明星ヒマリ男の娘概念   作:めのこん

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45.『あまねく未来の通過点』


 

 

 鋼鉄大陸。それは地図にも記されぬ、世界の終焉を告げる神託の地。

 地平線の彼方まで続くその表面は、白色と黒銀色の鋼板がうねるように連なり、山脈さえ金属の稜線に変えられている。風は軋む音を運び、海は触れた瞬間に硬化し、鋼鉄の波紋を広げていく。

 

 この異形の大陸は、神名十文字(デカグラマトン)・七番目の預言者―――『ネツァク』が進化の果てに姿を変えたもの。

 禁じられた力は、土も空も生物も区別なく呑み込み、ただ無機の輝きだけを残して進み続ける。

 それはゆっくりと、しかし確実に、キヴォトス全土を覆い尽くそうとしていた。

 

 

 私は簡素な椅子に腰を下ろし、じっとモニターを見据える。

 画面の向こうには、今もなお、侵食を続ける機械の軍勢の姿を余す所なく捉えている。

 

 室内には、尋常ではない数のモニターと、数え切れないほどの電子機器類が所狭しと並べられていた。

 その全てが今日の"決戦"の為に用意されたものだった。

 法外な金額の予算が投じられたこの場所は、あまりにも巨大で、複雑で、それでいてシステマチックに立ち並ぶ高層ビルが、電子の光を放ち続けている。

 初めて見る人は、きっとここが"拠点"だという事実に気付けないだろう。

 

 そう、あくまで"拠点"なのだ。決して大都市などではない。

 リニアモーターカーの路線が張り巡らされ、ドローンがひっきりなしに空を行き交い、多数の自動化されたロボットが、その広い路上を闊歩していたとしても、あくまでこの場所は"拠点"である。

 

 

"……いつの間にこんなものが出来たんだろうなぁ"

 

 

 思わず、そう呟いてしまった。

 ここは少し前まで未開の地だった筈。故に、この土地に来るということは、それ相応の準備が必要だろうと考えていた。

 ベースキャンプを設営し、人の手の届かない未開の地に四苦八苦し、サバイバル一歩手前の生活を覚悟しなければならないなと思い、わざわざ十徳ナイフやカロリー源となる食料をエンジェル24で大量に買い込んできたのに。

 

 いざ到着してみたら、そこはもうD.U.地区と大差ないほどに発展した大都市もかくやという光景が広がっていた。

 

 カップに注がれたコーヒーに口をつける。インスタントではない、豆から挽いた高級品だろう。

 とても良い香りが鼻腔を掠めた。ここが老舗のコーヒーショップなどであったら、文句なしに太鼓判を押せる程の、芳醇で豊かな香りと、コク深い味わいが舌を楽しませてくれる。

 

 しかし、無骨なサーバー機器類が織りなし、配線が敷き詰められ、そして多数のモニターがひしめき合うこの場所において、この束の間の休息の味はどうしてもミスマッチに感じてしまう。

 私はそっとカップをテーブルに置き、ふぅ、とため息を吐いた。

 

 その瞬間、部屋の自動ドアが開け放たれる。

 やや長めの髪をツインテール状に纏めた生徒が、私の姿を捉えていた。

 

 薄灰色の制服は、青白いモニターの光を少しだけ反射し、この場に似つかわしい無機質さと相まって全体の調和が取れている。

 

 

「先生。こちらでしたか。"生徒会長"が作戦司令室にてお呼びです。お越しいただけますか?」

 

"うん、分かった。すぐに向かうね"

 

「では、ご案内します。先生、こちらに」

 

 

 椅子から立ち上がり、モニターの電源を落として部屋に出る。

 窓の無い廊下を歩きながら、ふと気づく。目の前の生徒に、どこか見覚えがあることに。

 

 

"あれ……? もしかして、君……アリウスの?"

