もし、過去に戻れたのなら   作:ツキ0912

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9話 1人ずつ

「シロコちゃん...ホシノ先輩は...」

 

ホシノ先輩の亡骸を抱きながら私が泣いているとノノミが私の背に声をかけてくる。

 

「...死んだよ...私が...殺した」

「そうですか...」

 

驚くほど淡白にノノミは返してきた。

 

「何も言わないんだ...ホシノ先輩を殺したのに...」

「ホシノ先輩を殺してなかったら私が死んでました

命の恩人にそんなこと言えないです

それに...1番辛いのはシロコちゃんですよね...」

「誰が1番じゃない...みんな辛い...」

「そうですね...

...とりあえず...帰りましょう...まだ...やることが」

 

ノノミの最後の言葉は聞き取れなかった。

代わりに聞こえてきたのはノノミの泣き声だった。

 

「シロコ先輩...ノノミ先輩...」

 

セリカが合流し、私の腕の中のホシノ先輩を見る。

 

「帰りましょう...

ノノミ先輩、風紀委員長のことをお願い

私はアヤネを...シロコ先輩はそのままホシノ先輩を...

それでいいわよね?」

 

そんなセリカの声をかき消すように落雷が再び起きた。

 

「今度は何よ!?」

 

セリカが声を荒げる。

頭上を見上げれば空は一面、黒雲に覆われていた。

 

「しまった...遅かった...!」

「シロコちゃん...知ってるんですか?」

「...セトの憤怒が来る」

「そういえばさっきも言ってましたね

なんですか、セトの憤怒って」

「私にもよくわからない...けど、キヴォトスを滅ぼす存在なのは確か」

 

私の説明にノノミもセリカも驚いていた。

 

「キヴォトスを滅ぼすって...なんでそんなのが...」

「暴走したホシノ先輩に釣られてきた...かな」

「結構こちらは負傷してますが...勝てるでしょうか...」

 

いや...それは無理だ。

キヴォトスはあいつにほとんど滅ぼされる。

 

「...出てきたわよ!」

 

黒雲から現れたセトの憤怒。

こちらには目もくれずにキヴォトスの中心地に向かっていった。

 

「...襲ってこなかったですね」

「そうね...キヴォトスの中心に向かっていったけど...

あそこなら強い人もいっぱいいるし大丈夫よね」

「......いや...そうじゃない」

 

私の声に2人が同時に振り向く。

 

「あいつは...強い...

街にはまだ強い人はいても...ほとんどは滅ぼされる」

「えっ...でも...」

「あいつを倒すには少なくとも先生が必要...けどその先生は...」

「...とにかく、戻るわよ!

シロコ先輩はそうは言っても...私は信じないし、諦めないんだから!」

 

セリカは私の腕を掴んで走り出す。

ノノミも同じような気持ちをした顔だった。

だけど私は...もう諦めていた。

そうして出来るだけ急いで街に戻ったが...かなりの時間を消費してしまった。

街は想像通り、かなりの被害が起きていた。

建物の大半は崩壊して、様々な生徒の声が聞こえる。

といっても...ほとんど悲しみに満ちた声だった。

 

「ひどい...」

 

セリカが絶句した声を上げる。

...私は2度目の光景なので心は動かなかった。

 

「とりあえず連邦生徒会のところに行こう...状況を確認したい...」

「そ、そうですね...」

「わかったわ...」

 

2人も賛同し...私たちは歩き始める。

歩き始めた直後、なにかぶつかった。

視線を落として確かめる。

顔も知らない生徒の遺体だった。

 

「......あれは」

 

キヴォトスの中心に向かって歩くと半壊してはいたが見覚えのある建物を見つけた。

さらにはそこで一際忙しそうにしている生徒がいた。

たしかあれは...失踪した連邦生徒会長に代わって生徒会を動かしている行政官...七神リン...だったはず...

 

「...あなた達は」

 

七神リンは私たちに気づいて近寄ってきた。

 

「アビドスの生徒ですね

無事で何よりです...」

「状況...聞いてもいい?」

「こちらは現在...突如襲来した敵により攻撃を受けていました

多数の生徒に要請をかけて助力していただきましたが...被害が甚大です」

「そう...」

「失礼ですが...あなたたちはどちらに?

アビドスの皆さんにも声をかけたのですが...」

「...野暮用でアビドス砂漠にいた」

「そうですか...それと...空崎ヒナさんをご存じないですか?

