もし、過去に戻れたのなら   作:ツキ0912

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1話 終わりと始まり

妙な暖かさを覚えた。

季節で言えばまだ寒いはずなのに。

他の感覚がはっきりしない。

手足は動かないし、視界もぼやけてほとんど見えない。

耳もはっきりせず、上手く音が拾えない。

何があったのかもいまいち思い出せない。

 

――ダメだよシロコちゃん!

 

それでもそんな声が聞こえてきた。

なにがダメなのだろうか...前後の記憶がはっきりしない。

銀行強盗はホシノ先輩に怒られるからやめたはずだ。

 

――こんな...だめだシロコ...こんなこと...

――シロコちゃん、目を覚ましてください!

――シロコ先輩、早く起きてよ!

――シロコ先輩...お願いですから...

――馬鹿シロコ...これじゃ...

 

6人、私に声をかけてくるのがわかった。

だがどれも悲しみを含んだ声だった。

けれど、はっきりしなかった記憶もどんどん鮮明になっていくにつれて状況が読み込めた。

――ああ...この暖かさは私の血の熱だ。

思い出した...私はこれから死ぬのだ。

反転したホシノ先輩を私達は救って、襲来してきたセトの憤怒を追い返した。

けれど、私は致命傷を負ってしまって、死を待つばかりだ。

それでも...私は満足だった。

ホシノ先輩は生きていて、この世界の私はなにもかも私と違って正しい道を歩み続けて、そして先生も...

だから私は...このまま穏やかに微笑みながら死ねる。

これできっと、よかったんだ。

 

「あれ...ノノミ、アヤネ、セリカ、よわシロコ、ホシノ先輩、先生...どこ?」

 

みんなに囲まれて目を瞑り、再度開けば私は1人で立っていた。

傷を負ったはずだがどこにもその痕跡がない。

また、私の声に反応は何もなかった。

砂漠だったその場所は一面真っ白になっていた。

そう、真っ白だ。

凹凸もなく、ただ真っ白で平面な大地には何もなく、誰もいない。

ただどこか懐かしいような...暖かい雰囲気の空間だった。

 

「誰かいる?」

 

再度声を掛けるがやはりなにも返ってこない。

 

「...なにあれ、扉?」

 

何もないと思ってたがこの空間の中央と思われる場所に扉があった。

私はひとまず扉以外に何もないかを確認するために歩き出すが...扉との距離が離れない。

その代わりに近づくことはできた。

 

「入れってこと...?」

 

この空間には扉だけであり...扉から離れることはできない。

なにがなんだかわからないが...これがもしかしたら死後の世界の入口なのだろうか?

 

「これが死後の世界の扉ならもう一度先生に...いや、無理かな」

 

天国と地獄があればきっと自分は地獄で先生は前者だなと思って少しだけ望んだ先生との再会は諦めた。

もう、やれることはやり切ったのだ...地獄でも私は文句ない。

そう思いながら、私は扉を開いた。

 

「...さむい」

 

次に訪れた感覚は寒さだった。

それと、体に痛みを感じる。

 

それと違和感だった。

体は軽くて、視野が低い。

座り込んでいるようだったが...それにしても自分の座高はもう少しあったはずだ。

 

――流石にやり過ぎでは...

――仕方ないよ、この子結構強かったし...下手に手加減したらやられてたのはこっちだよ?

 

聞き覚えのある声に私は前を向く。

そこにはホシノ先輩とノノミがいた。

だが、様子が違う。

ホシノ先輩はあまり変わらないが深い悲しみを抱えた目をしていて、ノノミは私の知ってるノノミよりも余裕がなく、幼さを感じる。

まさかと思い、自分の体を確認すると予想通り縮んでいた。

これはどういうことだろうか...走馬灯...にしては体の痛みと寒さがやけにリアルだった。

だったら今までのは夢だろうか?

ホシノ先輩やノノミ、後輩達との生活、先生との出会い...そして悲劇の数々...あれは全て夢?

 

「...ようやく落ち着いた様子だね」

 

私は屈み込んで覗いてくるホシノ先輩を見上げる。

 

「...うーんその姿は流石に寒そうだね...とりあえず、これ撒いておきなよ」

 

マフラーを...巻かれた。

 

「あっ...」

 

何時無くしたのかも忘れてしまったその温もりに私は...ただ泣くことしかできなかった。

泣いている私をホシノ先輩とノノミは慌てながら色々話しかけてくれた。

とりあえずはアビドス高校に入ることになった。

そして、今までのことは夢ではないと確信した。

マフラーの件といい、私が見てきたことと一致している。

であるなら走馬灯...にしても私に自由意志があり過ぎる。

マフラーを巻いて貰ってからの行動が完全に同じとは言えない。

であるなら...タイムスリップだろうか。

そんな馬鹿な、と言われそうだが私自身が行ったこともあるので個人的にはすぐに飲み込めた。

ただ、どうして見た目も含めて過去に戻ったのだろうか?

あの時、死んだこととなにか関係があるのだろうか。

 

「えっと...話してもいいかな?」

 

教室で暖かい飲み物を渡されて、再度ホシノ先輩に声を掛けられて考え事を一度中断する。

 

「ん...大丈夫、ホシノ先輩」

「へえ...おじさんのこと知ってるんだ」

 

じろりとした目で見られた。

しまった...初対面なはずなのについ呼んでしまった。

 

「ゆ、有名...だから」

「へえ...そう」

 

表情は穏やかだが明らかに敵意を持たれた気がする。

それはそうだ...ホシノ先輩の名前を知ってるのは同級生や後輩と言ったプライベートな人たちを除けば大抵はよくない人物だ。

 

「まあいいや...キミ、名前は?」

「...砂狼...シロコ」

 

名前を聞かれて素直に応えるが未だに警戒されている。

 

「それで、シロコちゃんは何しにここに来たの?