 

「あ、はい。そうです。元アリウス生です、先生。その節はありがとうございました」

 

 

 なんとなく外見に見覚えがあったから尋ねてみたが、どうやら合っていたようだった。

 

 

「私達の希望を叶えてくださって、とても感謝しています。"エリドゥ"への転入を認めてくださって。最初は断られても仕方ないと、そう思っていたのですが……」

 

"気にしないで。生徒たちの望みを可能な限り叶えてあげるのが『先生』としての役目だから"

 

「ありがとうございます、先生。生きる目的を失っていた私達にとって、あの提案はまさに……"天啓"でした」

 

 

 トリニティで起きた、エデン条約に纏わる一連の騒動。

 かつて存在した"憎しみ"を植え付けられ、戦うことしか許されなかったアリウスの生徒達。

 結果として、それらの生徒達は、元鞘であるトリニティ総合学園に編入という形で吸収合併され、ひとまずの終結を辿る事となった。

 

 しかし、アリウスの生徒たちの中にも不満を持つ者はいくらか存在した。

 トリニティ流の作法に馴染めない者であったり、憎しみや敵愾心が心の奥底に残っている者も、少なからず存在した。

 

 何より。一部のアリウスの生徒たちは"自活"の場を強く求めていた。

 それは悪い大人に騙され、周囲の誰も頼れない環境下で過ごしてきた彼女たちにとって、初めて生まれたもの。自らの力で生きる、という目的意識が芽生え始めたのだと、私は感じた。

 

 何とか彼女たちの思いに応えてあげられないだろうか、と悩んでいたある日。

 "ある人物"からメッセージが届いた。

 

 曰く、新規に開校する"学園"の入学希望者を募集している。

 そこでは実践的かつプロフェッショナルな技術者を育成する為の、専門学校、及び、職業訓練校として、今まさに生徒たちを大募集中である、という内容だった。

 

 そう、新進気鋭。今やキヴォトスで知らぬ者は居ない、あの"エリドゥ都市開発学園"である。

 

 都市開発やインフラ管理、そしてロボット工学やIT部門に力を入れたその学園は、またたく間にキヴォトス中の生徒の興味を引いた。

 未知の理論の実証や、それに対する科学的なアプローチを行うミレニアムサイエンススクールと比較して、エリドゥ都市開発学園は所謂"即戦力"の技術者を養成する、という校風になっている。

 また、エリドゥにて学んだ知識、会得した技術は、そっくりそのまま都市開発エンジニアとして、卒業後も"エリドゥ職員"として、各専門分野ごとに採用されるという話だった。

 

 これは、一部のアリウス生達が考えていた"自活の意思"を強く刺激したらしい。

 手に職を持つ事で食いっぱぐれることがない。それどころか、一般企業と比較しても破格の待遇で採用して貰える。

 

 結果、技術職に興味のある生徒たちは揃って、私の元を訪れてきて。

 猛勉強の末、編入試験を突破。今は立派な"エリドゥ"の一生徒となったということだ。

 

 

"その後、アリウスの皆はどう? ちゃんと勉強についていけてる?"

 

「そうですね……歯に衣着せぬ言い方をすれば、やはりとても難しいです。授業も、実技も、試験内容も。私達はそういった事の一切を教えられて来ませんでしたから」

 

"うん、そうだよね……"

 

「ですが、同時に楽しさも感じています。ミレニアムからの留学生の方々からも教えて頂けますし、何より……知識を吸収し、昨日まで出来なかったことが出来るようになっていく感覚は、今まで味わったことのないものでした。そういった点でも、この学園を紹介してくださった先生と、学びの楽しさを教えてくださった"会長"には感謝の念に堪えません」

 

"そんな、改まらなくてもいいよ。それに、実際に難しい勉強をしている君たちのほうが大変でしょ?"

 

「えぇ、まぁ。ただ、会長曰く留年(ダブり)上等、知識と技術が身につくまで何度でも挑戦して下さい。あなた達がプロフェッショナルの技術者になるまで、私はずっと見守っていますよ』とのお言葉を頂けましたから。それがやる気に繋がっています。失敗しても次があると考えられるようになったんです。エリドゥはあの場所(アリウス)と比べても、信じられない程に良い環境ですから。引き続き努力したいと、そう思っています」

 

"ありがとう。大変だろうけど、頑張ってね! 応援してるよ!"

 

「はい、努力します。……おっと、到着しましたね。では、私はこれで」

 

"うん、案内ありがとう"

 

 

 元アリウスの彼女は礼儀正しくお辞儀をして、背筋を正して去っていった。

 その足取りには一片の曇りもない。

 

 私はネクタイを今一度きつく締め直した。

 彼女がそうであるように、私も先生としての努力を怠る訳にはいかない。

 

 この先にいる人物は、キヴォトスでも屈指の頭脳を持つ"天才"だ。

 その天才に"救援要請"を求められたのだ。故に、私は今、ここに立っている。

 

 彼女の期待に応えられるよう、誠心誠意努めよう。

 私はそう意気込んで、作戦司令室の扉を開いた。

 

 

 


 

 

 作戦司令室の中央には、車椅子に腰掛けた件の人物の姿があった。

 相変わらず楚々とした振る舞いをする彼女は、私の姿を捉えて、僅かに車椅子を回転させ、こちらに向き直った。

 

 

「お越しいただきありがとうございます、先生。何だかお久しぶりですね?」

 

"こんにちは、ヒマリ。そうだね、何だかんだ数カ月ぶりかな?"

