萌え萌えしたいから、領域極めてみた。 作:オタクさん
――生得領域。
呪術における極致と呼ばれる、領域展開という技術の根幹。
名の通り、生得領域は人それぞれであり、内容も千差万別。稀に、呪霊の中には術式の付与されていない生得領域を展開する例も存在するという。
それはつまり――術式がすべてじゃない、ということだ。
―――自分の思う、最高に萌えるキャラクターを現実に持って来れないか? と。
この世界に生まれ変わった俺は、前世と変わらずオタクだ。萌え萌えが大好きでたまらない、筋金入りのオタク。
そんな俺にとって、呪術の極致を萌えに使うのは当たり前。命を懸けられるぐらいの問題だ。
結界術を極めれば、俺の嫁たちに会えるかもしれない。可能性がゼロでない限り、やらない理由はない。
特に憧れているのが【空性結界】。
空間を自在に設定できる高等技術で、俺は【空性結界】……理想の萌えキャラ達と過ごす世界を再現したいと思っている。
どこぞのメロンパンが映画館のスクリーンを設置したりとか、自由度がめちゃくちゃ高い領域であることは分かっていた。
生まれる前も、生まれ変わった今も――俺はずっと、萌えキャラクターに会いたいと願っていた。今まで、萌えキャラクターに会ってみたいと何度も思った事か。それが実際にこうして現実に叶うことができる技術が存在すると来る。
しかし、それを成し遂げる前に壁が立ちふさがる。
それは己の持つ呪力量がそれほど多くないという課題だ。
空性結界の原型を掴むためにも、まずは領域展開を極めようと考えていた。
当然ながら、領域展開は多くの呪力を食らう。五条悟は"六眼"という特別な眼があるからこそかなりの呪力効率を保てている……六眼のような呪力効率を格別に高めるような手段は皆無に等しい為、それを考えても仕方がない。
――呪力量は、基本的に変化しない。簡単に例えると
ならばどうするか……呪物を飲み込めば呪物に込められた呪力の量が上乗せされる……と考えてもそもそも呪物を飲み込むなんてのは論外だ。
とすると、残された手段は自ら"縛り"を結ぶという方法しかなかった。
……俺の持つ術式は【
呪力を込めて術式を発動させることで"望み"を叶える、いわば運命改変のようなもの。
"信号が全部青でありますように"と念じて術式を発動させると、実際にそうなる。
"晩飯が唐揚げでありますように"と念じて術式を発動させると、唐揚げが出てくる。
"千円欲しい"と念じて術式を発動させると、風に乗ってお札が飛んでくる。
といった具合に、物に限らず現象まで叶えることができるわけだからこういう術式の名前にした。転生特典なのかどうかは分からないが、強力である術式なのは少なくとも言えることであった。
――だが、俺の呪力量が足りないという問題がある。この術式は望む現象によって求められる呪力量が変化する。さっき言ったものは、十分範疇内。だが、それ以上となるときついものがある。
例えば、"宝くじで1等が当たりますように"とかは無理だった。当然ながら"呪力操作技術"とか"結界術"とかもダメ。
……肝心の"萌え美少女召喚"は到底無理だった。こればかりは人生が終わったかのような気分でいっぱいだったのは言うまでもなかった。
呪力量という条件さえクリアできれば、術式は発動できる。そんな確信があったからこそ尚更。
そう、今の俺では到底届かない。
【森羅操術】。呪力量という課題さえ解決できれば、誰もが欲しがるであろうチート術式。
しかし、俺にとっては――
そう考えた俺は最初に"縛り"を結んだ。【森羅操術】の対象を食べ物に限定した上で、かつ術式の効果は上げないというのを。
ポテチ・餃子・唐揚げ。日常の中の小さな幸せは嬉しかったし、その"縛り"によるもたらされた呪力量上昇・呪力効率・呪力操作技術なんかも大きく上がった。
……だが、それでもまだ足りなかった。俺が欲しいのは、彼女たちに会える世界その一つだけ。
本当にいいのか? とも思った。この術式を捨てたら、もう二度と戻れない。結界術の補助にも使えない。日常生活すら不便になるかもしれない。
でも、それでいい。俺が欲しいのは、唐揚げでも、千円でもない。
彼女たちに会うこと。それだけだ。
――
よって、俺は"術式を破棄する"。そんな重い縛りを結んだ。
今後一切【森羅操術】は使えない。それでもなお彼女たちに会いたいという一心で結んだからこそ後悔はなかった。
その瞬間、身体がビリビリと震えた。"戻れない"という恐怖すら、呪力量が大幅に増えて吹き飛んだ。
「キタ、キタ……キタキタキタ!!!」
重い縛りを結んだ今の俺なら――届く。初めて黒閃を体験した際に"ゾーン"に入るというが――今の俺がまさしくそうじゃないかと思った。劇的に呪力を扱う力が上がっている。今ならば、感覚的に用いることができる。
「領ォ域ッ、展開ッ!!」
空間が裂ける。そこに現れたのは――――俺の"理想の彼女"。
『できたんだね! えらいえらいっ♪』
微笑み、手を振ってくれる。ああ、何度妄想したことか。彼女だ、彼女なんだよ……俺がずっとずっと会いたいと思っていた彼女。
その声が、俺を呼んでいた。やわらかくて、あったかくて――俺がこの世で一番聞きたかった声だった。
手を伸ばせば、届く距離にいた。でも、指先が触れるより早く、空間が音もなくひび割れて、次の瞬間――領域は1秒も保てずに崩れ落ちた。
彼女の姿も、泡のように消える。
「……」
涙も、言葉も出なかった。俺はただ、呼吸をすることさえ忘れて、そこに立ち尽くしていた。
でも、それでいい。会えたんだ。
次こそは――
「もっと長く……もっと話せるように……次は、手を繋ごう」
そう決心をして、俺は結界術を磨いた。だが、俺が望むのは究極。できるだけ長くの時間を彼女たちと暮らす……そう決めて、俺はさらなる"縛り"を結んだ。
"今から1ヵ月以内に、領域展開を10分以上維持できなければ死ぬ"という縛りを。
別に、死んでもいい――というわけではない。だが、命すら賭けられない男が果たして彼女たちと暮らす資格はあるといえるのか。死んでも取得してやる――その気持ちで縛りを結んだ。
これで俺は後戻りはできない。だが、それでこそ望むところであった。
森羅操術を捨ててまで、彼女たちに会いたいと願った。ならば、その先にあるものを手にできなきゃ、何の意味もない。
死ぬ覚悟がなきゃ、最初からここまで来てない。
1分や2分じゃ、"ただ会うだけ"で終わってしまう。名前を呼んで、笑い合って、少しだけ照れて、ぎこちなく話して――そんな"ふつうの時間"が欲しかった。
10分あれば、それができると思ったんだ。
1ヶ月以内に10分以上の領域を保つ。それだけの話だろ?