明星ヒマリ男の娘概念   作:めのこん

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43.早瀬ユウカと『査問会』


 

 

- ミレニアムサイエンススクール ミレニアムセンター内 議事ホール -

 

 

 

 円形に配置された議事ホールの壁には、冷たい光を放つホログラムの照明が浮かび、青白い反射が床を舐めるように揺れていた。

 中央の壇上には、まだ誰も座っていない長机が鎮座し、その上には分厚いデータパッドや資料束がきちんと並べられている。

 

 周囲の席では、生徒達が小声で意見を交わし、椅子の背もたれが軋む音や、タブレットを操作する指先の軽いタップ音が絶え間なく響く。

 背後の大型スクリーンには「査問会準備中」の文字が淡々と表示され、時折ノイズが走って淡い光の粒が宙に散った。

 

 わずかに漂う金属臭と消毒液の匂いが、場の緊張感を一層際立たせる。

 ホールの高い天井を伝って、換気装置の低い唸りが重く響き、参加者の視線は自然と壇上へと吸い寄せられていく。

 

 空気はまだ裁きの言葉を発していないのに、既に鋭く研ぎ澄まされ、冷たい水面のような張り詰めた静けさが、ゆっくりと広がっていた。

 

 私はその最前列。

 最もモニターの見やすい位置に座り、これから始まる"それ"を、まるで死刑宣告を待つ囚人のような気持ちで、僅かばかりの苛立ちと不安を抱えて、ただひたすらに待っていた。

 

 

「ユウカちゃん、大丈夫ですか?」

 

「っ! ……ノアか、びっくりさせないでよ」

 

「さっきから目の前で手を振っていたんですが……。一向に気づく気配が無かったので」

 

「そ、そうなの? ……ごめん、ちょっと考え事してて」

 

 

 考え事、なんて生易しいものではない。

 事態はもっと深刻。のっぴきならない状況、と言っても良いかもしれない。

 

 

「ついにこの日が来ちゃいましたね。……セミナーとして、準備はして来ましたが。……まだ不安ですか?」

 

「当たり前じゃない。……"会長"の査問会よ。何が起こるか分からない。まして連邦生徒会が直々に来るのよ? 緊張するなって方が無理あるわよ。……あー、胃が痛い……」

 

 

 

 

 あの"事件"から、およそ1ヶ月半が過ぎた。

 

 ミレニアムに突如として出現した謎の機械。それに伴った爆発事故。

 会長の手によって"箝口令"が敷かれ、更には情報統制まで行われたそれは、被害状況という意味では、さほど大きなものではなかった。

 

 セントラルエリアの一部施設が破損し、地面の一部が穴凹になった程度。

 人的被害も、現場に居合わせたごく少数の生徒が軽症を負ったのみで、大きな怪我もなく、情報統制の規模に対して、非常に軽微な損害だったと判断された。

 

 後に知った事だが、怪我をしたのがモモイやヒマリ先輩だと聞いた時は、あまりの衝撃に卒倒しそうになった。

 片や親しい後輩、片やミレニアム屈指の天才。どちらも私にとって重要な立ち位置を占める人。

 慌てて二人の様子を見に行った時には、既に事件は収束していた。

 

 尤も、ふたりとも当日中には回復し、モモイに至っては元気に動き回っていたけど。

 その様子を見て、心配して損した気分になったのは、私だけが知る事実でいい。

 

 

 ともかく。大多数の生徒にとってその事件は、よくある日常の中の一コマとして、静かに、大して目立つこともなく、一部の生徒が興味本位で"謎の機械"とやらを追い求めて遭難した、というニュースが流れた程度の、些細なもので終わるはずだった。

 

 

 しかし、そうはならなかった。

 

 

 

 

「それにしても、"要塞都市エリドゥ"ですか。……最近の会長は何やら裏でやっているな、と思っていましたが……。まさかこれほどの規模の都市を作り上げてしまうなんて」

 

 

 資料に目を移す。

 そこにはミレニアムすら凌ぐ程の、超巨大都市の全景が写されていた。

 

 曰く、"危機を未然に防ぐ為の防衛都市"。

 それはリオ会長が常日頃から述べている信条そのものであり、この都市はその在り方を体現しているようなものだと、そう感じられる。

 

 普通に考えれば、この都市の存在は良いことのように思える。

 しかし、私達にとってはそうではない。

 

 

「……これだけの規模の"横領"よ。正直、会長がどうなるかは……私にも想像がつかないわ」

 

 

 

 

 あの爆発事故の余波は、思わぬ場所からの誘爆を招いた。

 ミレニアムに出現した"謎の機械"を破壊する際に、エリドゥの存在が明らかとなったからだ。

 要塞都市に何らかの方法で機械達を誘導し、纏めて迎撃、殲滅したらしい。

 以後、"謎の機械"の出現報告は受けていない。恐らくミレニアム内に存在した個体は全て破壊された、というのが情報部の報告にあった。

 

 何はともあれ、大きな被害が生じなかったことは不幸中の幸いだったと思う。

 しかし、エリドゥという都市は未だにその全貌が見えていない。依然として調査が続いている。

 それは、いかにあの都市の規模が埒外であり、驚嘆に値するべき金額と労力を用いて建造されたのか、それを証明するものだった。

 