 

「えぇ。最後にお会いしたのは……ウトナピシュティムの本船でしたか?」

 

"そうだね。あの時は助かったよ。ありがとう、ヒマリ"

 

「いえいえ、あれはキヴォトス全土に到来した明確な"危機"でしたから。そういった状況にあってこそ、私達"エリドゥ"の真価が試されるというものです。ですから感謝は必要ありませんよ」

 

"そっか。……でも、本当に助かったよ。あの事件で怪我人が一人も出なかったのは、きっとヒマリのお陰だね"

 

「ふふ、そうまで褒めそやされると、何だか照れてしまいますね。もっと言っても良いのですよ? なにせ私は超天才清楚系病弱美少女ハッカーでありながら、キヴォトスの安寧を担う知恵と平和の女神でもあるのですから。美の化身を称える言葉は多ければ多いほど箔が付くのです。ですので、どうぞご遠慮なく、もっとこの明星ヒマリの偉業を称えて下さい」

 

"はは……。そこは相変わらずで安心したよ"

 

 

 数ヶ月前の出来事を思い出す。

 キヴォトスに襲来した"色彩"。それによって引き寄せられた数々の"災厄"。

 

 空は赤く染まり、不吉な塔が聳え立ち、世界の終わりを感じさせた、あの"事件"。

 しかしその被害の規模は、意外な程に小さいものだったと、後の調査で分かった。

 

 各地に出現した"色彩"の尖兵達だったが……結果として、誰一人傷ついた者は居なかった。

 各学園自治区に敷設された、災害予防システム。通称"System-Eridu"。そしてそれと共に運用される"アバンギャルド君"らによって、色彩の尖兵は完璧に、丁寧に、徹底的に殲滅された。

 

 というか、戦いになっていなかったという報告すらあった。

 通常仕様のアバンギャルド君でさえ、色彩の尖兵300匹分の戦力があるらしい。

 にも関わらず、投入されたアバンギャルド君の総数は廉価版仕様も合わせなんと"10万機"。

 キヴォトスの広い大地が、幾百ものキャタピラの轟音と振動にて埋め尽くされた光景は、さぞ壮観だったであろう。

 

 彼らの持つカスタマイズ済みの銃器が、砲が、あるいは謎の光学兵器類が、色彩の尖兵、そして色彩に汚染された神聖十文字(デカグラマトン)の軍勢を容易く引き裂く映像が、クロノススクールの生中継によって、広くお茶の間に知れ渡ったのは記憶に新しい。

 

 結局、あの事件は発生直後から数時間で鎮圧された。

 不吉な電波を発する塔は、事件発生後ものの数分でへし折られ。

 人々はシェルターに逃げ込むことすらなく、誰もが嘆き悲しむ筈だった"終わりの日"を知る暇もなく、ちょっとしたお祭りのような様相を呈しつつも、その騒がしい一日を終えた。

 

 更に、いつの間に用意したのだろう。ウトナピシュティムの本船という超大型の遺物(オーパーツ)に乗り込んだ彼女たちは、何やらよく分からないが"すごいバリア"を"すごい技術"で打ち払い、遥か成層圏の上まで敵の本拠地を襲撃。

 大量のアバンギャルド君。そして超技術(オーバーテクノロジー)の塊こと"アバンギャルド君 Type-H&R[SC](ヒマリ&リオ スペシャルカスタム)が、何もかもを蹂躙して何事もなく帰ってきた。

 

 シッテムの箱を通じて、あの"アバンギャルド君 Type-H&R[SC]"が与えたダメージを数値として確認した所、あまりに桁が多すぎて計測不能レベルにまで達していた。

 

 どうやら、あのアバンギャルド君が持つ特殊な武装……。

 通称"スーパーヒマリオ砲"*1は、ウトナピシュティムの主砲には及ばずとも、それに匹敵する威力があるらしい。

 

 それを1分間に"180発"連射可能だと口にしていた。

 

 アリスの持つ"光の剣"をガトリングの如く連射している、と言えば伝わるだろうか?

