【リメイク版】ズッ友宣言してきた子の距離感がおかしい 作:猫好きの餅
糖分の大砲。
「……あたしと、ウルって……
ともだち………のままでいいのかな?」
むくり。そう呟いたムアラニは起き上がる。
「……でも、あたし……」
自分はウルのこと、好きなのだろうか。
同じことを周りに聞いたら確実に引っぱたかれて「今更何言ってんだ!?」と言われそうだが、ここまで鈍感じゃないとあの距離感でズッ友発言はぶちかまさない。
「……友達と、恋人ってどう違うのかな?」
ムアラニには、いまいちその違いがわからない。友達だって繋ぐ時は手だって繋ぐし、ハグだってするよね。……あ、ウルとはしたことないなぁ。抱きつかれたことならあるけど抱き合ったことは無いし…、うん、今度やってみたいなぁ……ウルって結構身体鍛えてるし、け、っこうがっちりしてドキドキしたし……って違う違うっ!
こんな思考になる時点でもう、なのだが。やっぱりこの色ボケサメガールはまだわからないらしい。
ムアラニは立ち上がって鏡の前に行く。それに写った自分を見て一言。
「…でも、あたし……そんなに可愛くないし…」
そう。ムアラニが鈍感な理由がこれにある。実はムアラニ、自分評価は割と低いのだ。
小麦色の肌も好きなマリンスポーツしてたら勝手に焼けたに近い。エスコフィエの白い肌と比べると自分は魅力で劣る。そうムアラニは感じた。
「……でも、ウルはかっこいいし……モテるよね」
流泉の衆だと泳げないことが目立ってるが、行事などで聖火闘技場に行くと結構見られてるのをムアラニは知っている。
「……ウル、誰が好きなんだろ………も、もももし、あたしだったら…………でも」
と、こんな感じで思考がループ思想になりムアラニはぶんぶん顔を横に振る。
「だ、だめだめっ!…明日はまた豊穣の邦に行ってお客さんを闘技場まで送り届けるんだからっ!」
ムアラニは思考の海に一旦止めを出し、ベッドに寝転がる。目を閉じても浮かび上がる昼間のウルとエスコフィエになんだかムカムカしてくる。そのムカムカを隠さずに暴れ回っていたら段々と眠気が増してきた。
「……ウルのばーかっ
……あたしがいる…のに…」
「むぅ」
翌朝。自宅で氷元素の鍛錬をしながら俺は唸る。
昨日、ムアラニに会えなかった。店も早い時間から閉まってたし。ガイドに行くにしても大体日帰りなんだけどなぁ。
家を尋ねても明かりは消えてるし叩いても反応無いしで流石に退却するしか無かった。
そんで朝もそれとなく探してみたらもう集落出たって言うし、今日もガイドか?
「……依頼行こ」
ムアラニに対してアピールをしていくって決めたけど、本人が居ないんじゃどうしようもない。
俺は槍と神の目を持つと家を出た。
実際、氷元素ってどうやって使うんだろうな。
俺は突っ込んできたヒルチャールを槍で払い、すれ違いざまに穂先を叩き込みながらそうぼやく。
神の目が降りたといえど、やっぱり鍛錬しないと使いこなせないわけで。
そしてナタには氷元素使いがほとんど居ないんだよな。1人知ってる人いるけど気難しいやら謎煙の主の奥に住んでるやらで教えて貰いにも行けない。
まぁ、そのヒトの横に住んでる作家の人なら知り合いだから、頼んでみれば何とか…ってくらい。
昨日エスコがやってたような物質化が出来ればいいんだけど、今んとこちょっと冷たい風を作るか、普通に氷を作るかだ。氷を作るって言ってもマジの氷だから耐久性もクソもない。
現時点では元素を使わずに槍で戦った方が強い始末。何気に帰火聖夜の巡礼も近づいてきたしなぁ。ムアラニにアピールする上でやっぱし強さは大事だと思うんだ。戦士の国だし、守るって言っちゃったし。
そんなことを考えながらも襲ってきたヒルチャールを難なく撃退すると、クルクル回した槍を背中に背負った。
「……いっそ、神の目禁止の大会とかねぇかな」
それだったら自信あんのに。
ため息を吐いた俺は、次の依頼への場所へと足を進めるのだった。
「……で、色々考えながら戦ってたらもう夜とかアホか俺は」
無心になって聖火闘技場にある討伐依頼を片っ端から受けてたら外はもう暗くなっていた。最後の依頼の達成を報告して報酬を受け取った俺は、ここで泊まるか集落に帰るか迷う。
ここから流泉の衆まで急いでも1時間はかかる。疲れてるし今から帰るのは正直面倒だ。
宿をとるかと呟いた俺はその脚で草臥の家に入る。酒場になっている1階の喧騒を聞きながら通り抜けて受付に行く。
すると。
喧騒の中で、1人。綺麗な声が俺の耳に引っかかった。「あっ!」と席から立ち上がる音がして、こっちにやってくる。
「…ぅ、ウルっ」
「……ムアラニ」
まさか、ここで会うなんて可愛いっ(発作)。
振り向くと、向こうも驚いたのか目を見開いたムアラニの姿が。って、えっ?見すぎじゃない?
