してしまったかに見えましたが、上手く回避出来ていたようです。

 私はほっと胸を撫で下ろし、状況を俯瞰して見るように努めます。

 

 

「……モモイさん、ミドリさん! 左右に散開し、移動しながら掃射して下さい! 回避優先で構いません、被弾をしないように!」

 

「わ、分かった!」

 

「や、やってみる……!」

 

 

 私の言葉を聞いた瞬間、双子らしいコンビネーションを以てして左右に散ります。

 そして、アサルトライフルからの掃射。挟み撃ちの形であれば、盾で防ぎ切ることは出来ないでしょう。

 しかし、これもまた不可解な方法で回避されました。

 

 

「う、うそぉっ!?」

 

「な、なにその動きっ!?」

 

 

 ぐるん、と。キャタピラーが回転し、身を捩るようにして回避行動を取っています。

 片方は盾で防ぎ、もう片方は機体動作のみで防いでいるのです。

 流石に驚きました。ここまでの性能を持つ機械は、AMASには存在しなかったからです。

 

 

「……ユズさん! グレネードを、足元へ! 機動力を奪って下さい!」

 

「わ、分かりました……っ!」

 

 

 ポンッ、と。ユズさんの持つグレネードランチャーから、弧を描くようにしてグレネードが発射されます。

 そしてつかの間の静寂の後、爆発。すかさず私は、次の指示を出します。

 

 

「エイミ! 履帯を狙って下さい! 回避行動を防いでしまえば、後は集中砲火で倒せる筈です!」

 

「了解。……リロード完了」

 

 

 煙幕の中へ向けて、水平射撃。エイミの散弾銃の発射音が響き渡ります。

 

 しかし、次の瞬間、驚嘆に値する光景が目の前に広がりました。

 びょいん、と。アバンギャルド君が"宙に舞った"のです。

 さながら、仕込まれたバネによって飛び上がる玩具のように。

 

 

「と、飛んだぁ!?」

 

「そ、そんなのアリ!?」

 

 

 モモイさんとミドリさんが唖然としています。

 それも当然です。あの巨体が真上に飛ぶなんて、誰が思うのでしょう?

 

 宙に浮いた巨体は、やがて重力の法則に従い、轟音を立てて着地します。

 そして、再び狂ったかのような銃弾の嵐が降り注ぎます。

 あまりの弾幕に攻撃に移ることが出来ません。エイミもゲーム開発部の三人も、防戦一方です。

 

 

「ま、待って!? このロボット、めちゃくちゃ強くない!?」

 

「み、見た目はダサいのに、すごい性能……!」

 

「あわわわ……! ど、どうすれば……!?」

 

 

 強い。純粋にそう思いました。ここまで高性能なロボットは、キヴォトスの歴史上存在しなかっただろうと、思ってしまう程に。

 

 これ一体で、ヴァルキューレ治安維持部隊百人分くらいの価値がありそうです。

 圧倒的な防御性能、凶悪極まる攻撃性能。そして最適な回避行動を選択する高度なAI。

 まさしく、リオの誇る最大戦力に思えました。真っ当な手段では、これを倒すことは難しいでしょう。

 

 ですから、私は……。いえ、私達は別の方向から、これを突破することを目指します。

 

 

「……エイミ! それにゲーム開発部の皆さん! 少しの間だけで良いです、時間を稼いで下さい! こちらでハッキング出来るかどうか、試してみます!」

 

「了解!」

 

「わ、分かった! ……で、でもなるべく早くして! か、火力が、火力が違いすぎるよ~!」

 

 

 遮蔽物に隠れ、弾幕と言っていい程の銃弾を防いでいます。

 少しの間であれば、耐えられるかもしれません。

 悲鳴を上げるモモイさんを尻目に、私はチーちゃんと共に端末を起動しました。

 

 

「チーちゃん。私はソフトウェア面の脆弱性が無いかどうかを探ります。チーちゃんはハードウェア面の弱点を探して下さい。どちらかに穴があれば、そちらから侵入する方針で行きましょう」

 

「分かった。一応、さっきから分析ツールは起動してあったから、すぐに解析に移れるよ」

 

「……ふふ、相変わらず頼りになる人ですね。では、行きましょう」

 

 

 そして、私達の"戦い"が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

アバンギャルド君 Type-B(バトルフォーム)

 

調月リオが開発した、拠点防衛用の戦闘用ロボット。

単騎運用前提で組み上げられたそれは、あらゆる外敵を排除する為に過剰なまでの性能(スペック)を誇っている。

 

4本の腕にそれぞれ"ガトリング"、"シールド"、"バズーカ"、"ライフル"を持っており、それぞれが独立して稼働する為、死角が存在しない。

 

また、とある"人物"によってAIが従来より強化されており、本来では機体負荷の都合で不可能だと思われる動作も可能となっており、それによって跳躍機能や不可解な回避機能までも搭載され、まさしく攻防一体、"私の考えた最強のロボット"を体現したかのような、圧倒的な強さを誇る。

 

 

*1
モモイが命名。




長いので分割します(n回目)

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