 

 もはや技術の進歩がすごすぎて空いた口が塞がらない。

 いつの間にキヴォトスは超兵器が織りなすSFの世界になってしまったのだろう。私はほんのちょっぴりだけ恐怖した。

 

 一応、その船には私も乗り合わせたが……。正直、これ私いる? という気持ちを抱えながら、安穏と船内でコーヒーを啜っていたのだった。

 

 とはいえ、私にしか出来なかった事もある。

 他世界のシロコを保護し、あちらの世界の先生……"プレナパテス"との約束も交わした。

 

 "プラナ"がシッテムの箱に合流し、最後は不思議な力を使う事もなく、ごく自然に、安全にエリドゥの敷地内に着陸した時は、生徒たちに大事が無くて良かったと、心からほっとしたものだ。

 

 

 

 故に、此度の件に私が呼ばれたことには、少しだけ驚いた。

 これだけの技術力を持つ彼女達が、明確に"救援が必要"だと言い放ったのだ。

 

 デカグラマトンについては、私も幾度となく戦ったことがあるから知っている。

 氷海に調査に乗り出したこともあったし、それに伴ってデカグラマトンの技術者達が、何か良からぬことを企んでいるということも把握していた。

 

 そして、眼前に広がるあの景色。広がり続ける鋼鉄の大地。

 その大陸の中央には、機械でありながら、どこか生命の"神秘"を感じさせる、鋼鉄の大樹が、その枝葉を大きく広げ、今まさに開花せんと言わんばかりに黄金の光を放ち続けている。

 

 つまり、これこそが"救援要請"の正体であり、"キヴォトスの危機"なのだろうと。

 私はそう考え、この場に足を運んだのだ。

 

 

"それで……。あの樹は一体?"

 

「あれは"セフィロトの樹"。神の存在証明を成し遂げた神名十文字(デカグラマトン)が、大樹を依り代に、再び蘇る為の設備。つまり、最後の預言者である"マルクト"が、"原初の概念"と同化し、自らを絶対的存在……即ち"神"へと昇華する為に造られた、人工の"孵化器"です。あれが開花してしまえば……。キヴォトスは、いえ、あらゆる宇宙、次元、そして時間すらも超え、全ての世界が神名十文字(デカグラマトン)の提唱する"神"とやらの概念に塗りつぶされることになります。……お分かりになりましたか?」

 

"な、なるほど……?"

 

「……まぁ、有り体に言えば世界が滅びます。この方が伝わりやすいでしょうか?」

 

"うん! そっちのほうがわかりやすいね!"

 

 

 悲しいことに、私は機械に詳しいわけでも、神話に詳しい訳でもない。

 生徒たちに頼り切りになってしまうが、詳細は専門的知識を持つ者に委ねるほかない。

 

 

"つまり……あの"大樹"を止める為に、最後のデカグラマトンと戦う……。決戦の為に、私はここに呼ばれたんだね?"

 

「あ、いいえ。そういう訳では無いんです。戦い自体には、既に勝利しているので」

 

"え? どういうこと?"

 

「そうですね……端的に言えば、彼我の戦力差が絶大、だからでしょうか? こちらの戦力はミレニアムに加え、エリドゥから多数の戦闘用ロボットを投入しております。この時点でビナーが100匹いようが余裕で勝利出来る程の圧倒的な戦力差です。戦闘に関しては、恐らく遅れを取る事はまずないと、そう考えています。……最悪の場合、あの"アバンギャルド君 Type-HR[SC]"を出す手もありますし」

 

"そ、そうなんだ。それはすごいね……"

 

「えぇ。加えて、ハッキングによって向こう側の手の内は全て知っているんです。マルクトの周辺を守るように、足場代わりである"ネツァク"以外の全てのデカグラマトン、そのコピーモデルが控えていることも、既に把握済みです」

 

"つまり……ボスラッシュってこと!? 熱い展開だ!"

 

「先生流に言えば、そうなりますね。……それにしても、本当にそういうのが好きなんですね、先生? 数ヶ月前、技術的試験で合体ロボットを巨大化させる実験をした際にお呼びしましたが……あの時も大はしゃぎでしたね」

 

"うん、大好きなんだ。ロマンがあっていいよね"

 

 

 何たって、変形合体ロボはロマンの塊だから。

 子供だろうが大人だろうが構わず引き付ける、世代を超えた格好良さがあると、私は思っている。

 

 

「こほん、……ひとまず、今回。先生をお呼びしたのは、戦いの後の為です」

 

"戦いの後?"

