【リメイク版】ズッ友宣言してきた子の距離感がおかしい   作:猫好きの餅

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友達だから、出来ないこと

 

 

 

 

 

 

 温泉に入り、水泳の練習が終わったムアラニは帰宅したその足で自分の寝床にダイブした。

 

 ぼふっと顔から着地して、呻き声を出す。

 

「………ぅぅう〜」

 

 うーうー唸りながら、ムアラニは枕に顔をぐりぐり押し付ける。

 

 彼女をそうしている原因はただ1つ。さっきからばくばくと鳴り止まない鼓動にあった。

 

「…もう…なんで…?」

 

 朝に彼とあってから、やっぱりムアラニは自分の様子がおかしいと感じていた。彼、ウルを見ると何故か身体がぽかぽかする。鼓動が早まる。でも嫌じゃない。

 

「ウルは、……あたしの…、友達…だもん」

 

 ウルとどういう関係?と聞かれれば、たーいせつな友達っ!とムアラニは返すだろう。

 

 だから、この感情もウルと友達だから生じているものだとムアラニは考えた。

 

「……ウル……えへへ、今日はバタ足もできるようになったし……才能あるよね〜」

 

 ちなみに今日の練習もムアラニの無自覚近い距離にズッ友発言で力が抜けた結果だったりする。

 

 そんなことをしていることに気付いていないムアラニは、おもむろに起き上がると纏まったままの三つ編みを解いた。

 

「……ウル、髪まとめるの上手だったなぁ…………他の人にも、やったことあるのかな」

 

 髪を下ろしたムアラニは部屋に置いてあった青いプクフグフロートを拾って膝に乗せ、つんつんと突っつく。足をパタパタさせながら、ずっとウルのことを考えてしまう。

 

 ココ最近連日して続いた水泳の練習だが、明日は予定していない。ムアラニがガイドの仕事があるからだ。午前中のうちに聖火闘技場に行かなくてはならない。

 

 ムアラニはもやもやした気持ちを募らせながら、再度枕に顔を埋める。その時に口から漏れるのは決まって彼の名前だ。

 

「………あ、明日…ウルも誘ってみようかな…?」

 

 完全に公私混同である。

 

 明日のガイドは豊穣の邦の果樹園と火山の観光だ。ウルもあまり行かない場所だろうし、彼にナタの地を紹介しながら歩いたらどれだけ楽しいだろうか。

 

「……って、だめだめ!…そんなの勝手すぎるもん…」

 

 そこまで考えたところで、ムアラニはぶんぶんと顔を横に振った。

 

 そこまでやったところで、ふと自分の神の目が目に入った。それを手で弄りながらぼーっと眺めていると、昼間言われた彼の言葉が蘇る。

 

「…俺が…守りたい…かぁ……ふふっ♪…あたし、結構つよいんだけどなぁ〜?」

 

 でも、嬉しかった。ムアラニは、自分が危なくなった時に助けに来てくれるウルの姿を想像する。

 

 ぶっちゃけ、傍から見れば完全に恋してるのだが、この子はまだ気が付かない。

 

「…ウル〜……えへへ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。朝早く流泉の衆を出たムアラニは聖火闘技場でお客と合流。ゆっくり歩いて豊穣の邦に訪れた。

 

「あれが豊穣の邦の火山だよっ!」

「わぁ〜!…大きいなぁ〜!」

 

 お客としてムアラニを指名した花翼の集の女の子が歓声を上げる。キラキラした目で自分の産まれた場所とは違う景色を眺めていた。

 

 お客のこういう顔を見たくてガイドをやってるムアラニとしては、彼女の反応を見て嬉しくなる。その後は豆知識をいろいろと話しながら道なりに歩き、豊穣の邦の集落に到着した。

 

 そして集落の中を通り、本日2つ目の観光地の果樹園に向かう。ここはヴァレサの実家が営んでいるところで、ちょうど果物いっぱいのカゴを抱えたヴァレサが顔を出した。

 

「あれ、ムアラニちゃん?」

「あ、ヴァレサちゃん、こんにちわっ!」

「ガイド中〜?…いらっしゃいませ〜」

 

 ムアラニを見つけてにこやかに挨拶をしてくるヴァレサに女の子もぺこりと頭を下げる。ちょうど看板娘がいるということで、彼女に果樹園の説明をしてもらった。

 

 実際に果樹園を回りながら話を聞き、一周して直売所に戻ってくる。ここで採れたての果物が買え、品質の良さに外国の料理人も買いに来るのだとか。

 