襲撃を受けた際、ゲヘナ風紀委員の行政官...天雨アコさんからアビドスに行くと言って出て行ってから連絡が取れないと言われまして」

 

「...空崎ヒナさんは...こちらです」

 

ノノミが七神リンに空崎ヒナの遺体を見せる。

さすがに驚いた顔をしていた。

それと同時に...私が抱いているホシノ先輩の遺体も見て、ある程度察した様子だった。

 

「...事情はわかりませんが...そちらも大変でしたね

えっと...空崎ヒナさんの遺体を引き受けていいでしょうか...アコさんも近くにいるんです」

 

断る理由もないので遺体を引き渡した。

七神リンは遺体を受け取り、その場を後にした。

少し離れた個所でなにか作業の指示をしていた天雨アコの姿が見えた。

何を喋ってるかは聞こえないが七神リンを激しく罵ってるように見えた。

そして空崎ヒナの遺体を抱きしめて泣き叫んでいた。

しばらくすると天雨アコと目が合った。

 

「ノノミ、ホシノ先輩をお願い」

 

唐突なお願いに焦っているノノミにホシノ先輩を押し付ける。

次の瞬間、私は天雨アコは押し倒された。

何か罵倒されているがうまく聞き取れない。

何度も殴られるが抵抗する意思が湧かない。

何人かの生徒に止められているがそれすら振りほどいてひたすら私に攻撃をする。

しばらく殴り続けると天雨アコは動きを止めて、その場で泣き出し、ほかの風紀委員に連れていかれた。

 

「大丈夫ですか?」

「ん...大丈夫...ああなる理由は...よくわかる

そういえば...状況確認の続き、いい?」

「あぁ...そうですね

結局、あの敵は甚大な被害を出しながらも撤退していきました

特にミレニアムの美甘ネルさん、トリニティの剣先ツルギさん、同じくトリニティの聖園ミカさん

この3名には非常に奮闘していただきました...

ただ、3名共受けた傷は大きく、現在意識不明の重体です」

「先生は...?」

「...先生も...あの事故から未だ目を覚ましていません

ですが、今回の襲撃による負傷はありません」

「そう...」

 

取り替えず...状況確認はこれでいいだろう。

 

「...ありがとう...そろそろ行くね」

 

ホシノ先輩をノノミから受け取って私は歩き出す。

 

「あの...あなた達はどうするんですか?」

「...とりあえず負傷したアヤネを病院に入れる

あとはアビドスに戻って...考える」

「そうですか...こちらも被害は甚大ですが...復興作業が進められています

人手が不足していますので...落ち着いたらいいので出来ればご協力して頂ければと思います」

「...落ち着いたらね」

 

私は振り向かずに答える。

 

「それと、シロコさん...」

「...なに?」

「辛いことが重ねってるとは思いますが...気をしっかり持ってくださいね」

 

心配してくれている言葉に、私は答えずに歩く。

アヤネはそのまま、先生と同じ病院に入れることができた。

やはり危険な状態で...余談も許さないと言われた。

アビドスに戻っても...誰もなにも言わずにいた。

 

「...とりあえず...ホシノ先輩を埋葬しましょう」

 

そんな中、セリカが声を上げた。

私は...ホシノ先輩を抱きしめながら首を横に振る。

 

「...何言ってるのよ...それじゃホシノ先輩の遺体腐っていくだけよ」

 

それはわかっているが...手放させなかった。

 

「ああもう...シロコ先輩いい加減にしてよ!

うじうじしてたところでホシノ先輩は生き返らないわよ!」

「...セリカ!」

 

思わず私はホシノ先輩の遺体を置いて、セリカに飛び掛かって押し倒していた。

 

「なによ...そんなの事実でしょ...それなのにいつまでうじうじしてるのよ!」

「いい加減にしないと...!」

「ホシノ先輩の言葉忘れたの!?」

 

その言葉に体が固まる

 

「言われたでしょ...アビドスを任せたって!」

「でも...アビドスどころか...キヴォトスも」

「でも終わったわけじゃないでしょ!

確かに死んじゃった生徒もいて...街の状態はひどいけど...まだ終わってないわよ!

だから連邦生徒会も必死に復興してるんでしょ!」

「......それは...」

「だったら...前を見ないとでしょ!

どれだけ辛くても...私たちは生きてて...託されたんだから!」

 

セリカの声はだんだん小さくなり、泣き声に近くなっていく。

そうだ...セリカも辛いんだ。

それでも必死に...ホシノ先輩に託されたことを受け継ごうとしている。

 

「...ごめん...私が間違ってた」

 

セリカを起き上がらせて、抱きしめる

 

「...わかればいいのよ」

 

それから数日が経った。

荒れたキヴォトス...そしてアビドスを復興する毎日だった。

人手も少なく、焦燥した人も多いのでなかなか進まない。

それでも私たちは気丈に振る舞い、復興に励んでいた。

特にセリカの頑張りはすごかった。

私たちだってさぼってるわけではないが、私たち以上に働いて...さらに柴関ラーメンの大将と炊き出しを行っているらしい。

自慢の後輩だ...