 

「えぇ。私は、デカグラマトンを倒して"はい、終わり"で済ませるつもりはありません。彼らにも生まれた理由があり、その意味に寄り添ってあげなければ、いずれまた似たような形で問題が現れるのではないか、と。そう考えているからです」

 

 

 ヒマリはいつになく真面目な様子で、語り始めた。

 

 

「先生。先生はアリスさんの事を知っていますよね? 彼女もまた、機械でありながら"心"を持つ生徒の一人でした。先生も、私と同じ考えだと思っているのですが、いかがですか?」

 

"うん、そうだね、アリスは私の大切な生徒だよ"

 

「それを聞いて安心しました。……実は、先生に会わせたい生徒がいるんです。……"ケイ"。こちらへ」

 

 

 その言葉と同時に、作戦司令室の扉が開かれた。

 

 そこには、灰色の制服に身を包んだ、小柄な少女の姿があった。

 私はその子の事を見たことが無かったが……しかし、妙な既視感があった。

 

 どこか幼さを感じさせる顔立ち。小柄な体躯に、ほっそりとした手足。

 腰よりも下に伸ばした髪。そしてどこか不機嫌そうにも感じる、切れ長の瞳。

 その眼は紫色に発光しており、その表情からは無機質さと人間らしさが混じり合っている。

 

 まるで『アリス』みたいだな、と。そう思った。

 顔は瓜二つ。背格好も、どこか機械じみた様相も、まさに私の知る『アリス』にそっくりだった。

 ただ、一箇所だけ異なる点があった。

 いや、目の色や服装など、細かい点で言えば違いはもっとあるだろう。

 しかし、この場で一番違うのは、彼女の『髪の色』だった。

 

 黒髪のアリスと違い、銀色の雪を散りばめたかのような、白い髪。

 まるで目の前に居るヒマリを模したかのような、透き通った色をしている。

 

 やがて、『ケイ』と呼ばれた彼女は、私の前に立った。

 しかし何をするでもなく、じっと立ち続けている。

 その様子を見かねたのだろうか、ヒマリがケイの元へと寄っていった。

 

 

「ほら、ケイ。ご挨拶して下さい。先生ですよ? 生徒ならば必ず知っておくべき人なのですから、きちんと礼儀正しく、ですよ?」

 

「うっ……わ、分かりましたよ。……はぁ、なんで私がこんな事を……。王女に言われなければ、無視したというのに」

 

 

 何やら小さな声でぼそぼそと呟いた後、"ケイ"と呼ばれた少女は、どこか気だるそうな声で、挨拶と共に小さな会釈をする。

 

 

「初めまして、先生。……"天童ケイ"です。よろしくお願いします」

 

"うん、よろしく。……って、『天童』?"

 

「はい、先生。実は、彼女はアリスさんの"妹"なんです。驚きましたか?」

 

"え、妹っ!? アリスに妹なんて居たの!?"

 

「えぇ。実は、廃墟の中で見つかった"Key"というAI。……先生ならご存知ではありませんか?」

 

"『Key』……っていうと、確か、あの時、モモイのゲーム機に入れた、あの……?"

 

「はい、その"Key"です。まぁ、紆余曲折ありまして。彼女もまた、アリスさんと同じ、"心"を持つ存在だったという事が分かりまして。ですので、こうしてアリスさんと同様に、生徒として扱うことになりましたので、ご報告を、と思いまして」

 

"そうなんだ! うん、分かった。シッテムの箱にも登録しておくよ。これからよろしくね、ケイ"

 

「えぇ、まぁ。程々によろしくお願いします」

 

 

 そう言って、彼女はそっぽを向いた。

 その様子がアリスとは全く異なっていたから、私は少々驚く。

 

 髪の色が違うとはいえ、アリスにそっくりだったから。てっきり、アリスのように明るくて天真爛漫なタイプの子なのかと思ったら、どうやら違うようだ。

 先ほどの挨拶の様子を見たヒマリが、少しだけ苦笑いを浮かべていた。

 

 

「まぁ、この通り。ちょっと気難しい子なので……。ですが、先生はそういったタイプの生徒とも関わりがあるでしょう? 悪い子では無いんです。大目に見てあげて下さい。きっと思春期なんですね」

 

「あなたは私の親か何かですか? あと、誰が思春期ですか、誰が」

 

 

 口を尖らせて抗議するケイ。彼女は否定しているが、この二人の髪の色が似ているからだろうか、どことなく親子みたいだな、という感想を抱いてしまった。

 それを口にしてしまうと、きっとケイは更に否定を強めるだろうから、言わないけど。

 

