【リメイク版】ズッ友宣言してきた子の距離感がおかしい   作:猫好きの餅

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 お待たせ致しました。私の弊ワット最高火力の子がこの度復刻致します。

 リメイク前よりも糖分増していく予定ですので、どうか再びよろしくお願いします。





俺のハートにサメサメアタック(ズッ友)

 

 

 

 

 ───────意を決して、俺は目を瞑り水に潜る。頭まで水に浸かる感覚と、聞こえる音が全て籠り、顔が水に触れる不快な感触。

 

 鼓動が早くなり、焦燥感が募る。慌てて水面に上がろうともがいたら、脚に激痛が走った。

 

 つったァ!!

 

 日常の中の痛みの中で、こむら返りは結構痛い方だと思う。脚の痛みと、水中なので間を開けられず、視界がふさがった不安、息が苦しくなる焦りが加わり、俺はどんどん水に沈んでいった。

 

 ……あ、俺死んだ……。

 

「……あれ?……ウル、どこにいるのって…えええ!?」

 

 遠くなる意識の端に、聞き覚えのある声が引っかかった。直後自分の近くに何かが飛び込む音と共に、胴体に腕が回されてグイッと引っ張りあげられる。

 

 

「…ル…ウルッ!……大丈夫っ!?」

 

 あ、天使がお迎えに来たんだなぁ。

 

 俺はそのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぅ、ん」

「あっ、起きたっ!……大丈夫?」

 

 あれ、俺死んだんじゃないの?瞼を開けようとしたら太陽の光が差し込んできてもう一度目を瞑る。すると俺の顔に当たる光が何かに遮られた様に影が出来た。俺は頭の中に疑問符を浮かべながら目を開けて。

 

 

「…ウルっ!」

「どわらばっ!?」

 

 目を開けた途端、視界いっぱいにあった女の子の顔に驚いて、俺は彼女の下から転がり出た。やけに後頭部が柔らかい物に当たってると思ったら膝枕じゃねーか!……と転がりながら体勢を立て直そうとしたら、俺の下から地面が消えた。

 

「えっ」

「あっ」

 

 今になってわかったけど、俺は桟橋の上で介抱されていたみたいだ。それを俺が転がり出たもんだから、当然はみ出す。

 

 それを遅まきながら理解した俺は為す術もなくもう一度水の中に背中から落っこちた。

 

「ぼぼぼぼ!?」

「う、ウルっ!?…ちょ、なにしてんの!」

 

 またもや隣に飛び込む音。俺の腕を掴んで引っ張り上げ、今度は桟橋じゃなくて砂浜の方に寝かせられる。大の字になってゼェゼェ息を吐く俺の上から笑い声が降ってきた。

 

 

「はぁ、はぁ、死ぬかと思った…」

「…っ、あはははははっ!……わたし、こんな短時間で2回も溺れる人始めて見たよっ」

 

 俺を助けたせいでびちょ濡れになりながらお腹を抑えて笑う彼女を見たら俺の顔が暑くなった。ひとしきり笑った彼女は、俺に向かって手を差し出してくる。それを掴むと俺は勢いをつけて立ち上がった。

 

「…はぁ、助けてくれてありがと。ムアラニ」

「とーぜん!」

 

 俺がお礼を言うと、流泉の衆の英雄、ムアラニは笑顔で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、大丈夫だった?水飲んでない?」

「何とか。ムアラニが助けてくれなかったら危なかったよ」

「もう、泳ぎの練習するなら誰か呼べば良かったのに。ひとりでやっちゃダメだよ?」

「みんな今日予定あるみたいでさ」

 

 海から上がった俺たちは桟橋の上に座る。その横に座ったムアラニはひとりで泳ぎの練習をしていた俺に頬を膨らませて指で突っついてきた。

 

 俺はそのつんつん攻撃が心臓に効くのを実感しながら彼女をちらりと見る。

 

 日焼けした小麦色の肌。長く伸ばした青の入った白い髪を纏め、残りを長い三つ編みにして垂らしている。その奥に覗く整った顔は感情によってコロコロと変わり、不思議な模様が入った瞳で見られれば鼓動が高鳴る。

 

 今、言うのもなんかアレだけど。

 

 俺はムアラニに片想いをしている。

 

 別に無謀だってわかってるさ。彼女にとって、たくさんいる友達の1人。俺なんかよりも、もっと強くて賢くて、彼女にふさわしい人がいるんだろう。でも、この子のこういう感情を隠さないところが好きなんだ。

 

 ムアラニはつんつん俺を指先で突っつきながらいじけた様に言う。

 

