皆さん、おはようございます。
『天才』『病弱』『清楚系美少女』…このワードに心当たりがある方は、きっと私のことをご存じでしょう?
そう、私こそミレニアムに楚々と咲く一輪の花。明星ヒマリです♪
さて、またもや報告しなければならない事があります。
どうやら、風邪を引いてしまったようです。病弱美少女の面目躍如と言った所でしょうか?
先日の
見かねたエイミが朝から看病してくれていて、今はりんごの皮を剥いてもらっています。
あぁエイミ、あなたは本当に優しい子ですね。
今日はその優しさがぐったりと重い体に染み渡ります……。
私がエイミの事をじっと見つめていた事に気がついたのでしょうか、エイミはじっとりした目線をこちらに向けています。
「はぁ……。部長、本当に何やってるの?」
「ふふ……私としたことが、体調を崩してしまったようですね」
「長風呂しすぎだよ。のぼせるほど熱いお湯に入っちゃ駄目だって」
「ふむ……。ですが、のぼせて紅潮した顔……溢れ出る色香を放つ美少女の姿もまた乙なものだと思いませんか?」
「怒るよ、部長」
「は、はい……。ごめんなさい、エイミ……」
怒られてしまいました。とはいえあれは不可抗力だったのですよ。
まさかエイミが浴室に乱入してくるとは思いませんでした。あまりに強い視覚的刺激を思い出して動悸が走ります。
ここであの時の光景を思い出してしまうと、ただでさえ貧血気味なのに私の
体調的にも秘密の遵守的にも、それはもう大変にまずい事になりますから。必死に思い出さないように努めます。
エイミの居る前でスカートの下から
結局、あの日のお風呂の後、貧血で倒れかけた私。その日は学校をお休みさせて頂きました。
翌日になっても体調は良くならず、そのまま風邪を引いてしまったのです。よくないパターンですね。
しかし、いくら病弱美少女の代名詞的存在である私とはいえ、好き好んで風邪を引きたい訳ではないのです。
あれは事故だったのです。そう思うことにしませんか?
もちろんそんな事を言う事はできませんので、私は素直に愚直に謝罪することにします。
……あら、体温計が鳴りましたね。
「何℃だったの?」
「37℃ですね……。私は元の体温が低めですので、実際は38℃相当でしょうか?」
「うーん、そこそこ高いね……」
「心配はいりませんよ、エイミ。いつもの体調不良のようなものです。安静にしていれば治りますから……」
「まぁ、それならいいんだけど。……やっぱり今日は私も休もうか? 具合悪いんでしょ?」
「いえ、エイミは学校に行って下さい。……ただでさえ特異現象捜査部の活動で出席日数に穴が空いてしまうのですから、出席できる時はなるべく出席してほしいのです。リオや私の都合で、あなたが留年するような事になってしまっては、申し訳が立ちませんので……」
「留年はしないと思うよ。定期試験はちゃんと合格点出してるし」
「ふふ、そうでしたね……。流石私の後輩です」
「なら……」
「ですが、私の看病は必要ありませんよ、エイミ。いつものことですから、心配しなくても大丈夫です」
本当にエイミは優しいです。正直、具合の悪い時に優しくされると本当に好きになってしまいそう。
ただでさえ私好みの容姿をした美少女とひとつ屋根の下で生活しているのです。
これに加えて優しくされたりしたら、いくら清楚系美少女という鎧をまとっている私でもコロっと落とされそうになってしまいますよ。
オタクに優しいギャルならぬ、私にだけ優しいエイミ。
……最高ですね、それ。 エイミを独り占めできるというのは抗いがたい魅力です。
「はぁ……。わかった。一応何かあったら連絡してね。モモトークでも良いから」
「えぇ、分かりました」
ひとまず熱があることはわかりましたから、食事を取って解熱剤を飲んで眠るのが最善でしょう。
消化によく、栄養のあるものを食べるべきなのでしょうけれど……。生憎いまはあまり食欲がなく、しっかりとしたものを食べる事は難しそうです。
エイミが剥いてくれたりんごに口をしつつ、体力が戻るのを待ちましょうか……。
……あら? このりんご美味しいですね。どこのブランドのものでしょう?
「ふふ、久々に食べましたが、みずみずしくて美味しいですね。甘みがあって、固くもないので食べやすいです。エイミも食べますか?」
「え、いいよ。部長が食べなよ」
「ええと、全部は食べられそうにないので……。ごめんなさい、せっかくエイミが剥いてくれたのに」
「あぁ、そういう……。じゃあ余った分だけもらおうかな」
そう言ってエイミは私が食べ終わるのを待つかのように、椅子に腰掛けました。
そこで私は、ちょっとした悪戯心が湧いてきたのです。
「そうですか。では………。……あ~ん」
「―――部長?」
「もう、エイミ? あ~んですよ? ほら、あ~ん」
「……あ、あーん///」
ア゛ッ! かわいい! 可愛すぎますよエイミ!
