ホシノ先輩を殺した数はもう覚えていない。
「次...」
セリカを助けられなかった数は数えきれない。
「...次...」
アヤネの自殺を止めれなかったことは数えるのをやめた。
「......次」
ノノミの自殺はもう見ていない。
「........」
先生の死は...忘れたい...
「—————————!」
私の心はとっくに壊れていた。
忘れたはずの記憶。
見なかったことにしたい記憶。
忘れたい記憶...すべてが忘れることができず、私を苦しめる。
今回もまた、私は誰一人救えずに何もない空間に戻ってきた。
「...どう...して」
か細い声が漏れる。
何もない空間では、それも響き渡る。
「どうして!」
私の声が響き渡る。
空しく響いて、返事は何もない。
「何回やっても!」
忘れたいはずの感覚。
「どれだけ手段を変えても!」
忘れたいはずの虚しさ。
「私は誰一人救えずに...」
忘れたいはずの痛みは積み重なり私の心に重くのしかかる。
「どれだけ頑張っても...みんな死んじゃう...」
私は...ついに折れた。
もう立ち上がれない。
前に進めない。
扉を開けない。
このループから抜け出したい。
もう...死にたかった。
けれど、手段がわからない。
どうすれば私は死ねるのだろうか。
ふと気づいたことがあった。
もし、この空間で舌を嚙み切ったらどうなるのだろうか?
「...これで、終わりにできるかな」
確かな確証などない。
けれど、縋るしかなかった。
覚悟を固めたはずの心は砕かれ、何も見えない。
私はもう、何もできない
だからもう...
「...ごめんね...みんな」
終わりにしよう。
そう思い、舌を嚙み切ろうとした瞬間、力強い何かに引っ張られて私の動きは止められた。
その勢いに負けて、私は床に倒れた。
「いった...
今度はなに...
終わらせるのも許してくれないの?
もう終わらせてよ!
これが私の報いって言うなら否定はできないけど...けど...もう...
私を殺してすべてを終わらせてよ!」
力の方向に向かって私は叫ぶ。
"そんな悲しいこと言わないでよ、シロコ"
私以外いないはずの空間に私以外の声が響く。
「せん...せい...?」
そこには先生が立っていた。
"シロコ、それだけは絶対にやらないでほしい"
優しくも怒った目をした先生がそこにいた。
"それをすると本当にシロコは死んでしまうんだ...だから...絶対..."
「...もう、無理よ」
けれど私はそんな先生の言葉を拒絶する。
「もう、耐えられない...なんどやっても誰一人救えないなら私はもう...立ち上がれない...
お願いだからだからこのまま死なせて!
もう、終わりにさせてよ!」
"そんなこと、許すはずないでしょ!"
珍しく先生は声を荒げる。
そんな姿に少し呆気に取られて私は呆然とした。
"少し...話をしようか
シロコ、座って?"
「...うん」
先生に促されて私は座る。
椅子など何もないから地べたにだった。
"もう予想出来てると思うけど、この世界...この状況を作ったのは私だよ"
「うん...」
誰がこの状況を生み出したのかはわからなかったが先生の出現で予想はできた。
驚きはなかったけど疑問はあった。
いったいなぜ?
"あっなんでって思ってるね?"
心を読まれて若干恥ずかしくなりながらも私は頷く。
"それを説明する前に一個、怒りたいことがある"
「ん...なに...」
"セトの憤怒と戦ったとき...わざと死ぬこと考えてたでしょ"
「えっ...」
言葉に詰まる。
先生の考えは当たっていた。
あの世界で私は死ぬことはよく考えていた。
私のせいでなくなった元の世界...それの報いを受けるために、せめてあの世界で役に立ってから死のうと考えていた。
世界を滅ぼした私が悠々と生きているのは私自身が耐えらえれなかったのだ。
セトの憤怒...それにうってつけだと思った。
みんなを守って、みんなを救いつつも私は死ねる...そう思っていた。
"あれは...絶対にやっちゃだめだ
じゃなきゃ私たちが頑張った意味がない"
真剣なまなざしで先生はそう言う。
けれど...
「...無理だよ先生
先生の言いたいことはわかるけど...辛いんだよ
あの世界にもみんなはいて元気に過ごしてるけど...私のみんなじゃない
正直...あの世界のシロコが羨ましいよ
...私...何のために生きればいいのかわからないよ」
この空間に来た時に聞こえたあの声。
「前を向け...」と語り変えてきた声があった。
ループするたびにそれは私に語り掛けてきた。
今思えばそれは先生の声だった。
「ねえ先生...私はどうすればよかったのかな...
私は...みんなと生きていたかった
みんなを救いたかった
けど何をどうしたってみんな死んじゃう!
私はどんなバツでも受けるから...やり直せる機会をくれるなら私が死んだっていいからみんなが死なないで済む方法を教えてよ先生!」
私は先生に掴みかかって先生に尋ねるが先生はその手を優しく握って降ろしながら答える。
"シロコ...残酷なことを言うね...