「……みんなって、まだ予定ない人いるよ?」

「え、いたっけ?全員に声掛けたんだけどなぁ…」

「むぅ…」

 

 ムアラニは俺の言葉に可愛く頬を膨らませる。つんつん攻撃がでしでし攻撃へとレベルアップし、表情と合わさって俺の何かを著しく削り取った。

 

「……全員って、あたし…声掛けられてないんだけど?」

「…えっ……あ」

「あっ、て!あたしのこと忘れてたのっ?」

「いや、そういうわけじゃ…ムアラニって、流泉の衆の人気者だし申し訳なくて…」

 

 事実、ムアラニはこの国では有名人だ。ナタ1のガイド役にして、先の戦争での流泉の衆の英雄。長年続いたアビスとの戦争を終結に持っていった功労者のひとりだ。こんな、流泉の衆の癖に水が苦手な俺の練習なんかに付き合わせるのはもったいないと思っていた。

 

 呆気にとられた俺の顔を待て、頬がもうプクフグフロートみたいになってる。そんなムアラニは桟橋から立ち上がると、俺の後ろに回り込んで…。

 

「ふんっ!」

「おわっ!?」

 

 俺は背中を押されてまたもや着水する。慌てかけたが今度は浅瀬なので溺れる程水に浸からない。尻もちを着いて驚いてる俺の隣に、ムアラニがばしゃんと着地して飛び散った水が俺の顔にかかる。

 

「…うぇっ!…な、なにすんだよ」

「今日はあたしがウルに泳ぎを教えたげるっ!」

「えっ、そんなの悪いって」

「あたしがいいって言うならいいのっ!あたし達友達でしょ?こういうのはどんどん頼ってよ!」

 

 そういい、ムアラニは胸をどんと叩く。俺がそれでも答えに渋っていると、ざふざぶとこちらに近寄ってきて腕を取ってきた。

 

「ほーらっ、いこ?…どうしても申し訳ないって言うなら、ご飯奢ってよ。……それならいいでしょ?」

 

「……うん、…それなら、お願いしてもいいかな?」

「まっかせてっ!」

 

 ムアラニは天使のような笑顔で俺の心を焼いてきた。この子なんでこんなに可愛いの?

 

 

 

 

 

 

「よぉーし、じゃあまずは水に慣れてみよ?ウルって水が苦手だけど、温泉は浸かれるの?」

「うん。腰までとかなら何とか。…でも顔というか、顔近くまで水が来るのが苦手なんだよね」

「それなら、まずはしばらく肩まで浸かってみて?」

「わ、わかった」

 

 俺は砂浜から少しずつ海の中に入っていく。最初は膝くらいだった水深が前に進む度にどんどん深くなっていく。自分の身体が水の中に埋まっていく感覚が怖くて、俺が立ち止まりそうになると、俺の横を追い抜いたムアラニが手を握ってきた。

 

「心配しないで?もし不安になったらあたしが引き上げてあげるからっ」

「…う、うん」

 

 あぁ、ムアラニのこういう所が好きだ。

 

 元気はつらつな言動で周りを明るくしてくれて、こういう不安な時は寄り添ってくれる。にっこりと笑ったムアラニの笑顔に、俺の不安が吹き飛んでいくのを感じた。

 

 腰くらいの水深に来たところで、ムアラニが突然後ろに回って両肩を掴んでくる。

 

「んな、なになに!?」

「いったん、ここで肩まで浸かろ?ほら、あたしが支えててあげるからっ」

 

 そう言いながら、俺をしゃがませてくるんだけど、その…。

 

 あの、背中にとんでもなく柔らかいものが押し当てられているんですけど?

 

 この子は昔から男女問わず距離が近い。だからムアラニにとってこれくらいの密着はどうということは無いんだろうけど、君を好きな男子としては威力が凶悪この上ない。

 

 もはや水の恐怖心が薄れてきていると、あろうことかムアラニが俺の背中に耳を当てた。

 

「…どう?……あ、やっぱりどきどきしてる…まだ水が怖いのかなぁ」

「…そうかもね」

 

 もう何も言えねぇ。惚れてる手前嬉しくないわけがない。そのまましばらく浸ってると、少しだけ水が怖くなくなってきた。

 

「……ウル、どう?」

「…うん、少し慣れてきた」

「おっけー!じゃあ次は…肩まである水深のところに行こ?