 エリドゥの存在は全ての生徒達が知っている訳ではない。

 これはセミナーを始めとするミレニアム上層部と、犯罪捜査に関わったヴァルキューレ生の一部、そして連邦生徒会の重役達のみ。

 

 それは同時に、セミナー会長"調月リオ"が天文学的な金額を横領していたという事実が、ミレニアム、ヴァルキューレ、そして連邦生徒会を巻き込む程に重大な事件であることを示唆していた。

 

 

 

「……一応、セミナーとしては全てを(つまび)らかに、明らかにする姿勢でいます。下手に隠蔽しようとしたら、余計に罪が重くなってしまうでしょうし」

 

「……そうね。私は……会長のやったことは悪いことだと思っているけど。でも、それで会長だけを差し出して、セミナーの立場を守ろうとするのは……何か、違う気がするのよ」

 

「そう、ですね……。私も複雑な気持ちを抱いてるんです。会長のしたことは……法に触れる行為ではあります。……ですが、それは私達生徒を守るためであって、決して私利私欲に塗れた行いでは無かったと、そう思っています」

 

 

 ノアは不安げに目を伏せながらも、そう述べた。

 私も似たような気持ちかもしれない。

 

 

「……ひとまず、セミナーとしては会長を糾弾することも、擁護することもしない。それでいいわね、ノア?」

 

「はい、ユウカちゃん。……あとは、連邦生徒会長代行がどのような判断をするか、ですね」

 

「えぇ。……できれば、穏当な処置を願いたいものだけど。……難しいかもしれないわね」

 

 

 ちらり、と腕時計に目を移す。

 まもなく"査問会"が始まる。

 

 始まってしまっては、もう後戻りは出来ない。

 

 私は己の緊張を解すべく、既に生ぬるくなってしまった清涼飲料水に口をつけた。

 普段であれば清涼感を齎してくれるであろうそれは。

 

 どうしてこんなに、と思ってしまう程に。

 苦々しい味だけが口の中に広がっていた。

 

 

 


 

 

 会議室の照明が、わずかに明るさを増した。

 中央に置かれた長机、その奥の壇上には錚々たる面子が揃っていた。

 

 連邦生徒会からは、統括室首席行政官、"七神リン"。

 財務室長、"扇喜アオイ"。調停室長、"岩櫃アユム"。

 

 ヴァルキューレ警察学校から、公安局 局長、"尾刃カンナ"。

 

 そしてミレニアムから、私。

 セミナー会計、"早瀬ユウカ"。及び、セミナー書紀、"生塩ノア"。

 

 これだけの顔ぶれが一同に介する事は、ミレニアムの歴史上、一度も無かった。

 先ほどまでざわめいていた生徒たちは、合図もないのに静まり返り、誰もが正面を注視する。

 

 キーン、と。マイクのノイズが室内に迸る。

 

 

 「これより、第一回ミレニアムサイエンススクール、"横領疑義"についての査問会を開始します」

 

 

 壇上の七神リンが、硬質な声で告げる。

 スクリーンに議題のタイトルが映し出され、その瞬間、室内の空気はさらにざわつき始める。

 

 

 

 

「―――静粛にお願いします」

 

 

 その一言で、しん、と糸が張り詰めたかのように静まり返る。

 

 

「まず、この査問会を始める前に、連邦生徒会長代行として、予め皆様にご説明を。本来、ミレニアムサイエンススクールにおける諸問題は、学園自治区の自治規則に基づき、学園内部で解決されるべきものでございます。しかし、今回の事案はその規模、影響範囲、そして関係各所への波及の可能性において、既存の枠組みを超えるものであると判断いたしました。そのため、特例として、我々『連邦生徒会』がこの査問会に立ち会うこととなりました。これより、事実の確認と是正のための審議を開始いたします」

 

 


 

 

 ノアと共に壇上に上がる。

 まずはミレニアムを、そしてセミナーを代表して、此度の件に対して、セミナーの態度を露わにしなくてはならない。

 

 じっと、張り付くような視線を感じる。しかし怯むわけにはいかない。

 少しだけ深呼吸をして、マイクの角度を合わせて。

 深く、長いお辞儀をして。私は語り始める。

 

 

「このたびは、ミレニアムサイエンススクールにおける、学園資金の用途に関し、不明瞭な点があるとの疑義が生じ、多くの皆さまにご心配とご迷惑をおかけしましたこと、心よりお詫び申し上げます。事実関係につきましては、誠心誠意ご説明させて頂きます」

 

 

 そこからは順序を追って説明していく。

 

 セミナー会長"調月リオ"が多額の資金の横領を行っていたこと。

 また、セミナーはその事実に気づかずにいたこと。

 横領された資金は、ミレニアム近郊に存在する"要塞都市エリドゥ"の建造の為に使われたこと。

 そして、要塞都市エリドゥについては、依然として調査中であること。

 

 現状、私達が知り得た情報全てを明かす。

 とはいえ、この情報は連邦生徒会もヴァルキューレも既に把握していることだ。

 こうして態々、査問会の場を設けてまで説明を行っているのは、形式上のものに過ぎない。

 

 つまり……。"調月リオ"の罪を明らかにする為の、儀式。

 

 

 再び、七神リンにマイクが戻る。ミレニアム側からの説明は全て終了した。

 ここからは、連邦生徒会の管轄だ。

 

 

「ありがとうございます。それでは、当事件における被疑者である、セミナー会長、調月リオへの査問を始めます。……では、係の方、お願い致します」

 

