明星ヒマリ男の娘概念   作:めのこん

7 / 50
07.明星ヒマリの『薬』

 

 

 皆様、ごきげんよう。

 体が少しばかり繊細でも、頭脳は宇宙規模。ミレニアムが誇る超天才にして、目にも麗しい清楚系病弱美少女、それが私、明星ヒマリです♪

 

 チーちゃんからのモモトークからぴったり1時間後。チーちゃんが我が家にやって参りました。

 ゼリーやドリンク類などをお土産に持ってきてくれたようです。風邪を引いている私への気遣いに感謝の心を禁じえません。持つべきは友達ですね。

 

 そのチーちゃんは物珍しそうにキョロキョロと周囲を見渡しています。

 それも当然です。このセーフハウスにある機材は全て私が作ったオーダーメイド品。

 ヴェリタスの部室の機材も高性能ではありますが、此処のモノには及びません。

 なにせ全ての機材がスタンドアローンの非AI型のシステムによって管理され、更には私が作り上げたセキュリティシステムで完全に防御されてますから。

 デカグラマトンからの攻撃に備えた究極の防衛システムです。

 ミレニアムの「ハブ」を0.00000031秒で突破できるAIですら、これらをハッキングによって正面突破するには数年を要する計算。

 

 ふふ、天才は同じ轍を二度踏まないものなのですよ。

 チーちゃんもハッカーとして、私の作り上げた芸術品と見紛う機材の数々に感動を覚えているのでしょうね♪

 

 

「ヒマリ、冷蔵庫ってどれ?」

 

「そこの棚の横にありますよ。一見するとサーバー機器に見えるでしょう?」

 

「……うわ、ほんとだ。何でこんなややこしい事してるの……。まさかこれって自作品?」

 

「えぇ、もちろん。ふふ……ユーモアですよ、チーちゃん? 普通に作っても面白みが無いでしょう? 天才ハッカーでありながら、エンジニアとしても超一流の私が自ら作り上げたのですから、家具のひとつひとつも特別でなくてはならないのです」

 

「私には分からない世界ね……」

 

 

 あら……。どうやらチーちゃんの琴線には触れなかったようですね。

 こんなにも多機能な冷蔵庫なのに、なぜでしょう?

 エンジニア部の方々に見せたところ、大変好評でした。特にウタハは絶賛してくれたのですよ?

 次はBluetooth機能と自爆機能を付けようと息を巻いていました。

 ハッキングされ機能を掌握された際に自己破壊を図れる機能を付けるとは、やはりウタハにはエンジニアだけではなく、ハッカーとしての才能もありそうですね。

 

 彼女が買ってきてくれたドリンクに口をつけます。

 ミレニアムでよく売られているスポーツドリンクです。ヒトの体液に近い組成と浸透圧、電解質を持つと謳われるこの商品はミレニアム内外を問わず大人気の商品です。

 私も時々飲みますし、何よりエイミの好物です。彼女は暑がりでよく汗をかきますから、失った水分を補給するのにこのドリンクは最適なのでしょうね。

 

 

「けほっ、けほっ」

 

 

 んん、失礼しました。まだ喉の調子が良くないのです。

 水を飲んで喉が刺激されたのか、咳をしてしまいました。

 チーちゃんに感染(うつ)したくはありませんので、なるべく彼女の方を向かないようにしています。

 

 

「……結構調子悪いみたいね」

 

「昨日はそこまでひどくなかったのですが……」

 

「熱はどれくらいあるの?」

 

「37℃ほどでした。朝の時点ですが」

 

「微熱だけど……。いや、そういえば元から体温低いんだったか」

 

「えぇ、その通りです。ですが心配いりませんよ。このくらいであれば、お薬を飲んで眠っていれば治りますから」

 

 

 チーちゃんはとても優しい子です。こんな風にお見舞いに来てくれる子ですから、私にとって得難い友人と言えるでしょう。

 私はこの身体の事情、そして"秘密"を抱える都合から、あまり人と接する事なく過ごしてきましたから。

 そんな中でチーちゃんという存在は、私が心置きなく語り合える、ほぼ唯一と言っても過言ではない大切な親友なのです。

 

 

「一応、朝から昼までは眠れたので、少しは体力が戻っているとは思うのですが……」

 

「……ごめん、私が起こしちゃったか」

 

「あ、いいえ、そういうつもりではなく。どのみち昼にもお薬を飲む為に一度起きる必要がありましたので。チーちゃんが気にする必要はないのですよ」

 

「ん、そっか」

 

「それに飲み物を買ってきて頂けたのはありがたいです。ありがとうございます、チーちゃん」

 

「……気にしないで」

 

 

 気を遣わせてしまったでしょうか。チーちゃんが申し訳無さそうに俯きます。

 

 チーちゃんは一人の人間としても、ハッカーとしても出来た人です。

 ヴェリタスというハッカー集団に置いては唯一の良心と言っても過言ではないでしょう。

 なにせ、私含めて悪戯っ子ばかりですから。……ですが、茶目っ気のある病弱美少女もとても魅力的でしょう?