じーって効果音が出そうな勢いで俺を見詰めるムアラニがくっそかわいいんだけど、俺はどうすればいいんですかね?
「……どうした?」
「……ウルだ…」
「そうだよ?」
なんの確認?
「ムアラニもこっち来てたのか?」
「…うん。ガイドでね。…あたしもこっちに泊まろうってご飯食べてたとこ」
「なるほど。俺も依頼やっててここに泊まろうとしてたんだよね」
話を聞くとまだ部屋は取ってないんだとか。じゃあ俺が聞いとくかと受付に言って話しかけてみると。
「……1部屋?」
「すみません…今日は混雑してて、一部屋しか空いてないんです」
あー、まじか。まぁもう夜だし、空いてないのは仕方ないか。
「……あー、わかりました。それなら俺は…「一部屋で大丈夫っ。2人で使うから」……はい?」
「…よ、よろしいのですか?このお部屋はおひとり様用になりますが…」
「大丈夫っ!ソファがあるし、寝るには困らないからっ」
「え、おま、ちょ」
この子は何を言ってるのん?
あまりの事に絶句している隙にムアラニは部屋を取ってしまう。止める前に鍵まで受け取っちゃうし。
「……ね、いこ?」
「え、…ムアラニっ?」
ムアラニは流し目を俺に送り、手を引いてくる。されるがままに足を進め、ついに部屋に着いてしまった。
がちゃん。
部屋に押し入れられて、ムアラニが後ろ手で扉を閉めた。
痛いくらいの沈黙が場を支配する。たっぷり数十秒かけて口を開くことに成功した俺はムアラニに抗議した。
「…ちょ、マジなにしてんだよっ!」
「だって、…ウルのことだから自分だけ集落に帰る気だったでしょ?……だから」
「だからってふたりで1部屋はダメだろっ!…だいいち、ここシングルだぞ!?」
俺は部屋の隅に置かれた1台のシングルベッドを指さす。まだツインとかなら話はわかるけど、ここ1人部屋ァ!!
「でもソファはあるよっ!あたしはそっちで寝るしっ」
「いやムアラニはベッドをって違う違う。何泊まる方で話進んでんだ」
今からでも帰るのは遅くない。踵を返して部屋を出ようとすると、ムアラニに腕を掴まれる。
「し、しょーがないじゃんっ!…一部屋しか空いてないんだし、今から帰るのは危ないよ?」「……でも、流石にだめだろ。年頃の男女が相部屋なんて」
「あ、あたしは……いいよ?」
上目遣いで行ってきたムアラニに俺は動きを止める。……それ、どういう意味で言ってんの?