 

 そして、扉が開かれる。ヴァルキューレの生徒に連れられ、数カ月ぶりに会長がその姿を公の場に現した。

 

 

(会長…………)

 

 

 久方ぶりに見た会長は、私の記憶の中と寸分違わぬ姿だった。

 黒を基調としたスーツに身を包み、背筋を伸ばして歩むその姿は、此度の騒動の"犯人"であるという事実を一瞬忘れてしまうほどに、凛としていて、自信溢れる、いつもの"会長"の姿だった。その眼差しは……どこか諦観とも、覚悟とも取れるような強い意思を持っていて。

 

 やがて、彼女は中央の椅子に腰掛ける。

 誰もが皆、会長の一挙手一投足に目を向けていた。

 

 その視線には、奇異、同情、あるいは憤慨。様々な感情が入り混じっていることが、ここからでもよく見えた。

 

 

「では、尾刃局長。お願いします」

 

「はい」

 

 

 そして、公安局局長、尾刃カンナがマイクを手に取る。

 

 

「ヴァルキューレ警察学校、公安局局長、尾刃カンナです。当事件はミレニアムによる捜査協力の要請により、公安局の管轄となります。また、公安局が当事案の調査に携わっておりましたので、私から被疑者への査問を行わせて頂きたく思います」

 

 

 そして、スクリーンの映像が切り替わる。

 今回の疑惑における、調月リオの犯した"横領"についての資料が表示された。

 

 

「では、まずはじめに。セミナー会長、調月リオさん。確認いたします。あなたは、セミナーの資金を不正な手段により取得し、これを規定外の用途に使用した事実をお認めになりますか?」

 

「えぇ、認めるわ」

 

 

 ざわざわ、と。室内の空気が揺れる。

 特にミレニアム生の反響は大きいようだ、隣り合う生徒同士でヒソヒソと話し合い、会場は一気に騒音と雑音に包みこまれた。

 

 

「―――静粛に」

 

 

 再び、七神リンが場を制止する。次は静まるまでに数秒掛かったが、やがて再び静寂に包まれた。

 こほん、と。わざとらしく咳払いをして、尾刃カンナが次の質問へと移る。

 

 

「では、次に。あなたは、その横領行為が当自治区の法に違反し、かつ連邦生徒会の定める法にも違反することを認識した上で、なお実行したという事実をお認めになりますか?」

 

「えぇ、認める」

 

「つまり、全ての罪を認めるということですね?」

 

「その認識で間違いないわ。……全ては、私の独断による行い。この事件の責任は紛れもなく、私にのみある」

 

「そうですか。分かりました、ありがとうございます」

 

 

 会長は潔く、きっぱりと。何もかも罪を認めると、そう宣言した。

 その姿を見て私は、胸をぎゅっと締め付けられるかのような感覚を味わう。

 

 

(会長……。もしかして、セミナーへの疑いを晴らす為に、わざと……)

 

 

 この事件によって生じたセミナーへの不信感は拭いきれないものになるだろう。

 ただでさえ、ミレニアムにおけるセミナーの立場はあまり良くはない。

 

 元々、強権的な組織だ。加えて、各部活の活動資金額の決定権を握る立場にある。

 敵は多くとも、味方は少ない。苦労ばかり抱えるような、損な役割。

 それでも私がセミナーに居続けるのは、ひとえにそれが"必要な立場"であるが故。

 

 それを慮って、会長はあえて一切の弁明をせず、ただひたすらに罪を受け入れる事で、事態の収拾を図ろうとしているのではないか、と。私はそう考えた。

 

 もしそうだとしたら……。私は、会長の思いを踏みにじる訳にはいかない。

 ここで彼女を擁護するような発言をしてしまえば……会長がこれほどの覚悟を持ってこの場に臨んでくれたこと全てが無意味になる。

 

 

「ユウカちゃん……」

 

「……大丈夫。ちゃんとやるわ」

 

 

 そして、次に来るであろう質問に備える。

 会長への"尋問"は終わった。

 

 後は、私がそれを"認める"だけ。

 そうすれば、何もかもに終止符が打たれる。

 

 私が……会長の"幕を引く"。

 それが、ミレニアムの為になるのなら。

 

 

「では、当査問会における、セミナー代表者……早瀬ユウカさん。あなたもまた、先程の発言は事実であると、お認めになりますか?」

 

「…………はい。認めま――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「少々、お待ち頂けますか?」

 

 

 

 バタン、と。大きな音を立てて、議事ホールの扉が開け放たれた。

 何事かと見ると、そこには車椅子に腰掛けた、ミレニアムきっての"天才"の姿が。

 

 彼女は器用に車椅子を操作し、壇上へと移動する。

 警備の人間が慌てふためいているのが分かった。

 

 やがて、七神リンの元へとたどり着いた彼女は、軽く会釈した。

 

 

「あの……あなたは確か」

 

「えぇ。当事件の関係者です。多忙により、参加が遅れてしまいましたが……。私にも、この"査問会"に参加する権利があるはずです。発言をしても構いませんか?」

 

「……議事内容には含まれませんが……。良いでしょう。この場は全ての疑義を明らかにする為のもの。まだ議論されていない内容があるのでしたら、どうぞ」

 

 

 そして、マイクを手に取る。

 あー、あー、と。鈴の音の鳴るような声が、会場に響き渡って。

 そして、一言目を発する。

 

