歳月の半神にそっくりな少女をオンパロスに投入してみた実験作   作:SUMI

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第12話

さて、新たな出発点となったエリュシオンから旅立ってから時間が過ぎ……

 

(うーん、まさかこんな事になっちゃうとは……)

 

「クククク、こいつはとびきり上玉だ。高く売れるぜぇ!」

 

悪漢に商品にされそうなところです。ヤヌサポリスへと毎週恒例のとある物を受け取りに行く道中で襲われて、足場が悪いのと十数人相手にトラップまで盛りだくさんの状態だとちょっと分が悪かったので抵抗空しく捕まってしまいました。キツめに縛りつけられてるから柔肌に傷がついちゃわないか心配になっちゃう。

 

(私がいた時代って平和って言うよりもこんなことも出来ないほどに追い詰められていたのね)

 

特に今の時代はそれぞれの都市国家が覇を唱え争いが勃発している世相もあいまって…… 人攫いである。何処かの都市国家ではこうした嫁を攫う伝統もあったとは聞いてたけどこうなるとはちょっと想定外、ではないわね。

 

それに私が言うのもなんだけどちょっと所ではなくかなり見目麗しい、通行人が私を見て振り返ることも慣れたし、これでもオンパロスでの絶世の美少女として讃えられたこともある。そんな美少女が人気の無い所で一人旅をしているなんて、襲わない理由の方がないのだから。

 

そうやった盗賊とかは稀にいたけれど数名程度の小規模しか存在しなかったから撃退は容易であったこともあって、油断もあったんだろう。複数人からの下品な劣情を抱いた視線に嫌悪感を覚えながらも考える。

 

(ちょっと本気を出せば簡単だけど、その後がちょっと怖いのよね)

 

オロニクスの神跡は使ってはない、無闇に乱用すると確実に預言によって黄金裔に捕捉されてしまうから迂闊には使用できなくなったのだ。ただでさえループ始点が変わって手探り状態なのに火追いの旅に加わるのは……あれ? ありかも。最後にはカスライナが戻すから今の内に入り込んで情報や経験を集めるのも一つの選択肢かしら?

 

でも何というか今抜け出してはいけないような、もうちょっとだけ捕まったままの方がいい何て予感が感じてるから悩ましい。

 

そろそろ逃げ出そうかしらと思い始めた時、喧騒が聞こえてきた。怒号と叫び声と剣戟の音、これはおそらく他の集団が盗賊を襲撃しているのだろう。この機に乗じて逃げ出そうと考えたけどふと、そうしなくてもいいと直感が過ぎる。人攫いと争っている人たちは敵では無いと。

 

後に知ったことだけど、どうやらこの人攫い達は都市の住民まで手を出すほどに派手にやりすぎたみたいで軍を動かしてしまったとか。

 

次第に音が収まっていく、おそらく人攫いが負けたんだろう。現に此処で終わりならばとそんなヤケに走った男たちが何人かは此処にやってきた訳だし。乙女の柔肌はやすくはないので御退場していただいたけれどね、どうやったかって? それは秘密って事にしてちょうだい。

 

そうこうしている内に先程とは全く違う足音と気配が近づいてくる。1回目の私ならきっと恐怖していたんだろう、こんな誘拐されて視界も身動きも出来ない状態で近づかれるのは誰だって怖い。

でもその恐怖はなく、それどころか安堵を感じているまである、だってその気配は……

 

「助けに来た、もう大丈夫だ。安心し………え?」

 

ファイノンが来てくれたんだから

 

優しくも手早く私に被せられていた拘束や頭に被せられていた麻袋が取られ、素顔と視界が開れる。そこにいたのは見慣れたファイノンの柔かな笑顔。もっともここに囚われていた私を見た途端に崩れて唖然とした表情をしているけれど、それは仕方ない。

 

「エリシア…なのか…!?」

 

死んだはずの幼馴染がそこに居たのだから。それにしても驚き方がいつもとは違うような?