「……それ、ムアラニは誰にでも言うのか?」
「そんなわけないでしょっ!……あたし、そんなふうに見られてるの?」
「…いや、ムアラニって結構誰とでも距離近いからさ。………って、やっぱダメだ。……何かあったらどうすんだよ」
正直、ほんとうに正直な気持ちだとめちゃくちゃ同室で泊まりたい。そりゃそうじゃん。好きな子と同じ部屋とか聞かれて嬉しくないわけが無い。部屋に1人だったら戦争に勝った時ばりのガッツポーズがでるところだ。
俺の問いの意味がわかったのか、ムアラニはぽっと顔を紅くした。掴んでた手がゆっくりと離される。
ちょっともじもじしたムアラニは自分の身体を腕で隠すようにして、流し目を向けた。
「…………な、……なにか、………するの?」
「……っ」
今までだったら「しねぇよ!」と即答していたところだろう。
でも、もう尻込みしないって決めたんだ。俺は背中のやりを壁に立掛けると、ムアラニに背中を向けて。
「……わかんないだろ。……そんなの」
「……ぇ」
「…下で軽く食べてくる」
熱くなった顔を見られないように、俺は足早に部屋を出た。
がちゃん。
ウルが出ていった扉が閉まる音が部屋に響く。
「……わかんないだろ。……そんなの」
えっ、えぅ……えっ?
な、なにか、するの?…えっ、……ウルが、……あたしに?
あたしはふらふらとその場に座り込んじゃう。それほどまでに、今ウルが言ったセリフが強烈だった。
酒場でウルを見つけたあたしはもう自分で自分を止められなかった。気づいたら駆け寄っちゃって、い、一緒の部屋を取っちゃってた…!
な、なにやってんのあたし…!?い、いくら友達でも、それは………っ。
で、でも、……ウルならあたしは別にいいんだよ?
それに、ウルは優しいから絶対自分だけ歩いて帰るもん。あたしが帰るからって言っても聞かないの知ってるから、勢いで押し切っちゃった。
それで「なにかあったらどうすんだ」って言うウルに「なにかするの?」って返したの。……そ、そしたら……。
あたしはパニック。
えっ、えええ!?…す、するの?なにかするのっ!?
あたしは回らない頭で周りを見る。
お部屋は1人用だから簡単なソファと一人用のベッド。聖火闘技場の中だから窓もないから逃げられない。……べ、別に逃げたりなんかしないけどね?
「え、えと、とりあえずシャワー浴びなきゃ…」
何がとりあえずなのか、もうあたしもわかんないよぉっ!
でも、自分の発言に後悔はない。あたしはウルが出てった扉を見る。……う、ウルと同じ部屋………えへ。
う、うん。友達と同じ部屋で寝泊まりするだけだもん。………で、でも、あたしに何するかわからないって……うぅ〜。
あたしは真っ赤っかになった顔をぺちぺち叩きながら、服を脱ぎ捨て…ウルが帰ってくるかもだし、ちゃんと畳んどこ。冷たい水を頭から被った。
「……どうしよ」
下の酒場で軽く腹に入れて戻ってきたはいいけど、部屋の前に立ち止まったまま俺は中に入れずにいた。
いやむしろどう入れってんだ。緊張と興奮(おい)で食べた物の味もよく分からなかったし、なんなら部屋を出る時にすごいこと言っちゃったし。
なにかするの?にわからないって答えたらもうそういうことじゃんか。ムアラニに引かれたかな?
でも、ムアラニは俺なら大丈夫だと言った。それは俺がズッ友だからなのか?