 

 そう言われた俺は立ち上がって少し沖の方まで歩く。俺の身長で肩まで水が来る所まで来ると、もう一度慣れるまでそのままでいる。顎に波が触れる感覚がちょっとだけ怖いけど、それでもさっきよりマシだ。

 

「お、おおお!ちょっと平気になっ「わぁ、ウルっちょっと待って?」……っ!?」

 

 嬉しくなった俺はムアラニの方を見ようとして、直後背中全体に触れた感触に思わず声を上げそうになった。

 

「な、なにしてんのムアラニ!?」

「だって、あたしの身長じゃ脚が届かないんだもん。これも特訓だよ〜」

 

 だ、だからって、俺の首に手を回してしがみついてくる必要ないんじゃないんですかねぇ!?

 

「い、いつも乗ってるサーフボードはどうしたんだよ?」

「サメくんならちょうど仕舞ってるよ?…ほら、このまましばらく浸かって?」

 

 ムアラニは力を抜いてぷかーっと身体を水面に浮かしているから身体は当たってないけど、その分彼女の顔が俺の肩に乗ってて本当にえぐい。こんなん惚れるって。もう惚れてるけど。

 

 な?マジで勘違いするだろ?でもこの子マジで普段がこれなんだよ。

 

「ねぇウル」

「……なに?」

「…えっとね。…その…」

 

 左を向いたら、肩に乗ってたムアラニの顔が間近に。飛び上がりそうな自分を押さえつけながら冷静を保つ。

 

 というかなんで言葉に詰まってるだけのムアラニがこんなに可愛いんだろうか。可愛いというか声がいい。よく通るけど特徴的で、可愛らしい声。個人的にサーフィンしてる時に、サメくんボートの上でバランス崩してあわあわしてる声が好きだ。

 

「どうした?」

「あっ、あのね?……ウルってなんで水が苦手なんだろーって、気になっちゃって……あ、もちろん言いにくかったら言わなくていいからね?」

「…んー」

 

 俺は何故水が豊富にある流泉の衆で泳げないのかをムアラニに話そうと口を開いて、閉じた。……いや、だって普通に暗い話だし。練習の中で言うことは無いなと思ったんだ。…よし、適当に嘘言おう。

 

「…小さい頃水に頭から落ちたことがあって。それからなんとなく苦手なんだよね……実際戦争の時は陸で戦ってたし。でもみんな、特にムアラニがやってるマリンスポーツが楽しそうでさ」

 

 後半は本心だ。でも名指しはキモかったかと冷や汗を流してムアラニの方を見ると。

 

「…そうだよっ、マリンスポーツってすっごい楽しいんだからっ!」

「わっ!」

 

 にっこにこ。輝くような笑顔とはまさに今のムアラニのことを言うんだと思う。目をうるうるさせて喜んでいるムアラニは自分の手で俺の両手を包み込んだ。

 

「えへへっ、そういうことなら早く泳げるようにならなきゃねっ!…泳げるようになったらさ、あたしと一緒にサーフィンしようよ!」

「…うん、喜んで」

 

 俺が頷くとムアラニは楽しげに笑う。そんな彼女の笑顔に撃ち抜かれたのは今日何度目だろうか。

 

「って、ムアラニ脚大丈夫か?深いだろそこ」

「あたしは立ち泳ぎできるから大丈夫っ。…あ、でも手は離さないでね?」

「え、う、うん」

 

 ムアラニが水面から顔だけ出した状態で言うので、言われるがままに手を出した。それをムアラニが掴み、腕を曲げて俺に寄ってくる。そのまま正面から俺の肩に手を置いて、俺を浮き輪代わりにしてきた。

 

 身体の距離は言わずもがな。距離が近すぎて俺の身体から力が抜けてそのまま流れていきそうだ。

 

「えへへ、支えてくれてありがと。ウル、顔は女の子っぽいのにちゃんと男の子だねっ」

「……スゥ」

 

 この世に好きな子から身体が男の子だねって言われて平気なやついるの?

 

 しかも俺に手を置いて浮き輪代わりにしているせいで目の前にムアラニが居る。これは俺、どうしてるのが正解なの?

 

 暫しそのまま浸かっていると悟りを開いて水とかどうでも良くなってきた。これがムアラニ療法ってやつなら毎日やりたい。

 

「…ん、そろそろ時間だね。…今日はここまでにしよっか」

「あ、ああ。もうそんな時間か。付き合ってくれてありがとうな、ムアラニ」

「いーのいーのっ」

 

 ざぶざぶと浜の方に歩きながらまだしがみついてるムアラニにお礼を言う。

 

「まさか1日で水に慣れるなんて。温泉に浸かってたことはあったけど、やっぱ海のスペシャリストに頼むと違うなぁ」

「えへへ、役に立ててよかったよ。……じゃ、明日は潜る練習からだねっ」

「おうそうだな……って明日?」

 