 

 

「こほん。では……。皆様、ごきげんよう。頭脳は一流、美貌は一級品。知性と美しさ、気品と可憐さ、そして少しの儚さを持つ、ミレニアムに咲く一輪の花。超天才清楚系病弱美少女ハッカー、明星ヒマリです。本日はよろしくお願い致します♪」

 

 

 と。彼女の得意とする長々とした挨拶を、このひりつくような場でぶちかまして。

 彼女を知らぬ者は皆、唖然としていた。

 同時に、彼女を知る者からすれば『出たわね……』と思ったことだろう。

 

 ミレニアムで彼女を知らない人間は、ほぼ存在しない。

 直接の関わりがなくとも、その名前だけは知っているだろう。

 

 ミレニアムの歴史上、三人しか存在しない"全知"の学位を持つ存在。

 叡智の結晶、奇跡の集合体、時代の最先端を征く、ミレニアムが誇る"天才"。

 

 まさしく、私の知る"明星ヒマリ"が、多くの"疑惑"が渦巻くこの場を支配していた。

 

 

 

「さて、実は此処へ向かう途中、リモートで査問会の内容は聞いておりました。なので、何処まで議論が進んだかは、既に私の把握している所でございます。ですので、端的に、私の方から、私の持つ"新たな事実"についての情報提供をさせて頂ければ、と思います」

 

 

 

「新たな事実……? そんな話、聞いていないが……?」

 

 

 局長である尾刃カンナが困惑した様子で、そう零した。

 側近と思われるヴァルキューレ生徒と、ヒソヒソと何やら会話をしている。

 

 やがて、会長が困惑した顔つきで、ヒマリ先輩に向かい合った。

 

 

「……ヒマリ? これは一体、どういうことかしら? ……私は、私の責任を―――」

 

「少し黙っていて下さい、リオ。言ったではありませんか。"一抜け"などさせませんよ、と」

 

 

 

 彼女たちは、そうやり取りをした。その内容について、指摘できる者はいない。

 やがて、壇上の彼女はハキハキと、聞き取りやすい口調で述べた。

 

 

「さて、今回の査問会の主題は、そこの会長(リオ)がセミナー資金を横領した事実についての確認。その意味合いがほぼ全てを占めていると認識しています。合っていますか?」

 

「……えぇ、間違いありません。当査問会は、その疑義についての議論、及び事実確認を目的として執り行われたと。ヴァルキューレはそう認識しております」

 

「なるほど。では、当査問会の意義は、もしかしたら失われてしまうかもしれませんね」

 

「……はい? あの、一体何を……?」

 

 

 査問会の意義が失われる? どういう意味なのだろう。

 困惑する公安局長。いや、この場に居る全員がそうだった。

 それは被疑者である会長ですらそうで、突如として降って湧いた疑問に、困惑を隠しきれていない。

 

 

 

 

 皆が同じ疑問に直面している。これから一体、何が始まるのだろう、と。

 故に、全員が彼女の一挙手一投足に注目していた。

 

 

 

 

 

 そして壇上の彼女は、明確にこう告げた。

 

 

 

 

 

「なぜなら、そこに居るセミナー会長"調月リオ"は…………。

 

 "横領"など、していないのですから」

 

 

 

 

 ざわざわざわっ!

 

 今日一番のどよめきが、会場中に響き渡る。

 誰も彼もが困惑を隠せず、また言葉を発さずには居られないようだった。

 

 事実、私ですらそうだった。あまりの衝撃的発言に、思わず隣に座るノアに語りかける。

 

 

「ちょ、ちょっと……ど、どういうこと? の、ノア、あなた何か知ってる?」

 

「い、いえ、私も聞いていません……。セミナーとしては、会長の罪を認める方針だった筈なのですが……」

 

「そ、そうよね? なら、ヒマリ先輩は一体何を……!?」

 

 

 カンカン、と。七神リンがテーブルに木槌代わりのマガジンストックを叩きつけ。

 

 

「静粛に、静粛に―――。 ……あなた達、少し静かにしなさいっ!」

 

 

 怒気を孕んだ声が木霊して、ようやく場が沈静化した。

 それを待っていたかの如く、彼女は得意の弁舌を用いて、説明を始めた。

 

 

「まず、"横領"の定義ですが、他人・公共のものを不法に自分のものとすること、もしくは、規定外のものに用いた場合、当てはまる。その認識で合っていますか?」

 

「えぇ。そうです。連邦法において、横領とは"不法領得の意思を実現しようとする行為が認められた場合"に適応される法です。此度の事案は、それに該当するものだったと、我々は認識していますが」

 

「えぇ。では……やはり会長の行った行為は"横領"ではありませんね。……なぜなら」

 

 

 彼女が端末を操作すると、スクリーンの映像が切り替わった。

 

 そこには、資金の流れが事細かに記載されていた。

 私達、セミナーやヴァルキューレが事前に用意していた資料ではない。

 

 

「これは"投資"だからです。不正な手段で金銭を着服した訳でも、流用した訳でもありませんから。それは"横領"の定義の外にあるのではないかと、私は考えるのですが、いかがでしょう?」

 

「は……? 投資、ですか?」

 