そう考えているとなんだが緊張がほぐれてきた。ズッ友を精神操作に使えちゃってる時点でなんだかなぁだよな。
「…ただいま」
「…ぁ、お、おかえり……」
とか考えてた俺の精神は、脱衣所から顔を出した髪を下ろしたムアラニの可愛さに跡形もなく吹き飛ばされていた。
「……もぅ、おかえりーってばっ」
「…っ、…ああ、ただいま」
やばい、一瞬意識飛んでた。
俺の前にシャワーを浴びてたらしいムアラニが首を傾げながら近づいてくる。
寝る前だからか普段着の腰巻き的なものが外されてて、トドメにいつもつけてる魚を模したネクタイもない。ネクタイで隠されてた谷間が覗き、むき出しの紺色のインナーが大変目に毒だ。
ただムアラニは水着に慣れてるからかあんまり気にしてないみたいだ。ただ、髪下ろしてるの初めて見た。白い髪が背中まで伸びていて新鮮だしくっそかわいいんだけど。
「……シャワー浴びてたのか?」
「…うん。ウルもはいる?」
「あーうん。いただくよ」
新婚みてぇとか思っちゃった俺を誰か殴ってくれ。
さっきムアラニも入ったんだよなとか過ぎる頭をぶんぶん振りながらシャワーを浴びて出てくると、ムアラニはベッドに座って髪の手入れをしているようだった。
髪に櫛を通してるムアラニは、髪型と相まってなんか普段と雰囲気が違う。
「……どうしたの?座りなよ」
「あ、ああ」
気のない返事をしてソファに座ろうとした俺の腕をムアラニが掴む。
「な、なに?」
「こっち座ってよ」
上目遣いのムアラニのこっちおいでに抗える訳もなく。
ぽすっと座った俺の脚をムアラニの長い髪のくすぐる。
「…髪、長いな」
「…うんっ。…ウルは長いのと短いのどっちが好き?」
「それは自分がってこと?」
そう返すとムアラニはぷくっと頬をふくらませた。ごめん、ちょっと日和った。
「……長いほうかな」
「……そうなんだ。……ね、ウル。……んっ」
「え?」
ムアラニは櫛を俺に渡してくる。え、やれと?
「頼んでもいい?」
「いいけど、……男に触られるのはアレじゃないのか?」
「……ウルならいいよ」
ああ、ズッ友だからか。ありがとうズッ友。おかげで俺今冷静を保ててる。
生まれて初めてズッ友に感謝した。むしろそれを利用してアピールするって決めただろ俺。
俺は他を伸ばしてムアラニの髪に触れる。前に触った三つ編みとは違って、さらさらしてる。よく見ると髪が凄く細い。指の間をすり抜けるようにして髪が通り、なんだがこっちがすぐったいな。
「……髪、綺麗だな」
「ひぅ」
本心からそう思った。櫛を通すけど全然引っかからねぇ。それに髪の隙間から背中が見えてその、たまらんです。
「…う、ウルっ……それ、あたしにしか言わないんだよね…?」
「え、うん」
というか言えるほどの距離感の女の子は貴方しかいないです。
ムアラニは後ろを向いたままぷるぷる震えたと思いきや、俺の手を掴んで頭の上に持ってくる。
櫛を待ってないほうの手だから、当然頭を撫でる感じになる。
「ムアラニ?」
「ウルの手、意外とおおきいね」
「意外とはなんだ意外とは。そりゃ男だし、ムアラニのよりは大きいよ」
ムアラニの顔の前で手のひらを広げると、そこにムアラニが手の平を当ててくる。そしてそのままサイズ比べへ。
「……ホントだぁ。……えへへ、おおきいね」
くぅぅ……!!(大ダメージ)
ほんとそういうところですよホントに。俺の手から櫛を取ったムアラニは、ベッドの上で俺との距離を物理的に詰めてくる。
「……ウルも、髪の毛綺麗じゃん」
「…そうかな?」
「うん、女の子みたい」
「あんまり嬉しくない…」
俺の首筋に手が伸びてきて遅れ髪をすりすりと触られる。ふわっとムアラニのいい香りが通り過ぎて目が回りそう。
これは、俺も触ってもいいのかな。
キャパオーバーした頭が一周まわって冷静になる。なんだがほわほわしてあんまりブレーキが効かない。気づけば反対側の手を伸ばしてムアラニの下ろされた髪を指で梳いていた。
「………ん、……ふふっ…」
「…………そういえば、前からそれ気になってたんだよな」
「ん〜、なぁに?」
「これ」
俺はムアラニの頭の上のアホ毛を指さす。最初はそういう髪型かと思ったけど、どうやら天然のようだ。指でつまむとやっぱり髪。どうやって上にあがってんだ?
