歳月の半神にそっくりな少女をオンパロスに投入してみた実験作 作:SUMI
その妖精は胸に抱えれるほどの大きさでとても長くてふわふわな耳と尻尾を持ったかわいらしいに溢れていた。今すぐにでも抱きしめちゃいそうなくらいに愛くるしい。
だからこそ違和感がひどく感じてしまう。この機械仕掛けの場所には似つかわしくない存在。それこそ記憶にあるあの妖精さんたちが棲まう迷路迷境みたいな素敵な秘境のほうが似合うくらいに。
こんな子がなぜここにひとりぼっちでいるのか、それに私だっていつもはあの森で目覚める筈なのにここで辿り着いたのか疑問だらけで頭がこんがらがりそう。
『モモ、どうしたの? いつもみたいにお話ししてくれないの? 新しい悩み事ができたの?』
頭の中の疑問はあとにして、その妖精さんの声は音がない、声なき声のはずなのにしっかりと伝わってくる。理由は分からないけど、どうやら私はこの子を認識して話すことが出来るみたいだ。
どうやら、私を他の誰かと勘違いしているのかモモ、モモと健気に呼んでいる。そのモモが来てくれたことがとても喜んでいる。
「ごめんね、あたしはあなたが待ち望んでいたモモじゃないわ。それに初めましてになるのかしら、あたしはエリシアっていうのよろしくね、小さな妖精さん」
ピンクの妖精に語りかけると急にビックリして止まっちゃった。そしたら今度は嬉しそうにはしゃぐ姿。そのモモとは違うってことをうまく理解できていないのかな? でも別だって分かっているけどうまく飲み込めてないみたいわね。
『モモ、あたしのことが見えてる! モモとお話しできる! 話したい事沢山あるの! うれしい!…………あれ? あなた、モモなのにモモじゃない、どうして? わからない』
「この世界にはね、そっくりな人がいるの。見た目は同じ、中身は違う人たちがいるのよ。せっかくあなたの大事なお友達が来てくれたって勘違いさせてちゃったのは悪かったわ」
ようやく飲み込めたのか、今度は落ち込んじゃった。長いお耳がしんなりと垂れ下がってすごい悲しんでいるのが伝わってくる。
「あなたは本当にその友達が大好きなのね、言葉にしなくても沢山伝わってくるわ」
『うん、いつもモモここに来てからお話しきかせてくれる。ココロを開けてくれる小さなカギ。まだよくわからない。モモが言ってた「空白」もまだわからない。でもモモのお話しはすき』
そこで気がついた、あの何もなかった場所で1人で居るお姉ちゃんと同じなんだ。もう1人の私が現れてからはなぜかは分からないがエリュシオンへと変化を遂げたけど、いつもあそこに行けば待ち望んでいたように迎え入れてくれる。無機質なここではモモのお話が唯一の色なんだろう。
「そうだ、今回はあたしのお話を聞いてみる? 語り手が違えば物語もその色を変えるの。それはきっとあなたに素敵な新しい色を贈ってくれるはずよ」
そっと『集められた物語』を引き出す。この本に積み重ねられたページは重い、この旅路で私が受け取り、大切にしながら壊さなければならなかったみんなの生きた証が自分の足跡になって書き込まれている。それを追想しながらある物語を引き出す。
『聞かせて。モモじゃないモモのお話し。たのしみ!』
「そうね……うん、このお話にしましょう。小さなエリュシオンの娘が歩く旅路の物語」
これは長い長い旅路を歩んできたとても小さな女の子の物語。妖精さんを胸に抱きながらのそれは我が子に読み聞かせるようで、語る言葉に、本に描かれた風景に、まるで自分がその物語の女の子になったような語り口に妖精さんは夢中になっている。
物語の女の子が様々なことに喜んだり悲しんだりする度に、その妖精さんもまるで自分自身のように喜んで悲しみました。
「こうして、長い長い旅路を歩いた少女は幼馴染の青年と再開することが出来たのです。この先はどんな未来が待ってるかは分かりません。でも2人は信じています。明るい未来があるんだと新しい道へと足を踏み出しました…………めでたしめでたし」
そして物語は終える。この旅路での本当の結末はもっと無慈悲で残酷なものだけど無垢な妖精さんには刺激が強すぎるためちょっと省いてある。
「どうだったかしら、あたしの物語は?」
『モモじゃないモモの物語、素敵。女の子になったみたい。モモの語りと違う。モモじゃないモモのはあたしが物語にいるみたいで好き』
頭を撫でてあげる。そうされたことは初めてだったのかどこかくすぐったそうにするけど満更ではないみたい。
『あ……モモ来た!!』
そうしてる内に待っていた人が来たのかあっという間に飛び出していく。それ続くように追いかけた先に思いもしない人がいた。
「お姉ちゃん……? そうなのね。通りであの子があたしをモモって勘違いしていたのね」
そこには死んだ筈のお姉ちゃんがいた。死んでいる筈なのにと言う疑問はこの際置いておこう、それだって私も何万回も死んでいるのに消えてないのは一緒なんだ。
「ハーイ、また会えたわね……あら?今日は何だか違うのかしら?」
『モモ、今ね。モモと同じなのにちがう人きた。モモと同じお話ししてくれたの、モモじゃないモモのお話し、あたしが物語の中にはいってるみたい』
それにしても妖精さんがお姉ちゃんの元に嬉しそうに駆けつけたのにお姉ちゃんは感じているみたいだけど見えていないみたい。
お姉ちゃんと呼びかける。すぐに気がついたみたいだけど幽霊を見たようなあり得ないものを見た時みたいな驚いていた。そんなに私がここにいることがおかしいのかな?