「へぇ〜!そんなに人気なんだね」

「うんっ、さっきもフォンテーヌの有名なシェフの人が買いにきてくれたんだよ〜」

 

 ヴァレサの説明に驚きながら置いてある果物を見てみるとどれも新鮮で思わず齧り付きたくなる。

 

「……あっ、そういえばウルくんも来たよ?」

「はぇっ!……う、ウルがっ!?」

「お姉さん、どうしたの?…すごい声…」

「な、なんでもないよっ?」

 

 本当についさっき来たと話されて、ムアラニはそれとなく周りを見回す。

 

 様子がおかしくなるムアラニに首を傾げる女の子とにっこり笑うヴァレサ。

 

「果樹園のお姉さん。ガイドさん、どうしたのかな?」

「それはねぇ〜…ムアラニちゃんの好きな人が来てたからそわそわしてるんだよぉ」

「ち、ちがうし!そういうんじゃないもんっ!」

 

 そう言いつつも周りを見て彼の姿が見つけられず、ムアラニのアホ毛がへにょんと垂れていた。それを見て納得したように女の子は頷く。

 

「…う、ウルは…ともだち…だもん」

「ガイドさんかわいい」

「わかる〜」

「も、もうっ、からかわないでよっ!」

 

 ガイドのお客の女の子はここに1泊泊まって帰るとの事で、お金を貰ったムアラニはニヤニヤしながら手を振る2人に見送られながら足早に果樹園を出た。流泉の衆には東に向かった方が近いが、そっちはムアラニ達が来た道だ。ムアラニは彼を追うように逆の道を早歩きで進み出した。

 

「……どこだろ?」

 

 まだ、居場所がわからないなら我慢もできた。しかしさっきまで果樹園にいたというのだ。通りかかったムアラニが挨拶するのは友達として自然だよね。そう考えたムアラニはトクトクと早鐘を打つ心臓を無視しながら足を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ、エスコじゃん」

「…そのエスコって呼び方、前にやめてって言った気がするんだけど?」

「いやぁ、口に馴染んでつい」

 

 買い物がてら豊穣の邦に訪れたら、顔見知りの人がいた。

 

 腰まで伸ばしたカール掛かった金髪に勝ち気そうなつり目の碧眼。白いエプロンドレスに身にまとった彼女は、フォンテーヌでシェフをしているらしい。

 

「…あなたも買い物?」

「ああ。それとなんか依頼ないかなって歩き回ってたところ」

「ふーん」

 

 俺とエスコフィエが出会ったのはもう結構前のことになる。ナタの食文化と食材を見に来た彼女がアビスの魔物に襲われてたの助けてから、顔を合わせる度に軽口を叩き合うようになった。なんか、この遠慮なく行ってくる感じが親しみやすい。多分歳は上っぽいけどなんだかんだで砕けた口調で話してる。

 

 こうして会うのは久しぶりだから、話しててなんか……あれだ、気楽。

 

「…っていうか、随分久しぶりじゃんか。半年ぶりくらい?」

「ちょっと向こうで色々あってね。…それに、あなたの方も色々あったみたいじゃない?」

 

 その目線が俺の腰に着いた神の目に向いているのに気が付き俺は頬をかいた。ちょこちょこ暇を見つけては元素使う練習をしているんだけど、今まで自分になかった力を使う感覚って結構難しい。

 

「まぁ、いろいろ……うん、色々あったな………………はぁ……」

「な、なによ。そんなため息ついて。相変わらずカナヅチなのに落ち込んでるわけ?」

「まぁ、それもなんだけど…ちょっとな」

 

 好きな子にズッ友宣言されて心が死んで神の目降りたんだよって、自分で言ってても情報量多いな。

 

「…はぁ、…まぁせっかく久しぶりに会ったことだし、話くらいなら聞いてあげるけど」

「本当か?」

 

 それはちょっとありがたいけど、ここは道端も道端。ちょっと移動するかと提案すると頷いたエスコフィエが横に並ぶ。

 

「ん」

「…なに?」

「いや、重そうだなって」

「別に、これくらい持たなくても」

「愚痴聞いてもらうお礼。…ほら」

「…ありがとう」

 

 ヴァレサんちの果樹園の果物はどれも大きいから普通に重いんだよな。紙袋をエスコフィエから受け取ると歩き始めた。

 

「…たしかそこら辺に座れるとこあったよな…」

「あそこでいいでしょ」

 

 部族戦士が使ってるキャンプ跡があったので拝借し、果物をそっと置く。食材を雑に扱うとこのシェフ様が噴火するから慎重にっと。

 

