明星ヒマリ男の娘概念   作:めのこん

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50.調月リオと『お泊り会』(2)


 

 

 夕食を終え、彼の自室へと戻った私達。

 食後の休憩という優雅なものは存在せず。室内にはひたすらに議論の声が木霊する。

 その会話には"予知夢"についての話など一言も出てこない。

 

 既に、小一時間はこうしていた様に思える。

 テーブルの上には多数の資料が並べられており、ここが彼の私室であるということを忘れさせてしまう程に、難解で、専門的な会話が繰り広げられていた。

 

 

 

「新型マニピュレータの設計図を見せていただきましたが……中々に斬新な発想です。1本ずつ個別に信号の送受信を管理し、駆動部もそれに応じた専用の回路に繋ぐとは。これならば、アーム部分を完全に独立したシステムで連携させられます。より高度で複雑な"人間らしい"動きにも対応できるでしょう。……考えましたね、リオ。」

 

「えぇ。これで既存のロボット類が弱点として抱えていた"画一的な動き"からの更なる脱却を図れる。あとは駆動部の制御システムの精度を上げる件だけれど……。どうかしら? ヒマリ」

 

「うーん。システムの根幹部分は出来ていますが、実際に動かして見ないと何とも言えませんね。あくまでこれは調整前提のシステムですので、トライアンドエラーを繰り返して確度を上げて行く手法になると思います」

 

「そう。なら、再来週までには駆動部のサンプルとなるパーツを用意しておくわ。実際に取り付ける物とは別物ではあるけれど、システム部分を流用する分には十分な筈よ」

 

「分かりました。では一度、テストプログラムを作ってみますね。それで実際に動かしてみて、その結果をみて、AI側で調節しようかと思います」

 

「ちなみに、どのくらい掛かる予定かしら?」

 

「一週間頂ければ十分です。その間、リオはマニピュレータ以外のタスクに取り組んで頂ければ」

 

「分かったわ。その方向で調整しましょう。このくらいであれば、開発スケジュールの範囲内に収まるはず」

 

「ですね。……って、あら? もうこんな時間でしたか」

 

 

 ヒマリはちらりと自室の時計を見て、少しだけ驚いたような顔を見せた。

 釣られて私もそれに目を向ける。時計の針は24時近くを指しており、既に今が深夜であることを表していた。

 

 

「少し、白熱しすぎてしまいましたね。夕食の時に思いついたアイデアでしたが、まさかここまで実用的なものが出来上がってしまうなんて。……ふふ、自らの才能が怖いです」

 

 


 

 

 発端は宅配サービスで頼んだ夕食を、二人で食べている時に交わした会話からだった。

 

 予知夢という素っ頓狂な話をどういった形で切り出すべきか、迷っていた時。

 ふと、彼が"アバンギャルド君"の進捗について尋ねてきた。

 ここ一週間は学校に来ていなかったから、今どうなっているのかを知りたい、と。

 

 とはいえ、進捗についてはお互いが状況を共有できるよう、常にクラウド上で進捗状況が管理されている。

 それを見れば、今どの作業に取り掛かっていて、次に何をするべきなのかは分かる筈だった。

 

 

「今のまま開発が進めば、恐らく来年には完成するわ」

 

「はい。それはスケジュール表を見て、私も把握しています。ですが、そういう事ではなく……」

 

 

 ただ、彼が言っているのはそういう意味ではないのだろう。

 ヒマリが言っているのは、もっと先。計画そのものの、全体的な見通しについて。

 

 

「実際のところ、出来上がった"アレ"はどうするのですか? 工業系の学園のように、学園を挙げてコンペティションを行っているような環境ならともかく、この学園ではそういったことはしていない筈です。つまり、アレに日の目を見させる為には、何らかの形でコンペティションに参加するか、学園、または企業に売り込みに行く必要があると思いますが……。その準備はどうしているのかな、と」

 

