魔女図書館の最強賢者、二度目の人生は見習い司書に   作:メソポ・たみあ

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第11話 見習い司書

 

「――! マーガレット・ヴァリアンテ館長……!」

 

 この場に現れた魔女を見て驚くウィリアム。

 

 私たちの前に姿を見せたのは、さっき私を助けてくれた〈魔女図書館〉の現館長マーガレットだった。

 相変わらず威風堂々としており、その佇まいだけで見る者を黙らせる風格がある。

 

「あなたたち三名は、〈魔女図書館〉館長であるこの私が、受験生たちの中から直々に選出しました。よってあなたたちの面接試験は私が直接行います。いいわね?」

「マーガレット館長、もう一度申し上げますが、この子供は不正を――!」

「発言を許可した覚えはないけれど」

 

 マーガレットは鋭い目つきでウィリアムを睨み付ける。

 背筋が凍るような彼女の覇気に、ウィリアムは堪らず口を噤んだ。

 

「それとも、あなたは私の決定に異議があるとでも?」

「い、いえ……」

 

 完全に委縮し、マーガレットから目を逸らして俯くウィリアム。

 

 ほほぉ、やるなぁ。流石は現館長。

 子爵家の令息を一発で黙らせてしまうとは、その肩書きに違わぬ女帝っぷりだ。

 

〈魔女図書館〉は今や『聖プロトゴノス帝国』が世界に誇る重要施設であり国家遺産。

 それでいて魔法統治国家の知識が全て集約された、言うなれば国の記憶そのもの。

 

 そんな場所の館長を務めるとなると当然様々な貴族の協力者がいるだろうし、もしかすると皇帝とも直に繋がっているかも……いや、確実に繋がっているだろうな。

 五百年前に私が館長を務めていた時から、既に繋がりはあったくらいだし。

 

 そんな人物に発言を封じられたら、もうウィリアムも引き下がる以外にできないのだろう。

 

 ……とはいえ、別に私は〈魔女図書館〉館長に女帝感を求めるつもりはないのだけど。

 初代館長である私自身、別に女帝として君臨しているつもりはなかったし。

 なんなら女帝って言葉は私に一番似合わないかもしれないな。

 

 まあでも、やかましい貴族令息を黙らせてくれたのは助かる。

 なんだかんだ今日だけで二度も助けてもらってしまったな。感謝感謝。

 

 そんなことを内心で思っていると、ふとマーガレットと目が合う。

 すると彼女は、私を見てほんの少しだけ微笑んだように見えた。

 

「さて」

 

 しかしマーガレットはすぐに私から目を逸らし、改めてこの場に集められた三名の受験生それぞれを一瞥する。

 

「それじゃあ、さっそく各々の志望動機から……と言いたいところだけれど」

「「「……?」」」

「お話を聞く前に――あなたたちの実力(・・)を見せてもらいましょうか」

 

 彼女はそう言うと、スゥッと小さく息を吸い、

 

「風と土、我が魔力を流砂の血へと変え、守護者たる砂の巨人を生み出せ――【砂人形の(デザート・)魔法(ドール)】」

 

 ――詠唱。

 その刹那、大量の砂粒がどこからともなく表れて床へと溜まり、砂の噴水のように沸き上がる。

 砂の噴水はどんどん大きくなり、徐々に形を変え――最後には、砂の巨人へと変貌した。

 

 そんな光景を目の当たりにしたウィリアムは、驚いて両目を見開く。

 

「! 砂のゴーレム……!? これほどの巨体を、こうも簡単に……!」

 

 彼が驚くのも無理はない。

 マーガレットがやって見せたのは〝人工精霊〟の召喚。つまり〝精霊魔法〟だ。

 

〝精霊魔法〟で呼び出せる使い魔の種類は小さくて弱い存在から大きくて強い存在までピンキリであり、大きくなればなるほど、強くなればなるほど、術者が消費する魔力も多くなり、また扱いも困難になる。

 

 マーガレットが呼び出した砂のゴーレムは私の身体の三倍、いや四倍の大きさはあろうかという巨躯で、これだけの巨体を操るとなれば魔力の消費も激しいはずであり、如何に彼女が持つ魔力量が多いかを物語っている。

 

「あなたたちには今から、このゴーレムを倒してもらうわ。勿論、魔法を使ってね」

 

 マーガレットは冷徹な表情を崩すことなく、私たちに向かって言う。

 

「と言っても、ゴーレムはあなたたちへ危害を加えない。この場を動くこともないから、あなたたちはただこの子へ魔法を撃ち込むだけで結構よ」

「な、なに……? ということは、俺たちは一方的に攻撃するだけでいいのですか?」

「ええ」

 

 ウィリアムの質問に対し、マーガレットは短く答えた。

 するとウィリアムは得意気に口の両端を吊り上げる。

 

「ならば難しいことはありませんね。一番手はぜひ俺にやらせてください」

「いいでしょう。では制限時間は、この砂時計の砂が下のガラスに落ち切るまで」

 

 マーガレットは砂のゴーレムから少し離れると、ローブのポケットから砂時計を取り出して手の平の上に置く。

 その砂時計は魔力を帯びてフワリと浮遊すると、クルッと上下の向きを変えて時間(タイムリミット)を刻み始めた。

 

「相手は〝砂〟のゴーレム……。精霊の〝属性(エレメント)〟がわかっているなら、対処など容易い」

 

 ウィリアムはスッと右腕を上げ、

 

