歳月の半神にそっくりな少女をオンパロスに投入してみた実験作 作:SUMI
さて、カスライナと念願の合流を果たしたエリシアですが……
「聞いてよお姉ちゃん。カスライナったらね!!」
「まあ、いつになっても根っこは変わらないわね。あたしも最初の頃はね……」
何をしているかと言われれば以前訪れた宇宙みたいな場所でお姉ちゃんと近況報告と一緒にファイノンの愚痴を乗せてお喋りしていた。
あの後はお互いの輪廻の擦り合わせたりして、お互いの戻る地点が違う事に驚いたり、想像以上に待たせていた事に申し訳ない気持ちになったり。その後はこの世界を知るためにカスライナと一緒にオンパロス各地を何周も重ねて見て回ったりして過ごしたり。
ファイノンの目の前で元老院の粛清者の凶刃に掛かって死んだり。
暗黒の潮の襲撃に合わせて神悟の樹庭に火種の強奪に向かって居合わせたファイノンやトリノン、キャストリスと戦ったり
ファイノンたちを足留めして最終的にはどこからか紛れ込んできた暗黒の潮の造物に刺されて死んだり。
その中でアナクサゴラスって人がやった火種を自分に埋め込んだのを参考にして私もオロニクスの火種を創世の渦心に通さずに埋め込んでパワーアップに成功したり。
ファイノンの(略)「紛争」の半神となったモーディスの一撃をフレイムスティーラーに与える為に私ごとなアレを行って(実際はカスライナを庇って)死んだり
最終的には取り出せずに介錯される事になったりと色々と濃い出来事もあったのだ。
ファ(略)
時には黄金裔に捕まって火追いの旅に参加させられる事になったり、と色々ありはしたけどそれでも結末は変わらない。
(略)フレイムスティーラーの格好をして影武者みたいな感じで動いた結果、彼の手に掛かって死んだり。
それを数百周くらい繰り返して気付いたのだ。それはお姉ちゃんの魂が込められた儀礼剣で介錯される事によってここへ来れる事に、初めはどうやってかはわからないけど来れたので色々と現状を語ってあげてはオンパロスに戻ってを繰り返す事は恒例行事になっていたりもする。
お姉ちゃんが聞き上手なのもあるけれど、ここには何もない。ここにずっと居るしかないお姉ちゃんには語るべきことが何一つない為に必然的に私が語る事になっている。それで退屈を慰めることができるなら幾らでも語る事に異論なんてなかった。
「それにしても、エリシア。わざとじゃないのは分かってるけど、カスライナにいじわるするのは程々にしてあげてね」
「うう……でもあんな寂しそうな目で見られちゃうと放って置けないの」
ちょっぴりジト目の嗜めるような視線にちょっとだけ引け目を感じてしまう。私だって分かってる。
「あなたにとって何度も繰り返した事でも、これまでのファイノンたちには一回だけの出会いなんだからもうちょっと自分を大切にしてもいいのよ。そうじゃないと彼らが悲しんじゃうわ」
種火を受け継いでフレイムスティーラーになったカスライナはその内にある火種の炎に心身全てを燃やし尽くされてしまう為にあまり動くことが出来ない、動けば動くほど体が崩壊していくのだから。だから必要な時以外は消耗を控える為に待機している。必然的に私が彼の目となり耳となって活動しているの。そうやって動いてると運命と言うべきな程に必ず新しいファイノンに出会って、どうしても見捨てられなくて性懲りもなく仲良くなってしまう。
その旅路の中でファイノンが死にかねない事も沢山あり、それでも再創世を阻止しなくちゃならないから敵に回らざるを得ないこともざらにある。
そして引き継ぐ役目があって、死んだら困る事になるファイノンと死んでも次に持ち越せる私だと、どうしても命の価値が前者に傾いてしまうのは自明の理だろう。そうやって彼らの身代わりになって死ぬ事が当然のようになっていた。
私はともかくファイノンにとっては違う、それは癒すには困難な傷になる事は当然でもある。お姉ちゃんが嗜めているのは容易に死ぬことを控えてほしいってことなんだろう。今更ながらとてつもなく耳が痛いお言葉である。ちょっと強引にでも話題を変えようとした時だった。
「むう……今回も此処までかしら。あの変な人たちが気づいちゃったから戻らなきゃ」
「もう終わっちゃうのね。やっぱり少し寂しいわね……」
