明星ヒマリ男の娘概念   作:めのこん

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09.明星ヒマリと『合理』(1)

 

 

 

「はぁ…………」

 

 

 皆様、ごきげんよう。

 “歩く叡智”“病弱の美神”“清楚な奇跡”。

 ミレニアムの知識と美の象徴――清楚系病弱美少女、明星ヒマリです。

 

 気落ちしていても、私の持つ美貌が色褪せることはありません。

 しかし幾分、普段よりも肌艶が悪いことは事実と認めざるを得ないでしょう。

 なにせ数刻前にやらかしたミスが、恐らく面倒な事態に発展しつつあるからです。

 

 

「……部長、顔色悪いけど大丈夫?」

 

「あぁ、エイミ。おかえりなさい。……えぇ、大丈夫です。具合が悪いわけではないのですよ」

 

 

 少しばかり眠っていたところ、エイミが帰ってきたようです。

 両手に持つレジ袋の中には、恐らく今日の晩ごはんの材料が沢山入っているのでしょう。

 

 

「エイミ。これから此処に会長がいらっしゃいます。ですが出迎える必要なんてありませんよ」

 

「え、リオ会長来るの?」

 

「えぇ。来るなと言っても来るでしょうし、今更出かけた所で追跡されるのがオチですから、諦めました」

 

「私は別にいいけど……。部長ってリオ会長のこと嫌いなの?」

 

「えぇ、嫌いですとも。少なくともあの女と話すくらいなら、道端の酔っ払いと管を巻いていたほうがまだ有意義というものです」

 

「ふーん……。なんか、部長に苦手なものあるのって意外」

 

「苦手というより、本質的に相容れないのです。ですが、曲りなりにもあの女の実力は私に匹敵しますから。そこがまた癪に障るのですよ」

 

「……リオ会長は部長のこと、結構大事にしてそうな言い方してた気がするんだけど」

 

「はぁ~? あのリオがですか?」

 

 

 思わず身震いしてしまいました。リオに大事にされているというワードそのものに寒気を覚えてしまいます。

 リオに対しての思いは複雑なのです。一言で表すにはあまりにも。

 

 

「決して嫌いなわけではないのですよ。ただ、思想というか、考え方に差異がありすぎて相容れないということです。彼女の実力は本物ですし、その手腕だけは私も全面的に認めています」

 

「てっきり部長のことだから、リオ会長のことライバル視して勝手に目の敵にしてるのかなって思ってた」

 

「エ・イ・ミ~? あなたは今言ってはいけないことを口にしましたね? お仕置きです!」

 

 

 エイミのもちもちした頬を左右に引っ張ります。むに~っと伸びる頬。

 とっても柔らかいです。まるで大福のよう。

 

 

ごふぇんごふぇん(ごめんごめん)ふぉういふぁふぁいから(もう言わないから)

 

「もぅっ! いくらエイミとはいえ、禁句というものがあるのですよ? 次言ったらおやつのプリンは抜きですからね?」

 

「別にプリンはそんなに欲しくないんだけど、まぁ分かったよ」

 

「分かれば良いのです。分かれば。……っと、あれは……」

 

 

 そんなことを言っていると、玄関の監視カメラに見知った影が映りました。

 黒のスーツにタイトスカート。夏だというのにデニールの高いタイツ。

 まるで季節感というものを考えていません。流行というものに一切関心を持たない、お洒落カースト激低女ことリオのお出ましですね。

 

 

「このまま鍵を開けないでいたら、リオはどんな顔をするでしょうね?」

 

「部長……大人気ないから流石にやめたほうがいいよ」

 

「……冗談ですよ。今開けますから」

 

 

 エイミがジト目でこちらを見ていました。流石にエイミに失望されるほど、子供っぽい振る舞いはしません。

 車椅子の端末を操作し、玄関の扉を開けます。

 それを待っていたように、リオが玄関へと入り、こちらのリビングへと移動してきました。

 

 

「久しぶりね、ヒマリ。そしてエイミも」

 

「会長、久しぶり」

 