 

「やっぱり、来てくれたのね、カス……きゃっ!?」

 

何も言わずに急に抱きしめられた。ほんの少しビックリしたけど彼の身体から伝わる震えが今の心境を伝えてきた、その返答として只々優しく抱きしめ返してあげる。

 

「よかった……生きて……いた!…よかった!……僕は、救ける事が出来たんだ……!」

 

「ええ、助けに来てくれたんだもの。あたしは確かにここにいるわ」

 

ファイノンは涙で顔をぐしゃぐしゃに崩れてるし、いろんな感情がごちゃ混ぜになりつつも再会の歓喜に震えていたんだから。

 

そうだこの周回ではお姉ちゃんの他にもう1人の私がいた。彼女だけがあの災害が過ぎ去った後に唯一、遺体を確認出来ていなかったからこそ心の片隅に燻っていたんだろう。自分で見えない所で死んでいたと確信があったとしても、運良く暗黒の潮の魔の手から逃れてどこかで生きているかもしれないとそう願わずにはいられなかったんだろう。

 

だから今私がいる事を信じ切れずにいて、抱きしめて確かに此処に存在するんだと確かめずにはいられなかったんだ。

 

「あたしもよ、またあなたと再会できるとは思わなかったわ。カスライナ」

 

あの娘とは同じと言えど別であるけれど。でもそれは数多の記憶を引き継いだカスライナはどうなのかしら。厳密に言えばそれぞれが別人なんでしょう、でも数千万人ものファイノン全員が同じ選択を選んだが故に同じ。記憶を受け継いだ彼らはファイノンであり、またカスライナでもあるのだから。

 

私はあの娘をもう1人の私だと感じてその記憶を受け継いだ。そうだとしたら、まさしく私もまた彼女でもある。だから泣くほどに喜んでいるファイノンに寄り添いたいのもきっと私の心なのでしょうね?

 

「大丈夫よ、そんなに抱きしめなくてもあたしは生きてるわ。今此処にあなたの腕の中に、確かに存在してるから」

 

 

 

 

 

 

そうして救世主の旅路に1人の少女が加わります。彼女はどんな時でも救世主に寄り添いました。喜びの時も、悲しみの時も、苦難の時も、何気ない日常の時も、時には戦場まで赴いて献身的に支えました。彼が悲しみで足が挫けそうになった時は厳しくも優しく叱咤し、立ち上がる活力を与えもしたのです

 

強大な力を持ったタイタンとの対決だって負けません。英雄たちとは華やかには戦えないけどそれでも献身的に支えてくれました。そんな彼女の姿に救世主の仲間たちも彼女を認めていきました。

 

でも……

 

彼の仲間は最後まで気づきませんでした、彼女の内に秘めていた使命と刃の本当の意味を、寄り添った救世主ですら疑念はあれど確信まで至らせなかったそれを。

 

 

 

 

 

そして此度の火追いの旅の終幕が近づいた

 

 

空が赤黒く染まり、数多の隕石が降り注ぎオンパロスそのものを破壊していく。辛うじて破壊を免れた場所も暗黒の潮の造物によって侵食し、何もかもが黒く黒く染め上げて行く様は終末(エスカトン)と呼ばれるに相応しい厄災が世界を埋め尽くす光景。

 

 

 

ファイノン達のエーグル(「天空」のタイタン)の討伐へ赴く中、創世の渦心で私は待つ。此度の輪廻は既に終わりを告げ終えた。故に、やるべきことをしなくてはならない。

 

「え…?エリたんがどうしてここに?」

 

「もしかして、あたし達を待っていたのですか?」

 

そう遠くない内にエーグルの討伐を終え、戻ってきたヒアンシーと今回はそれについてきたトリノンを迎える。いつも通り終末が始まった今、ヒアンシーが先に半神となって再創世まで持ち堪える積もりなんだろう。私が待ち迎えた事に、直ぐに足が止まる。感じてしまったんだろう、何かの違和感を。だが、差し迫っている終末にそんな違和感はすぐに気にすることは出来ない。