何かの視線が向いた事に気がついて今回のお話はこれでお仕舞い。本当はまだまだお姉ちゃんと沢山話したいけど、カスライナも待ってるし、それに私が長居するとガーデンオブなんちゃらとか名乗る
お姉ちゃんと別れを告げてオンパロスへと戻る。それが私をさらに引き摺り込む罠だと知らずに。
管理者より要請―――承認。ID:StoRgeをID:PhiLia093の失われた母体データの代替として演算…………errorが発生、当該データ及び母体データのフォーマット変換不可。代替処理として「歳月」ルートの新たな母体データとして対象IDの記録を開始…………error 演算の逆行から一定期間対象のログに空白を確認。対象の母体データの不備により、「歳月」因子の適応に脆弱性を確認…………管理者より要請―――承認。ID:StorGeの補完ID:StorgE028を新規に登録、評価値の低いリソースの割り当ての変更を適用。当該IDの意思決定及び関係性のアルゴリズムは5000のループのログを参照…………シミュレーションに成功、座標をエリュシオン、及びID:NaeKos462と同時期に演算開始を設定。期間は補完対象が出現までと限定とする。ログを空白の補完としてID:StorGeの出現にあわせて記憶領域に代入を実効。当該IDの座標をエリュシオンへと変更、適応。これにより「歳月」ルートの論理的脆弱性の解消に至るかの検証を開始します。
演算を再開します……
夢を見た。それは私が子供になったような夢だった。エリュシオンと言う世間から切り離された秘境とも言える片田舎の双子の姉妹の妹に産まれて珍しく同時期に生まれた幼馴染と3人で過ごした、取るに足らない穏やかな小さな幸せに満ちた日々。終わりを告げたのは突然だった。暗黒の潮に呑まれ破壊の造物に成り果てた村の家族、黒衣の剣士に姉を惨殺され、命からがら逃げ落ちた先で虚しく力尽きる少女の夢を。
「…………何処かしら?」
優しい木漏れ日の光に包まれながら意識が浮上する。何だか優しい光に目覚めた時の光景に絶句させるを得なかった。
いつもならばケファレの神体が垣間見えるオクヘイマの外れで目覚める筈なのにここは何処かすらも分からぬ深き森だったのだから。
こんなことは初めてだった。5000とちょっと周回を重ねても変わらなかった始まりに変化が起きた事に少なからず動揺していたのだろう。
気を落ちかせて周囲を見渡せば私自身がちっぽけな虫と勘違いしそうなほどの巨大な樹々が生い茂る、なのに鬱蒼としておらず、それどころか何処からか光が差し込む温かさに満ちた森だった。
「あれ? あたし此処を知っている?」
何処か既視感を覚えて思い出せば……そうだ、夢に出てきた森だ。だけど夢とは違って賑やかやさはなく、恐ろしいほどに静かな森へと変わっていた。そんな妙な感覚に囚われながらも周囲を散策した直後にそれは見つかった。
「あたしが死体になる事は慣れた事だし、そこにあるだけでもなんとも思わないけど」
とある少女の遺体だった。身体中に打撲の痕があり、死因は転落死なのだろう。周囲には黄金の色をした血痕がある。ただそれだけならよくあることだけど
「自分とそっくりな死体を見るのは……なんとも言えないわね」
問題はその死体が私自身にそっくりな事だ。本当は死んでいて今の自分は幽霊であったと冗談が冗談にならないくらいに私自身が死んだと勘違いしそうな程に似ていた。
「偶然にもお姉ちゃんがここまで逃れてきたのは……それはないわね。カスライナが逃すわけなんてない。それにしてもこの娘は一体誰なのかしら?」
何はともあれその少女の遺体だけが現状を知る手掛かりな為に気が乗りはしないが死体を漁ろうとして触れた途端、何かが私に流れ込んでくる。
とある少女の記憶だった。エリュシオンというオンパロスの片隅にひっそりと存在した長閑な田舎。そこで生まれた双子の妹の記憶。ぐうたらで英雄を夢見る少年と遠い空に夢を見てるちょっとミステリアスなお姉ちゃんが家の手伝いをさぼっているのを生真面目な少女が少し怒って追いかけてる、そんな何処にでもあるようなありふれた日常で育った少女であった。
そして暗黒の潮に襲われた時、森へと逃げてきたのだろうそこならば暗黒の潮から逃れられる場所だと、そこに姉と幼馴染がいる場所に危機を伝えようと。憐れにもすれ違い、足を踏み外して自身の終わりになる事も知らずに。