 私が少しお茶目に羽目を外しても、チーちゃんがストッパーになってくれますから、安心して悪戯に励めるというものです。こうして気楽に羽を伸ばすことが出来るのは、間違いなくチーちゃんのお陰なのですよ。

 

 そのチーちゃんですが、なぜか私のことをじっと見つめています。

 彼女の綺麗な瞳が、メガネ越しにこちらを捉えているのが分かります。

 なんでしょう? もしや病床にあって尚隠すことの出来ない、この私の魅力に取り憑かれ目を離せなくなってしまったのでしょうか?

 あぁ、私はなんて罪な存在なのでしょう。友人ですら魅了してしまう、類稀なる美貌と品格。

 天才美少女とはかくも罪な存在なのですね……。

 

 とはいえ、流石に私もじっと見つめられると照れてしまいます。

 チーちゃんも私ほどでありませんが、とても綺麗なお顔をしています。世間一般の基準で見ても美少女と言えるでしょう。

 キリッとした顔立ちはむしろ格好良さを思わせ、その手の顔の良い(イケメン)女子が好みの方であれば間違いなく虜になってしまうのでしょうね。

 そんな彼女に真剣な眼差しで見つめられると、思わず私もドキドキしてしまいます。頬が赤くなるのが分かりました。

 

 

「あの……チーちゃん? どうしたのですか?」

 

「……いや、なんでもない。ちょっと考え事してただけ」

 

「そうでしたか。急に深刻そうなお顔をしていましたから、どうしたのかな、と」

 

 

 それにしても、懐かしいですね。こうしてチーちゃんと二人きりで話すのは。

 かつてはこれが日常でした。ヴェリタスは二人きりの部活でしたから、毎日チーちゃんと語り合ったものです。

 ハッカーとしての技術や倫理に関する討論。今後の部活の方針や、セミナーに対する姿勢など多くの事を。

 懐かしさからでしょうか。風邪を引いていることを忘れ、昔話に花を咲かせます。

 

 

「ふふ。二人きりで話すのも随分久しぶりですね? 二年前はずっとこうだったのを思い出します」

 

「……あぁ、ヴェリタスを設立した頃の話ね」

 

「えぇ。二年になって皆が入部して来るまでは、ずっと二人きりでしたから。懐かしいな、と」

 

「そうだね。……あの頃は資金繰りに躍起になって無茶してた記憶しかないけど」

 

「反セミナーのお題目を掲げたせいで部活動の資金が入ってきませんでしたからね。よくサーバー設備維持の為に夜ふかししていたのを思い出します」

 

「夜ふかしっていうか徹夜ね……。五日連続徹夜は二度とやりたくない」

 

「ふふ、とはいえあのときの経験も得難いものだったでしょう? 限界を超えた先に見えてくるものがありますから。若かりし頃の思い出です」

 

「まだ私達も17でしょ……。まぁ一皮むけたってのはそうかもね。あれ以来、ちょっとの徹夜くらいじゃ何とも思わなくなったし」

 

「ワーカーホリックですね、チーちゃんは。将来は黒い企業に入ってはいけませんよ?」

 

「既にもうブラックじみた業務量だと思うけどね……」

 

「今ではヴェリタスも賑やかになりましたからね」

 

「そうだね。コタマ*1やハレが入ってきて、今年になってマキが来てからはもっとね」

 

「はい。みんないい子ですから。良い同期や後輩に恵まれたと思っていますよ」

 

 

 ふと、ヴェリタスのことが頭に浮かびます。

 思えば、リオとの約束の為とはいえ、チーちゃんには苦労を掛けさせてしまいました。

 ヴェリタスの副部長という役目を押し付け、何の相談もせずにヴェリタスから離脱してしまった事について、負い目を感じているのも確かなのです。

 

 