「まだ未定よ。……けど、そうね。最初は先進的技術試験の意味合いで造っていたものだったけれど。ここまでの完成度(クオリティ)を得てしまった以上、倉庫に死蔵させておくには勿体ないとは思っているわ」

 

「えぇ。とはいえ、私達はまだ小学生の身です。個人での発表や、売買は難しいでしょう。なにせ、ぽっと出の新参者ですから。"信頼"もなければ"実績"もありません。そういった人間の案を選ぶというのは、いかに先進的で他を圧倒する性能を持っていたとしても、そう簡単には行かないものですよ」

 

「そうかしら。私は……良いものであれば、いずれ必ず認められるし、正しい形で採用されると。そう思うけれど」

 

「私もそうであって欲しいとは思います。リオは……そこに関してはとても"純粋"なんですね。少しだけ意外です」

 

 

 彼は少しだけ悩んだような顔を浮かべていた。

 物憂げな彼の横顔は、ともすれば芸術品と見紛うように美しく、儚げで、人を魅了する"何か"を持っている。

 私の視線にも気づかず、彼は熟考を重ねる。

 やがて、仕方ないとばかりに小さく"ふぅ"と溜息を吐いて。

 

 

「……分かりました。交渉事は私が引き受けましょう。私が相応しい営業先を見繕います。それに、あなたの希望に沿うようなパトロンを探すことも。お父様の方に少しツテがありますので、まずはそちらの方から当たってみますね」

 

「私は構わないけれど……。 けれど、ヒマリ? これからは訓練にも時間を割くと言っていたでしょう? それに、あなたには既にAI開発の役目を与えている。作業量の増加が負担になったりしないかしら?」

 

「大丈夫ですよ。現状、私の方が作業量的にはかなり余裕がありますからね。……それに、私を誰だと思っているのですか? その程度の負担であれば、わけありません。片手間で終わらせられる仕事です」

 

「そう……。それにしても貴方、本当に何でも出来るのね。少しだけ、尊敬するわ」

 

「ふふ、超天才清楚系病弱美少女ですよ? このくらい、お茶の子さいさいですとも。ちなみに、最近はハッキングのあれこれも勉強中なんです。システム開発を行う都合上、常にハッキングへの対策は必要不可欠ですから。敵の手の内を知るには、自らがその手法について熟知していなければなりません。いずれ私の称号に"ハッカー"が追加される日も近いかも知れませんね」

 

 

 そう言って彼は"ふんす"と分かりやすく胸を張った。

 その様子が何だか子供っぽく見えて……いや、実際に子供なので当たり前なのだけれど。

 

 

「ただ、ちょっと一つだけ気になった点があるんですよね」

 

「何かしら?」

 

 

 設計図をしげしげと見つめ、彼は何か思いついた風に零す。

 

 

「そもそもこのロボットですが、"多目的"用のロボットなのでしょう? アームやマニピュレータの精密さがウリで、加えて自走機能と自己判断機能、つまり人間に近い、高度なAIを搭載した機体。ですが、これだけの性能を持っているのに、軍事目的や警邏目的といった用途は考えていないのですよね?」

 

「そうね。それについては考慮していないわ。軍事用、あるいは戦闘用にする場合、装甲強度や耐久性も考慮しなくてはならない。それをすると、相応に内部の電子回路の耐久性も上げる必要があるでしょう?」

 

「そうですね。ですが、現状……私達の予算ではそれを実行するのは不可能、と」

 

「そういうことよ。それに現代の技術では、外部の攻撃から、内部のシステム回路を完全に守り切ることは不可能。"アバンギャルド君"は、正確無比な動作こそが肝要だわ。万が一にも誤動作が起きるようなことはあってはならない。信頼性こそが何よりも重要だと、私はそう考えているのよ」

 

「はい。その点については、私も同意見です。コンペティション用の資料にも、その点を明記しておきますね」

 

「えぇ、お願い」

 

「それにしても"アバンギャルド君"ですが……。まぁ、相変わらず特徴的な見た目をしていますよね」

 

 

