【リメイク版】ズッ友宣言してきた子の距離感がおかしい 作:猫好きの餅
…………今日、俺死ぬんかな?
シトラリさんちで晩御飯を頂いたあと。
どういう仕組みで出るのかはわからないシャワーを浴びながら、さっきまで起こっていた事態を思い返す。
いや、俺もだいぶ流された。むしろ流されてしかないけど、まさか2時間もずっとムアラニと抱き合ってたなんて。
夢かと思いたいが、この顔の下あたりに残るぷにっとした極上の感触が、これは現実だと教えてくれてる。
そしてこの後、同じ天幕でムアラニと寝るのだ。もうこんなの緊張しないわけがない。
だが、熱い顔に反して、心臓に手を当てると意外と鼓動は速まってない。もう無我の境地にでも至ったのか?と首を傾げながら身体の水分を拭き、タオルを首に掛けてシャワー室から出る。
「シャワーありがとうございました」
「はいよ。……ほらシトラリ、起きて」
「にゅ……んぅ〜…もうちょっとだけ…」
家の中には幻目さんと、彼の膝枕で幸せそうに眠るシトラリさんがいた。もうこの光景はここで過ごすうちに見慣れたものなので、彼女を起こさないように外に出る。すぐ横の天幕の前で立ち止まると謎に深呼吸をした。
シトラリさんちの方にいなかったってことは、ムアラニはこの中だろう。さっきの抱き合いは外から2人の足音が聞こえてどちらからともなく離れてそのまま何食わぬ顔でご飯を食べたんだけど、ムアラニとは一言も喋ってない。
気まずい、気まずいけど……それよりも早くムアラニの顔を見たい。話したい。…あわよくば……、また、ハグがしたいって考えてるのはやっぱりおかしいのかな。
気がつけば、俺は天幕の中に身体を滑り込ませていた。
「……ぁ」
「………っ」
は?なにそれかわい。
ムアラニの格好は今までで1度も見た事がないもので、チャックが着いた、長袖のフード付きワンピースを着ていた。模様とか装飾とかを見るにシトラリさんのものなんだろうけど。なんだろう、………すっごい可愛い(語彙力)。
ムアラニは、あの時のように髪を下ろした状態でベッドに座っていた。広がった白い綺麗な髪が日焼けした小麦色の肌とコントラストを描いている。
ムアラニは入ってきた俺をちらりと見て、ぽっと頬を染める。何その顔可愛すぎるんだけど?
ムアラニが可愛すぎて、出かけてた言葉がバッチリ引っ込んだ俺は顔を赤くしてそのまま立つしかない。
「………」
すると、ムアラニがベッドの上で横にズレた。まるで隣に座って?と言わんばかりに上目遣いで見てくるので吸い寄せられるようにベットに座った。
「……………」
沈黙が、不思議と気まずくない。
つん。
「……っ」
すると、脚になにか当たる感触。見るとムアラニのつま先がつんつんと俺の足を突っついている。擽ったくて脚を避けるが、俺を追いかけるようにムアラニは身を寄せてきた。
俺の左腕に、ムアラニの肩が当たる。ちらりとムアラニを見ると、ちょうど見上げてた彼女と目が合った。
「……なに?」
「…べつに?」
そんなことを言いながらも足でつんつんしてくる。ぽけっとしているとムアラニがどこか拗ねた顔でフードを被った。
「…なにか言うことないの?」
「……ぇ、あっ………その、良くお似合いです」
「あははっ、なんで敬語なのっ」
そういってけらけら笑うムアラニが本当に可愛い。でも、個人的にはフードがない方が好きだ。ムアラニの2本のリボンみたいなアホ毛がフードに抑えられて違和感がすごい。
なので、手を伸ばしてフードを降ろす。
「…ひゃ…」
急にフードを剥がされたからか、驚いて目がぱっちり開いてる。それを見た俺は微笑んだ。
「うん、やっぱこっちの方がいいな」
「ぁ…」
「……なんだよその顔」
「な、なんでもないしっ」
俺、そのポカーンとした顔結構好きだな。
そのまましばらく沈黙が続く。その中でもツンツンしてくる脚が擽ったくて、ベッドの上で胡座をかいた。
