機動戦士ガンダムSEED - The Children of Mendel - 作:坂井雄二
ヘリオポリス崩壊、それから
崩壊したヘリオポリスの残骸に、ストライクとゴールドフレームはなおも残響のような震動の中を漂っていた。
キラとオルフェの視界には、もはや都市としての面影を留めない瓦礫の塊が広がるだけだった。
「……っ……こんな……」
キラは息を呑みながら、通信機のノイズ越しに震える声を絞り出した。
コックピット内、肩にかかる汗は冷たく、吐息は喉の奥で濁っている。
隣のゴールドフレームのコクピットでは、オルフェもまた無言でスクリーンを見つめていた。その表情は、弟と同じように、何かを呑み込むような静かな苦悶に染まっている。
やがてストライクのコックピットに、アークエンジェルからの無線でナタルの声が飛び込んだ。
『ザザ……X105ストライク、応答せよ。X105ストライク、聞こえているか? 応答せよ』
無機質な通信音に続いて、切迫した女性の声が重なる。
『X105ストライク、X105ストライク、聞こえていたら無事なのか応答せよ』
沈黙が数秒続いたのち、やがて返された声にはわずかな震えがあった。
『こちらX105ストライク、キラです』
『はぁ…無事か?』
『はい』
『こちらの位置はわかるか?』
『はい』
『ならば帰艦しろ。戻れるな?』
『はい』
返答しながら、視線は計器の一角にある微弱な反応に移った。
「……父さん、母さん……無事だよね……?」
そこへ、甲高い警告音が響く。
『ピーピッ、ピーピッ』
「……!?」
思わず身を乗り出し、警告表示に目を凝らす。
「これ……ヘリオポリスの……救命ポッド!?」
モニターに映し出された微細なシグナルは、確かに生体反応を示していた。それも複数。
「……くっ!」
操縦桿を握り直し、スラスターを慎重に調整。
視界の先に、小さな銀白色のカプセルが瓦礫に引っかかるようにして漂っていた。
「……無事でいてくれ……!」
細かな姿勢制御を行い、ストライクの左腕を静かに伸ばす
気を抜けば、わずかな力でポッドが損傷しかねない。
その時、通信機に短い電子音。
『こちらゴールドフレーム。救助行動を援護する』
画面の片隅に映る金と白の機体が、ストライクの側面へと回り込み、瓦礫を押さえ込むように動く。その動きに合わせ、ストライクのマニピュレーターがゆっくりとポッドを挟み込むように掴んだ。
「……掴んだ。固定完了。振動、最小に保って……!」
胸の奥で脈打つ不安と希望を抑え込みながら、慎重に両腕でポッドを抱える。
「大丈夫……もう大丈夫だから……!」
その姿は、まるで幼子を庇うように。崩れかけたコロニーの静寂の中、命を抱く姿だけが際立っていた。
「ストライク帰艦しました、ですが救命ポッドを一隻保持しています」
艦内に一瞬の静寂が走った。
キラの声が続く。
「……中には、ヘリオポリスの住民と思われる方々がいます。放ってはおけませんでした」
通信越しに届いたその言葉に、ブリッジの面々が顔を見合わせる。
「民間人か……」
ムウが低く呟き、ナタルが鋭く問い返す。
「こちらは戦闘中です! 本艦の人員と物資には限りがある。民間人の受け入れは不可能です、理解できているのか?」
ストライクの中でキラは拳を握り締めながら、短く息をつく。
「それでも、見捨てられませんでした。あの人たちは……僕の家族や、友達がいた場所の人たちです。だから……お願いします」
通信越しでも感じ取れる必死さに、ナタルの眉がひくつく。
「――艦長、許可を」
マリューはしばし逡巡したのち、深くうなずいた。
「……いいわ。収容して」
「艦長……!」
「今はこんなことで時間を取られたくないの。納艦の準備を」
ナタルは目を伏せたまま敬礼する。
「了解しました、艦長。ストライクとゴールドフレーム、並びに救命ポッド収容管制を開始します」
「ありがとうございます……」
キラの安堵した声が通信から漏れ、マリューとムウもようやく緊張を緩めた。
数分後、ストライクとゴールドフレーム、救命ポッドの収容が完了し、再びブリッジが静まりかえる。
ナタルがコンソールに向き直り、言葉を継いだ。
「現在、本艦の位置から最も近い友軍拠点はアルテミスです」
マリューが顔を上げる。
「アルテミス……ユーラシアの軍事要塞でしょ?」
「はい。友軍の認識コードは通じませんが、状況を説明すれば支援は得られると判断します。補給も必要ですし、現時点での最適な進路かと」
ムウが腕を組んでうなる。
「アルテミスかぁ……こっちの思惑通りにいくといいが」
マリューはコンソールに手を添え、静かにうなずいた。
「でも、今はそれしかないでしょうね。アルテミスへの進路を取って」
ナタルが即座に操作に入る。
「進路変更、アルテミスへ――艦、航行開始します」
艦橋の視界に、宇宙の彼方へ向かう新たな目的地が広がっていった。