歳月の半神にそっくりな少女をオンパロスに投入してみた実験作 作:SUMI
とある周回での出来事。それはファイノンと再会できた時期が早く、共に神悟の樹庭へと入学する事になった一幕。
神悟の樹庭、それは知識を司る「理性」のタイタン、サーシスが最初の種を植えた場所でもあり、そこには山と見間違う程の大樹が聳える聖地。
その枝葉を震わす討論は絶えたことはことはなく。風に揺れる木葉のように本を捲る音は収まらず、枝分かれしていく枝のように真理を追求する思考は止まぬ、まさしく智の聖地。
このオンパロスにおいて、ほぼ全ての知が集まる場所でもありオンパロス全土から学者が集まる学舎でもある。
その学生たちに当てられた一室にて1人の少年が眠りこけていた。まだ学生であった頃のファイノンだ。
知識を自分の血肉にするために何度も何度も読み返しているうちに寝落ちしてたのだろう。机に積み上げられた書物がその読書量を物語ってもいたのだから。
「もう、また寝ちゃって……」
そんなあどけない寝顔を見守りながら体を冷やさないように毛布を優しく掛ける。こうするのは今の周回に入ってから何度目かしら?
ファイノンと再会する事が早く出来たために一緒にここの学生をやる事になったエリシアです、と言いつつも私は周回も重ねたこともあって既に学べる事は学び終わってる。やろうと思えば満点も卒業もできるけどそうはせずに程々に留めて、のんびりとした学生生活を過ごしている。
学舎なのに学ばないで何をしているかと言われちゃうと、主に勉学に励んでいるファイノンのお世話。ちょっと目を離すと寝食を忘れて勉学に励む彼のための食事や衣服を用意してあげたり、時には一緒に勉強なんかも。なんでも一生懸命にこなすから色々とズボラになりがちなんだから。
今日だって昼は色んな人と一緒に勉強や討論を繰り広げ、夜はこうして1人で深夜までなんてことをしてるからこうして私が様子を見にこないとあられも無い状態にまでなるのだから。
そうやって読み終えた書簡や石板をファイノンを起こさないように静かに片付けていた時にどこからか呻き声が響く。
「……ぅ……ぁ」
その出所はファイノンからで突如としてその寝顔に苦悶の表情へと歪ませる。きっと夢を見ているんだろう、エリュシオンを暗黒の潮に呑まれた日を。世界が自分だけを残して消え去った苦しみを今もまた繰り返す。それはまるで永劫回帰のようで…
「大丈夫よ」
寄り添うようにそっと手を握ってあげる。私の手の温かさを感じた途端に痛いくらいに握りしめ返される。まるで2度と離さないと言わんばかりに強く強く。
「あたしはここにいる。あなたはひとりじゃないわ」
何度も剣を振るってタコだらけの男の人特有のゴツゴツとして硬い岩のような手。華奢な私の手とは比較にならない程に逞しさと力強さに満ち溢れてるはずのそれは、淋しくて弱々しい。
「もう、仕方ないわね」
優しく子守唄を歌う、それはオロニクスに聴かせている唄であり。エリュシオンではお姉ちゃんとよく口ずさんでいたし、ファイノンはそれを聴きながら、お昼寝をするのが好きだった。ファイノン、いえカスライナにとってありし日の一幕だった。
せめて束の間の夢だけはあの日々のように優しくあってほしいと、静寂に優しい歌声が滲み入る。
長くとも短くもない時間が過ぎた頃にようやく力が弛んできた。夢を見ないほどに眠りが深くなったんだろう。寝顔も心なしか安らいでいるように見えた。
「おやすみ、ファイノン」
本当ならベットまで連れて行くのがいいとは思うけど、それで起こしかねないからそのままにしておいて、そっと離れる。
「どうか、このひと時だけは永夜の帷の安らぎに包まれますように」
部屋を後にしてから調理場へと向かう。きっと目覚める頃にはお腹をすかしてるだろうし、手軽に食べれるサンドウィッチや、ホットミルクなどが丁度いいと思い準備していく。
そうして慣れた手つきで朝食を兼ねた夜食を用意していると後ろから人の気配が近づいてくる。