 え、と聞き返す俺にようやく身体を離してくれたムアラニは笑顔を返してきた。

 

「だって、せっかくあたしが最初を教えたんだから、最後まで面倒見なきゃっ」

「い、いや悪いって。ムアラニだって色々と忙しいだろ?」

「いーのいーの!あたしがやりたくてやってるんだからさ!」

 

 まさかの明日もこの子と2人で泳ぎの練習をすることになった。え、夢じゃない?自分の頬を引っ張ってみると、面白がったムアラニも俺の反対側を引っ張ってきてけらけら笑ってた。可愛い。

 

 

「じゃあ、これからよろしくお願いします」

「まっかせなさいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルと別れたムアラニはスキップをしながら流泉の衆が集まる酒場に歩いて行く。

 

 そんな彼女とすれ違った部族のみんなはそれぞれムアラニに挨拶をしてくる。これも普段の彼女がいろいろと手助けやお話を聞いている賜物だ。

 

「ムアラニ、なんか今日はご機嫌じゃない?」

「え〜?そうかなっ?」

「そうかなって、凄い笑顔じゃない」

「えへへ〜なんでもないよ〜!」

 

 花が咲きそうな笑みに話しかけた女性だけではなく周りの男性たちの視線も集める。それほどまでに今の笑顔は強烈だった。

 

 なんでこんなに機嫌がいいのかは実の所、ムアラニ自身もよくわかってない。

 

 ただ、あのウルという名前の少年と過ごしていると度々こうなるだけだ。

 

 ウルは、この流泉の衆という漁業が盛んな部族では珍しく水泳が苦手だ。だが、彼はその事を悲観せずに地道に練習を続けていた。何やら水自体にトラウマがあるようで、コップの水なら平気なのだがある程度の溜まった水を見るだけで恐怖心を感じるらしい。昔は温泉にも入れなかった程だから相当だ。

 

 だから彼が今日、肩まである深さの水に入れたことがすごいのである。

 

 ムアラニは影からウルが努力する姿をずっと見てきた。流泉の衆で泳げない、となるとバカにされることもあったようだが、その度にムアラニはウルを悪く言った人を窘めるようになった。

 

 「ウルとどんな関係?」と聞かれれば、ムアラニは迷いなく「友達!」と答えるだろう。実際頑張っている彼の力になりたいし、彼の役に立ちたい。そうムアラニは思った。

 

(うんっ、ウルはあたしのたーいせつな友達っ!明日も楽しみだなぁ……)

 

 この少女が己の気持ちと向き合うのは、もう少し先の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、予定通りにムアラニと泳ぎの練習をすることになった俺は今、必死に脚を動かしている。

 

 

 

 

「おー!いいねっその調子っ!ほら、もっと腕と脚を伸ばしてーっ」

「わ、わかったけどさ……」

 

 

 

 そう、バタ足をする俺を支えるために手を握ってくるムアラニを意識しないようにしながら。

 

 伸ばした俺の両手を下から支えるように彼女の手が握ってくる。その状態でするバタ足は今までやった事で1番難しかった。

 

「ほらほら、もっと私に体重を預けて?脚が下がってきてるよー?」

 

 そんなことを言われましても。

 

 実際、慣れないバタ足をする上で手だけを掴んでやるって言うのは結構難しい。脱力して身体を浮かせてからバタ足をしても、脚が力んで沈んでしまう。

 

「んー、やっぱ手じゃ難しかったかぁ。…あっ、これならどうかな?」

 

 頭の上に豆電球を光らせたムアラニは一旦俺の手を離すとちょっと屈む。ちょうど水面くらいに彼女の肩が来る感じだ。………まさか?

 

「こんどはあたしの肩を掴んでみて?」

「はぇ!?いや、さすがちょっとそれは」

「いいからっ、こっちの方がやりやすいと思うよ?」

 

 俺の手が掴まれて、彼女の肩に乗っけられる。実際に触ってみると華奢で力を込めたら折れてしまいそうだ。この体のどこから元気が出るのか不思議になる。

 

 それになんかまるで俺がこれからムアラニとキスするみたいな体勢になってるし。膝立ちのムアラニに俺が飛び込む形だ。迷子で再会した親子かよ。

 

「どうしたの?さっきより脚が下がってきてるじゃん」

 

 そりゃ君の顔が近いからな!力を抜く方が無理ってもんだ。

 

「い、いやちょっとさ「やっぱりまだやりにくい?あたしが手を抑えてるからっ」

 

 ちょっとまって!?