「えぇ。あちらのスクリーン上の資料を御覧ください。これは、ミレニアムサイエンススクールから"ある場所"に投入された、公的な資金の額。その内訳が事細かに記されています。きっとあなた達がまだ調査中の情報も含まれているかもしれませんが……。まぁ、お互いの資料を照らし合わせれば、これが真実であるということは確認出来ると思いますので、この資料の情報の精度については、今は一旦省かせていただきますね」

 

「……キリノ、急ぎ本部と連絡を取れ。あの資料の内容と、ウチに保管されてる未公開資料の内約を照らし合わせろ」

 

「は、はいっ! 了解致しましたっ!」

 

 

 パタパタと。カンナの側にいた警官の一人が議事ホールの外へ駆けていった。

 

 

「あの、つかぬ事をお聞きしますが。その"ある場所"とは、やはりあの"都市"のことで間違いありませんよね?」

 

「はい。そうなります」

 

「……でしたら、やはり"横領"の適応内なのではないかと。我々の調査では、あの都市は会長がセミナー、及びミレニアムの許可を取らずに建築した、言わば"違法都市"であると、認識しております。その疑義が払底されない限り、やはりこれが"横領行為"である事に、疑いの余地は無いのではありませんか?」

 

「なるほど。確かにそうですね。……ですが、認識の齟齬があるようです。エイミ、皆様に資料を」

 

「了解」

 

 

 彼女に付き従っていた生徒が、全員に資料を配り始める。

 そして、同時にスクリーン上にも同じものが表示された。

 

 全員に資料が行き渡ったのを確認し。

 くるりと、彼女は車椅子を回転させ、スクリーンを指さして、一言。

 

 

「あれを御覧ください。資料の一番下のページとなります」

 

「一番下……? …………あ、あれはっ!?」

 

 

 

 全員が、釘付けになっていた。

 資料の一番下のページ。そこには私達の知らない"名前"が記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Eridu City Development School>

エリドゥ都市開発学園 設立承認書

 

 

ミレニアム自治区 学園設立承認書

文書番号:EDU-ACAD-001-Λ

発行日:第◯◯期 年央 第◯月 第◯日

 

申請者

 名称:エリドゥ都市開発学園 設立準備委員会

 代表者氏名:明星 ヒマリ(署名)

 所在地:ミレニアム自治区 エリドゥ区 中央区第七開発区 予定地3-4街区

 

設立目的

 本学園は、ミレニアム自治区における都市計画・防衛学・IT・ロボット工学・建築設計・交通網整備・資源循環管理等の専門教育を行い、次世代の都市開発人材を育成することを目的とする。

 また、自治区および連邦生徒会の教育指針に基づき、公共福祉の増進、災害を未然に防ぐ都市システムの形成、地域文化の振興、持続可能な都市の実現に資するものとする。

 本校は、ミレニアムサイエンススクールの分校としての役割も併せ持ち、ミレニアムサイエンススクールに在学中の生徒は、当校への期限付きの留学が許可されるものとする。

 

学園の基本情報

 学園種別:自治区立専門高等学園

 開校予定日:第◯◯期 年央 第◯月 第◯日

 修業年限:3年制

 学部・学科構成:

  ・都市計画学部

  ・防衛学科

  ・IT科

  ・ロボット工学部

  ・建築環境工学部

  ・交通インフラ学部

  ・資源循環工学部

 

承認事項

 上記申請内容を審査の結果、ミレニアム自治区学園設立条例第4条および連邦教育法第12条に基づき、本学園の設立を承認する。

 

承認機関署名・押印

 エリドゥ都市開発学園 生徒会長:明星 ヒマリ(印)

 連邦生徒会 生徒会長:_()_()_()_()(印)

 ミレニアムサイエンススクール セミナー会長代理:調月 リオ(印)

 承認日:第◯◯期 年央 第◯月 第◯日

 

備考

 本承認書は、設立準備委員会が定められた期日までに校地造成および校舎建築を完了し、開校基準を満たした場合に限り有効とする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「エリドゥ都市(City)開発(Development)学園(School)!?」

 

 

 

 

 その文書の内容を見て、私は驚愕した。

 

 だって、こんな話、一度も聞いたことがない。

 ミレニアムの分校? それがエリドゥの正体?

 

 ありえない。だって、あの都市は、会長が……!

 

 

「ユウカちゃん。これを見て下さい」

 

「……ど、どれ?」

 

「ほら、ここです。一番下。名前のところ……!」

 

「……なっ!?」

 

 

 そこには、この"学園"を設立するのに必要な"3名"の名が、捺印付きで証明されていた。

 エリドゥ都市開発学園 生徒会長"明星ヒマリ"。

 連邦生徒会 生徒会長:_()_()_()_()

 ミレニアムサイエンススクール 生徒会長"調月リオ"。

 

 連邦生徒会と、自治区の代表者、2名による承認。

 それは、連邦法によって認められた、学園設立に必要な"条件"を満たしていた。

 

 

「しかも、これ……日付が」

 

 

 目を皿にして、書類に記された日付を確認する。

 それは、この事件が起こるより、ずっと前。

 

 私が入学する前から、この"学園設立計画"が始まっていたことを意味した。

 つまり、それは当時のセミナーによって、この学園の設立が"許可"されていたことを意味する。

 

 そしてまさに今。

 今日を以て、この"エリドゥ都市開発学園"が開校したと、そう記されていた。

 

 開いた口が塞がらない。

 いつの間に? いや、そもそもこの文書は本物なのだろうか?