おじさんに何の用かな...返答次第じゃヘイローの無事は保証しないよ」

「ちょっ...ホシノ先輩、いきなりそれは」

「ノノミちゃん、この子私の名前を知ってるんだよ?

私の名前を知ってる人って大抵は危ない人だよ...そういう人達と戦って来て有名だからね」

「でも、それだったら私だって...」

「ノノミちゃんはちょっと例外だけどさ」

 

なんだか微妙にギクシャクしている2人を見て懐かしさを覚える。

今でこそ仲はいいが...出会ったときはこんな感じだった。

 

「それで...どうかな?」

「...わからない」

「わからない?」

「覚えてない...名前以外は...」

 

昔の出来事をなぞるように答える。

ホシノ先輩は怪しむように私を見ていた。

 

「記憶喪失でしょうか...でしたらヴァルキューレに連絡した方がいいでは?」

「うーん...おじさんもこんなケースは初めてだからね...どうしようっか

...そういえばシロコちゃん、さっきなんで泣いてたの?」

 

マフラーを巻かれて泣いたときのことを聞かれる。

 

「...わからないけど...この暖かさが...嬉しくて」

 

本音は隠しながらも出来る限り想いを伝える。

 

「シロコちゃん...か」

 

再度マフラーに触れる。

無くしてしまったマフラー...私が使ってた時に比べると新品に近かった。

それでも、大事なマフラーだった。

想いが、とめどなく押し寄せてくる。

私は再度、泣いていた。

 

「...ねえ、シロコちゃん...うちに来る?」

「ホシノ先輩!?」

「なんだかこの姿見ていると悪い子には思えなくてね

それに...どうしてもほっとく気になれなくてさ...どうかな、シロコちゃんがいいなら私は歓迎するよ」

 

以前経験した時は流れは少し違うが同様にアビドスに勧誘される。

だが、それだけでも嬉しかった。

 

「うん...入る...よろしく...ホシノ先輩」

 

私は...泣きじゃくりながらアビドスに入った。

 

「あっ...そのマフラーそんなに気に入ったらならあげるよ、どうせ安物だし」

「ありがとう、ホシノ先輩」

 

さらにホシノ先輩からマフラーをもらった。

まだ新しめなマフラーだが...もう2度と無くさないと誓う。

 

「じゃあ、シロコちゃん...ようこそ、アビドスへ」

 

とりあえず流れに身を任せるように昔の出来事をなぞる。

この先、どうなるかはわからないが...今はまだ考えないでもいいかもしれない。

 

「それじゃ、そろそろ帰ろうか」

 

日も暮れ始めた頃、帰宅することになった。

この頃の私はまだ家を持っていないため、ホシノ先輩の家にしばらく居候するということになった。

個人的にも...その方がよかった。

 

「いやーごめんね、散らかしっぱなしで」

 

ホシノ先輩はそう言うが問題なく思えた。

だが、大慌てでポスターを...ユメ先輩に関するものを急いで片していた。

 

「ホシノ先輩、そのポスター...」

「気にしないでいいよ、おじさんのちょっとした...ね」

 

ホシノ先輩は無理矢理話を終わらせた。

当然だ...今日あった相手に自分の傷を見せようとはしないだろう。

ここで下手に突っ込んでも怪しまれるだけなだけだ。

素直に話を切り替えよう。

 

「寝具1つしかないからおじさんと一緒に寝てもらうけど構わないよね

お互い体小さいし、多分入るよ

あっ...その前にお風呂とご飯だね、すぐにお湯溜めるから入りな?

おじさんはご飯の用意をするからさ」

 

ホシノ先輩に言われるがままにお風呂と食事を済ませる。

なんでもない...なんならどこかギクシャクした雰囲気だったが私の心は浮ついていた。

どれだけ...この時間が愛おしく思えるのか私にもわからない。

なんでもないホシノ先輩との日常が...私の中に深く深く染み渡る。

 

「それじゃ、そろそろ寝ようか」

 

食事も終え、ホシノ先輩に促されてベッドに入る。

ベッドに入って、少し困っていた。

ホシノ先輩に抱き着きたい欲と、流石にそれはと思う気持ちが私を板挟みにしていた。

少しの間迷っているとホシノ先輩に抱きしめられた。

 

「...ホシノ先輩?」

「大丈夫だよ...シロコちゃん

この先、不安だろうけどもうアビドスの仲間なんだから..,何があってもおじさんが守ってあげるからね

だから...こんなおじさんでよければ甘えていいよ」

 

ホシノ先輩は私の気持ちを思ってか抱きしめてくれた。

それは、少々的外れではあったが、その優しさの込められた温もりだけで十分だった。

 

「...ん...ありがとう、ホシノ先輩」

 

小さなホシノ先輩の体にさらに小さな私の体を預ける。

何があっても...か。

そうだ...もしもそれが許されるのなら。

もしも、過去をやり直せるなら...

今度は...誰も死なせない

ノノミも、アヤネも、セリカも...ホシノ先輩も。

そして、きっと来るであろう先生も。

ホシノ先輩が、先生が私達を大事に思うように私だってその気持ちは負けない。

何故こうなったかはわからない。

それでも...この機を逃すことはあり得ない。

決意を胸に、私は眠りに着いた。

とりあえず明日以降からできることをしていこう。

何が出来るかはわからない。

孤独な戦いではある。

それでも...未来を変えられるなら私はきっと...戦い抜ける。

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