機動戦士ガンダムSEED - The Children of Mendel -   作:坂井雄二

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新たな機体とまた戦闘

格納庫の通路を、オルフェはゴールドフレームの牽引用装置と共に進んでいた。

 

グレーの装甲は静かに鈍く光を反射しているが、その奥に潜む“異質な存在感”は、まるで眠れる獣のようだった。

 

「……本当に、偶然……よね?」

 

途中から合流したイングリットがぽつりと呟く。彼女の眉間にはしわが寄っていた。

 

「偶然……か。だとしても、これはただの機体じゃない」

 

オルフェの目が細くなる。長い髪がわずかに揺れた。

 

「最初に触れたとき、反応したんだ。……ストライクと互換性があるってだけじゃない。まるで、最初からここに“呼ばれていた”ような……そんな感じがした」

 

「……変なこと言うわね」

 

「でも、感じただろ。イングリット、お前も」

 

イングリットは答えず、目を伏せた。

だがその手は、無意識にゴールドフレームの装甲の縁に触れていた。

 

ようやく格納庫の奥へ戻ってくると、キラとトール、サイ、ミリアリアが何やらマリューと交代しながら、ストライクの外装を調べていた。

 

マリューはすでに立ち上がっており、少し疲れた顔でオルフェに気づくと、素早く駆け寄ってきた。

 

「オルフェくん……それ、どこで?」

 

「ストライクの格納ブロックの隣です。封印されてたような格納庫に、ひっそりと」

 

「どう見ても、連合軍の開発ラインのものじゃない……」

 

マリューが指で機体の装甲をなぞる。すると、機体のセンサーユニットがわずかに点滅し、低く“脈動”するような電子音が鳴った。

 

「反応した……」

 

「起動シーケンスに近いです。OS系統、ストライクのと同系……いえ、むしろこちらの方が構造が洗練されてる」

 

オルフェが呟くと、キラが驚いたように振り向いた。

 

「兄さん、それ……動かせるの?」

 

「……できるさ。キラより少しばかり、こういうの得意だしな」

 

「得意すぎるのよ、あなた……」

 

イングリットが軽く呆れたように笑う。

 

「でも……キラ。もしこれが戦える状態なら、俺が行く。ストライクだけじゃキラの負担が大きすぎる」

 

キラが小さくうなずく。

 

「でも、戦うのは……最終手段で」

 

「それでいい。……まずは、この機体を確かめてみたい」

 

そう言いながら、オルフェはコックピットへと乗り込む。

 

だがそこに“異常”はなかった。

隠された兵器、封印された技術、特殊な反応――そういったものは一切ない。

この機体は、ただの高性能モビルスーツ。偶然、そこにあったものだ。

 

コックピット内、オルフェは慎重にOSを初期化していく。

 

「うん……動作系統はストライクとほぼ同じ。いや、微細な処理能力はこっちの方が滑らかだな……」

 

キーボードを操作する指が、次々とコードを走らせる。

 

「パワーフレームの分散構造もよくできてる。これは……外装の重さを相殺する仕組みか。洗練されてるな……」

 

横のサブモニターでは、動力系・サーボアーム・感応センサーがひとつひとつ青く点灯していく。

 

「兄さん……調子はどう?」

 

外からイングリットの声。オルフェは小さく頷いた。

 

「順調だ。フェイズシフト装甲の展開も完了してる。けど――これは“特別な力”とか、そういうもんじゃない。ただの……高性能な機体だ」

 

「……よかった」

 

イングリットの返事には、どこか安堵が混じっていた。

 

「この状況で、“何かに選ばれた”とか、そういうのは……もう、十分だと思ってたから」

 

「……ああ。俺もそう思うよ」

 

オルフェはそっとモニターに触れた。

映っているのは、この機体が“ただ作られ、ここに置かれていた”というログ。封印も、偽装もない。ただの技術の産物。

 

「奇跡なんかじゃない。これは、偶然で拾えた現実だ」

 

そう、ただ――

 

――偶然にも、今、必要とされたものが、そこにあった。それだけの話だ。

 

上ではメビウスゼロと白のジンが激しい戦いを繰り広げている。

 

「イングリット、通信リンク、接続できるか?」

 

「こっちは準備OK。リンク回線開いたわ」

 

「よし。じゃあ、動かす。」

 

パワーラインが接続され、ゴールドフレームが再起動する。

何かを秘めた存在などではない。ただ、今、この場を支えるための力。

それで十分だった

 

「キラ、こっち! これがパワーパックだと思う!」

 

トールが叫びながら、トレーラーを引き連れて駆け寄ってくる。サイとカズイが後ろでバランスを取りながら支えていた。

 

「どれですか? パワーパックって……」

 

キラが急ぎ足で駆け寄る。汗ばんだ額を袖で拭い、マリューの元へ視線を向ける。

 

「武器とパワーパックは一体になってるの、そのまま装備して!」

 

「……了解です!」

 

キラは一瞬だけ逡巡し、それからストライクへと走った。

 