「えぇ、とても久しぶりですね。なにせ最後に話したのは3年の入学式の生徒会長スピーチ以来ですから。その後はどこかに姿を眩ませ、セミナーの仕事も放りだして何処で何をしていたのやら」

 

 

 開幕から嫌味をぶちかましてやりました。この女には言いたいことが山程あるのです。

 

 

「前にも伝えたでしょう。優先して実行するべきタスクに当たっていたのよ」

 

「そうでしょうね。秘密主義のあなたのことですから。座視できない事態が起きようとしていて、それに対処しているのですね。それら全てを自分一人で抱え込んでいるのでしょう? ……事が手に負えなくなるまで」

 

「……ヴェリタスの件は申し訳ないと思っているわ。想定以上にデカグラマトンの行動が迅速だったのは事実よ。対処する為にあなたを強制的に異動させてしまった。それについてはいずれ改めて謝罪するわ」

 

「私への謝罪は必要ありません。デカグラマトンの脅威については私達の見解は一致していましたから。……早急に対処する為にヴェリタスを離れる必要があった事も納得しています」

 

「そう。なら……」

 

「ですが、ヴェリタスの方にはいずれ、きちんと説明して下さい。私がどうこうではなく、あなたの口から。勿論、私も彼女たちには直接謝罪するつもりです」

 

 

 私が移籍した事で、彼女たちに余計な不安を与えてしまいました。

 しっかりと説明する時間があればよかったのですが、それすら不可能な状況でしたからね。

 結局全てをチーちゃんに押し付けて、半ば逃げるように去ってしまったのは紛れもない事実です。

 

 

「……えぇ、それはいずれ必ず果たすわ。少なくともミレニアムが安全だと確認が取れたら、だけれど」

 

「それだけ聞ければ私は満足です。……いきなり喧嘩腰になってしまい、申し訳ありませんでした、リオ。私としたことが、少し頭に血が登ってしまったようです」

 

「気にしなくてもいいわ。あなたと私は"対等"。意見の相違があった場合、必ず互いが納得するまで話し合う。……そういう約束で此処に来たのでしょう?」

 

「そうですね。……ひとまず、この話は終わりにしましょう」

 

 

 そう言って、手元のドリンクを飲みました。

 長々と話してしまって喉が乾きましたから。

 ちらりと横を見ると、エイミが驚いたような表情を浮かべて、こちらを見ています。

 

 

「……びっくりした。部長もあんな風に怒るんだね」

 

「あっ! そ、その、ごめんなさい、エイミ……。怖かったでしょう? そういうつもりはなかったのですが、リオの顔を見たらつい言いたいことが溢れてきてしまって……」

 

「ううん、気にしないよ。部長もちゃんと人の子なんだなってちょっと安心した」

 

「エイミ? 普段は私のことをどんな風に思っているのですか?」

 

 

 こんなにも完璧な美少女に対してなんて事を言うのですか、エイミは。

 私は常日頃から穏やかかつ儚い、雪化粧を纏った清廉な乙女として振る舞っていますよ?

 時々口が悪くなるのは、このリオというわからず屋の女だけであって、他の方に対してはそのような口調で非難することなんてありませんとも。

 

 

「……随分仲が良いのね?」

 

 

 私達の様子を見て、リオが呟きました。

 おや、今更気づいたのですか、リオ?

 

 私とエイミは仲良しさんなんですよ? 元はあなたの部下だったかもしれませんが、今は私の大切な後輩です。

 返して欲しいと言っても絶対に返してあげません。こんないたいけで優しくて可愛くて、でも後ろ姿は格好良くて、お顔はとってもチャーミングな子、絶対に返してあげるものですか。

 

 

「ふふふ、返してほしいと言っても返してあげませんよ? もう私に完璧に懐いているのですからね!」

 

「……私は部長の飼い犬か何か?」

 

「まぁ♪ こんなにも可愛らしいワンちゃんが居たら、毎日朝から晩までずっと可愛がってしまいたくなりますね? どうですか、エイミ? ナデナデしてあげましょうか」

 

「…………」

 

 

 ジト目でこちらを見つめてくるエイミ。とても可愛いです。

 

 

「……ん」

 

「……? ええと、エイミ?」

 

 

 てっきりからかわれて抗議の目線を送ってくると思っていたのですが、エイミは頭をずいっとこちらに向けてくるのみで反応がありません。

 ええと、これはどういう事なのでしょう……?