「その……ごめんなさい、チーちゃん」

 

「ん……なにが?」

 

「ヴェリタスの事です。事情があったとはいえ、無言で去ってしまったでしょう? 引き継ぎもせず、チーちゃんに副部長を押し付けてしまいましたから」

 

「……あぁ、そのことね」

 

 

 リオから正体不明のAI(デカグラマトン)の資料を受け取ったとき、私はこれがリオが助けを求めてくる程の異常事態だと察しました。

 何でも自分で抱え込み、解決してしまう彼女(リオ)が私に助けを求めてくる程の緊急事態です。

 故にあらゆる手続きを無視し、早急に対処する必要がありました。

 そのために必要な措置は全て取りました。部活の移動に際して、ハッキングによる書類の改ざんなど、後ろ暗い事をしてしまったのも確かです。

 ですが全てはミレニアム、そしてキヴォトスの危機に対処するためです。

 リオではありませんが、手段を選んでいられなかったのです。

 

 

「セミナー……。それも会長(ビッグシスター)からの直接命令だったなんてね。正直、なんで断らなかったのか理解に苦しんだ。……あなた会長のこと好きじゃないんでしょ?」

 

「えぇ、まぁ。……普段であれば断っていたでしょう。しかし今回ばかりは事が事でしたので……」

 

「特異現象捜査部、か」

 

 

 特異現象捜査部にヴェリタスを誘う、もしくは協力を仰ぐことも考えましたが、やめました。

 この活動は恐らく危険を伴うと同時に、まともな学園生活を妨げてしまう、その可能性があったからです。

 それにヴェリタスの部員は、エイミのように初めからリオに付き従い、特殊な訓練を受けたエージェントではありません。

 彼女達にも彼女達が送るべき青春があります。私やリオの活動に彼女達を巻き込むわけにはいきませんでした。

 

 

「キヴォトスに起きうる危機を未然に察知し、対策を行うミレニアムの機密組織ね……。最初に聞いたときは、今度は何の映画にハマったんだって思ったけど」

 

「私も最初にリオ……いえ、会長から資料を渡されたときは、よく出来た創作だと思いましたよ。……しかし見れば見るほど、それは可能性として"あり得る"と他ならぬこの私自身が認めてしまったのです。現にデカグラマトンの活動が急激に活発化していましたから」

 

「……その、デカグラマトン? とかいう奴。今はどうなの?」

 

「あまり多くは語れないのですが……。まぁ、チーちゃんであれば余計な口外はしないでしょうし、構いませんよね」

 

 

 簡略化した概要を説明しました。知ってしまうと危険な情報もありますから、そこは濁したり、避けたりして。

 大凡の状況を把握したのでしょう。彼女は神妙な面持ちで頷きます。

 

 

「……なるほどね」

 

「ですので、できるだけ早く次の"預言者"の動向を掴んで、調査に入りたいのですが……。何分、このように体調を崩してしまっている状態です。歯がゆさを感じないといえば嘘になります」

 

「……ヒマリさ。私によく働きすぎとか、徹夜は辞めろって言って来るけど。……あなたも大概じゃない?」

 

「それは……そうかもしれません。ですが―――」

 

「ですがじゃないよ。それで体壊してたら何にもならないでしょ」

 

 

 いつになく厳しい口調で諌められました。

 これは本気で叱られていますね……。私も反省するべきでしょう。

 

 

「ヒマリ。私はあなたのこと"友達"だと思ってるから。……私に出来る事があったら何でも言って。ヴェリタスの皆も協力してくれると思う」

 

「……はい、ありがとうございます、チーちゃん。もしその時が来たら、手を貸して頂くかもしれません」

 

 

 できれば、それが必要になるような状況が来ない事を願っていますけれど、ね。

 話が終わったからでしょう。彼女は椅子から立ち上がり、時計に目を向けます。

 

 

「―――さてと、聞きたいことは聞けたし、そろそろ帰るね」

 

「待って下さい。大切なものを忘れていますよ」

 

「ん? あ、そっか」

 

「ごめん、忘れるところだった。USBはどこ?」

 

「そちらの棚の中に入っています。……えぇ、その横。隣の棚の引き出しです」

 

 

 ベッドから動けない私の代わりにチーちゃんに探してもらいます。

 USB類は別の部屋に保管しているのですが、ヴェリタス時代のものはそこの棚に収納していたはずです。

 

 

「見つかりましたか? 確かそこに入れていたと思うのですが」

 