 

「おかえりなさい。待ってたわ、その様子だと成し遂げる事ができたのね」

 

「あ…はい、セネオス様から火種を譲り受ける事が出来ました。これからすぐに継承の儀を行います」

 

此度のヒアンシーにとって仲がいい。ファイノンは英雄であり、外敵を討ち果たす役目もあってなにかと傷が絶えない彼を治療する為に彼女を訪ねることがあり、彼女の手伝いをすることなんてよくあった為に今回においては特に仲が深まった黄金裔の1人でもあったのだ。

 

「あなたもなすべきことを成したのね。あたしもなすべきことをする為にここで待っていたの。それはね……」

 

何気なく彼女に近づいて行われたそれは、食事をするのにナイフを突き立てるようにトスッと軽い音を立てながら極々自然な動作でそれは行われた。あまりにも自然過ぎてヒアンシーもパートナーのイカルンも反応すら出来なかった。

 

「ごめんね、ヒアンシー」

 

エリシアの儀礼剣がヒアンシーの心臓に突き立てられたのだ。

 

「エリ……たん……?」

 

捻りも入れた刺突は天空の少女の心臓を破壊する。どうしての疑問すらも浮かぶ前に自身の血に沈む。それが今回のヒアンシーと呼ばれた少女のあまりにも呆気ない最期。

 

「…………え」

 

まだ温かい黄金の血を浴びても1000に分けた聖女は動く事が出来ない。想像もしないところからのそれにトリノンは理解が追いつかない。今まで仲間だった少女の凶行に心が追いつくことを無意識に拒絶する。

 

「ごめんね、トリノン」

 

その隙を彼女は見逃さずに剣を突き立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ファイノンは駆ける。再創世を掲げ、黄金裔が全てを賭けた切り拓いた道を走る。だが彼の心には恐ろしいほどに嫌な予感が収まらない。最後の一つが、オロニクスの火種が欠けている為に再創世が上手くいくかなどではない。その時ふと、予言によって警告されていた事が思い出した。

 

『汝らを冒す毒は既に内にあり。心せよ、かの猛毒は終末に汝らを絶望へと蝕む致命であることに』

 

黄金裔のみんなはそれが元老院の一派だと考えており、終末になった今、既に排除しているはずだ。なのに嫌な予感が未だに収まらない。

 

もっと何か大事なものを勘違いしていたようなそんな足元が壊れて落ちて行くようなそんな不安。

 

トリビー先生の最後の助力を得て、元老院に悟られずに確保していたケファレの火種を手に渦心へと踏み入れた瞬間、ファイノンの心が悲鳴を上げた。違う、その光景にファイノンは受け入れる事を無意識で拒んでしまうほどに壮絶だったのだから。

 

「ヒ、ヒアンシー……? それにトリノン先生!?」

 

灯されるはずの「天空」は沈黙し、それとは対称的に輝きを放つ黄金の血の池に沈んだヒアンシーとイカルン、その血に染まり原型がわからないトリノンだった人形。そして……

 

 

「あら、ようやく来たのね。待ちくたびれて眠っちゃいそうだったのよ」

 

 

その血に塗れながらいつもと変わらない微笑みを湛えた幼馴染の姿。

 

周りが異常だらけなのに彼女だけは普段通りの日常的な笑顔が一層悍ましさを沢立たせる。

 

「どうして……?!」

 

何とか現状を飲み込んだ後にはどうしてと疑問ばかりが浮かび上がる。何故仲間を手に掛けることに、何故そうしても何も感じない事に、そして何故再創世を阻むのか。幾つもの浮かんでは沈んでいく。

 

「どうして、ヒアンシーとトリノン先生を殺したんだ!!答えてくれ、エリシア!!!!!!!!」

 

「これがアタシの使命だからよ、ファイノン」

 

その様子はみんなと同じようにそれを口にした。これが、使命? 君を仲間だと信じてたみんなを裏切ってまで? ただただ絶句するするしか出来なかった。この終わりゆくオンパロスを救うにはこれしかないのに? 同じ言葉なのに全く違うものにしか聞こえない。