「……とりあえず、俺はもう寝るから。明日も鍛錬だし」
「えー、もうちょっと話そうよ」
「ムアラニと話してるとそのまま夜更かししちゃいそうだからダメ」
「…そっ、それはあたしと話すのが楽しいってこと……?」
「おうよ」
勢いで言ったのが恥ずかしくて布団を被り背中を向ける。そのまま目を閉じていると、背中側でもぞもぞとする気配。
「……ウル…」
気づけばというか、案の定というか。あの時のように隣に寝転がり、俺の背中にピタリとくっついて来たムアラニが、耳元で俺の名前を呼ぶ。
やめてっ、ムアラニの声が良すぎて体が反応しちゃうからっ。
「……こっち、向いて?」
「………」
「…ねぇ……」
「……わかったよ」
ああもう、おねだりひとつでこの攻撃力。秒で根負けした俺が寝返りを打つと、ムアラニは嬉しそうな顔をしてすりすりくっついてくる。
もう、本当に可愛いな。
思わず手を伸ばしてムアラニの綺麗な青みがかった髪を指で梳く。触っちゃってからまずいかなと思ったけど、ムアラニはほんのりと頬を朱に染めてよりくっついてきた。
やばい、暖かくて柔らかくて、ドキドキよりも安心が勝つなんて。
「かわいい」
思わず、口に出してしまった。
「はぇ」
ムアラニはびっくりした顔のまま目を見開くと、だんだん顔が真っ赤っかに。フードを被って顔を隠そうとしたから、手を握って辞めさせる。
「……きゅ、きゅうになに…?…ばか…」
「そういうところだよ」
普段は元気で天真爛漫な子が照れるとこんなに可愛いんだぞ?
最高すぎる。ちょっと眠くなってきて頭が回らない俺は、あわあわしてるムアラニをぎゅっと抱きしめた。もう友達ってなんだっけ?まぁいいや可愛いし(脳死)。
「……う、ウル…」
「……今日は来てくれてありがとう」
「…う、ううん、あたしも会いたかったし……」
「…実はちょっと修行が難航しててさ。でもムアラニに会ったら凄く気分が晴れたよ」
「えへへ、それならよかったぁ」
ムアラニと抱き合い、至近距離で見つめ会いながら話す。こんな距離、前までは照れて話どころじゃなかったけど、今はなんか安心する。ムアラニの綺麗な瞳をじっと見てると、その目を潤ませて見つめ返してくれる。
「…………」
話が途切れ、しばし無言の時間が続いた。
それでも俺たちは見詰め合うのを辞めない。あと少し前に出れば唇が当たってしまうくらいの距離。
すると、ムアラニは更に少しだけ顔を寄せてきた。もう距離はほとんどなく、何かの手違いで当たりそうな距離だ。
でも、事故でも当たっちゃっていいかなぁって思うのは悪い事なのかな?
「……そういえばさ」
「…なに?」
「ムアラニって、好きな人いたりするのか?」
そういえばと気になってたことを口に出してみる。こうして抱き合って、キスできそうなくらいまで接近して聞くようなことではないかもだけど。
俺の問いに、ムアラニはじっと俺を見つめながら答えた。
「…………ひみつ」
「なんだよそれ」
「…ウルには言えないもん」
そう言いながらも、抱きつく力はそのままにムアラニは微笑んだ。そのまままた少し、距離を詰めてくる。
これ以上は本当にまずい。もう当たる。
「…………」
……そして、
まるで事故か偶然かのように、俺たちの唇同士がほんの一瞬だけどくっついた。
そのことにお互い触れないまま、まるでお互いに流されるように見詰め合う。
そして、また。
「……っ」
こんどはもう言い逃れできないくらいにくっついた。やばい、超柔らかいし、暖かい。俺は思わずムアラニの頬を撫でる。ムアラニも、俺の頬に手を伸ばして、まるでキスをねだるようにすりすりしてきた。
そんなの、止まるわけないだろ。
……ちゅ。
今度は音までなってしまった。でも俺たちはその事に意地でも触れようとしない。まるで気にしてませんけど?みたいな態度で「偶然唇同士が当たっただけの事故」を続ける。