「おや、エリシアですか。こんな時間までどうして……いえ、また彼が寝食を忘れていたようですね。こんな夜更けまで付き合う必要はないでしょうに、あなたも物好きですね」
その風貌は細身で儚げ、だけどその眼差しは鋭く万物を見透すだろうその人はアナクサゴラス。この樹庭の教授にして、アグライア率いる火追いの旅には招かれざる人ではあるけれど、
「あら、先生も彼の事言えないんじゃないかしら?」
「問題ありません、こうして今、自分から栄養を補充しにきたのですから」
彼は樹庭で新しい学派を創設するほどに優れた人ではあるけど、それがたたって孤立しがちの人でもある。なんたって自身の提唱する学説がオンパロス中の人々の価値観にケンカを売っているのもだから。
人々にとってのオンパロスは12のタイタンに基づいていて、身の回りにある全ての事柄にはタイタンが紐づいている。彼らを形作る価値観にタイタンが不可侵の存在としているだから。
そんな中、タイタンの神性を追求し暴きたてようとするアナクサゴラスは異端者そのもの。前世にもいた地動説を唱えた学者と全く同じように。また、周りを取り巻く敵意を抱く存在も。
平然とタイタンは万能ではないと言い切る様は、ファイノンですら眉をひそめるほどだ。当然、火追いの旅の面々にとってはよい顔をしないのは必然なんだろう。誰にでも親しくできるはずのトリスビアスにも嫌厭が混じってることからも相当なんだから。
煌びやかな服を着た大地獣を筆頭に何個あるか分からないくらいの蔑称があるほどの嫌われ者。それがアナクサゴラスという探究者。
その反面、永劫回帰を重ねず誰にも頼らずにこの世界の真実に、裏側に手を掛けた唯一の人物でもある。擦り切れる前のカスライナが彼の学識に頼ってたことからも窺い知れるだろう。
だからこそファイノンとは別の意味で付き合いやすくもある人なんだ。
タイタンは全能ではないと考えるアナクサゴラスと、ほんの少しだけ力を持っているだけの人だと知り、タイタンが存在しない世界の価値観が根底にある私。そんな価値観からか意外と話が合うことが多く、今回の永劫回帰のように関わる機会があると親しくなることが多い。ファイノンが最優先だけど、それ以外は彼の助手もしているくらいには関わりがあったりも。
地頭の差は出るから話が追い付かないことは多いけど為になる発想を出してくる凄い人。確証さえ得られれば火追いの旅を支持をしてくれるのだから。いつかきっとこの停滞を打破した時、道標になれると信じられる人。
「もう、屁理屈捏ねちゃって。先生って、今日も栄養補給としてすっごい適当に食べちゃうでしょ?偶にはちゃんとした食事はどうかしら?材料は沢山あるんだから一つや二つ増えても手間はかからないわ」
そっとあらかじめ多めに作っておいたサンドイッチを渡してあげる。この人はそういうところは頓着しないから、食事とは言い難い文字通りの栄養補充になるは明白でちょっと見過ごせないかな。
「……ありがたく頂きましょう。感謝します、エリシア」
「それに先生は例の事で体が弱まっているでしょ? ファイノンとは違ってそう無茶はできないんだからもっと自分を労わってくれないかしら」
「…………考えておきましょう」
「もう、それってまたやる気なんでしょ。2人とも懲りないんだから」
そうやってホットミルクも渡してあげる。本当は私用に作っておいたホットミルクに滋養強壮の為のハチミツにちょっとしたスパイスを加えた甘すぎない様に味を整えたのを差し上げてあげる。
それを受け取る先生の目はどこか懐かしい様な、もう2度と手に入らない宝物に似たものを見る様な、どこか儚さを孕んでいた。時折、そんな目で遠い何かを私を通して見ていることがある。いつしかの永劫回帰で語ってくれたのだ。
私にありし日の姉の面影を見たんだと、自分のことを否定せずに見守ってくれて、自分の為に安くはない樹庭の入学金を積み立ててくれた唯一の肉親。旅立った直後に永遠の別離へと変わった姉に。
「礼を言います、エリシア。それでは私は研究の続きでもしますので」