 

「……使命だって?」

 

「再創世はなされてはならない。あなたを支えながら目指した先を邪魔しなければならない、それが背負ったものなんだから」

 

「そうだとしても、僕は……君に、剣を向けたくはないんだ。もう、こんなことはやめよう。世界は終末を迎えてしまったんだ。どうにかするには再創世しか方法はない。だから阻止なんて馬鹿な事はやめて世界を救おう、エリシア」

 

ヒアンシーやトリノン先生を殺めたことに対する怒りはある。だけどそれ以上に僕は君に剣を向けたくないと感じていたんだ。説得を続ければと淡い希望を持たずにはいられなかった。

 

「ねえ、ファイノン。あなたはそうやって使命を棄てられるのかしら?」

 

「それは……出来ない。黄金裔の皆が紡いできたものを無意味にすることはやってはいけないんだ」

 

 僕の答えにエリシアは優しく微笑んでいた。あなたはそれでいいんだと無言の肯定をしている事をよく知っている。でも彼女の口からは

 

「あたしだってこんなこと何度も繰り返したくもないわ。でもね、あたしも途方もなく積み重ねたものがあるの。それを徒労のままで終わらせたくはないのよ。だからあなたの言葉は聞く事はできないわ」

 

 

拒絶だった。痛いほど分かってる、たとえ幼馴染だとしても絶対に譲れない一線が交差してしまったのを、

 

「それにね、私はこれに選ばれてるの。こうなった以上あなたに残されたのは2つしかないわ」

 

彼女は見せつけるようにそれを取り出した。それは火追いの旅にあっては(なくては)いけないもの。

 

「それは……まさか、君が最後の……!?」

 

彼女もまた、その使命を負った黄金裔。その手には行方が判らなかった最後のタイタン、オロニクスが宿った火種が輝きを放っていた。

 

「なら、尚更どうして!? 君が本当に最後の黄金裔なら完全な再創世だって出来るはずだ。だから……だから!」

 

皮肉にも最も側にいた存在こそ、再創世の最大の障害として立ちはだかるのだ。なんと残酷な最後の試練なのだろうか。それでもと説得しようとする僕を突き離すように語りかけてくる。

 

「ダメよ、ファイノン。あなたに残されている選択肢はあたしに殺されて再創世を成せずに滅ぶか、あたしを殺して再創世を成すかそのどちらかだけよ」

 

話はもう終わったと言わんばかりに彼女は儀礼剣を手に僕へと斬りかかる。僕は半ば無意識でそれを受け止めた。君を殺したくはないと叫ぶ心を封じ込めて最期の戦いが幕があけた。

 

 

 

 

 




エリシア:何だかんだで幼馴染として甲斐甲斐しくサポートしてた。黄金裔ルートが簡単になった。以前だと下手すればアグライアなどがエリシアの過去が不明な事に疑念を抱き、調査されてフレスティ君のつながりとか火種を隠した事がバレて処されるのがしばしばあった模様。救世主の幼馴染という過去が出来たためにスンナリと受け入れられる下地になったので最後まで刃を隠す事に成功した結果、盛大にこうなった。ただし今回のファイノンへのダメージを増大させて負わせた事に罪悪感は感じてる。

ファイノン:生存は絶望的な幼馴染と再開して、長い事苦楽を共にしてきた後に明かされる衝撃の真実(ベクター)されてツライ……した。だがそれでも膝を屈する事はない。なお、原動力が原動力なのでエリシアにこんな事を強要させる残酷な運命に対する感情が燃料となるために結果的にカスライナのケアにもなってる皮肉

どっかの機械:お、いいメンタルダメージ計測できていいねしてる

ヒアンシー:今回において特に仲が良かった娘。だが最後はアゾられて死亡。現状を理解する前に死んだので裏切りには気付いてないのでまだ救いはあった模様。
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