そのまま、俺たちは無自覚の体で、何度も唇を重ねた。気づけばムアラニの頬にあった手は彼女の後頭部に、ムアラニの両腕は話さないとばかりに俺の首に回り、果てはお互い横向きだった身体がムアラニが上に乗る形に変化していた。
30秒程偶然当たっていた唇を離した俺たちは、何にでもないような会話を続ける。
「…ムアラニ掛け布団?」
「あはは、実際あったらウルは買ってくれるの?」
「何モラでも出すよ。こうしてお喋りしてくれる布団とか最高だろ」
そういうと、見惚れるような笑みを浮かべたムアラニは、再び偶然唇を当ててくる。俺も事故を続けながら、ムアラニを力の限り抱きしめた。
……好き。
すき、すき。
あたしは、あのままあたしに抱きつきながら眠ったウルに声にならない声を漏らした。
彼に会えないのが寂しくて寂しくて、あたしは藁にも縋る思いでシトラリおばあ様のところに来たんだけど、なんとそこにウルがいた。
あんまりびっくりしたから、あたしもなんて言っていいかわからなくて、でもウルの顔を見たらやっぱり好きだなって思って。
好きなのを自覚してから顔を合わせるのも恥ずかしかったけど、この時は触れたい気持ちが恥ずかしいのを超えちゃった。それはウルも同じだったみたいで、2人きりで抱き合ったのが本当に本当に……。
そして、今さっき、唇同士が当たっちゃった。…うん、当たっちゃっただけ。だからいいよねって、あたしももう頭おかしくなっちゃってたんだと思う。ただ当たっちゃっただけってやってたけど、何度もするうちにどんどんキスが深くなって行って、最後は息継ぎだけ顔を離してすぐにまたキスして。もう、幸せすぎるよ…。
あたしは熱を帯びた顔のまますやすや眠るウルを見た。
何日も離れてたから、なんだか自分でも知らない状態になってる?どきどきしながらも、身体の奥からどんどん何かが湧き上がって来る感じ。
「……ウル…………すきだよ…?」
気づけば、口にだしちゃってた。
あたしはウルが好き。かっこいいところも可愛いところも、気遣いができるところも、苦手な泳ぎを頑張ってるところも。
全部全部、堪らないくらいだいすき。
今、どうしてシトラリおばあ様のところで巫術を習っているかはわからないけど…。もしかして今度の帰火聖夜の巡礼に出るからとか?
何にしても、今日ここに来てよかった。
こう、一緒に寝るのも……好きって自覚してからだと色々と感じが違くて………えへ、恋人…みたい…なんちゃって。
ウルの彼女にもしなれたら、こうやってお互いの家に泊まり合ったりするのかな?今は友達だからハグとかしかできないけど、もし付き合ったらハグやキスだけじゃなくて……もっとすごいことするんだよね…?
「……ウル」
あたしは自動的に彼の唇を見ちゃう。さっきあんだけしたのに……またしたくなっちゃう。……うぅ、あたし…変な子かも…。
あたしは爆発しそうな程に真っ赤な顔を冷ましながら、ウルを抱きしめる。ただくっついただけじゃ足りなくて、もぞもぞと脚も絡めて、ウルの手も握る。
「……ぅ、ムアラニ?」
「……あ、ごめん、起こしちゃった…?」
「……ん、だいじょぶ」
さすがに触りすぎて彼を起こしちゃったけど、寝ぼけているのか恋人繋ぎの手も気にせずにもう一度私を抱き締めて眠り出した。……うぅ〜、好きぃ……!
あたしは恋人繋ぎの手を見つめ、ドキドキが限界突破。絡めた脚ももっと密着させる。
じ、実は着替え持ってきてないからこの中何も着てないんだけど…、それでもいいや。むしろそっちの方が……もうあたし、何考えてるかわからなくなって来たよぉ…!
あたしはウルの首筋に顔を突っ込んだ。さらに強く香る彼の香りに身体が疼くのを感じながら、こっそりと唇に唇を当てる。自分がいましてることがダメなことはわかってるけど、それでも止められない。すき、すき。すき。
あたしはそのまま明け方まで、ウルの唇や首にキスを落とし続けた。
糖分の大砲