ストライク――その巨体は、すでに格納庫の外に出され、応急処置のような調整を施されながら、今も静かに待っていた。傷ついたマリューの声に導かれるように、キラは背面の装備ユニットに取りつく。

 

「トール、そこ、支えてください!」

 

「お、おう!」

 

「カズイ、ロック解除レバーをお願いします!」

 

「えっ!? どこ!? ……これか!? いや、違う!? これかっ!?」

 

「大丈夫です、落ち着いて……そう、それです。ありがとうございます!」

 

カシャン、という金属音と共に、ストライクの背中に新しいパワーパックが装着された。

 

ミリアリアが端末を見ながら叫ぶ。

 

「補助エネルギーライン、接続完了! キラ、あと一分で最大出力、安定するって!」

 

「助かります!」

 

キラは急いでコックピットに戻り、再起動コードを打ち込んだ。OSはすでに自分が調整した状態のまま。手慣れた動きで操縦桿を握り締める。

 

「エネルギー供給、安定。出力、99%……パワーパックの制御、いけます」

 

マリューが少し離れた位置から叫ぶ。

 

「準備は!? 換装完了したなら、すぐ発進態勢に!」

 

「はい、マリューさん!」

 

少し声が裏返ったのは、緊張か、あるいは――

 

(もう、“普通の学生”なんて言ってられない……)

 

スクリーンに、遠方で交戦中の白い機体――ジンと、メビウスゼロの機影が映り込んでいた。

 

キラは静かに息を吸い、そして吐く。

 

「キラ・ヤマト、ストライク……いきます」

 

 

爆音と共に、ゴールドフレームが盾を展開しながら飛び出した。白いジンがその銃口をマリューに向けた瞬間、エールストライカーによる推力で一気に前へ躍り出たオルフェは、無言でその前に立ちはだかる。

 

「撃たせるものかっ……!」

 

一方、キラのストライクも前へと出る。背に装備されたランチャーストライカーパックが展開され、巨大なアグニ砲が敵を捉えて光を収束させ始める。

 

「キラくん、待って!それは――っ!」

 

マリューの声が、焦りと共に響いた。彼女は見たこともないその兵装に咄嗟に反応し、思わず止めようと叫ぶ。あまりにも大型で、周囲への被害が計り知れない。それに、ここはまだヘリオポリスの内部だ。下手をすれば民間区域まで吹き飛びかねない。

 

キラびっくりしたに、彼女の方を見た。

 

「……えっ!?」

 

ストライクの視線がジンへと定まり、次の瞬間、アグニが光を放った。

 

「発射……!」

 

アグニから迸った高エネルギーの閃光が、空気を震わせる轟音と共に放たれる。その凄まじい威力は一直線に白いジンを撃ち抜かんと迫った。

 

クルーゼ機は反応し、機体を急旋回させる。

しかし完全には避けきれず、直撃を受けた左腕が爆発。白煙と火花を上げて四散し、機体は大きくバランスを崩す。

 

そして——

 

アグニの余波は、なおも止まらず飛翔し、後方の構造壁を直撃する。

 

「っ……!」

 

ヘリオポリスの外壁に、信じられないような音を立てて大穴が開いた。断熱材ごと空間がえぐられ、宇宙空間への風圧と吸引が起きかける。

 

「外、貫通したのか……!? あれだけで……っ」

 

オルフェが目を見開く。

 

白いジンはその穴を利用して撤退して、爆煙の中へと姿を消した。

 

すぐに視線の先で新たな影が動いた。黒煙の奥から、白く輝く船体の一部が、ゆっくりと姿を現していく。

 

「え……? あれは……」

 

「戦艦……!? こんな所に!?」

 

兄妹たちの驚愕の声が重なる中、マリューはそれを見上げ、すぐに状況を判断する。

 

「――あれはアークエンジェル。まだ就航前だったはずだけど……! 今はもう関係ないわ」

 

そう言って、彼女は振り返り、キラとオルフェに向けて声を張った。

 

「お願い、あの艦に運んで。あそこなら医療設備も最低限整ってるはず。こっちにいる全員を……!」

 

「……わかりました。マリューさん、みんなも乗せてください」

 

キラは穏やかな声で応じると、ストライクの手を開き、マリューとその仲間たちをそっと抱えるように乗せる。その所作は、巨大な兵器とは思えぬほど慎重で、優しさすら感じさせた。

 

「兄さん、僕はこちら側から向かいます。合流しましょう」

 

「ああ。無理はするなよ、キラ」

 

オルフェのゴールドフレームもエールストライカーを展開させ、片腕で盾を構えながら友達を保護するように掬い上げた。

 

「本当に……あの艦は、何なんだ……? オーブのものではない……」

 

オルフェの呟きに、キラも小さく頷く。

 

「……僕も、知りません。でも、今は信じましょう。あそこが安全な場所であることを」

 

二機のガンダムが、静かに滑るようにしてハッチの開いたアークエンジェルへと向かっていく。艦内の明かりが彼らを包み込み、戦場の硝煙からわずかに離れた、束の間の安堵がそこにはあった。

 

――だが、それも束の間に過ぎないことを、誰もがどこかで理解していた。

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