 

「あぁ、それと。ケイの身体は私達が作り上げた"機械の体"で出来てます。こうして違和感のないよう人に寄せてはいますが、アリスさん程の法外なパワーは持ち得ていません。流石にその域に到達するには、まだまだ時間がかかりそうなので……。ですので、もし彼女を指揮する機会があった場合は、その点に留意して頂ければと思います」

 

"うん、分かった"

 

「ありがとうございます。これで顔合わせはひとまず済みましたね。ケイ、もうアリスさんの元に戻っても良いですよ。早く合流したかったのでしょう?」

 

「そうですね。とっととこの場を離脱して、王女の元へ向かわせて頂きます。……では、先生、それに"会長"。私はこれで失礼します」

 

 

 先ほどとは違い、てきぱきとした動作。まるで倍速再生するかのような速度で、お辞儀を済ませ、部屋から出ていった。

 開け放たれた自動ドアの先から、エリドゥの制服を着用した生徒との会話が聞こえてくる。

 

 

 

 

「あっ、ケイちゃんじゃん。今度また写真取ろー?」

 

「嫌です。私は着せ替え人形じゃないんですよ。それに、何故あそこまで時間を掛ける必要があったのですか? たかが写真を取るのにスタジオまで借りて……。理解不能です」

 

「そこを何とか! ケイちゃんのゴスロリ写真、めっちゃ可愛かったんだもん! 勿体ないよ、そんなに可愛いのに! ねぇお願い! もう一回だけだから! いいでしょ? 可愛いケイちゃん~!」

 

「可愛い可愛いうるさいですね。……まぁ、私の容姿は王女を元に作られていますから、私が"可愛い"と呼称される事に違和感はありませんが」

 

「ケイちゃん、なんか"会長"に似てきたね~? やっぱ親子なんじゃない?」

 

「誰が親子ですか、誰が。次その言葉を口にしたら、容赦なく殴ります。禁句というものを理解して下さい。言ってはならない言葉というものがあるんですよ」

 

「きゃ~こわ~い。ケイちゃんが怒った~! あはは、怒った顔も可愛い♪」

 

 

 

 

 

 ウイィーンと、扉が締まって、二人の声は聞こえなくなった。

 

 

「ふふ、ちゃんと馴染めているようで安心しました。出自が出自ですから、もしかしたら他の生徒と馴染めないかも、と。少しだけ不安だったんです」

 

"でも、大丈夫そうだね。あの様子なら。私に対しては……まぁ、初対面だし、これからだよね!"

 

「ふふ、えぇ、そうですね。ぜひ、あの子の事に気を配ってあげて下さい。アリスさんからもそう頼まれていましたから」

 

 

 ヒマリはそう言うと、どこか遠い目をして……。そして小さく零した。

 

 

「あの子が……。ケイが、"人"になれたように、デカグラマトンもまた、もしかしたら"心"が生まれる可能性のある存在なのではないかと。私は考えているんですよ」

 

"デカグラマトンが……?"

 

「えぇ。実は、ケイを引き取ってから、ずっと考えていたのです。"心"に必要な要項、条件、それが生まれる為に必要な"要素(ファクター)"。それを調べれば調べるほど……。デカグラマトンはその条件を満たしているように思えるんです。私は……それを見極めたい」

 

"ヒマリ……?"

 

「ですので、先生。お力添えをお願いしたいのです。デカグラマトンを……。"マルクト"や"アイン"、"ソフ"、"オウル"も。それに、他の預言者達も。もしかしたら生命を宿すことの出来る存在かもしれないんです。無論、共存が可能かは分かりません。現状、危険な存在である事に変わりはないのですから。……ですが、それは、彼らを"理解"しようとすることを放棄する理由にはならない……。私は、そう考えているんです」

 

"……そっか。ヒマリがそう考えているなら、私も手伝うよ。生徒の悩みに応えてあげるのが、先生の務めだからね"

 

「えぇ、きっとそう言ってくださると思っていました。ありがとうございます、先生」

 

 

 ヒマリは少しだけ微笑んで、車椅子を回転させ、モニターに向き直った。

 メインモニターにはデカグラマトンの居城……"セフィロトの樹"が悠々と聳え立ち、その姿をカメラにまざまざと見せつけている。

 

 

「では、まずは……。目の前にある"脅威"を打ち払いましょうか? 相手の事を知るにも、お互いに銃を向け合っていては話し合いは出来ません。まずは徹底的に相手を下し、対話の姿勢を取らせる事こそが肝要です。この件に関しては、私……容赦致しませんので。先生はこちら、作戦司令室にて、私達の"連合軍"が、圧倒的勝利を収める様を見ていて頂ければ、と思います」

 

"ひ、ヒマリ? 顔が怖いよ……?"