「ウル。そこからキノコふたつ取ってくれない?」

「ん」

 

 俺は紙袋に手を突っ込んで果樹園で採れたてのトロピカルキノコをふたつエスコフィエに渡した。なんで果樹園でキノコが取れるのかは俺も知らん。

 

「なにするんだ?」

「ちょっと味見よ」

 

 エスコフィエは汲んできた水で手早く洗うと自身の氷元素を発現させた。手の中に氷元素が集まり包丁を形取る。しかも斬れ味は本物で触れただけでキノコの柄を切り飛ばした。

 

「あなたも氷なのね。…どうやって授かったの?」

「それは、今から言う愚痴に含まれてる」

「ほんとに何があったのよ…」

 

 乾いた笑いを漏らす俺を見て引いた顔をしたエスコフィエは手早くキノコソテーを作ると串にぶっ刺して俺に渡してきた。

 

「フォンテーヌのシェフとは思えない雑料理」

「あら、皿がないだけで味付けと焼き加減はバッチリよ」

「見た目と味のギャップがすごい」

 

 食べてみるとめちゃ美味い。素材もいいんだろうけど作る人がやっぱ違ぇんだな。

 

 味見程度だったのですぐに食べ終わり、お茶を淹れたエスコフィエは椅子に座って足を組む。

 

「で、何があったわけ?」

「…ああ、実は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まぁ、その、……強く生きなさい」

「なんでこの反応されてるのわかってて話したんだ俺」

 

 まぁ、予想通りのリアクションだった。いつも毅然とした態度のエスコフィエが珍しく哀れんだ顔で俺を見る。

 

「……ま、まぁ、一応友達ではあるんだしマイナスではないんじゃないかしら。………プラスには絶対にならないだけで」

「そこだよそこ!…なまじ普通に友達するのは楽しいし、泳ぎ教えてくれるのはありがたいしで……」

「…なんか、例えが出てこないわね……可愛そうというか、不憫って言うか…」

 

 相変わらず距離近ぇしなぁ。……まぁでも、今はまだいいさ。まだムアラニが本当に恋してないからまだ友達してられるけど、いずれ……彼女が恋に落ちたとして、その時俺は友達のままでいられるのか。それを聞いたエスコフィエは腕を組んでじっと考えているようだった。

 

「…私も、そういう男女の仲?的なことには疎いけどね。………私は壁にぶつかったら、とりあえず全力で叩いてみる主義なの」

「叩いてみる?」

「そう。料理は試行錯誤よ。数多の方法や調味料、煮込み時間、盛り付け……それがたまたま美味しくなった方法の手順を保存してレシピにしてる。それを見つけるには、やっぱり思いついたこと片っ端かららやってくしかないのよね」

「……要は、もじもじしてるくらいなら色々ぶつかってみろ、と?」

「まぁそういうこと。これが恋愛に通用するのかはわからないけど、私があなただったらそうするわね」

 

 確かに、俺は今までムアラニに対して何もアクションを起こしていなかった。友達として当たり障りない距離で、ムアラニが動くのを待っているような状態だ。当然関係が進展するわけもない。

 

「…でもさ、ムアラニって全然恋愛に興味無いっぽいんだよ。だからそこで俺が「っぽいってだけでしょ?」

 

 はぁ、とため息をつくエスコフィエ。彼女は「まぁ、その状況で前向きになるのも難しいわよね」と俺の頭にぽんと置く。

 

「ね、まだ好きなの?…もしかしたら本当に友達のままだってありえるのに」

「……好きだよ。……これでも諦めようとしたこと、結構あるんだぞ?…でも、ムアラニと話す度にやっぱり好きだって毎回思うんだもん」

 

 いや、マジで伝わって欲しいけど、ムアラニってまじ可愛いんよ(盲目)。記憶や想像の中の可愛さを、実物が優に超えてくる。それが毎回更新されるもんだから、こっちとしては堪らない。

 

 それに、ムアラニは可愛いだけじゃないんだ。一緒にいると本当に力を貰える。陽だまりみたいな笑顔も、ああ見えて結構他人の変化に敏感で、何かあったらすぐに寄り添ってくれる。

 

 そこまで考えたところで、俺の心が決まった気がした。

 

「……で、どうするのよ?」

「…ん、ちょっと色々試してみるよ。やっぱり…俺、このままじゃ嫌だ」

「まぁ、玉砕した時は私の店に来なさい。なにかご馳走してあげるから」

「ありがとう。……っていか、エスコなんか丸くなった?」

「はぁ?なんのこと?」

 

 だって、前はもっとツンケンというか、こうして人の悩みとかに耳貸すタイプじゃなかったから。

 