「そうなのね……この娘はもう1人のあたしなのね」
それはきっと、オンパロスの住民として産まれ落ちたもう1人の私なんだろう。私自身が外から来たが為にオンパロスにおける過去は存在してはいなかった。だが永劫回帰の中に刻まれた私の足跡がもう1人の私を創り出すには十分すぎるのだろう。
丁寧に埋葬を施していく。意図せずにこの世界に生まれて何も知らずに死んでいくもう1人の私に憐憫をおぼえたのかもしれない。巻き戻されるとは言え束の間の死の眠りは穏やかであってほしいと願わずにはいられなかったのかしら。
もう1人の私の過去の夢は異物でしかなかった私自身がこのオンパロスにおいて異物ではなくなった証なんだろう、でも嬉しいとは何一つ思えなかった。ただ取るに足らないとしても悲劇で終わるのは悲しいのだから。
「はい、悲しむのは終わり! あたしは立ち止まっているわけにはいかないんだから!」
さっと気持ちを切り替えて、あの娘の記憶を頼りにこの迷路迷境と呼ばれた場所から踏み出せば……
「うそ……ここがエリュシオンだったって言うの……」
見渡す限りの全てが何もなかった。あるのは暗黒の潮に侵されて跡形もなく消え失せたエリュシオンだった場所だった。あの黄金色に包まれた麦畑は香りすらも消え失せて跡形もない。
「そうだよね、暗黒の潮に呑まれればそうなるって他でも散々見てきたじゃない」
残るのは燃えた後の灰の匂いだけ……そこにあったことすらも暗黒の潮に呑まれて消え失せてしまった。後ろを振り返ればある筈だった樹木すらも消え失せていた。ここに動くものは私しかいない。
たった数人だけの学校も、3人でお昼寝していたオロニクスを祀るための建物も、生家も、思い出が沢山詰まっていた故郷は影すらもなかった。
「これがあなたたちの始まりなのね……」
破壊の規模や凄惨さで言えば他の都市の方が遥かに上だろう。なのにエリュシオンが消え失せた事に深い哀しみを感じている。これはもう1人の私の記憶に感化されたのかはわからないけど心を動かされていた。
穏やかな日々が厄災に灼かれて消えた光景こそが英雄として道を歩む事を決意させるには十分すぎる。
でも私は知っている。お姉ちゃんを殺したのは未来のカスライナである事を、この惨劇を見逃さなければならないことを、これが全て徒労に過ぎない旅路である事を、全てを承知で積み重ねなければならない事を。それでもこの光景はそう願わずにはいられない。
何か残ってないか辺りを歩いてた中、唯一残っていたものがあった。
「これ……村のみんなの……」
そこで見つけたのは村の人たちの為に建てられた簡素な墓だった。数もカスライナを除いた全員分、あの娘も含まれていて、それはきっと遺体すら残ってない事を悟ってしまったんだろう。既に彼は旅立った後なんだ。
彼らの墓を綺麗にし、殆ど残ってはないけど辛うじて使えるものを集めて旅の準備を整えた。これでここを出ていけば2度とは戻ってはこないだろう。
村の入り口だった場所で今回の輪廻において最後の別れを告げる。
「行ってきます」
応えてくる人がいないはずなのにいってらっしゃいといない筈の声が聞こえてきた気がした。
エリシア:しれっと5000弱のループをこなした娘。新たに出現に自分の影に驚きはしたが動じてないし、逆にちょっと羨ましいとも感じてる。なお、とある黄金裔にとっては何も関係ないそっくりさんから唯一生き残ってた同郷の幼馴染では対応が違う事に翻弄されることは気がついてない。
カスライナ:事が起これば予定通りに動くけどエリシアちゃんが手伝いに入って、必要以上に動かなくて済むようになって負担は少し楽になった。時々、ドラマみたいな死に方をするのは意図してやってないのはわかるし、結果的には原動力になるし、毎回毎回律儀に付き合ってくれてるので救われていることのが多いから何も言えない。今回から幼馴染になったことにまだ気が付いてない
どっかの機械:え?最終協定?因子持ちの黄金裔には干渉不可?抵触してませんよ?ちょっと変化があったから「歳月」の因子を持てる可能性をあるだけの新しいのが表れて、これまでのカスライナがやってきた記憶の継承をやってしまっただけだから問題ないですね。