...ホシノ先輩も私たちによくそうやって言ってくれてたがこんな気持ちだったのだろうか。

アヤネはまだ目を覚まさず...予断を許さない状況なのは変わっておらず、絶対安静とのことだった。

 

「...セリカちゃん...頑張ってますね」

「そうだね...先輩として負けられない...」

「ふふ...そうですね...」

 

嬉しそうに話すノノミだが、私の気持ちは穏やかじゃなかった。

ホシノ先輩が亡くなって...セトの憤怒が襲来してもまだ終わりじゃない。

セリカが誘拐される事件が起きる。

先生のように時間がずれることも考えて私は日々目を光らせていた。

ノノミにもそれとなく伝えて一緒に警戒をしてもらっている。

 

「シロコちゃん、私今日用事があるのでそろそろ...」

「ん、わかった...セリカ、そろそろ私たちも帰ろう」

「もう少しだけやるからちょっと待って!」

 

ノノミも先に帰り、すでに作業場で人は私とセリカだけになっていた。

セリカからなるべく目を離さずに...不審な人がいないか目を光らせる。

 

「......がっ!?」

 

だが次の瞬間、私の後頭部に激しい衝撃が走った。

 

「...うっ...セリカ?」

 

目を覚ませば夕暮れだった空はすっかり暗くなり、私1人だった。

 

「.......セリカ...どこ」

 

返事は返ってこない。

だが、どうなったかだけはわかっている。

 

「セリカ!」

 

セリカが攫われた。

わかっていた...この事件は。

だから油断せずにセリカを見ていた。

だが、それはセリカだけに集中しすぎていた。

セリカを救うとき、そばにいる私の存在は邪魔だろう。

ならどうするか...普通に考えればまず私を排除する...同じ立場に立てば誰でも考えることだ。

私は...セリカを意識するあまりに自分への警戒を怠った...

 

「とりあえず、ノノミに連絡を...」

 

気持ちを落ち着けるためにもノノミに連絡する。

 

「もしもし、シロコちゃん?

どうかしました?」

「...セリカが誘拐された?」

「セリカちゃんが...?」

「...うん」

 

私の言葉にノノミが固まる。

 

「セリカちゃんが誘拐されたってどういうことですか!?

しかもシロコちゃんがついていながらどうして...いったい何をやってたんですか!」

「...ごめん...私もセリカのことは見てたんだけど...私への襲撃に気づかなかった」

「それは...すみません...少し気を取り乱しました」

「大丈夫...」

 

普段のノノミなら絶対にここまで激しく言ってはこなかった。

けれど、ホシノ先輩を失ってみんな辛い...

そんな中、セリカだけは違った。

セリカだって辛いはずなのに...頑張って前に進み、いつの間にか精神的支柱になっていた。

そんなセリカを失えば私たちは...

 

「とりあえず...私はブラックマーケットに行ってセリカを探してみる」

「わかりました...気を付けてくださいね」

 

電話を切って前を向く。

電話をしながら歩いていた私の前にはブラックマーケットがあった。

そこでブラックマーケットの守衛を見つけた。

 

「黒見セリカはどこ?」

「なんだお前...そんなやつしr」

 

用済みと判断し、その顔面に向けて発砲する。

少しの静寂の後に悲鳴と怒号が響き渡る。

 

「...セリカは...どこ?」

 

私の問いかけに誰も反応しない

ただ...私を取り囲んで銃を構えている。

私は...静かに動き始める。

 

「じゃまあ!」

 

ひたすら銃を撃ちながらブラックマーケットに攻め入る。

そこに戦略も何もない...ただ本能のままに暴れるだけだった。

いくらか被弾もする...だが、ダメージなど気にもならない...

だけど視界が赤く染まるのは見づらいので勘弁してほしい。

 

「セリカ...セリカ...セリカ!」

 

ひたすらセリカを助けることだけを考えて私は戦う。

だがいつの間にか...立っているのは私だけでセリカはいなかった。

ブラックマーケットの人も全員倒れていて...結局情報すらも何も得られなかった。

スマホを取り出し、ノノミに電話をする。

 

「...もしもしノノミ...うん...ダメだった

攻めていって...全滅させたけど何も情報...得られなかった...

