魔女図書館の最強賢者、二度目の人生は見習い司書に 作:メソポ・たみあ
実技試験の一部が免除された私は、図書館内の狭い個室でしばらくの間待機となった。
できることもないし本の置かれた部屋でもないので、仕方なくポツーンと椅子に座って時間が流れるのを待つ。
結局、
私、本当に変なことはしてないんだけど。
現代の
その辺も調べておけばよかったな……。
なんてことをボケ~ッとしながら考えていると、部屋のドアが開けられる。
「お待たせしました、メルティナ・ロウレンティアさん。面接試験会場にご案内致します」
ドアを開けた女性の試験官はそう言って、部屋から出るよう誘導。
私は誘われるまま、狭い個室を後にする。
どうやら本当に実技試験の一部をすっ飛ばして最終試験に挑ませてくれるらしい。
ラッキーと言えばラッキーだな。
試験官の女性についていくと、その足先は再び地下へと向かう。
そして実技試験の時と同じ魔法試験場へ。
そこには――二人の先客の姿があった。
一人は、私よりやや年上と思われる赤毛の少女。
年齢はたぶん十五歳前後で、背丈は私より頭一つ分ほど高い。
どことなくおっとりとした雰囲気の持ち主で、優しそうな顔立ちをしている。
三角帽子は被っていないが足元まで伸びたローブを羽織っているので、一目で魔女だとわかる。
もう一人は二十歳前後と思われる金髪の男性で、赤毛の少女とは対照的に鋭い目つきをしている。
背丈も私よりずっと高く、私の倍……は言いすぎかもしれないが、そう思えるほどの長身。
こちらもローブを羽織っているので魔導士とわかる。
この二人も私と同じ受験生だろう。
しかし何故、私たちだけここに連れてこられたのか?
他の受験生たちはどうしたのだろう?
っていうか、ここで面接試験するの?
こんなだだっ広くて殺風景な場所より、もっと面接に向いてる部屋があると思うんだけど?
そんな疑問を訪ねるより先に、私をここへと連れてきた試験官の女性は口を開く。
「それではこれより、面接試験を行います。これが最終項目となりますので、頑張ってくださいね」
「――すみません」
金髪の男が挙手。
そのまま掲げた腕を私の方へと向け、人差し指を突き付けた。
「面接試験の前に、この子供を今すぐ追い出してほしいんですが」
「……はい?」
え? なに?
この子供って、私のこと? 私を追い出せって?
突然なに言ってんだ、この人?
試験官の女性も不思議そうに首を傾げる。
「あら……。ウィリアム・ガブリエラくん、それはどうしてでしょう?」
「この子供は魔力測定の際、不正を働きました。よって即刻失格処分とすべきです」
厳しい口調で糾弾するように言うウィリアムという男。
あ、そういえばこの金髪、確か実技試験の時に私と同じ組にいたな。
今思い出した。
それにしても不正だって? この私が?
冗談じゃない、私は不正なんてしていないぞ。
そもそも、必要もないのに不正などするものか。
筆記試験や他の実技試験の感触がイマイチで「ここで魅せなきゃヤバい」とか思ったなら話は別だが、どれも全く問題なく順調だったのだ。
なんなら順調すぎて、正直拍子抜けかもと思っていたくらいだ。
なのに危険を冒してまで不正をする意味がない。
「あの~……私、不正なんてしてないんですけど……」
「黙れ、この恥知らずめが。あれが不正でないなら、どうして
「いや、そんなのこっちが説明してほしいっていうか……」
「フン、どうせ大方、魔力が大きいと見せかけるために小細工をしたに決まっている」
ダメだ、話が通じない。
いやコレはアレだな、司書試験という戦場においてライバルを減らすために、意図して蹴落とそうとしているのか。やり方が姑息だぞ。
しかし、この話し方にこの横柄な態度……たぶんこの男は――
「俺はお前のような下賤で卑しい人間が嫌いだ。栄誉あるガブリエラ子爵家の人間として、相手が子供であろうと汚い行為を見過ごすワケにはいかない」
ああやっぱり。思った通り
『聖プロトゴノス帝国』には爵位というモノが存在する。
まずこの国は皇帝を社会的頂点とする君主制国家であり、皇帝が最高支配者として君臨し、国を統治。
そして次に権力のある立場として、皇帝から直々に特権を授けられた者たちがいる。
その特権こそ爵位であり、爵位の称号を持つ特権階級の人間たちのことを一般に貴族と呼ぶ。
貴族には序列として五等爵位があり、偉い順から公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵。