 彼は設計図にイラストレーションとして描かれた、アバンギャルド君の頭部を眺めている。

 その表情は何とも言えないもので、どこか生暖かいような目をしていた。

 

 

「そもそも、どうして"アバンギャルド君"なんですか? もっと他に良い名前があったのではと、そう思ってしまうことが時々あるんですが……」

 

「…………貴方、覚えていないというの? この機体(ロボット)は、貴方が名付け親なのだけれど」

 

「え? ……え、私ですかっ!? いや、これを名付けたのはリオでしょう!? 私はこんなダサ……。いえ、奇抜な名前を付けた覚えはありませんよ?」

 

「……確かに、貴方が直接命名した訳では無いけれど」

 

 

 


 

 

 それを知る為には、私と彼が初めて出会った、その瞬間(とき)にまで遡らなければならない。

 

 周りの人間と馴染めず、親への……もっと言えば"人"に対しての不信感があり、周囲への理解を諦め、諦観が私の心を縛りつけていた頃。

 

 私の放課後は専ら、新たな"設計図"を書くことに使われ、それがほぼ日常と化していた。

 同級生達が校庭や近所の公園でワイワイと楽しんでいる間、私は一人、黙々と作業を続ける。

 

 そうする事が唯一の楽しみであり、退屈で、意味のない、居る価値のない"学校"という場所に対して、私が唯一見出(みいだ)すことの出来た"存在意義"だった。

 

 

 その日、私は少しだけ浮かれていた。

 朝、目が覚めた時。夢の中で何か"革新的なもの"を閃いたからだ。

 

 それは朝食を食べている時も、通学中も、そして授業が始まってからも止むことはなく。

 タブレットも使わず、半ば半狂乱のように。ひたすらノートに設計図の草案を書き殴る。

 普段であれば数日単位で書き上げるそれが、たった半日のうちに、そのほとんどが出来上がりつつあるという事に興奮を隠せず。

 

 描いた。ただひたすらに。

 考え、推考し、記し、夢の中で見た、机上の空論を現実に落とし込む。

 

 

 

 私が夢で見たもの、それは『友達』という存在だった。

 

 当たり前だが、私には友人と呼べる存在がいない。

 今の今まで出来たこともないし、きっとこれからも出来ることはない。

 

 しかし、私の性根は"研究者"でもあった。

 未知があれば、それを知りたい。解き明かしたい。

 "友人"という存在は必要ではないが、それはそれとしてソレがどのようなものなのかを知りたい。そう考える事は不思議ではないはず。

 

 故に、私は逆転の発想を思いついたのだ。

 

 

 "友達が居ないのならば、自分で作ればいいじゃない" と。

 

 

 それで書き上げられたのが、この設計図。

 人を模した造形。頭部にはカメラアイとセンサーを搭載し、人と同じく、目で見て、耳で聞いて、自らの頭脳で考えて動く、自立型のロボット。

 

 人の動きを可能な限り模倣する為に、高度なマニピュレータとアームを搭載。

 トランプの束から、一番上の一枚だけをそっと掴めるような、繊細かつ信頼性の高い動作を実現させる。

 それが出来るのならば、"友達"がするような大抵の遊びであれば可能な筈だ。

 チェスや将棋といった古来から続くゲームから、体を使うキャッチボールなどのスポーツ。

 果ては現代の複雑な最新の対戦ゲームまで、何でもござれだ。

 

 久方ぶりに、高揚を覚える。

 もし実現すれば、既存の"予め用意された動き"しか行えないロボットとは一線を画す。

 自ら考え、最適な動きを模索し、常に進化を続ける全く新しい機械の形。

 

 "人に寄り添う"ロボットの完成。それは、私の知識欲を"二重の意味"で刺激した。

 

 自らの手で未知の技術を―――"技術革新"を起こすのだという知識欲と。

 初めて『友達』を得られるかもしれない、という高揚感に。

 

 

 だが、私の鉛筆はある一点に至った時点で、その走るような動きをぴたりと止める事となる。

 