「べつに、いろいろあったのよ」

「そっか。…でも、ありがとうな」

 

 

 よし、ひとまずはちゃんと友達以上の関係を目指してみよう。

 

 エスコフィエにお礼を行って別れた俺は、意気揚々と流泉の衆に戻る。

 

 ちょっと、ムアラニを飯にでも誘ってみようかな?前までだったら尻込みしてたけどとりあえず誘ってみる。そういう方針にした。

 

「……とりあえず、挑んでみないと」

 

 

 

 

 

 しかし、流泉の衆には帰ってるはずのムアラニと、その後顔を合わせることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 ムアラニは、豊穣の邦から帰ってきて自分の家に引きこもっていた。

 

 あの後、少し進むとウルを発見したムアラニは笑顔を話しかけようとして。………固まった。

 

 ウルは1人ではなかったのだ。

 

 ウルと仲良さそうに話しながら歩く隣の女性。服装からしてフォンテーヌの人…ヴァレサの言っていたシェフの人だろう。ムアラニからは横顔しか見えないが、ウルと軽口を叩いている様子から彼と彼女の関係が友人なのが窺えた。

 

「……ぇ、…ウル…?」

 

 そう、ムアラニからは友人にしか見えない。それなのに、ムアラニは胸の当たりにいやな痛みを感じた。

 

 よし、話しかけよう。隣の人は知らない人だけれど、挨拶して自己紹介して。いつもみたいに友達を増やせばいい。そう考えて声をかけようとしたムアラニの口は縫いつけたように動かない。

 

 ムアラニはそのまま、こそこそと2人の後を着いて行ってしまった。2人はキャンプ跡地に並んで座り、何かを話しているようだった。

 

 話している内容が遠すぎて聞こえない。ムアラニはバレないように少しずつ2人に近づく。

 

 そして、声がようやく聴こえるようになった。

 

「……ね、まだ好きなの?」

「……好きだよ」

 

「…ぇ」

 

 好き?

 

 ウルが?……だれを?

 

 ……隣の、金髪の彼女を?

 

 ムアラニの思考が意に反してぐるぐる回る。

 

 混乱してその後のふたりの話はよく聞くことが出来なかった。かろうじて理解できたのは、ウルはその人を諦めないってことと、彼の態度に笑みを浮かべた彼女の姿。

 

「……ウル、……好きな人がいるのかな…?」

 

 そう考えると何故か胸が苦しい。彼に恋人ができたとしても友達なことには変わりがないのに。

 

「……あのフォンテーヌの人と…?」

 

 ここら辺の思考はムアラニににも制御が出来なかった。あることないこと、ぐるぐると考えてしまう。気づけば踵を返して果樹園に戻ってきてしまった。何故か、あれ以上2人を見ていられなくなったからだ。

 

「…あれ?ムアラニちゃん?」

「…ヴァレサちゃん」

 

 戻ってきたムアラニに気がついたヴァレサは首を傾げる。

 

「あれ、ウルくんと会えなかったの?」

「ううん、なんかフォンテーヌの服装の人と一緒にいたみたい」

「ああ、エスコフィエさんかなぁ?」

「エスコフィエさんっていうんだ。あの人」

「うん、…あー、確かにウルくんと知り合いだったなぁ「い、いつからっ!?」ふぇ!?」

 

 ムアラニはヴァレサに詰め寄り両肩に手を置く。必死な彼女の顔に目瞬きをしたヴァレサは顎に手を当て。

 

「うーん、結構前からかなぁ。今日は1人だったけど、前に一緒に来たこともあったし〜」

「……そうなんだ」

 

 ここでいつもならヴァレサと仲がいい男の子の話をしてからかうところだが、そんな元気はムアラニには残っていなかった。

 

 

 

 

 気づけば、流泉の衆に戻ってきていた。とぼとぼと歩き、自分の店の前まで行くと開店の札を返して家に直帰する。

 

 昨日と同じように寝床にダイブしたムアラニは、枕に顔を埋めた。

 

「……ウル……」

 

 なんだろう。1日合わなかっただけなのに。ただ別の人と歩いて話していたところを見ただけなのに。

 

「……うるぅ……」

 

 そもそもなんで自分はこんな気持ちになってるんだろうか。ムアラニだってウルの他にも友達は多い。ウルがいない場で別の友達と遊びに行くことだって普通にある。

 

「……あたしと、ウルって……

 

 

 

 

 

 

 

 ともだち………のままでいいのかな?」




 

 エスコフィエイメージと違ったらごめん
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