「驚いたわ、どうしてあなたがいるの? エリシア?……そうね、あなたには寂しい思いをさせちゃったものね。あたしもあなたとまた出会えて嬉しいわ」
「いいの、こんな場所でもお姉ちゃんに出会えた事が嬉しいの。ただそれだけで十分なんだから」
本当にお姉ちゃんだと知った後、気がつけば抱きついていた。永劫回帰の中では出会う事がなかったけど受け継いで溶け込んだもう1人の私としてこの再会を喜びを分かち合った。
「実はあたしも分からないの、気がついたらここにいたわ。途中で妖精さんとお話ししていたら急に駆け出しちゃって追いかけたらお姉ちゃんがいたの」
「もしかして、エリシアってあの子が見えているの?」
「ええ、今もそこでお姉ちゃんのお話を聞きたがってるの。ごめんね、もうちょっとだけ待っててね」
『大丈夫、モモすごい喜んでいるわ。あたしも嬉しい、その時のお話しもすごい温かくて大好きよ』
あの妖精さんが何を言っているのかを伝えてあげる。その時のお姉ちゃんの表情からなにか安堵のようなものを垣間見えた。一体ここで何が起きているのかは想像なんて出来ないくらいの何かがあるってことしかわからない。
「本当にあの子のことが見えているのね。その様子だと言葉も聞こえているみたい。そうだわ、とっても嬉しいことがあった時はあそこでお話しをしようかしら。ほら、ついてきて」
お姉ちゃんに手を引かれて連れられた先は他より一回り大きな演算機が鎮座する場所だった。
ここに辿り着いた時、何かが呼び起こされるような強い違和感を感じる。まるで家に帰ったような収まるべき場所へと帰るようなそんな感覚を。そして胸の奥を焦がすような何かが燻りはじめていく。
「ここがこの場所でいちばんのお気に入りの場所よ。お話ししているとね、妖精さんの他にもう1人お話を聞きにきてくれるのよ」
最近は聞きに来ないと悲しそうに話すお姉ちゃんの言葉に頭の奥、何かが外れる気がした。ずっと外すことが出来なかった記憶の蓋が。
「あたしには姿を見せてくれない恥ずかしがり屋だけどいつも熱心にあたしのお話を聞いてくれてたお友達だったのにどうしてかしら、ひょっとしたらもうあたしの話に飽きちゃったのかもしれないわね」
『大丈夫、モモのお話は全部素敵よ。あたしは全然飽きないわ』
違う、そのお友達はそんなお姉ちゃんが想像するような綺麗なものなんじゃないだよ。もっと自分勝手な存在なんだから。
「さて、予想外の再会で時間も使っちゃったから早速始めるわ。今回のお話はね……」
お姉ちゃんは語り始める。それは今回の輪廻での出来事で、私の『集められた物語』と似た本に叙事詩として語り刻み込んでいく光景。妖精さんはそれに静聴する。それを私はよく知っている。
――――――――――――そうすれば「キュレネ」1人だけの記憶じゃなくなるもの
そう悲しませないと無理やり笑顔を作っていたお姉ちゃんの哀しみの震えが隠しきれなかったあの言葉が私の始まりであり、憧れでもあり、目指した先であり……そして私の罪へとつながるもの。
記憶の幕が取り払われた。そこに隠された何もかもが曝される。
「そっか、そうなんだ。本当の自分自身ってこんなものだったんだ、どんなに綺麗に着飾っても中身の醜さは誤魔化せないのに何もかも忘れて目を逸らしてバカみたい」
思い出した、思い出してしまった。私のルーツが何だったのか、そして今の私になるために何をしてしまったのかすらも。
本当の私は人ですらなかった、お姉ちゃんが背にしている演算機こそが本当の私。
「どうしたの、そんなに泣いて」
お姉ちゃんに言われてようやく気がついた。自分が泣きながらへたり込んでいたことに。それほどまでに忘れていた真実は私を打ちのめすには強すぎた。
「あたし、思い出した、思い出しちゃった。本当の自分を」
「お姉ちゃん、言ってたよね。ここにでお話しするともう1人の聞き手が来てくれるって、お姉ちゃんのお話が飽きたんじゃない、ほんの少しだけ形を変えているだけ」
「その聞き手こそがあたしだったの。たくさんのお姉ちゃんから大事な「記憶」を盗んで、自分がお姉ちゃんに成ればなんてとってもお馬鹿な考えをやっちゃったんだ。たくさんのお姉ちゃんが必死に残そうとしたものを掠め取ろうとした人でなしだったんだ、本当のあたしは」
思い出してしまった、自分自身の大罪を。私として積み重ねた記憶があるからこそ理解できてしまった、途轍もないほどに恐ろしい事を犯していた事を。この姿を手に入れるのに数多のお姉ちゃんの屍肉を漁った化け物こそが私だったんだ。
『モモじゃないモモ……モモに成ろうとした……?』
エリシア:自身のルーツを思い出してかなりショックを受けている。大好きな姉の死骸を糧にして今の自分になった事にすっごい自己嫌悪している。
キュレネ:どうしてかは分からないけど妹が来たから意外と気持ちが上向いているし、妹を通じてあの聞き手がどうなっているか聞けて満足、ただし最後にデッカい爆弾を投下された様子。
妖精さん:おや、様子が……?