「うん、あったよ。……何で薬棚に入ってたのかはさておき」

 

 

 あぁ、薬棚に混じってしまっていましたか。

 デカグラマトン関連の資料は一箇所に整理整頓されているのですが、過去のデータ類はまだ整理が追いついていないのですよね……。

 もし時間があれば整理したいのですが、こうして風邪を引いている現状ではそれも難しいですね、頭が痛いです。

 というか、本当に頭が痛いようです。熱のせいか、ズキズキと痛みます。

 お昼の薬を飲まなくてはなりませんね。

 

 

「ごめんなさい。まだこちらに引っ越してきたばかりで整理整頓が追いつかず……。そうだ、ついでと言っては何ですが、同じ場所に頭痛薬があったと思いますので、取って頂けませんか?」

 

「頭痛薬?」

 

「はい。その……少し頭が痛いのです。一応朝にも飲んだのですが、昼にも飲むべきかなと」

 

「えーっと……どれだろう。 解熱剤……の事じゃないよね?」

 

「えぇ。確か市販の黒い瓶に入っていたと思うのですが……」

 

「ちょっと待ってね。探してみる」

 

 

 そう言ってチーちゃんは再び薬棚を探し回ります。

 おかしいですね……朝に飲んだ際、昼にも飲む事になるからと、わかりやすい場所に置いたはずなのですが……。

 やがてチーちゃんがそれらしきものを見つけてくれたようです。

 

 

「ヒマリ、黒い瓶はあったけど、これの事?」

 

「ええと……いえ、それでもありませ―――っ!?」

 

 

 それが視界に入ったとき、私は目を疑いました。

 待って下さい、なぜそれが此処に……!?

 あ、あれは廃棄した筈では……!?

 

 

「え、えーっと……。あっ! す、すみません。ありました! ……昼に起きたら飲もうと思って、枕元に置いていたのを忘れていました」

 

「はぁ? ……ちょっとしっかりしてよね。 ……って病人に言っても仕方ないか」

 

 

 私は焦りました。なにせその薬は他人に見られては困る類のものだからです。

 ラベルが貼られていないから、一見すれば何の薬かは分からないかもしれませんが……。

 それでも絶対にチーちゃんには見られてはいけないものです!

 

 

「これだけラベルが貼られてないけど、何の薬?」

 

「えっ!? え、えーっと……そ、それはその……」

 

 

 ……ど、どうしましょう!? 薬名を知られたら流石に不味いです。

 どう誤魔化すべきか、叡智の結晶たるこの私の頭脳の全リソースを使って考えます。

 

 

「……なんか怪しいな。まさか変な薬(違法薬物)じゃないでしょうね?」

 

「そ、そんなものをこの公明正大、清廉潔白が取り柄の清楚系美少女である私が持っているはずがないでしょう……!? いくらチーちゃんとはいえ怒りますよ……!?」

 

「……ごめん。そうだよね」

 

 

 チーちゃんが何やら失礼なことを言ってくれやがりました。私がそんなものに手を出す筈がないでしょう!

 というか、まだそっちのほうがマシです。その薬はそんな生易しいモノではないのですから……!

 とりあえず話の流れが逸れたのは僥倖です。このまま理由をでっち上げて気を逸らさせるのが最善です。

 

 

「お医者様から頂いた強い解熱剤です。……胃が荒れてしまうため、よほど症状がひどい時以外は服用するなと言われていましたので」

 

「あぁ、そういう……。確かに普段は使わないか」

 

 

 良かった。何とか納得してくれたようです。

 この場でどういう薬なのか問い詰められたり、調べられたりしたら流石に不味かったでしょう。

 なにせその薬には私の"秘密"が密接に関係していますから……。

 

 

「それじゃ、USBメモリも受け取ったし、今日は帰るね。なんかあったら連絡して。……お大事に」

 

「はい、チーちゃんも帰りはお気をつけて。午後からは雨が降るらしいですから」

 

「うげっ……。傘持ってきてない。早くミレニアムに戻らないと。……それじゃあね」

 

 

 そう言ってチーちゃんは帰っていきました。

 ふぅ、と私は胸をなでおろします。

 

 

「……それにしても、まさかあの薬があるなんて。前に全て廃棄したと思っていたのですが……」

 

 

 それはとある理由から、私が全て廃棄したと思っていた薬品。

 HSVと呼称されるそれは、チーちゃんはおろかエイミにも絶対にバレてはいけない代物です。

 そして同時に私は怒りを覚えました。この薬品を紛れ込ませた人物に心当たりがあったからです。

 