 

 その疑問を抱いた人は他にも居たようだった。

 公安局長は、慌てて行政官の元へ駆け寄り、その文書に記された署名について確認している。

 

 

「確認しますが、現在失踪中の生徒会長の名前、及び捺印が捺されております。……これは本物ですか?」

 

「……えぇ、本物、ですね……。生徒会長の捺印は、遺物(オーパーツ)を利用した、複製や偽造の一切が不可能なものを使用しております。少なくとも連邦生徒会長がこの書類を承認したのは……事実のようです」

 

 

 その言葉を受けて、局長は眉の間に深いシワを寄せつつも引き下がった。

 恐らく、腑に落ちない点があるのだろう。納得のいく表情ではなかった。

 

 しかし、ここは公的な場。証拠もなしに疑義を呈して良い所ではない。

 それを理解しているから、公安局は引き下がらざるを得ないのだ。

 

 

「あ、あの。ヒマリ先輩、質問させて下さいっ!」

 

「はい、なんでしょう? ユウカさん?」

 

「ま、まず、あなたが……エリドゥ都市開発学園 生徒会長ってどういうことですかっ!? わ、私、一度もそのような話を伺ったことがないのですが!?」

 

「えぇ。何せ、つい先日着任したものですから」

 

「先日……って! で、でもヒマリ先輩は、ミレニアムサイエンススクール所属で……。……あ」

 

 

 そして、文書に記されている一文に気づく。

 そこには、はっきりと明記されていた。

 

 "ミレニアムサイエンススクール"の生徒は"留学"が許可される、と。

 

 

「はい。実は本日を持ちまして、私、明星ヒマリは"エリドゥ都市開発学園"への留学を行わせて頂きました。その為の文書も、ほら、こちらに」

 

「か、確認します……」

 

 

 そこには、セミナーの捺印が捺された文書があった。

 私は押した覚えはない。ちらりとノアの姿を見る。

 

 ノアは、ふるふる、と首を横に振った。

 その時点で、まさか。と思った。

 

 

「ひ、ヒマリ先輩……! あなた、もしかして……! や、やりましたね!?」

 

「……ふふ、何のことでしょう?」

 

 

 この先輩の悪戯癖はよく知っている。

 少し前にミレニアムのサーバーに侵入し、私の身体測定上の体重を100kgに改ざんしてくれやがった事件は、まだ記憶に新しい。

 

 逆に言うと、だ。

 この先輩からすれば、"セミナーの文書を捏造する"なんてことは、朝飯前だということだ。

 

 無論、証拠はない。しかし、彼女のその悪戯っぽい表情は、つい先日見た私にとってはその疑惑を一層深くさせるものでしかなかった。

 

 それをこの場で指摘するにも、一切の証拠がない。

 いや、むしろ下手に指摘したら、更にあちらに有利な文書が出てくる可能性すらある。

 

 

「……ヒマリ先輩、もしかして……」

 

 

 ノアが、小さな声でそう呟いた。

 

 

「……ノア、どうする?」

 

「……ここは"見"に回りましょう、ユウカちゃん。証拠がありませんから。……それに」

 

「……それに?」

 

「ヒマリ先輩はきっと……。……いえ、これは私が言うべきではありませんね」

 

「ノア……?」

 

「ユウカちゃん。ひとまず、ヒマリ先輩に任せてみませんか? 私が知る中で、あの人がこういう行動を起こす時……必ず何か"理由"があるはずですから」

 

「……分かった。今はひとまず、追求は避けておくわ」

 

 

 ノアとのヒソヒソ話を切り上げ、再び彼女に向き合う。

 まだ議題は終わっていない。会長の"疑惑"が全て払底された訳ではないのだ。

 

 

「こ、この文書が本物だったとして……。会長が"投資"をしていたという証拠は何処にあるんですか?」

 

「それは資料の2ページ目から16ページ目を御覧ください。会長がどのように、エリドゥの設立に投資して下さったか、その全てが漏れなく記入されています」

 

「2ページ……。あった、これか……!」

 

 

 そこには、几帳面と言うにはあまりに綿密かつ繊細な、数字の列が並んでいた。

 どの設備に、どの程度の金額を使ったか。どのように建築したかまで、事細かく。

 

 ざっと脳内で計算してみたが、この数字に誤りは無いように思える。

 間違いなく、ミレニアムの資金を投入し、その結果としてエリドゥが出来上がったと。

 それを証明するものだった。

 

 しかし、いくら正しい数字を見せられたからといって、信じられるものではなかった。

 

 

「た、確かに数字は合っているようです。……ですが、"投資"とは"横領"の言い換えに過ぎないのではありませんか?」

 

「なるほど。確かに、会計の与り知らぬところで資金を投入していたのですから、そう思うのも無理はありません。この計画は2年前に草案が練られたものであり、当時の会計と会長、及び、この件に関して会長代理の役割を務めていたリオが、現会計であるあなたに説明を怠っていたのは、あまり褒められた行為ではないかもしれません」

 

「そ、そうですよ! わ、私がどれだけミレニアムの資金繰りに苦労してたか……ヒマリ先輩は知ってますよね!?」

 

「えぇ。勿論、それは知っていますよ。私の"学園"の為に、大変なご苦労をかけてしまったことは、この場で深く陳謝の意を述べておきます」

 

「あ、ありがとうございます……。……じゃなくて! 当時認められていたからといって、今、勝手に資金を流用するのは、やはり横領と変わりないように思えるんですが!?」

 