そう言って自身の研究室に戻っていく先生を見送った後に、こっそりと自分用に作っていた夜食のサンドイッチをいただこうとして……
「あら? これは、文字通り霞を掴まされちゃったのかな?」
そこにあったサンドイッチはなく、空のお皿だけしかない。いえ、詳しく言えばあるように見えるだけの幻。
まるで騙された様なことを出来るのは……
「にしし、ドッキリ大成功ってところかな」
私の背後に居たのはアグライアとは違った意味でスタイルのいい銀髪の女性、何より特徴的なのは猫の耳と尻尾が付いていることだろう。彼女の名はサフェル、
私はサンドイッチがあると認識していたから、既に盗まれて無いはずのサンドイッチがそこにある様に見えていたのは彼女の悪戯なんだろう。
これの本領は世界すらも騙し通せることにあるけど、こんな事にまで使うなんてイタズラ好きの猫としか言いようがない。それがサフェルという黄金裔。
彼女がここに居るのはトリスビアスを通じたアグライアの頼みで将来の黄金裔たちの様子を見守りにきたんだろう。将来の半神たちが無事に学んでいるかをこっそりと視察しに。
「そんなに食べたかったのなら言ってくれればいいのに、材料だってまだあるんだから」
「そうしてもいいんだけど、普通に貰うよりこっそり摘み食いした方が美味しいと感じることもあるんだよ。悪いことしちゃったなってのがスパイスになってさ。やめられないんだよね、その様子だと、健やかに過ごせている様で安心安心」
そうやって、サンドイッチを手早く食べ切って後にひと伸びした瞬間に雰囲気が変わる。気まぐれな猫から英雄のそれへと。
「じゃあ、本題に入らせてもらうね。あんた何を隠しているの?」
さっきまでのおちゃらけた表情は消え失せ、そこにあるのは鋭い目付きの英雄が1人。裏稼業にいたからこそ、隠れた何かを目敏く嗅ぎつける。
「あら、隠すってなんのことかしら? あたしはただの可愛い美少女でしかないわよ? それに「詭術」の半神であるあなたにどうやって隠し通すことなんて無理難題よ」
そうやってお互いに沈黙が流れていく、そう長い時間が経たずにサフェルは耐えきなくなったのか先に根を上げた。
「ふーん……ま、いいかな」
この回帰ではなにも行動を起こしてもいない、根拠は彼女の直感だけではあまりにも足りなさすぎる。だからちょっとした疑念にしかならないから説得するには証拠がまるでない。
「これだけは誓ってほしいかな。あの救世の坊やを裏切らないって事だけは」
「もちろんよ、口だけだと幾らでも言えちゃうから行動で表すかしないのよね。すっごい困ったことに今すぐ証明するのは厳しいわね」
だから出来ることは釘差しくらいだろう。万が一でもそうなって欲しくはないと自分と同じになって欲しくはないと願望も込めて。
「わかった、今のアンタの言葉に嘘はないって信じてあげる。それじゃあたしは退散退散」
そう言ってサンドイッチを片手に何処かへと消えていった。その後に今度はファイノンのために用意していたサンドイッチまで持っていかれていることに気がついて、また作り直すことになった事になるとは。
エリシア:アナイクスとは意外と相性が良い、タイタンに関することで地雷が存在しないので他の人が聞いたら嫌な顔される言動も否定せずに優しく聞いてくれるので好感度は高い。サフェルには疑念を持たれやすいが行動で解消してるので確信まで至ったことは極々稀、彼女の致命的な誤算はファイノンの味方であることと火追いの旅に賛同する事とは別である事に気づいていない。
サンドイッチは作り直し羽目になった模様
サフェル:なんかおかしいとは思いつつもファイノンが一番大事というエリシアちゃんにはある種のシンパシーを感じてるので彼を裏切らないならいいかなと考えてる。ファイノンが1番に考えてるのは火追いの旅なのでエリシアちゃんもそれに付随していると勘違いしている事に全く気がついてない。
アナイクス:エリシアちゃんはファイノン以外は言動を選ばずに話しても大丈夫な稀有なで意外と相性はいい、寄り添う事に慣れてるのでその姿にお姉ちゃん味を感じてる。