 

「……はぁ~。絶対にあの女でしょうね。あれほど要らないと言ったのに紛れ込ませてくるなんて……。危うく秘密がバレるところでした。どう責任を取ってくれるのでしょうね?」

 

 

 大変腹が立ってきました。これは流石に文句を付けざるを得ません。

 私は痛む頭を無視して、携帯端末を手に取ります。

 モモトークを立ち上げようとしますが、途中でその手を止めます。

 この怒りはチャットなどで晴らせるモノではありません。直接文句を言ってやらないと私の溜飲が下がることはないのです。

 

 ノータイムで電話を掛けます。相手は勿論、"あの女"です。

 

 

 


 

 

 

 

『……あなたから連絡なんて珍しいわね。どうかしたのかしら?』

 

「―――もしもし? リオ? 話があります」

 

『なにかしら?』

 

「単刀直入に聞きます。あの(HSV)を私の荷物に紛れ込ませましたね?」

 

『……そうだけれど、それがなにかしら?』

 

 

 はい、犯人確定です。現行犯逮捕。私の怒りが有頂天になりました。

 怒髪天を衝くというのでしょうか。思わず強い言葉が出てしまいます。

 

 

「本当にっ!あなたはっ!何をっ!考えているのですかっ!? あの薬は全て廃棄して下さいと言ったでしょう!? なぜ私のセーフハウスにアレがあるのですか!?」

 

『あの薬は必要よ。特にあなたの体に関わるものだもの。あなたが勝手に廃棄したとはいえ、予備は必要だわ。いつ必要になるか分からないものだから』

 

「必要ないと口を酸っぱくして言ったでしょう! 先ほどチーちゃんが部屋に来ました。そして薬を見られました。何とか誤魔化しましたが、危うく"バレる"ところだったのですよ!?」

 

『……そう。それは申し訳ないことをしたわね。けれどあなたにも責があるのではなくて?』

 

「う゛っ……。それは、そうですけれど……」

 

 

 痛いところを突かれました。確かに私の管理が不十分だった節はあります。

 薬棚にUSBメモリを入れていなければ、チーちゃんがあの薬の存在に気がつくことはなかったでしょうし。

 

 

「けほっ! けほっ! んん……申し訳ありません、ちょっと咳が」

 

『……ヒマリ。あなた体調が優れないのね?』

 

「えぇ、まぁ……。ですが、あなたに心配される程のことではありませんよ」

 

『高熱と倦怠感が出ているのではなくて?』

 

「まぁ、そうですけれど……」

 

『……ヒマリ。あなたが最後にあの薬を飲んだのはいつかしら?』

 

「はぁぁあ……!? い、言うわけないじゃないですか! どうしてあなたにそんなことを教えなくてはならないのですか!?」

 

 

 こ、この女とんでもないことを言い出しましたね。

 私があの薬を飲むということがどういう意味か、分かっていてこんなことを聞いているのでしょう。

 相変わらず性格の悪い、下水の腐ったような性根をしていますね!

 

 

『ヒマリ。これはあなたにとっても重要なことよ』

 

「だとしても教えません。……私にだってプライバシーはあります」

 

『そう……。なら直接確認するしかないわね』

 

「直接って……。待って下さい、リオ。あなた何を考えて―――」

 

『今からそちらに向かうわ』

 

「リオ? ちょっと待ちなさい。……リオ!?」

 

 

 そう言うと通話が切れました。

 相変わらず人の話を聞かない女です。

 

 

「そもそもこのセーフハウスはリオも知らないはずですが……。いえ、考えても無駄ですね。あの女の手に掛かればミレニアムの何処に誰が居るかなんて、数分も掛からないでしょうし」

 

 

 私は不貞腐れて寝転がります。こうなってしまってはもうどうしようもありません。

 ミレニアムに半強制的に入学させられた時もそうです。リオが本気で行動を起こしたら、私でも止めることは難しいのですから。

 あの女が来ると言ったら来るのでしょう。それが例えヒノム火山の山頂だろうが、氷海の下だろうが、です。

 

 で、あればいっそ何もしないほうがマシです。無駄な労力を減らすことができますから。

 ひとまず、あの女が来るまでもうひと眠りするとしましょうか。

 

 

 

 

 

 

*1
チヒロやヒマリと同学年だが、入部は2年だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。