 ただ、唯一。脚部だけが定まっていなかった。

 ロボットにはしばしばつきまとう問題で、脚部の安定性を考えると、どうしても人型にする事にデメリットが生じてしまう。

 

 バランサーの制御、機体の重量の考慮、搭載するべきシステム。考えることは山程ある。

 さて、これをどうするべきか、じっと考えていた時。

 

 

 背後から、今まで聞いたことのないような、鈴の音が鳴るような声が聞こえてきて。

 

 

「あら? この機械(ロボット)の絵は……すごいですね。パーツ単位まで、綿密に計算されています。こんなに精密なもの、今まで見たことがありません。それに、この設計図も。既製品ではありませんよね? 鉛筆で書かれていますし」

 

「っ! ……誰かしら?」

 

「あ、ごめんなさい。驚かせてしまいましたか?」

 

 

 そこには、私が見てきた中で最も"綺麗"な"()()()"が居た。

 

 白雪と見紛うような、美しい髪。

 水晶のように澄んだ瞳。

 陶器の如く、滑らかな肌。

 

 ―――そして、車椅子の上。清楚にちょこんと座る、その姿。

 

 全体的な雰囲気は楚々としており、まるで童話の中からそのまま出ててきた"お姫様"のような印象を抱かせる。

 

 瞬間的に、『誰だろう?』 と。そう思った。

 

 

 私がこの学校に通い始めて、もうしばらく経つが、いまの今まで"彼女"の姿を見たことはない。

 見かけていれば必ず気づく。それはこの目の前の"少女"が車椅子に座っているという、他の人とは少しだけ異なる要素を持っている事もあるが、それだけでは決してない。

 

 纏う雰囲気が異質だった。何よりも放つ存在感は凄まじいもので、同い年か、一つ下くらいの年齢と推測出来るにも関わらず、まるで大人と対面しているかのような感覚を味わう。

 

 明らかに周囲とは"違う"。

 それは見た目の美しさであったり、一瞬だけ聞くことの出来た、透き通った声であったり。

 そして何よりも小学生にしては余りにも早熟で、似つかわしくない"知性"に溢れるその喋り方。

 

 その人物は、車椅子の上から、慣れたような仕草で、ぺこりとお辞儀をした。

 

 

「初めまして。本日付けで当校へ転入して参りました、"明星ヒマリ"と申します。どうぞ、よろしくお願い致します」

 

「……"調月リオ"よ」

 

 

 彼女の礼儀正しい挨拶に対して、どこかぶっきらぼうな挨拶を返すことしか出来ない。

 だが、それが何故か目の前の"明星ヒマリ"にとっては、意外だったようで。

 直後、少しだけ驚いて、疑問の表情を浮かべていた。

 

 

「あら? お母様から此処は"トリニティ"のような校風だと、そう伺っていたのですが……。もしかして、こういった作法は必要では無かったりしますか?」

 

「……? 少なくとも、校則にはそのような作法が必要であると、明記されている訳ではないわね。むしろ、校則はかなりゆるい方よ。トリニティ総合学園の初等部とは、正反対ではないかしら?」

 

「そ、そうなのですか……? ……お母様、また騙しましたね。隙あらば私のことをからかって来るんですから……! 全くもう、あの人の悪戯癖には困ったものです。子は親の姿を見て育つという言葉を知らないのでしょうか、あの人は……! "美女にはお茶目さも必要"だか何だか知りませんが、もう怒りました。いつか私も仕返しで悪戯してやりますからね……!」

 

 

 ぷんぷんと。頭の上から湯気が出るかのように、どこか可愛らしく怒りの表情を浮かべている。

 少々の間を置いて、落ち着きを取り戻したようだ。溜息を共に、先程までの楚々とした雰囲気が再び戻って来る。

 

 

「……ふぅ。失礼致しました。何分、ここはトリニティの如く、厳かで規律に厳しく、歴史と伝統に溢れた場所だと伺っておりましたので。少々、肩肘を張ってしまいました。先程の挨拶は忘れて下さい。"調月リオ"さん?」