...過去は変えられないんだ
だからみんなが死ぬ過去も
滅ぶ世界も変えられない"
その言葉は...先生の言う通りあまりにも残酷だった。
"私だって...過去を変えたいと思うことはある
例えばホシノの先輩...梔子ユメ
過去を変えられるなら...私も彼女を救いたかった
けれど過去は変えられない...
みんなは...生き返らない"
「じゃあ...なんでこの世界を作ったの...
どうして私にやり直しの機会をくれたの!?」
私の願いを叶えようとすれば永遠に抜け出せないループ。
なぜ先生がそんな世界を作ったのか、私にはわからない。
"それは私のミスだ...
もともとはあそこまで時間を巻き戻す気はなかったんだ
けれどシロコのやり直したい想いが強くて予想以上に時間が戻ってしまったんだ
本来はあの世界で事件が起きる日の朝に戻す予定だったんだ
...ごめんね、シロコ"
私は膝から崩れ落ちた。
やはり残酷だ...もともとやり直す機会なんてなかったんだ...
希望なんて、どこにもないんだ。
「ひどいよ...先生...
私...今まで頑張ったんだよ...
何度も何度も...みんなを死なせないように頑張ったんだよ...
それなのに...全部無駄だったの?」
"...そうだね...言葉を選ばないならそうなる"
ぬか喜びさせていた憂き目もあって、先生も辛そうな顔をしていた。
きっと先生にも止める手段はなかなか見つからなかったのだろう。
それなのに奔走する私を見ていて、先生も辛かったに違いない。
「なら...私はこの先...どうやって生きていけばいいの?」
生きがいがない。
生きたいとも思わない。
"それでも...前を向いて生きていかないといけないんだ"
先生の言葉にもはや怒りを覚えた。
「簡単に言わないで...」
「正直...もう限界...!
いままでの苦労が水の泡!
ループするたびに私はみんなの死を見てきた!
心はもう...折れたの...
それでも先生は...
先生は...前を向けって言うの?」
"そうだよ"
「私は...世界を滅ぼしたんだよ」
"わかっているよ"
「私の先生や...ホシノ先輩...ノノミも後輩たちはいないんだよ
あの世界にはいるけどあれは私のじゃない...
あの世界のシロコので...私は異物なんだよ」
"それでもだよ
それに、シロコは異物じゃないよ"
「...私は...もう未来を見たくない!
それでも...先生は無理やりにでも私に前を向けって言うの!?」
"そうだよ...
私は...そのために戦ったんだ
辛いことは多いけれど...シロコ、君は前を向いて歩かなきゃダメなんだよ
じゃなきゃ...私達の想いが無駄になる"
先生の言葉に少し違和感を覚えた。
私...達...?
「先生...私達ってなに?」
"もちろん...対策委員会のみんなだよ"
足音が聞こえた。
4人の足音だ。
それは...先生の後ろに立ったみんなのものだった。
「なに...これ...」
目の前の光景が信じられなかった。
自分の目の前で死んでいった大切な仲間たちがそこに立っていた。
「みんな...どうして...」
触れようとしてためらう。
なんとなく、触れたら消えてしまいそうな気がして手が出せない。
それに気づいたのかホシノ先輩が近づいてきて手を握る。
「シロコちゃんのために...無理してやってきたんだよ」
「なんで...そんな...
こんな奇跡...あっていいの...?」
「いいんだよ...
私たちは、シロコちゃんのためなら無理やりにでも奇跡を起こすよ」
握られた手の温かさに涙がボロボロと零れる。
続いてノノミ、アヤネ、セリカが私を抱きしめる。
「ごめん...ごめんみんな...
私...私は...」
涙が止まらず、うまく言葉が出ない。
「ホシノ先輩...ごめんなさい...
私がもっと強ければ...
ホシノ先輩を止められたら...」
「謝らないでいいよ
私こそ...みんなに謝っても足りないよ」
ホシノ先輩はそのまま私を撫で続ける。
すっかり私の方が大きくなったが...いまだにこの手は私は好きだった。
様々な感情が押し寄せて涙が流れ続ける。
「シロコちゃん...」
ノノミに呼ばれて振り向く。
「ふふ...涙ですごい顔になってますよ?」
「そういうノノミだって泣いてる...
......ごめん...私...ホシノ先輩にアビドスを任せられたのに」
「私の方こそ...逃げるような形ですみません...
全部...シロコちゃんに押し付けちゃって...」
「じゃあ...お互い様ってことで...」
「そうですね」
どの世界でも私はノノミと喧嘩別れをしていた。
けれど今、仲直りできた。
お互いがお互い...ぐしょぐしょの顔で笑いあう。
「シロコ先輩...」
今度はアヤネに呼ばれる。
「ごめんアヤネ...私...セリカもアヤネも守れなかった...」
「なんでシロコ先輩が謝るんですか...
あの状況でもシロコ先輩は頑張っていましたよ
それなのに私は...
