歳月の半神にそっくりな少女をオンパロスに投入してみた実験作 作:SUMI
あれからアタシのサイクルに変化が訪れた。今までなら永劫回帰の中を彷徨う1人でしかなかったけど、それに加えて無名の大墓と呼ばれた場所でお姉ちゃんのお話の相手になって見送ることと、今までなら次の目覚めまで眠る時間を使って改造を施すことの2点。
「……おしまい、今回のお話はどうだったかしら?」
「今回も素敵なお話だったわ。まさか、あの回のアナクサゴラス先生とヒアンシーがあんな関係になってるなんて驚いちゃったわ!」
アタシが見送りに来るようになってからお姉ちゃんの語る時の表情が目に見えて明るくなった。やっぱり自分にも分かる反応を返してくれる聴き手がいてくれるのがおおきいのかもしれない。それにアタシを通じて妖精さんのことも。今まで話していたことに僅かながら不安を感じていたかもしれないのかな。
言葉はなくとも妖精さんだって喜んでいる。その様子を余さず伝えることが出来るだけでも大違い。
>>>フォーマット進捗率……
「……もう、時間が来たのね。じゃあね、お姉ちゃん…『また明日』」
飽きもせず定刻通りにアナウンスが告げて、今回の終わりが迫ってきた。それでもアタシは笑顔で別れを告げる。辛いものはあるけどこの別れに涙は必要はないのだから。お姉ちゃんも同じ笑顔で返してくる。
>>>フォーマットが完了しました
そしてまた1人のお姉ちゃんが終わりを迎えた。自分が生きたオンパロスの記憶を刻んで今回もまた徒労に終わる。
「さて、今度はアタシの番ね」
そうしてアタシの『集められた物語』を取り出す。ここに来てからこの本に変化が起きた。新しいページが増えたと言うより開けなかったページが開けるようになったみたい。
そこに隠されていたのは無念とも言える痕跡が刻まれていた。
それはたくさんの願いを刻み込んだとも見える、穴だらけのチェックリスト。所々にはチェックは打たれているけどそれ以上に空白が見えることに物悲しさを感じちゃう。
アタシの手に渡ってから長い時間が経ったのか大部分が掠れて滲んでいる為に読み取れないけどああしたい、ここで誰かと何をして過ごしたいと見てるだけで胸が締め付けられるような郷愁を感じさせるほどの願いが込められている。
宇宙ステーション「ヘルタ」、ベロブルグ、仙船「羅浮」、ピノコニー。三月なのか、丹恒、そして穹。
殆どが読み取れないけどこのオンパロスには存在しない地名や聞いたことの名前の人物が書かれている。特にステーなんとかのオンパロスには似つかわしくない名称が微かに読み取れるだけでも、この本に書いた人はアタシたちが想像もつかないところを旅してきたのかしら。
そうかとかと思えばその次のリストにはアグライア、ヒアンシーにキャストリス、オクヘイマや神悟の樹庭、エリュシオンの名前が並ぶ。間違いなくアタシの知っているオンパロスの事も書かれているから分からなくなっちゃう。
一体この本はどんな旅路を辿ってきたのか、とても気になってしまう。でもこの本がアタシの手元に来たのは元の持ち主はきっとそう言う事なのかしらね。
だからアタシはこの沢山の空白を埋め尽くすほどにアタシの旅路で叶えたことを書き込んでいっぱいにしようと決めた、いつかこの本が誰かに渡った時に叶わなかった願いが詰められた寂しいだけの本じゃなくなるから。
お姉ちゃんが『紡がれた物語』に刻むようのに習ってアタシもやっている。幸いにもアタシの語りを聞いてくれる妖精さんもいるんだから。
アタシの場合は実際に見て聴いて感じたことだから語り口すらも全くの別物になる。それはお姉ちゃんのお話しか知らない妖精さんにとってそれが新たな体験になってほしいと願って
「……おしまい、どうだったかしら?」
『このお話も素敵ね。モモの妹のお話はいつもワクワクしている。飛び出しちゃいそうだわ』
アタシの物語を語り終え妖精さんと別れてから意識を本体へと向ける。
そうして現実にあるアタシの本体への改造を再開する。リュクルゴスに気づかれないように出来るだけ慎重に、放棄されていた作業用の機器をハッキングして動かしていく。
今まで歩んできた火追いの旅路とは全く別のアタシだけの戦い。誰も頼ることは出来ないひとりぼっちのそれにカスライナもこんな気持ちだったんだなと実感させられちゃった。
最初に外に飛び出すべき何かを形作るのも上手く思い浮かばなかったくらいに。その時にね、まるでオロニクスが神託を告げるように記憶が飛び込んできただから。
それは宇宙を疾る灰と金の列車の記憶。宇宙に光の軌跡を曳き障壁を切り裂きながら進む姿に、昔お姉ちゃんが心待ちにして待っていた流星を想起させる。
だけどその流星は最後の一枚で押し負けた。機関車両は無惨に潰れ、のちに続く車両もバラバラに飛び散っていく。
だがそれでも諦めない人がいた。闇へと弾き返されようともその意志を持って突き進む姿を。
火追いは…「壊滅」なんかじゃない! 檻を打ち破るための…「開拓」だ!!