「……おお、寝かせると違和感すごい」
「な、なにしてんのっ」
アホ毛がないムアラニを誕生させてみたらほっぺを引っ張られた。
俺も、なんかそのままムアラニのほっぺを引っ張り返す。
「あははっ、なにするのぉ?」
「そっちこそ」
この時間が永遠に続いてくれ。
その後も2人はくすくすと笑いながら突っつき合い、色々なことを話した。
二人でベッドに隣合って座り、話しているうちに距離が近づいてほとんどくっついてしまっている。
この距離感の近さにはお互い気がついている。…しかし、それと同時に2人の頭は思ったより回っていないのであった。
方や「友達だもんな。…あっ、近っ、…かわいっ…やばい…」
ムアラニも自分で定めた友達というラインがウルという特別扱いでドロドロに溶け始めていて、お互いに「なんかこのままがいいし…、変に言って終わりたくない」と、どさくさに紛れてくっつき続けているという訳だ。
特に、重症なのがムアラニの方だった。
「ね、ウルっ、そういえばあたしウルのこと詳しく知らないんだよね。…教えてよ」
「詳しいこと?」
「好きな食べ物とか、……好きな…」
女の子とか。エスコスィエの件が未だ後を引いているムアラニとしてはどうしても知りたいところだ。
「食べ物……、ほんと流泉の衆かって言われそうだけど、実は俺魚より肉の方が好きなんだよね」
「えっ、そうなの?」
「魚も全然好きだけど、どっちかと言うとって感じ。ムアラニは…海鮮料理だっけ?魚と貝しか入ってない系の」
「え、知ってたの?」
好きな人の食べ物なので当然リサーチ済みのウルに、自覚なしでときめくムアラニ。知ってくれていた嬉しさで無意識に少しウルに寄る。遂に太もも同士がくっついてウルが反応するが、胸がほわほわ中のムアラニはそれどころでは無い。
「ふ、ふーん。……それで、話の続きねっ。ウルの好きな…お、女の子のタイプはなに?」
「はい?…たいぷ?……突然すぎない?」
「いーからっ」
「ムアラニのも教えてくれたら答える」
そうウルに言われムアラニはぅ、と言葉を詰まらせる。
タイプ。聞いたはいいが考えたことはなかった。恋人になるなら……とムアラニは考える。
「……ま、まず一緒にいて楽しい人がいいよね…」
「わかる」
「…それに優しくて…周りを見てて、寄り添える人が…ぁ」
「どうした?」
ムアラニはそこまでしゃべって、自分が誰の方を見て話しているのかにようやく気がついた。
な、なんでもないっ!とそっぽを向くが、やっぱりちらちらとウルの方を見てしまう。
「…で、ウルは?」
「俺も今ムアラニが言ったのと大体同じなんだよな」
「…えーっ、あたしだけ言わせてっ、ずるい!」
ムアラニはむくれながら、ずいっとウルに顔を近付ける。それにたじろいだウルはちょっと考えて、今目の前にいる想い人の特徴をひとつあげた。
「……笑顔が素敵な人かな」
「……ふーん」
ウルの前ではもっと笑おう。そう心に決めたムアラニだった。
「……髪長くて、笑顔が素敵な人?……あ、あのね?……うるっ」
「な、なんだよ」
「べ、別にそんなんじゃないからねっ?ただ気になるから聞くだけなんだけど…」
「お、おう」
「いま、好きな人っているの?」
「……っ」
ムアラニとしては、エスコスィエとの会話で聞いたウルの意中の人が気になるからこその質問だったのだが、ウルからしたら絶体絶命である。
ただ、今のウルは覚悟が決まっている。ついでにムアラニが密着していることでテンションも少しおかしかったのも相まって、正直に口が動く。
「…い、いるよ?」
「えっ、だれっ!?」
「秘密」
実際、このまま告白してしまったらどうなってしまうのか。そもそも、今のこの展開はどうして起こっているのか。普通なら彼女がウルのことを気になっているから、同室でもいいといっていると考えてもおかしくないのだが、先のズッ友宣言と、普段からの距離感の近さがストッパーになっていた。