 

 

「…………撫でないの?」

 

 

 

 ア゜ッ! 可愛い! 可愛すぎますよエイミィ!!

 

 

 嫌がられるかと思いきや、ナデナデをせがむように、こちらに頭を向けてくれたのですか?

 しかも私が撫でやすいように、車椅子の位置に合わせて身をかがめてくれています。

 こういった一つ一つの動作に、エイミからの優しさを感じてしまうのです、私は。

 

 

「~~~ッ! あぁもう! エイミは本当に可愛いですね! (なでなでなでなで)」

 

 

 わしゃわしゃと大型犬を愛でるように撫で回します。エイミも喜んでいるのか、目を細めて気持ちよさそうにしています。

 あぁ可愛い。許されるなら本当に私だけのモノになって欲しい。そんな欲望すら抱いてしまいそうになります。

 

 

「……楽しんでいるところ悪いのだけれど、そろそろ本題に入っても良いかしら?」

 

 

 痺れを切らしたのでしょうか。リオが気まずそうな顔でこちらを見ています。

 私としてはずっとこうしてエイミと戯れていたいのですが、流石にリオを放置してまですることではありません。

 リオのことは好きではありませんが、嫌いでもないのです。彼女の言う事には常に何らかの利がある事に疑いようはないのですから。

 

 

「えぇ、そうしましょう。……えぇと、エイミ。そろそろ」

 

「ん……」

 

 

 エイミが物足りなさそうな顔でおねだりしています。

 ここでやめてしまうのは大変心苦しく、許されるならば永遠にずっとこうして居たいのですが、流石におあずけです。

 

 

「では、リオ。本題に入るとの事ですが、それはつまり……この子には……」

 

「察しが早くて助かるわ。エイミ、この話はあなたに聞かせることができないわ。申し訳ないけれど、別室で待機していて頂戴」

 

「え……。で、でも会長」

 

 

 珍しくエイミが狼狽しています。いつも側に居て私の事を支えてくれる彼女には申し訳ないのですが、この話はエイミに聞かせてあげられるものではないのです。

 ……私の秘密に関する事ですからね。

 

 

「ごめんなさい、エイミ。……これからする話は、エイミには聞かせられない話なのです。決して意地悪で言っているのではなく、私とリオ以外が知ってはいけない、非常に秘匿性の高い情報なのです」

 

「……そう、なんだ。……うん、分かった。部屋で待ってるから、終わったら呼んで」

 

「はい、エイミ。ではまた後で……」

 

 

 そう言ってエイミはリビングを後にしました。リオも立ち上がり、移動を促します。

 

 

「ヒマリ。あなたの部屋に移動しましょう。あなたの事だから、自室を最もセキュリティレベルの高い状態にしているのでしょう?」

 

「そうですね。例えデカグラマトンであっても、ハッキングするには数日を要する程度には固めてあります」

 

「そう。ちなみに防音設備はどうなのかしら?」

 

「可能な限り高めてあります。隣の部屋で銃を打っても聞こえない程度には。勿論、緊急時に備えて、防音レベルを調節出来るように改造してありますけれど」

 

「結構ね。追加の設備が必要なら私に言って頂戴。AMASを含むこちら側の技術を提供する用意があるわ」

 

「ありがたい話ですが、今は遠慮しておきます。あなたの実力を疑っているわけではありませんが、デカグラマトンに対処する場合、コンソールを一つに統一したほうが安全なので」

 

「そう、分かったわ」

 

 

 リオも納得したのでしょう。それ以上言葉を交わすことなく、私達は部屋へと入っていきました。

 

 

 

 

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