口を開いて目を閉じて、恥ずかしそうに頬を染めながら、私が差し出すりんごを今か今かと待つエイミ。
もしここにカメラがあれば一秒間に100連写はしていたでしょう。そしてそれら1枚1枚を丁寧に額縁に飾り、天井や壁に貼り付けてエイミに見守られながら眠りにつく幸せ。
それはある意味この世の
しかし今は手元にカメラがないので、代わりに脳内ディスクに記録映像を刻み込みます。
「ふふっ……。美味しいですか? エイミ」
「うん、美味しい」
やっぱり言う事を聞いてくれました。エイミは私が弱っている時は普段してくれないような事をしてくれるのです。
なんだかいけないことをしているような気分になってしまって、ドキドキします。
ですがそれはエイミの弱みにつけこんでるようで、悪戯心はすぐに引っ込んでしまいました。
エイミは私の我儘に付き合ってくれる、唯一無二の子ですから。
悪戯もほどほどに、大事に扱わないと。
私の事を一番に気遣ってくれる、優しい後輩。
そんな優しい子に対して、私の"正体"を隠さなければならないというのが、辛く感じてしまうのも確かです。
―――エイミなら、本当の"私"すら受け入れてくれるかもしれない。
ふとそんな事を考えてしまったからでしょうか? 私は自然にエイミの名を口にしていました。
「―――ねぇ、エイミ?」
「ん……なに? 部長」
心の中で呼んだだけのつもりだったのですが、どうやら口から出てしまっていました。
どうしましょう。何も考えずにただ名前を呼んだだけなんて言えません。
そんなのまるで、恋人がイチャつくみたいじゃないですか。
私は慌てて二の句を紡ぎます。
「エイミは、今が楽しいですか?」
「……それって、どういう?」
「言葉通りの意味ですよ? エイミには私のお願いばかり聞いてもらっていますから。きちんと楽しく過ごせているのかな、と」
「……うん、楽しいよ」
「本当に? 実は嫌だったら言っても良いのですよ?」
「……私は、嫌だなんて思ったことないよ」
「エイミは優しいですね」
もし、もしエイミが本当の"私"を受け入れてくれるなら。
それはとても幸せな事でしょう。彼女に対して隠し事もなく、ありのままの私を受け入れてもらえるのであれば。
熱に浮かされていたからでしょうか? それとも本心の吐露だったのでしょうか?
私は自然とその言葉が口から出てしまっていました。
「では、私が"側に居て"とお願いしたら……エイミは側に居てくれますか?」
―――私が"男"だったとしても、エイミは私の側に居てくれるのでしょうか?
それはきっと、偽らざる私の本心でした。
ですが絶対に口にすることは出来ません。それは、許されざる行いだからです。
エイミが私の言葉を聞いて考え込んでいます。
真剣に考え込むエイミの顔も格好良くて
これ以上エイミを困らせてはいけませんね。
「―――ふふ、冗談ですよ、エイミ。エイミを困らせたい訳ではありませんから」
「……変なの」
「さてと、もうこんな時間ですから。エイミは学校に行って下さいね」
「うん、それじゃ部長、また後でね」
「えぇ、また」
エイミが外に出ていくと同時に、眠気を感じます。
どうやら先程飲んだ解熱剤の効果が現れてきたようです。
私は重たくなる瞼に逆らわず、火照る体を鎮めるべく眠りにつきます。
ポコン♪ という小気味よい音で目が覚めました。
モモトークの通知音です。
時計を見るとまだお昼過ぎ。さて、一体どなたでしょうか?
端末のウィンドウを開き、最新の通知をタップします。
「チーちゃん? ……返信がありませんね」
どうやら直接ここに来るようです。セーフハウスの場所は本来内緒なのですが、チーちゃんには教えていたのを思い出します。
風邪を移してしまうと悪いと思って遠慮したのですが……。チーちゃんはああ見えて世話焼きさんなんですよね。
ヴェリタスに居た頃も私が体調を崩すと、よくお見舞いに来てくれたのを思い出します。ふふ、懐かしいですね……。
「けほっ、けほっ。うーん……あんまり良くなっていませんね……」
ベッドから体を起こしますが、まだ体は少し重たいままです。
悪化こそしていませんが、良くもなっていないといった具合です。
チーちゃんは1時間後くらいに来ると言っていましたし、それまでもう少し目を瞑って休みましょう。