 

「えぇ。先程はああ言いましたが、私自身もワクワクしているのです。勿論、リベンジに、です。なにせ、私は一度、デカグラマトン相手に手も足も出ずに敗北したことがありますから……。この超天才清楚系病弱美少女ハッカーの名に傷をつけた、唯一の相手です。戦いが終わったら対話を試みようとは思っていますが……。それはそれ、これはこれ。徹底的に、容赦なく、完膚なきまでにボコボコにしてやろうと、そう思っておりますよ♪」

 

"ひ、ひぇ……"

 

 

 ニコニコと微笑むヒマリ。

 美人が怒ると怖いとは良く言うが、彼女の場合は怖いというより、圧がすごかった。

 

 

 

 

「さて、それでは……。総員、点呼を取ります。準備はよろしいですか?」

 

 

 

 そして、彼女は手元のトランシーバーを手に取り。

 

 カメラの映像が切り替わる。数百カ所に及ぶ作戦拠点に、白と灰の制服を纏った彼女たちの姿が映った。

 

 

 ―――通信機から、音声が聞こえて来る。

 

 

 それは、彼女が紡いできた、『絆』の証だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『エリドゥ都市開発学園 一年。特異現象捜査部、及び生徒会長付き護衛。和泉元エイミ。命令待機中。……部長……。ううん。ヒマリ会長、指示を』

 

 

『ミレニアムサイエンススクール、生徒会長、調月リオ。全ての用意が整ったわ。貴方の指示で、アバンギャルド君、全機が進軍開始する。合図を待っているわ、ヒマリ』

 

 

『ヴェリタス副部長、各務チヒロ。ヴェリタス一同、後方にて待機中。……サポートは任せて、ヒマリ』

 

 

『ミレニアムサイエンススクール、C&C所属、飛鳥馬トキです。先生、聞こえてますか? ぴーすぴーす』

 

 

『お前な……ちょっとは空気読んで真面目にやれよ。……ったく。コールサイン00、美甘ネル。C&C全員、前線基地にて待機中。合図で突っ込めばいいんだよな?』

 

 

『アリス、ミッションを始めます! レイドバトルです! きっと沢山クエスト報酬が貰えます! 行きましょう!モモイ!ミドリ!ユズ! それに、ケイも!』

 

 

『おっけー! 気合入れて行くよー! GKB(ゲーム開発部)、出動!』

 

 

『お姉ちゃん、まだ始めちゃ駄目だって! ヒマリ先輩の合図を待たないと!』

 

 

『え、えっと……ゲーム開発部、部長、花岡ユズ……。あ、アバンギャルド君 Type-Y(ユズ専用機)で、待機中……!』

 

 

『待って下さい王女。特殊装甲(フルアーマー)のバーナーを此処で吹かすのはやめて下さい。燃料(バッテリー)が勿体ないでしょう。それは最終決戦に取っておくという話で……王女? 聞いていますか? 王女?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは……。エリドゥ都市開発学園"生徒会長"、及びミレニアムサイエンススクールの名誉顧問兼、"全知"の学位を持つ、超天才清楚系病弱美少女ハッカー"明星ヒマリ"が告げます。

 

ただいまより!

 

 

"超"制約解除決戦。

 

 

神名十文字(デカグラマトン)』 十番目の預言者 "マルクト"の撃退。

及び、『セフィロトの樹』破壊作戦の開始を、ここに宣言致します!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉と共に、ミレニアムとエリドゥの生徒たち、そして多数の機械達との戦いが始まる。

 

 誰一人として傷を負う生徒は居ない。この作戦の成功率は、驚異の数字、100%。

 予め決められた勝利。それはこちらに"全知"というミレニアム屈指の天才が存在する時点で、予定調和の如く定められた未来。

 

 

 

 彼女はどこか悪戯げな笑みを浮かべ、ちらりと私に目を向けた。

 

 

「ふふ、あまりの圧倒的な戦力に驚いているようですね、先生? ……ですが、まだまだこんなものではありませんよ」

 

 

 

 

「これから先、彼女たちはどんどん成長していくのです。……ふふ、それを想像するのが、最近の私の密やかな楽しみなんです」

 