 

「……それは構わないけれど」

 

 

 会話のペースを乱され、僅かばかりに困惑を抱く。

 曰く、彼女は転入生らしい。故に私が今まで彼女の姿を見たことがないという事に合点が行く。

 

 しかし、どうしてこの誰も居ない放課後の教室に姿を現したのか。その疑問は解決していない。

 それについて思考を重ねているうちに、"ヒマリ"は私の机の上にある設計図に目を向けた。

 

 

「ところで、こちらの設計図ですが、あなたが書いたものですか?」

 

「……そうよ」

 

 

 瞬間、無意識のうちに設計図を手で隠す。

 別に見られて困るものではない。第一、これの内容を理解出来る者は居ないのだから。

 

 親や、学校の教師や、特別な機関の講師ですら理解が及ばない。

 私のやること為すこと全てそう。

 

 だから、私は諦めたのだ。"理解"を求めることに。

 

 理解を求めるから、私もまた理解しようと務めなくてはならない。

 彼ら/彼女らの言う事に耳を傾け、考慮し、熟考し、その上で合理性に乏しい判断であると、そう結論づける事しか、ついぞ出来なかったのだから。

 

 ―――だから、私は無意識のうちに、今回もまた"諦める"べきだと。

 そう、思っていたのに。

 

 

 

 

 

「すごいですね。とても小学生の書いたものとは思えません。既存のロボットの概念を超越しています。特にこの"ニューロモーフィック・プロセッサ"ですが、素晴らしい発想だと思います。従来の集中型CPUに代わり、全身に数千単位の演算ノードを配置。各部位が局所的に学習・予測処理を行い、全体挙動をリアルタイムで自己調整。機体の細やかな動作を実現するに辺り、利用出来る環境的情報を複数箇所に分散させ、複合的に挙動を管理するシステム。これは私ですら思いつかない、まさに"天才的発想"だと認めざるを得ません。こう言っては何ですが、仮にこれが実現出来るのだとすれば、"革新的技術刷新(パラダイムシフト)"が起きるのではありませんか?」

 

「っ! ……あなた、ヒマリと言ったかしら? ……この設計図の内容が、分かるの?」

 

「えぇ。チラリと見た限りでは、ですが。とはいえ、まだ荒い部分も多数見受けられますね。例えばこの"アダプティブ外殻"ですが、高分子液晶エラストマーを利用した表層装甲……環境刺激(温度・電磁波)に応じて硬度・弾性率を可逆的に切り替える。とのことですが、これはセンサー類の画一化が難しくなる要因となります。採用するにしても"超伝導キャパシタ"の方が良いでしょう。あちらであれば、外部センサーの追加を行わなくとも、同様の効果が得られますし、何より"安価"です。これが量産機であるかはさておき……性能や安全性に差異が無いのであれば、なるべくコストカットはしておきたいでしょう? それが所謂"効率化"というものですから」

 

「そ、そうね。貴女の言う通りだわ。センサー類の省エネ化を図れるのであれば、そのスペースに他の機能を持たせることも出来る。例えば……そうね、"触覚フィードバックマトリクス"はどうかしら? 圧力・温度・化学センサーを統合したマルチプロセッサを搭載すれば、それを元により詳細かつその場に適した情報(データ)をCPUに送る事が出来ると思うのだけれど」

 

「あぁ、それ良いですね。曰く、人は目で見ているものよりも、肌で感じたり、空気に触れたりして"得ている情報"が多いそうですから。それに該当する機能を搭載出来るのであれば、よりこの機体の設計思想……"人に寄り添う"という理論に近づくのではありませんか?」

 

―――っ! あなた、この設計図を見ただけで、設計思想まで分かると言うの?」

 

「えぇ、まぁ。設計図やシステム、プログラムにはそれを描いた人の"癖"が出ますから。この設計図から見て取れるものは"信頼性"と"安全性"。そして技術的革新を行うという"強い意志"。先進的かつ、合理的。まさに次世代のロボットの在るべき姿です。……正直、かなり驚いています。まさかこんな……"普通"の学校にあなたみたいな人が居るなんて」