うん、今から帰るよ」

 

電話を切って歩き出す。

ダメージと沈んだ気持ちで足取りが重い。

視界も悪かった。

 

「帰ったよ、ノノミ」

 

それでも私は賢明に歩いて帰ってきた。

 

「おかえりなさい、シロコ......どうしたんですかその顔は!?」

 

ノノミが大慌てをしていた。

鏡を見ると私の眼は片方が潰れていた。

 

「い、急いで病院に行きましょう!」

 

そう言われて私はノノミに慌ただしく病院に連れていかれた。

だけど怪我は酷く、私の目はもう、片方は見えることはないそうだ。

とりあえず、これ以上悪化しないように治療を受けて...包帯を巻く。

違和感がすごかった。

 

「...シロコちゃん...ごめんなさい」

「なにが...?」

 

ノノミから謝罪をされるが意味が分からなかった。

 

「私がシロコちゃんに八つ当たりしなければこんなことには...」

「あれはノノミのせいじゃない...

セリカの事で焦って無茶した私のせい」

「でも...!」

「...大丈夫だから」

 

私はノノミを抱きしめる。

ノノミは私の胸の中で声を押し殺して泣いていた。

そんな中、1人の看護師がこちらに来るのが見えた。

 

「すみません...お2人はアビドス生で間違いないですよね?」

「そうだけど、なに?」

「たった今、奥空アヤネさんが目を覚ましましたよ!」

「...えっ?」

 

私とノノミは顔を見合わせる。

次の瞬間、急いでアヤネの病室に向かう。

後ろで走らないように注意されたが無視をした。

 

「アヤネ!」

「アヤネちゃん!」

「シロコ...せんぱい...ノノミ...せんぱい...」

 

私達の声にアヤネは弱々しくだが...確かに返事をした。

 

「あれから...どうなりましたか...?」

 

私はアヤネが倒れてからの事を説明する。

ホシノ先輩を殺したこと、セトの憤怒の襲来...崩壊したキヴォトス...

 

「そう...ですか...」

 

一通り話終えたが心臓がどきどきする。

言っていないことが1つある。

それを伝えるのが怖かった。

 

「...さっきからセリカちゃんが...見えませんけど...どこですか?

バイト...ですか?」

 

その質問に胸が苦しくなる。

ノノミはなんて言おうか悩んでいるようだった。

私は...一度深呼吸をして口を開く。

 

「セリカは...誘拐された...」

「シロコちゃん!?」

「遅かれ早かれわかることだから...せめて隠さないようにしないとだめだと思った」

「詳しく...説明してください...」

 

私はアヤネに促されて説明を始める。

 

とは言っても、あまり話せることもなく...説明はすぐに終わった。

話終えたアヤネの表情は...何を考えてるか読み取れなかった。

 

「...事情は...わかりました」

「アヤネ...」

「...すみません...少し1人にしてもらえますか?」

 

断ることも出来ずに私達は小さな返事をして、病室を後にする。

私達は休憩室に座って話をする。

 

「アヤネちゃん...大丈夫でしょうか...」

「...立ち上がってもらわないとダメ...辛いだろけど

それに...私はセリカのこと、諦めてないから」

「...頑張りましょうか」

 

私達が会話をしていると...なんだか看護師たちが慌ただしくなっているのが見えた。

 

「なにかあったのでしょうか...?」

「聞いてみようか...」

 

私達は立ち上がり、看護師に声を掛ける。

 

「あの、なにかあったんですか?」

「あなたはさっきのアビドス生...!」

 

何やらかなり慌てているようだった。

 

「えっと...落ち着いて聞いてください」

「は、はい...」

「奥空アヤネさんが自分で生命維持装置を外してしまい...今非常に危険な状態なんです!」

 

生命維持装置を外した...?

アヤネが...?

...そうだ...アヤネは

 

「ど、どうしてアヤネちゃんがそんなことをするんですか!?」

 

ノノミは看護師に掴みかかっている。

私は慌ててそれを止める。

 

「落ち着いて、ノノミ...その人に当たっても意味はない」

「...す、すみません...とりあえず、アヤネちゃんの病室に行きましょう!」

 

病室に駆け込むと救命措置を行われているアヤネがいた。

 

「アヤネちゃん...戻ってきてください...アヤネちゃん!」

 

ノノミはアヤネの傍で声を掛けている。

私は...少し離れた位置でそれを見ている。

ノノミのように私も声を掛けようとは思った。

だが...すぐに無意味だと思った。

どれだけ足掻いても過去は変わらない。

この先、どうなるかは私は知っている。

アヤネに生きる気力もないのだろう。

亡くなった先輩、崩壊したキヴォトス...追い打ちをかけるように最愛の親友の行方不明。

このような手段をとることは無理もない。

ノノミは必死に叫んでいるが...アヤネの命はどんどんと弱くなっていく。

そして....しばらくして病院の先生からアヤネの死が伝えられた。

ノノミはその場でアヤネを抱きしめながら泣き叫んでいた。

私は...何も言わなかった。

涙も流さないまま、その場で立ち尽くしていた。

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