「……はぁ」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
「……はい、俺の勝ちー」
「あーっ、あと少しだったのにっ!…もう1戦っ!」
「上等」
さっきの小っ恥ずかしいやり取りから少しして、俺とムアラニは借りてきたカードゲームで遊んでいた。時刻はもう深夜と言っていい時間だが、寝ようとした俺たちに1番の難問が降りかかる。
そう。どっちがベッドで寝るか問題だ。
確実に、お互い譲り合いになる。「あたしがソファで寝るからっ!」「いやいや女の子をそこで寝させられねぇだろ!俺がソファで!」「やだぁ!」
絶対収集つかん。
と言うことで、俺はひとつ考えた。このまま遊んで、ムアラニが眠くなってきたらベッドに誘導する作戦だ。
さっきからそれで眠くなる札遊びをしてるのだけど、俺に連敗したムアラニがぷんすこしててなかなか寝てくれない。ちなみに怒ってるムアラニも可愛い。ほっぺ突っつきたい。いやさっきやったけど、流石にやりすぎるのもダメだと思う。
そこから3戦後。流石に負け越した俺に満足したムアラニはむくれ顔でベッドの上をにじりよってくる。四つ這いになったことでムアラニの体のラインが強調され、目を逸らそうとするが両肩を掴まれた。
「……もうっ!ウルが寝てくれないとベッドに運べないじゃん!」
「いや同じこと考えてたのかよっ!」
通りでこんなにゲームが続くわけだ。頬をふくらませたムアラニは「こうなったら力ずくで…!」とつかみかかってくる。
「いやいや、ムアラニガイドで疲れてるだろ?ここはやっぱりレディーファーストっていうし、ベッド寝てた方がいいんじゃないか?」
「いや〜、ウルこそ1日中討伐してたんでしょ?やすんだほうがいいよ〜!」
ムアラニは俺に手を伸ばして押し倒そうとしてくる。それを手で掴んで力比べ。ただやっぱり力比べは男の俺が有利だ。
だけど、ムアラニの方が経験は上だった。
「隙ありっ」
「うわっ!」
俺が力む瞬間、軸足の膝裏に脚を入れられてがくんと体勢が崩れる。そしてそのまま後ろのベッドに倒れ込んだ。
「……ふふーん、これくらいでやられるようじゃまだあたしは守れないねっ」
ムアラニは倒れた俺に跨り、体重をかけてくる。勝気なムアラニ可愛いし、色々柔らかいし、それに守れない発言にちょっとムキになっちゃった。
俺は掴まれた手を逆に引いてムアラニを引き寄せる。わわっと倒れてきたムアラニの腰を抱いて、そのまま転がると形勢逆転だ。
今度は俺が押し倒しちゃってるんだけど、この時の俺はそんなに頭回ってない。
「…ぅ、うる…」
「これで形勢逆転だな」
ムアラニの細い腕を掴んで頭の上にあげさせる。すると、目をうるうるさせたムアラニがそっぽを向いた。
「…ウル…ちょっと、…いたい」
「えっ、ぁ、ごめん「はい隙ありぃ〜!」なにぃ!?」
泣き落としか!?
ムアラニの顔を見て力を緩めてしまった所を突かれて、拘束を外したムアラニが飛びかかってきた。
俺の首にムアラニの腕が周り、胴体も脚で挟まれる。そのままべしゃっと押し倒されたもんだから、顔にムアラニの胸が思い切り押し当てられた。
「ん〜っ!」
「…んぅ、…ウル、息すぐったい…」
まずは離れて欲しい。顔が幸せすぎる。めっちゃいい匂いするし、思わず深呼吸してしまった。
顔を上げると、顔を赤らめながらもどこか楽しそうなムアラニ。そんな顔を見ていたら、俺もやり返したくなる。友達として。
俺はもう一度ムアラニを抱きしめて寝返りを打つ。ムアラニの腕は俺の首に回ってるし、脚が胴体に回ってるからそのままころりと転がる。
首筋に顔を埋める形になったムアラニだけど、息が首に当たってくすぐったい。ムアラニの腕にぎゅっと力が入るのを感じた。
それになんか俺もどさくさに紛れてめっちゃムアラニ抱きしめてる。よく考えなくても今のお互いに抱きしめ合ってる状況がヤバいのはわかってるんだけど、ムアラニが何も言わないからそのまま続けちゃってる。というかやめたくない。かわいい。
あれ、俺ら何してたんだっけ?