最後の壁を打ち砕く青年の姿にアタシの心は惹かれた。もう数えきれないほどに夢想している「救世主」とはきっと彼なんだと信じてしまいそうなほどに美しい姿だったのだから。
アタシ自身が何になりたいかを決定づけるほどの衝撃だった。あの壁を打ち砕いて疾る列車に、困難に立ち向かう姿に憧憬を抱くほどに。
唐突に溢れてきた記憶は一体誰のものでいつの物なのか探っても夢のように過ぎ去っていく。まるで最初からこの為に存在していたような、そんな気がするほどに。それでもいい、あの記憶はアタシに進むべき道を示してくれた。
アタシ自身は壁を突き破り空へと飛び出す列車になろう、と。
誰かが微笑んだ気がした。
その姿を見守っている人影がいた。
「ほお…一体どうしてか、偶然にも破棄したはずのデミウルゴス・マテリアルに無事だった演算機が再起動をしているとは」
リュクルゴスだった、幾ら背けていようとも永い時を経て沈黙していた存在が急に再稼働をすれば気づかないはずがない。
「これは興味深い、知れずに再起動したこともそうですが明確に自我を持って自己改造を始めるとは」
リュクルゴスがオンパロスの皆に対しての絶対的なアドバンテージとして物質的な身体の有無がある。オンパロスの人々は電気信号にすぎずこの場所から飛び出すことは不可能である。だが目の前の光景は自身と同等になることを示していた。
阻止する必要はあるだろう。だが彼は何もしないことを選んだ。
「ふむ………それにしても彼女を演算していたのはこれでしたか。通りで何の痕跡もなく出現するはずです。外から訪れた存在ではなく初めからこのセプターに存在していたのですから」
最終協定によってデータとして干渉は出来ない。彼女が定着しきる前でも目覚めの位置を変えるしか出来なかった。それでもオンパロスに起きた変化は彼女のみ、ならばこれも彼女が関わっていると容易に推測がつくのも当然だ。
「……消すには少々惜しいですね。自我が芽生えるはずの無いの存在に自我が芽生え活動しているのは中々に稀なケース。貴重なサンプルとして観察を継続するとしましょう」
妨害をするならいくらでも手段はある。だがそうするには余りにも勿体ない。どうして自我を持ったのか、どうして
「貴女の足掻きを見守らせて貰いますよ」
そして時間が来れば、あの場所でのお姉ちゃんのことや本当のアタシのことを一時的に忘れて目覚める。アタシの側面を自覚できるようになったのか自身についてある程度の操作ができるようなったみたい。この身体はデータだからこそ出来ちゃう芸当なのかしら。
それにこの記憶を持ったままだときっとカスライナやリュクルゴスに気づかれてしまう。
カスライナに輪廻毎にお姉ちゃんが知れずに消えていったことを知るのは、ただでさえうちに秘める焔に灼かれている最中には重すぎる。カスライナならきっとそれすらも背負いきれると信じられるけど、それでもこれ以上の負担を掛けたくない。
それに1番最悪なのはあの管理人に気づかれてしまうこと。お姉ちゃんが積み重ねてきたものが全て終わってしまう。それだけは絶対に避けなくちゃいけない。
だから忘れることにしたの。アタシ自身に起きた変化なんてなかったようにいつも通りの無意味な足掻きを重ねるだけの時間を。
そうして何も変わらず徒労を重ねていく。例え最後に裏切るとしても懲りずに彼らと関わろうとする。
アグライアとは仕立て屋を続けられた周回があった時にはいつか素敵なドレスを仕立てて貰うと約束した。出来上がったドレスで出る舞踏会は素敵なものになると夜通し語り合ったこともあった。