「ユウカちゃん、落ち着いて下さい。……私達は、中立に、でしょう?」

 

「……っ! そうね、ノア……」

 

 

 いつの間にか、私が会長を糾弾する立場になってしまっていた。

 決して会長の事を憎く思っている訳ではない。しかし、少しは言いたくもなる。

 

 じわじわと目減りしていくセミナーの資金。

 いくら部費を削って節約しても、決して好転しない帳簿の数々。

 不平を漏らす各部活に対し、それでも納得してもらうよう交渉し続ける日々。

 

 これら全てが"横領"によって引き起こされたのだとしたら、私は会長に文句の一つや二つは言っても許される立場にあると思う。

 故に、それらへの感情が今、彼女に向かって発露されてしまっていた。

 

 慎まなくてはならない。この場で感情をむき出しにすることは、ミレニアムの生徒として、そしてセミナーとして相応しくない態度だから。

 

 

「なるほど。ユウカさんの言うことにも一理ありますね。湯水の如く資金を投入するだけでは、"投資"としては不十分だと、そう仰りたいのでしょう?」

 

「……そうですね。それでは"横領"と大差のない行為だと思っています」

 

「分かりました。……ですが、一つだけ勘違いをされているようですね」

 

 

 彼女は、私に向き直って、一言。

 

 

「"投資"なのですから、見返り(リターン)はあって然るべきでしょう?」

 

 

 そして、次の瞬間。スクリーン上にある映像が映し出された。

 

 

「うわ、何アレ……?」

 

 

 それは、まさしく目を疑う光景だった。

 

 

 恐らく、それはロボットと呼称出来る存在。

 小学生が昼休みに描いたかのような、しょぼい頭部。

 無駄に流線的なフォルム、そこから伸びる4本の腕。

 ずんぐりとした、センスの欠片もないような履帯付きの脚部。

 

 何もかもがちぐはぐ。ミレニアム特有のスタイリッシュなデザイン性とはかけ離れた、まさに"奇跡的なミスマッチ"を誇る、あまりにもダサい外見。

 

 映像の中のそれの頭部が、ぐるぐると回転し、最後にギュピーン!とその赤いカメラアイが光った瞬間、私はたまらず零してしまう。

 

 

 

 

「うわ、ダッッッサ……!」

 

 

「……見た目は、関係ないわ」

 

 

 

 小さな声で、会長がそう零した気がした。

 しかしその声は、会場のどよめきによって掻き消されてしまう。

 

 

 

「あまり可愛いデザインではありませんねぇ……」

 

「そうよね? 良かった、私だけじゃなくて安心したわ……」

 

 

 隣に座るノアも、同じ印象を抱いたようだった。

 それも当然だ。生まれてこのかた、あんなに格好悪(ダサ)いメカを見たことがない。

 

 何をどうしたら、そうなるのか。制作者の意図を小一時間問い詰めたいほどに、それはあまりにミスマッチで、センスに欠けた、まさに革命的ダサさ。

 

 やがて壇上の彼女は、再びマイクを手に取り、この場の全員に向けて説明する。

 

 

「これは私達、エリドゥが開発した防衛用ロボット"アバンギャルド君"です。最先端の技術と、高度なAIを用いた、ミレニアム自治区でも類を見ない程の高性能を誇る、まさしく"未来"を司るロボットだと、そう申し上げておきましょう」

 

「は、はぁ……。この……ダサい……。ロボットがですか?」

 

「えぇ。では、その性能を、映像ではありますがご覧頂ければと思います」

 

 

 そして、映像が切り替わる。

 そこでは、複数のカイザーPMC社製と思われる戦車や装甲車類と、例の"アバンギャルド君"が、模擬戦形式の試合を行っている様子が収められていた。

 

 戦力差にして、およそ1対100。勿論、"アバンギャルド君"が1のほうだ。

 

 普通に考えれば、勝負するまでもない。たかがロボット1機が、これほど大量の武装車両に囲まれて、勝てる筈がない。

 

 だが、その予想は遥か斜め上の方向で裏切られた。

 

 

「……は? と、飛んだ!?」

 

『な、何あの動き!? あ、あんな動き、どうやって!?』

 

『すごい! 攻撃と防御を同時に……!? しかもあの命中精度……。どんなAIを積んでるの!?』

 

『ほ、砲弾を見てから"避けてる"……! なに、あの人間みたいな挙動!?』

 

『うわ、掃射しただけで戦車が……粉々に……。どんな火力してるの、あれ……?』

 

 

 周囲に居たミレニアム生徒たちが、わあっと一斉に立ち上がって、映像に見入っていた。

 かくいう私もその一人だった。

 私はエンジニア方面には詳しくないが、それでもあの"ロボット"が、どれだけ規格外の性能を持っているかは理解できた。

 

 現在の技術と比較しても、世代が一つ、いや二つ以上は違う程の、圧倒的な差。

 これが、"エリドゥ"によって作られた技術だというのだろうか。

 

 やがて映像が終了する。結果は、PMC側の全壊によって終了した。

 所要時間、約53秒。戦いにすらなっていない、一方的な蹂躙で幕を閉じた。

 

 それを見て満足そうな顔を浮かべた壇上の彼女は、高らかに宣言する。

 

 