...とにかく...自信を持ってください
シロコ先輩は...ホシノ先輩とノノミ先輩と同様...最高の先輩でした」
アヤネはそういうと涙を拭きながら微笑んだ。
「そうよ、だからシャキッとしなさいよシロコ先輩
私たちが胸を張って最高の先輩って言えるように」
「セリカ...私...守れなくてごめん...」
「私こそごめんなさい...もっと...アビドスのために頑張りたかったのに...
でも、シロコ先輩が悪いわけじゃないんだから...もう一回いうけど、シャキッとして!」
セリカはうっすらと涙を浮かべながらも、元気な笑顔を向けてくれた。
みんながみんな...涙でぐしょぐしょになっていた。
"シロコ...前を向けと私は言っているけど確かにそれは難しいことだ
けれど私は...私たちはやはりシロコには前を向いてほしい
生きててほしいんだ"
「私は...世界を滅ぼしたのに」
「そうだよ」
「そんな権利...私にあるかな」
"あるとも"
「でも...私を恨んでる人はいっぱいいる...
私は..何人も...」
"それでも、私たちは前を向いてほしい
シロコの言う通り、それは確かに正当な怒りでもある
だからと言ってシロコが今死ななければいけない理由はない
誰かの命を奪ってしまったのなら...奪った分まで生きなければいけない
それを投げ出すのは、むしろその人達への冒涜だよ"
「...私は...生きないといけない」
"そうだよ...それに..."
「それに...?」
"前にも言ったはずだよ...責任は私が取るって
誰が何と言おうと、私たちが守るから胸を張って生きてほしい"
先生の優しい言葉に勇気が湧いてくる。
そうか...私はみんなのためにも生きなきゃいけないのか...
じゃあ...頑張らないと...
「...この先も辛いことは多いよね」
"そうだね...私たちは見守っているけど...助けることはできないよ
生きてほしい、生きなきゃいけないとは言ったけど、大丈夫そう?」
"ん...わからない...けれど、生きてみようとは思う"
その言葉を聞いて、先生は満足そうに頷いた。
"今のシロコなら...そこを扉を開いた私が最初に指定したポイント...事件の朝に目覚めるよ"
「...わかった」
立ち上がり、扉の前に向かう。
「ホシノ先輩」
「なに...シロコちゃん?」
「今度はちゃんと止めるから...見ていて?」
「うん、バカな私のことは任せたよ」
「ノノミ」
「はい」
「友達でいてくれてありがとう...いままでも、これからも」
「私の方こそ...ありがとうございます」
「アヤネ...セリカ...」
「何よ...?」
「なんでしょう?」
「...今度はちゃんと、守るからね」
「過保護よ...でも、ありがとうシロコ先輩」
「はい、頼りにしています」
「...先生」
"なに...?"
「失敗続きになると思うけど...最後まで見守ってて?」
"わかった...応援しているからね"
最後の挨拶も終え、私はみんなに背を向ける。
扉を開くといつもと違って眩い光に目がくらみ、足が後ろに下がる。
けれど背にみんなが支えてくれる手を感じた。
大丈夫...みんなが見守っているなら私は前を向ける。
私はそう確信し、扉の中へと入っていった。
「はっ...!?」
目が覚めると私はベッドの上にいた。
体を見れば色彩に触れて変化した後の体になっていた。
「今のは...夢...?」
現実なのか夢なのか、わからない。
それを確認する手段もない。
ただ、生きる意志が以前に比べてあるのは事実だ。
あの時間が私の夢でも...私はもう迷わない。
わたしを応援してくれてる先生。
私を支えてくれる仲間たち。
私が奪ってしまった命。
私はそれに報いなければならない。
私は...生きなければいけない。
そう思い、ベッドから出る。
これから大きな戦いがある。
まずはそれに勝って、みんなを守らないと...
約束したことだし。
「準備完了...」
装備も整え、私は鏡の前に立つ。
我ながらいい顔をしている気がする。
だが、まだその時まで時間がある。
なので私は散歩に行くことにした。
いつでも出れるように装備も持って、靴を履く。
「行ってきます」
街に出て歩く。
変わらないものも変わったものもある。
少しだけ私の知っているものと違う街。
「...過去...か」
もし、過去に戻れたのなら...
誰もが一度は考えるはずだ。
さらにそこから過去を変えることを考える人もいるだろう。
けれど、過去を変えることはできない。
先生はああ言っていたが...実際はどうなんだろうか。
少なくとも...私はできなかったが。
それを踏まえて、過去に戻れたのなら...何をしたいのだろうか。
はたまた何をすべきだろうか...
答えはきっと、一つではない。
私の場合は...
唐突にスマホが鳴った。
「もしもし?」
『もしもしシロコさん...アロ...プラナです
緊急事態です...今から来れますか』
いつの間にか時間が来ていた。
「大丈夫、いつでも行ける」
プラナから要請を受けて私は砂漠へと向かう。
もし、過去に戻れたのなら...
私は...思い出を胸に、未来へ歩くための決意を固めるのも1つの目的にしてもいいと思う。