ずっと俺の首筋に顔を埋めたままのムアラニの髪を優しく撫でてみる。俺が上になっちゃってて苦しいかなと起き上がるとムアラニは脚まで使って全力でくっついてきた。
こんなに密着するのは初めて。ドキドキしすぎて一周まわって冷静なのに、頭だけは全然働かない。もう本能だけで体を動かしてる。
もう10分くらいお互い無言で抱き合っている。ムアラニはずっと俺の首筋や胸に顔を埋めてるし、俺は俺でずっとムアラニを抱きしめながら頭を撫でてる。
もはや俺たちが何してたのかすら忘れて、ムアラニとくっつき続けた。
「……はぁ………はぁ……」
「……………」
もうどれくらい抱き合っただろうか。ムアラニが首筋から顔を離した。そのまま至近距離で見つめ合う。
「……………うるぅ…」
「っ」
ムアラニが見たことない顔してる。
なんて言えばいいのかな。蕩けた顔ってのはまさにこれのことだ。顔を真っ赤に染めて、じっと俺の目を見てくる。
あまりの可愛さに、俺は息をすることも忘れて見蕩れてしまった。
これは、いいのか?
彼女と友達以上の関係になれるのか?
「……ね、ウル…」
「……」
「あたしたち、…ともだちじゃなきゃ、……だめかなぁ…?」
ムアラニのセリフと同時に首に回っていた手が俺の頬に移動する。
「……そんなわけないだろ」
俺が絞り出した声に、ムアラニの目が細まる。そのまま見つめあっていると、ムアラニが少しずつ顔を近づけてきた。
目を見開く俺を尻目に、顔の距離が5cmを切った。ムアラニが目を細めて顔を傾け、唇にお互いの息がかかる。
……そしてそのまま───
ガタンッ!
「「っ!?」」
行こうとしたところで、立てかけていた槍が音を立てて床に落ちた。そのショックで我に返った俺たちは、ばばっ!っと音を立てそうな勢いで離れ、ベッドの両端まで下がった。
い、いい、い、今おれ、……何をしようと……!?
「……ぁ、な、なななんちゃって……?」
多分向こうも俺と同じ状態だ。真っ赤っかになりながら声にならない声を上げていて、あくまで「どっちが寝かせるかの取っ組み合い」で話を続けようとしている。
「あ、あははっ、……び、びっくりしたっ?」
「………あ、ああ。凄く……。…なぁムアラニ、その、……ベッドのことなんだけど、さ」
「…っ、…う、うん」
「このままじゃ、多分どっちも使わないオチだと思うんだよ」
「そ、それなら、どうするの?」
上目遣いで聞いてくるムアラニの瞳が揺れてるのを見て、俺は唾を飲みこむ。
「…せ、折衷案でさ…」
「………ぅん、い、…いっしょに、ねる?」
同じこと考えてた。
こくりと頷いた俺に、ムアラニはにへへと笑いながらベッドの上を四つん這いでにじりよってくる。
さっきのおかけで大分ハードルが下がったので手を伸ばすと、その手を取って引っ張ってきた。
されるがままにベッドに乗る。ムアラニは俺にしなだれかかりながら俺を寝かせた。
シングルベッドなので2人だとかなり狭い。
ムアラニは半分俺の上に乗るようにして寝っ転がると、俺な顔を見てにっこりと笑った。
「…ね、ウル」
「……ん?」
「友達でも、ハグくらいするよね…?」
「…ああ、普通にするな」
もうそういうことだろう。お互いにもう友達を言い訳に使い出した。
俺は横を向くと、ムアラニの頭の下に腕枕をするように腕を入れる。それに頭を乗せたムアラニは、ピッタリと俺に抱きついてきた。俺も優しく抱きしめ返す。
幸せすぎる。なんだこれ。これ現実か?
というか、今どういう状況なんだ?ムアラニはなんでこんなにくっついてくるんだ?
ムアラニの気持ちとか、色々気になる所はあるけれど今それを口にしてこの状態崩したくない。
「………ムアラニ」
「……ぁ、…耳……んぅ、…なぁに?」
「………おやすみ」
「……えへへ、…うん」
夢でないことを切に願います。
いかがでした?
-
あまりの糖分で爆発四散した。
-
糖度高すぎて身をくねくねさせた。
-
天を仰いだ。
-
死