『聖プロトゴノス帝国』は封建制を執っているため彼らは皇帝と主従の関係にあり、皇帝の土地を代理者として管理するという名目で領地を賜り、領主として民から税を徴収して甘い蜜を吸っている。
公爵や侯爵ほどの高位爵位ともなれば預けられる領地もかなり広大で権力も強く、中には皇帝に対して躊躇なく意見できる者もいるほど。
広大な国土を持つ『聖プロトゴノス帝国』を管理するには封建制は有効だし、彼らの役割も理解しているつもりだが……それでも私は貴族という者たちが苦手だ。
それも前世の頃から。
基本的に爵位というのは血統による世襲制で代々受け継がれていくため、代が進むほどに自らの力で権力を勝ち取った者が少なくなっていく。
その結果生まれた時から特権階級だった子供が自分は特別だと勘違いし、中流階級以下の人間を露骨に見下すケースが多々見受けられるようになるのだ。
勿論、貴族全員がそうであるワケではないし、中には有能であったり階級で人を差別しないという人格者もいる。
私だってそういう貴族のことは尊敬している。
そんなのはわかっているのだが……なんか全体的に、貴族というだけでお高く留まっている感じが鼻に付くんだよな。
私の前世は下流階級、しかも孤児院育ちだったから、どうにもあの偉そうな態度が気に食わない。
なにかと言うと家名を出してくるのも、妙にイラッとする。
実は〝賢者〟と呼ばれた前世の頃に、当時の皇帝が私に爵位をくれそうになった時があったのだが、絶対に貴族の生き方は自分には合わないと思って丁重にお断りしたんだよな。
それに貴族特有の品行とかマナーとか社交辞令とか、そういうのも心底面倒くさかったし。
そんなワケで、私はあまり貴族という連中が好きでない。
勿論貴族というだけで差別する気はないし、あくまで私にとっての良い貴族と悪い貴族がいるというだけ。
残念なことに、このウィリアムという男は悪い貴族であるが。
「待ってくださいよ。証拠もないのに汚い行為だなんて決めつけないでくれます?」
「口を慎め、下流の民が。第一、俺はお前みたいな芋臭い田舎女が歴史ある司書試験を受けること自体不服なのだ」
「! いっ、芋くさ……!?」
「この〈魔女図書館〉は五百年前に〝賢者〟様が創設してからというもの、魔法に関する本という本を貯蔵し、その歴史を紡いできた。その偉大な業績は優れた血統を持つ者こそが継いでいくべきであり、お前のようなどこの馬の骨ともわからぬ下女が関わるべきではないのだ」
ム……ムカつく~~~!
なんだコイツ、傲慢で横柄にも程がある!
っていうか今の言い草、図書館の入り口で試験官の男と揉めた時から私のこと見てたな!
じゃなきゃ私が田舎出身だなんて知らないはずだし!
言ってやりたい、めちゃくちゃ言ってやりたい。
その〝賢者〟様って私のことなんですけどって。
言っても絶対信じてもらえないだろうし、今度は嘘吐き呼ばわりされそうだから言わないけど。
それに、偉大な業績は優れた血統を持つ者が継いでいくべきだって?
ふざけるな。私はそんなことを思って〈魔女図書館〉を運営していたんじゃない。
私はただ魔法に関する本を集めて、それを保管して、そして自由に読める場所が欲しかっただけ。
それ以上の目的もそれ以下の目的もない。私は私が望む場所を創っただけだ。
それがこうも後世の人間に曲解されてしまうとは……悲しくて涙が出てくるよ。
ウィリアムは再び試験官の女性の方へと向くと、
「……ここに集められた三人は、今年の司書試験において特に有望だと見做された者たち――そうではありませんか?」
「……」
試験官の女性は答えない。
だが否定もしないということは、あながちハズレでもないのだろう。
確かに、このウィリアムという男はそれなりに魔力があるように思う。
ハッキリとしたことはわからないが、魔力量だけなら上の下……いや私怨を込めて中の上という評価にしてやろう。
もう一人の赤毛の少女も同格か、やや低いくらいの魔力量ではなかろうか。
それにウィリアムの言葉が正しいなら、魔力量以外にも筆記や実技において両者共に高得点を取っている可能性が高い。
魔女や魔導士が言うところの才能が高い水準でまとまっているならば、それは確かに有望株と呼べるだろう。
「今年の司書試験の首席は、このウィリアム・ガブリエラこそが相応しい。こんな下女にチャンスを与えるようでは、〈魔女図書館〉の品格に傷が付きます」
「――それは、あなたが決めることではなくってよ?」
その時だった。ウィリアムのご高説に対し、魔法試験場に入ってきた