 

 ムアラニは肩を掴んだ俺の手に自分の手を重ねた。いや重ねたって何だよただ抑えてくれてるだけだぞ?……いやでも俺の手がムアラニの肩と手にサンドされて、なんかこう、すごい。

 

 当然バタ足なんて無理で、力みきって固まった俺の身体はだんだん海に沈み始めた。

 

「ボボボボ」

「う、ウルっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハイっ、お水」

「ありがと。ごめんな付き合ってくれたのに」

「全然良いって!お風呂すら怖がってたウルが、肩まで水に浸かれるようになったってだけで大進歩だよっ」

 

 なんていい子なんだろうか。ムアラニは自分の分の飲み物を取り出すと俺の隣にあぐらをかいた。太ももの上に頬杖をついて俺を見てくる顔が美少女すぎるんだけど。

 

「なぁ、ムアラニ」

「ん?どーしたの?あ、そろそろ夕ご飯の時間だもんね!何か食べる?あたしが持ってくるよ?」

「いやそれじゃなくてさ。……なんでそこまで親切にしてくれるのかなって。俺、流泉の衆なのに泳げないだろ?風呂のお湯でも怖くて、バケツの水をかけられただけで腰が抜けてさ」

 

 まぁ、今はそういうことはないんだけど。

 

 以前と違って、ナタの国では今を大切にみんなで生きる…みたいな考え方に変わった。前は戦争の国って言っておきながら戦うのは帰火聖夜の巡礼の上位5人で、反魂の詩っていう復活手段もあったから、国の中に緊張感がなかった。

 

 でも数ヶ月前のアビスの大侵攻があった時に、一時的とはいえナタは壊滅の危機になった。あとから知ったことだけど、あの時のナタは漆黒の霧で覆われていて、外の国に助けが呼べなかったんだそうだ。そんな中で無限に湧いてくる魔物と集落を守りながら戦わなきゃいけなかった。

 

 他の英雄の古名を継いだ人達と炎神様が引き起こした夜猟者の戦争で何とか形勢逆転をしてその場は乗り切ったけど。その出来事があったことで、同族同士のやっかみがほとんど無くなったんだとか。

 

「…だから、18にもなって水にも潜れないような怖がりにどうしてそんなに…「ウルは怖がりなんかじゃないよっ!」…え?」

 

 横を見るとムアラニが立ち上がった。

 

「あたし、ウルが凄く頑張り屋なの知ってるもん。最初はそうだったかもしれないけど…でも今はもう海に入れるでしょ?あたし、ウルが毎日浅瀬で練習してるの知ってるんだよ?朝早くから槍の訓練してるのも知ってるし、泳げない分、みんなの手伝いだってやってるんじゃん」

「結構知ってるのね」

 

 え、なにこれ全部バレてんの?普通に恥ずかしいんだけど。

 

「でもさ、ただでさえ泳げなくて、漁に行けない代わりにやってただけだし別にすごくもないぞ?」

「でも、あたしはそう思ったの!自分が周りから疎まれてたのをわかってて…それでも努力してるウルが凄いって思ったんだからっ」

「……ムアラニ」

 

 そして彼女は励ますように俺の手を握ってくる。待って、これめっちゃいい雰囲気では?俺も恐る恐る握り返してみたけど嫌がられなかった。むしろムアラニの方もきゅっと握ってくれた。

 

「だからね、あたし……ね?…そのっ、……えと、……ウルのこと……!」

 

 彼女の瞳が煌めき、俺と見つめ合う。…えっ、これっ、もしかしてっ…!?

 

 

 

 

 

 

 

 

「────す〜っごい大切な友達だと思ってるからっ!!」

 

 

 

 

 

「……ああ、俺もムアラニのことが………え?」

 

 え、今なんて?……友達?……んぇ?いや今だって、完全に……。

 

 ムアラニの唐突な友達発言にびっくりしつつも、俺は何とか頷こうとした。うん、まぁこの子の友達の範囲めちゃくちゃ広いしさ、その中でも大切って言ってくれただけでも嬉しいし。うん。

 

 

 

 

 

 

 だから、一瞬訪れた哀愁を飲み込んで、俺は改めて頷こうと────

 

 

 

 

 

 

 

「えへへっ、ウルっ!これからもあたしたち…

『ずぅ〜っと、友達』でいようね〜っ!」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、俺の淡い初恋は「ズッ友宣言」という破滅発言(恋人になるなんてことは未来永劫ないよ)によって、儚く終わりを迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 






 リメイク前の作品の方は私のお気に入り限定になってますので、読みたい方はコメント欄でこの作品の感想とセットで言ってください。(リメイク前読みたいですだけだと運対される恐れあり)

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