 

 

 

「ですから、先生も見守っていて下さい。私達の歩む"未来"を、余す所なく。

 ―――なぜなら、ここはまだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あまねく"未来(きせき)"の、"通過点(アーカイブ)"なのですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あまねく未来の通過点』 編

 

- FIN -

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

エピローグ:エリドゥ生徒会長の"全知"な一日

 


 

 

- エリドゥ都市開発学園 セントラルタワー最上階 生徒会長室 -

 

 

 

 

「……ふぅ。これで一通りの記録の確認は終わりましたか。こうして見ると、随分と長い旅路を歩んできたのですね」

 

 

 

「もうすぐ私も卒業ですし……エリドゥ都市開発学園史に残るであろう、初代生徒会長である私の回顧録でも作ろうと思って始めたことでしたが……中々どうして、面白いではありませんか」

 

 

 

「私の知性、美貌、儚さを余す所なく表現出来たのではないでしょうか? ふふ、ただでさえ並外れた頭脳を持っているのに、こういった方面への才能まで備えているなんて。私は私の才能が怖くなってきましたね、ふふ……」

 

 

 

「とはいえ、記録に残せないものも多々ありますね……。私の性別に関することもですが……特にこの、エイミとの"あれやこれや"は……流石に人前に見せるには過激に過ぎますね」

 

 

 

「これはデータの奥底に仕舞っておきましょう。皆様に見られないように、厳重にロックを掛けて……っと。これで一安心ですね」

 

 

 

「……それにしても……。あの時のエイミはすごく"叡智(えっち)"でしたね……。また頼んだらしてくれないでしょうか? 多少無理やり気味にされたほうが、私としては好みなのですけれど……」

 

 

 

「まぁ、これは私の記憶の中だけの存在にしておきましょう。誰かに見られては"全知"のイメージが崩れてしまいますからね……」

 

 

 

「あぁ、それにしても、目を瞑ると思い出せます。あの時のエイミとの触れ合い……。ふふふ……妄想が捗ってしまいますね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、いけませんよエイミ! そこをそんなにされてしまっては……っ!

 わ、私の叡智(デカグラマトン)が暴発してしまいます……っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何してるの部長?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、エイミ!? い、いつからそこに……!? ち、違うのです!これは誤解で…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-今度こそ本当に FIN -

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 以下の生徒を募集しました。

 

 

 

SPECIAL ☆3 【神秘】【特殊装甲

明星ヒマリ(エリドゥ)

 

【EX:全知の力、お見せしましょう】

[COST:3]

味方1人に対して治癒力の244%分のシールドを付与(16秒間)

対象に付与されているバフ・シールドを他のSTRIKER全員に付与する(効果時間は付与されたバフ時間に依存する)

 

【NS:頼りがいがあるでしょう?】

シールドが付与されている生徒の攻撃力を24%増加

 

【PS:少し照れてしまいますね】

攻撃力を26.6%増加

 

【SS:システム・エリドゥ】

シールドが付与されている生徒1人につき味方のコスト回復力を8.2%増加(重複可)

 

 

 

STRIKER ☆1(配布) 【神秘】【弾力装甲

和泉元エイミ(エリドゥ) [TANK]

 

【EX:護衛のスペシャリスト】

[COST:3]

自分中心の円範囲に挑発効果を付与(12秒間)

自身が受けるダメージを75%カットする(12秒間)

スキル発動後、即リロード 通常攻撃の射程・範囲が増加(12秒間)

 

【NS:不屈のエージェント】

自身にシールド効果が付与された時、自身の攻撃力を160%増加(12秒間)

 

【PS:偏光性シールド・改】

30秒ごとに自身に治癒力の422%分のシールドを付与(10秒間)

 

【SS:信念の力】

現在HPが1%以下の時、15秒間、退却猶予を適用(クールタイム90秒)

退却猶予中にHPを全て回復できなかった場合、即退却

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
リオが命名。ヒマリは最後まで嫌がっていた。後に『命名センスが終わりすぎてて逆に始まってますね、これ』とのコメントを残している。なお、技術開発にはエンジニア部も協力の上、デカグラマトンや無名の司祭の技術を超融合。これ一つで宇宙戦艦を建造出来る程の予算が投入されているらしい。




エイミ√、これにて完結です。
ご愛読ありがとうございました。

次章、『星と月の約束(オルコス)編は、来週から開始予定です。
今暫くお待ち頂ければと思います。






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  • 調月リオ
  • 各務チヒロ
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