 

 

 ヒマリは驚愕を隠せないと言わんばかりに、その水晶のような目を見開いて、こちらをじっと見ていた。

 

 私の方はといえば、驚きを通り越して、もはや呆然とするしかなかった。

 

 

 ―――初めて、"会話が出来ている"。

 その衝撃に、体の芯の部分を金槌で殴られたような衝撃が走る。

 

 

 私の理論に理解を示し、改善点をその場で指摘した。

 知識があるだけでは出来ない。私の理論をその場で見て、"瞬間的"に出した"回答"だ。

 それも、ズバリと。完全かつ合理的で、ぐうの音も出ない程の、完璧な形で。

 

 生半可な頭脳の持ち主ではない、と。一瞬で理解した。

 ともすれば、私に匹敵する……いや、それ以上かもしれない、とも。

 

 ぞくぞくと、背筋が震えるような感覚を味わう。

 風邪を引いた訳でもないのに、体はぶるぶると小刻みに震え、止まれと強く意思を込めても、ちっとも止まる気配を見せない。

 

 じわじわと、未だかつて味わったことのない感情の"波"が押し寄せてくるのを感じる。

 それは緊張と、興奮に似たもので。私の体を瞬間的に熱し、沸騰させていく。

 

 この気分の高揚を何と表現すれば良いのだろう? 今まで生きてきた中で、一度たりとも味わったことのない、この感覚を。

 

 

 

 私のそのような様子にも気づかず、目の前のヒマリは更に深く設計図を読み込んでいく。

 その度に"このシステムはあれで流用できますね"とか、"脚部についての案があるのですが、如何ですか?"などと言うものだから。

 

 心臓が早鐘の如く鳴り響いていく。バクバクと、鼓動の音が早くなっていく。

 余りにもうるさい。目の前の"賢い人"に聞こえてしまうのではないかと、不安になる。

 

 胸が苦しい。でも、決して嫌な訳じゃない。

 ……この気持ちの正体は、一体何だと言うの―――?

 

 

 

 そして、極めつけに。追い打ちをするかの如く。

 

 

「まぁ、頭部のデザインは思う所がないわけではありませんが……。全体を通して、高いクオリティと、確かな安全性。そして既存の概念を覆す程の革新性を秘めたロボット……。そうですね、あえて、こう表現させて頂きましょう」

 

 

 

「実に、前衛的(アバンギャルド)ですね、と」

 

「~~~~っ!!」

 

 

 その言葉が届いた瞬間。私はもはや、自らを抑えることが出来なくなってしまって。

 半ば、衝動的に、本能的に。

 

 ―――私はヒマリに抱きつき、深く抱擁を重ねる。

 

 

 

「ほわっ!? ちょっ!? な、なんですか? 急に一体何を―――」

 

 

 

 私に抱きしめられ、もごもごと腕の中で小さく声を上げる姿にも、構うことなく。

 ただひたすらに噛み締める。この"喜び"と"幸福感"を。

 

 

 "あぁ、ようやく見つけた" と。

 私を"理解"してくれる人が、ついに現れたのだ、と。

 

 私の今までの苦悩が、努力が、諦観が。その全てが報われる時が、ついにやってきたのだと。

 

 だから、この機体(ロボット)の名前は初めから決まっていたのだ。

 これはヒマリが私を"見つけてくれた"証。

 私がヒマリを"見つけた"証拠。

 

 だから、こう呼称するべきなのだ。

 私と、あなたとの"約束"の名前で。

 

 

 

 "()()()()()()()()"と。

 

 

 

 

 

 




後後編に続く(2回目)
念入りに焼かれていきます。

本編終了後の追加エピソードは誰がいい?

  • 和泉元エイミ
  • 調月リオ
  • 各務チヒロ
  • 才羽モモイ
  • 才羽ミドリ
  • 花岡ユズ
  • 天童アリス
  • ケイ
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