萌え萌えしたいから、領域極めてみた。   作:オタクさん

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その先へ

 

――領域展開。それは、呪術における極致。

 

その力を十全に引き出すために、俺は毎日、血反吐を吐くような訓練を繰り返していた。

 

なぜかって? 決まってんだろ、“嫁たち”に会うためだ。

 

彼女たちの笑顔を、もう一度見るために。名前を呼ばれて、少し照れて、ぎこちなく笑い合って……そんな“普通の時間”を過ごしたい。ただ、それだけのために、俺は命を削っている。

 

「領域展開――!」

 

印を結び呪力を起こさせる。その次の瞬間、空間が揺れた。黒く、粘り気のある呪力が身体の周囲を包み込む。

 

だが、それも――

 

「……ッ!!」

 

バチンと弾けるように空間が壊れ、俺は地面に膝をついた。額から汗が滴り落ち、肩で息をする。さっきの領域を維持するのも、せいぜい2分がいいところ。

 

(くそ……あと3週間だってのに……)

 

俺は、己の中で呻いた。今はまだ、たったの2分。

 

2分じゃあ、彼女たちと満足に触れ合える余裕もない。声をかけても、崩れてしまう。それに、話が出来たとしてたった2分しかないという焦燥感に駆られて彼女たちとの今に集中出来ない。

 

彼女たちと時間を過ごすには、せめて10分間、領域を保たせなければならない。

 

原作でいう、領域展開ができる奴はみな、術式を領域に付与するという離れ業をしていた。俺には術式を付与するという技術が不要な分、だいぶイージーなはずだ。

 

にも拘わらず、2分程度しか保てない。呪力量からみてまだまだ余裕はある。それよりも呪力のコントロールが先に限界を迎えてしまった。

 

(このままでは駄目だ)

 

――なら、やるしかねぇだろ。

 

「もう一回だ……!」

 

ふらつく身体を叱咤しながら立ち上がり、再び呪力を練る。その時だった。ふわりと――優しい風が吹いたような気がした。

 

俺がこれから構築しようとしていた領域の隙間。ほんのわずかに開いた領域のひびの向こうで、彼女が微笑んでいた。

 

『……焦らなくていいよ。少しずつ、少しずつ、でしょ?』

 

その声に、心臓が跳ねた。涙が出そうになった。けれど、笑ってしまった。

 

「そっか、焦りすぎてたかもしれないな」

 

俺は、もう一度呪力を練り直した。呼吸を整え、彼女の声を胸に刻みながら。少しずつ、感覚を取り戻していく。

 

──その日の夜。

 

俺は、3分の展開を成功させた。その次には、3分半。さらに4分。汗と涙と萌えを燃料に、少しずつ、俺の領域は“確かに”伸びていった。

 

(イケる……マジで、イケるかもしれない)

 

最終目的である【空性結界】の構築までは、まだ遠い。けど、 彼女たちに会える領域は、確実に近づいている。

 

呪力の制御も、結界術も、全部感覚で掴み取っていった。これも術式を破棄するという縛りのおかげで、感覚的に掴めるようになるほどに呪力操作技術が上がっているおかげだ。

 

たぶん、術師の誰かに言ったら"狂ってる"って言われるだろう。

 

でも、それでいい。俺はもう、狂ってるって言われたって構わない。彼女たちに会いたい。それだけの想いで、ここまで来たんだ。

 

──そして、運命のその日。

 

「……やるぞ」

 

呼吸を整え、深く一度、目を閉じる。

 

呪力は満ちている。今の俺は、かつてないほど軽い……それでいて、心は“重い”のだ。

 

(やるぞ、絶対に……)

 

 

「領域、展開ッ!!!」

 

 

空間が裂け、鮮やかな光が弾ける。現れるのは、白く輝く領域の片鱗。

 

そして、そこには――

 

『おかえり、待ってたよっ』

 

俺の思い描いていた、理想的な彼女が、いた。笑って、手を振って。俺だけを見ていてくれた。それに息を呑む。それだけで、すべてが報われた気がした。

 

(ありがとう……来てくれて)

 

今回は違う。空間は崩れない、揺れない、保たれている。限界の壁を、超えたんだ。

 

「ははっ……やった、俺……!!」

 

これから始まる、10分間という幸せな時間。たかが10分されど10分。

 

『――あなたの名前、聞かせて?』

 

俺の展開した領域に、確かに存在している彼女からの問いかけ。それに俺は胸の高鳴りが止まらなく、それでこそ口から飛び出すほどだった。

 

「っ、お、俺は奏太……」

『そっか、じゃあ奏太くん』

 

俺の名前を呼んでくれた。それだけでも、天に昇るような気持ちにさせてくれた。

 

『ふふっ、私ね、嬉しかったんだよ。奏太くんが懸命に私に会おうとしてくれて』

 

あぁ――そんなことを言われると、もう死んでもいい。そう思うと、視界が涙で歪んでくる。

 

『こらっ、死んじゃったらダメっ! まだまだこれから……でしょ?』

「うん……うん、そうだな。まだまだこれから……だよな」

 

彼女の言葉ひとつひとつが、心地よかった。

 

「その、君の名前は……」

『私? 私は柚葉だよ!』

 

柚葉。その名は、俺が前からずっと考えていた名前の候補のうちの一つだった。

 

「ゆ、柚葉……」

『うん、あなたの柚葉だよ……ふふっ、なんだか恥ずかしいね……』

 

俺が名前を呼ぶと、嬉しそうに微笑んで応えてくれる彼女。まぎれもなくこれは現実だ。俺が、命を懸けて、願って、戦って、ようやく手に入れた現実だ。

 

「ふへっ」

 

そう思うとニヤケが止まらなかった。この笑い方、我ながらキモイなと思って慌てて口を抑えた。だが、それを見た彼女は態度を変えるようなことはしなくて……

 

『ふふ……よく頑張ったね。えらいっえらいっ♪』

 

俺を褒めてくれて、頭を撫でられた。この感触……彼女はそこに存在しているのだと分かった。

 

あぁ、これこそが“愛”なんだ。俺がどんな風であっても、微笑んで隣にいてくれる。その優しさが、たまらなく嬉しかった。

 

(あぁ、また……すぐに会いに来るよ、柚葉)

 

その声に頷きながら、俺は、ゆっくりと領域を閉じた。

 

まだまだこれからだ。最終的には【空性結界】を目指す、そのためには領域をさらに磨いていかねば。

 

10分以上領域展開をするという"縛り"を果たせた今、さらなる呪力量の向上、呪力操作技術も上がっている。

 

そう──俺たちの物語はまだまだ、始まったばかりだ。

 

 

 

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