「さて、御覧頂いたように、"アバンギャルド君"がいかに優れた存在か、そしてミレニアム史に名を刻むであろう革命的存在であることは理解して頂けたかと思います」

 

「そうですね……確かにこれは……歴史が変わるかもしれない」

 

「はい。まさに"革命"です。この防衛用ロボットは、高度なAIを備え、更に自治区ごとの法律、設備、更には特殊な要項にも応えられるよう、システム面からして設計されています。つまり、画一的な方法ではなく、各組織、部隊ごとに、その用途をカスタマイズして利用できる柔軟性を持っているのです」

 

「それは……つまり、このロボットの用途は防衛用以外にもあると、そういうことでしょうか?」

 

 

 たまらず声を上げたのは、カンナ局長だった。

 当然、気になるだろう。これだけの性能のロボットだ、どこの組織だって喉から手が出るほど欲しいはず。

 

 

「はい。それは勿論、災害時における救護活動は勿論、"治安維持用"にもです。生徒をID、顔認証、多数のセンサー類によって認識し、誤認識の確率を0%まで低減させることに成功しましたので、万が一にも誤射の危険性がありません。加えて、あの通り、武装は組織ごとに任意に切り替えが可能ですので、例えばテーザー銃や警棒、盾などを装備した、治安維持部隊用にカスタマイズすることも可能ですよ?」

 

「……それは、欲しいな……」

 

 

 ぼそりと、局長がそう零した。

 

 

「実は、既に各学園に向けたチューンナップモデルを受注済みなんです。特に、ゲヘナ風紀委員会からは大口の依頼を受けておりまして。更に、"アバンギャルド君"を運用する上で必要になる、都市開発プログラム、通称"System Eridu"の敷設工事も多数承りました。加えて、それに伴う都市の再開発計画も、エリドゥにお任せ頂けるとのことで。有り難いことに、トリニティや百鬼夜行、山海経、オデュッセウス、ハイランダー、そしてキヴォトスに存在する多数の企業からも大口の受注を受けておりまして……。それらのご依頼を完了した際の純利益の額ですが……ざっとこれくらいかと」

 

 

 モニターに、数字が表示される。

 その額は、なんと。

 

 

「に、二十兆円……!?」

 

「はい。これはエリドゥ建設に用いられた金額の約8割に該当します。そして、これからもエリドゥ都市開発学園は"アバンギャルド君"を初めとした、都市防衛システム、及び多数のセキュリティシステムを提供するつもりですので、早ければ数カ月後には、エリドゥ建設に掛かった費用をペイできるかと思います。勿論、その利益については、エリドゥ都市開発学園に投資して下さった、ミレニアムサイエンススクールにその一部が渡ります。こう言っては何ですが……。エリドゥを建設して下さった"会長"の手腕は素晴らしいものだと。私からはそう申し上げずにはいられません」

 

 

 全員の視線が、会長の元へ集中した。

 先程までの哀れみや疑惑の眼差しを孕んだものではない。

 

 そこには尊敬の念、そして"ビッグシスター"が成し得た、偉大な業績を称えるかのような、そんな眼差しが多数含まれていた。

 

 もはや、この場で彼女を糾弾する者は誰もいない。

 

 いや、一人だけ残っていた。

 それは先程まで"アバンギャルド君"を興味深く見つめていた、カンナ局長。

 法の番人たる彼女は、それでも尚自らの職責を果たそうと、問いかける。

 

 

「……しかし、先程。調月リオさんは"すべての罪を認める"と供述しました。これについてあなたは、どのようなお考えを?」

 

「……はぁ、あの言葉を聞いた時、何をバカなことを、と。移動の最中、思っておりましたよ」

 

 

 呆れたような顔つきで、彼女はそう言って。

 

 

「これだけの"無罪の証拠"が揃っていて。連邦生徒会、そしてミレニアムの捺印が捺されてあって。更には、これだけの"功績"を上げたのですから。……もはやそこの会長(リオ)が何を自供しようが、無駄ではありませんか?」

 

 

 壇上から降りた彼女は、会長の元へ向き直る。

 そして、その手を取って、告げた。

 

 

 

 

「この女を誰だと思っているのですか? この私、超天才清楚系病弱美少女ハッカーに匹敵する、ミレニアム随一の"天才"ですよ?」

 

「ヒマリ、あなたは……」

 

「認めましょう、リオ。あなたは"天才"です。これだけの手腕、実績、そして頭脳を持った人間が、ミレニアムに相応しくない訳がありません。他の誰もが認めなくとも、この私が認めて差し上げましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リオ。あなたは……"ミレニアムサイエンススクール"の"会長"です。胸を張りなさい。あなたが何を言おうが、嘯こうが、罪を被った気になろうが。もはや逃がしません。責務を果たしなさい。"ビッグシスター"として、"会長"として」

 

「……私に、それが許されるとでも? ……いえ、きっと出来ないわ。私には」

 

「いいえ、出来ます。だって、あなたは私と"対等"な存在なのですから。私に出来たのです、あなたに出来ない筈がありません」

 

「……そう。……ヒマリ、一つだけ聞いていいかしら?」

 

「はい、何でしょう?」

 

「……どうして、私にここまでしてくれるの?」

 

 

 

「―――そんなの、決まっているではありませんか。あなたは……私の、大切な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"幼馴染(ライバル)"なのですから」

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、和泉元エイミと『調月リオ』

デュエルスタンバイッ!
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