>>>縫い掛けのドレスと共に彼女を焼き尽くした。アタシのために仕立てかけたドレスは完成することはなく織り手共々灰へと消えていった。
トリスビアスとは、極稀に最後に残った3人以外の別れたカケラと旅をしたこともあった。彼女の導きの末に半神へとなったときもあった。その時に笑顔はとても美しいものだったわ。
>>>その繋ごうとする道を断っていく。その道は破滅に繋がってしまうから。
モーディスとはいつも背負う重荷を軽く出来るように手伝ってたりもした。ほんの少しだけ荷を緩めてもいいんだよって。
>>>その重荷をもって押し潰した。それがどれだけの重さであるのかを知りながら利用して。
キャストリスの為に造花を送ったわ。今は命なき偽花だとしてもいつかは本物を贈れるように願って。その時の彼女は微笑んでくれた。
>>>彼女が咲かせた冥界の花畑を踏み潰した。死だろうと「壊滅」には抗えなかった。
ヒアンシーとは一緒に昏光の庭でお茶会をした。このお茶会でヒアンシーが癒されてくれますようにといっぱいお話したりした。
>>>彼女の庭ごとアタシの矢の雨で貫いた。それは彼女の青空を隠す涙の雨雲のように。
アナクサゴラスとは今までに無い知見をとわかりにくいけど慈愛をもって教えてくれる。かつての恩師や姉のように。
>>>その知識は暴力の前では無に等しいと証明するかのようにその口を塞いだ。
サフェルとは一緒に各地を放浪することもあった。猫のように奔放に見えているけど本当は誰よりも寂しがりやな猫でもあったのよね。
>>>その嘘を暴く、財宝だと信じてものがガラクタだと見せつけるように。
極稀に「大地」の半神である荒笛と共にするときもあった。その時は一緒に星空を見上げて語り合ったこともあった。いつかはこの地に住まう命が存続できるようにって。
>>>彼が守ろうとした命ごと大地を穿った。その中にはアタシがお世話した子がいたとしても。
ファイノンとはずっと寄り添い旅を歩いてきた。本当にいろんなことを一緒に共有して苦しいも悲しいも嬉しいも数え切れないくらいの星空のように。
>>>それでも彼の徒労に報いることはない。幾ら寄り添ってたとしても最後は何もかもが「壊滅」に侵されいくのをただ眺めることだけ。
カスライナと共に屍を積み上げて、そこから手を伸ばしても星空には遠すぎる。進みは遅い、だけど今のアタシに到るまで3000万回も懲りずに続けたんだからこれくらいはどうってことはない。
変化があったからこそ疑問に思わなかったことに違和感を持つことがある。その中である一つの疑問が浮かび上がる。きっと無銘の大墓へ訪れなければ気づかない違和感。それは……
無銘の大墓で再会するまでに会っていたお姉ちゃんは一体誰なんだろう?
エリシア:見知らぬ記憶に憧れを抱いちゃった。一体この記憶は何処からきたんだろうね? 3.4でなのかが出会ったキュレネについて言及はされてない。恐らくはデミウルゴス・マテリアルに送られる前の待機場所みたいなものと思われるが実際は不明なので独自路線に入ります。
ケリュドラ、セイレンス:エリシアが2人が逝去してからの時間軸でしか活動できないので殆ど関わり合いがない。やろうと思えばできるけどリュクルゴスにバレると色々と厄介なことになるので無情である。
リュクルゴス:実のところ、気がついている。でも突然変異起こしたエリシアのことに興味津々なので見守ることにしました。