「風と風、木枯らし舞うつむじ風を肥大させ、宙の渦潮と化して()の者を吹き飛ばせ――【竜巻の魔法(ブラスト・トルネード)】」

 

 魔力を練り、魔法を発動。

 その〝属性(エレメント)〟は――〝嵐〟。

 

 魔力によって生み出された大きく強烈なつむじ風が、うねり荒れる風を刃へと変えて砂のゴーレムへと襲い掛かる。

 

 魔法と魔法の戦い。

 それは魔力と魔力のぶつけ合いであると同時に、想像(イメージ)想像(イメージ)のぶつかり合いでもある。

 

 魔法は頭の中で精密にイメージできればできるほど、その効果や威力が上がる。

 そして精密なイメージで組み上げた魔法を出力(アウトプット)しようとすればするほど魔力を多く消費するし、高い出力限界も要求される。

 

 魔法に対する知識、イメージ、そして魔力の量、魔力の出力。

 それらが高い次元でまとまることを魔女や魔導士たちは才能(・・)と呼ぶ。

 勿論、弱点属性のことを把握しているのも魔法に対する知識の一部であり、才能の一部だ。

 

 ウィリアムの放った【竜巻の魔法(ブラスト・トルネード)】はきちんと〝砂〟属性の弱点を把握した上で放ったモノであり、魔力の出力もそこそこ。

 この魔法を選択したのは「嵐が砂を吹き飛ばすイメージ」をわかりやすく具現化した結果であろう。

 

 そういう具体的なイメージを持つのは、こと魔法においては大事。

 傲慢な態度を取るだけあって、ウィリアムは魔法の戦いを理解はしているらしい。

 

 そうして、触れるモノ全てを斬り裂き薙ぎ払う【竜巻の魔法(ブラスト・トルネード)】は砂のゴーレムに直撃し、その半身を吹き飛ばした。

 

「ふん、どうだ! やはりこのウィリアム・ガブリエラの才を以てすれば――」

 

 マーガレットが課した試練に合格したと確信し、得意気になるウィリアム。

 しかし――次の瞬間だった。

 

 吹き飛ばされたはずの砂のゴーレムの半身が、一瞬で再生する。

 まるで、時間が逆戻りしたみたいに。

 

「――!? なっ……!」

 

 ウィリアムはその光景に驚きを隠せない。

 一方のマーガレットは眉一つ動かさず、冷徹な表情で試練の経過を見守る。

 

「どうしたの? 私の砂人形はまだ倒れていなくってよ?」

「くっ……!」

 

 ――精霊とは「物質に宿る意志を持った魔力」だ。

 これは〝天然精霊〟であろうと〝人工精霊〟であろうと変わらない。

 

 精霊という存在を生命体と定義するか非生命体と定義するかは昔から議論があり、考え方は人によって異なる。

 しかし私はその実態がなんであれ、生物に置き換えて考えてみるとイメージしやすいと思っている。

 特に〝人工精霊〟の場合はそうだ。

 

 マーガレットが召喚した【砂人形の(デザート・)魔法(ドール)】を例に取ろう。

 彼女は砂を触媒とし、己の魔力を流すことで砂人形を生み出した。

 これは魔法によって砂を肉体に、魔力を血液に見立てたと考えてもらえばよい。

 

 と言っても砂はどこまでいっても砂であり、剣で斬られようが槍で突かれようがサラサラと流れるだけなので、物理攻撃に対してはほとんど無敵で不死身に近い。

 非常に強力な〝人工精霊〟だ。

 

 しかし、魔法をその身に受けるとなれば話は別。

 ましてや弱点属性ともなれば。

 

 魔力に対して魔力をぶつけると、互いに打ち消し合おうとする性質がある。

 とはいえそれは互いが同じ属性または循環関係でない属性の場合の話であり、これがどちらかが弱点属性だった場合、同等の魔力であれば片方が一方的に打ち消される。

 

砂人形の(デザート・)魔法(ドール)】の属性は〝砂〟であり、そこに循環関係にある〝嵐〟属性の魔法をぶつければ、基本的に〝砂〟の魔力は一方的に打ち消される。

 

〝人工精霊〟にとっての魔力とは血液だ。

 体内を流れる血液を打ち消されれば肉体を維持できなくなり、消滅する。

 

 だからウィリアムの【竜巻の魔法(ブラスト・トルネード)】を受けた砂のゴーレムは跡形もなく消滅する、はずだった。

 

 しかし砂のゴーレムは何事もなかったかのように再生し、再びウィリアムの前に立ちはだかった。

 ウィリアムにとって、これは悪夢以外のなにものでもない。

 

 何故そんなことが起こり得るのか?

 真っ先に考えられるのが、ウィリアムの魔力とマーガレットの魔力に隔絶たる差があるという可能性。

 

 仮にウィリアムの魔力を50とした場合、マーガレットの魔力が400……いや500ほどもあれば属性同士の循環関係、つまり弱点を無視できるかもしれない。

 

 実際、マーガレットは相当な魔力量を持つはずだ。

 現代にあっては随一と言っていいかもしれない。

 だが、ウィリアムは格下でこそあれ、それなりの魔力はちゃんと持っている。

 そんな彼が放った魔法を無視できるほど、両者に魔力量の差があるだろうか……?

 

 それに砂のゴーレムが再生する様子が、なんだかおかしかった(・・・・・・)ような……?

 

「ま、まだまだ……!」

 

 その後もウィリアムは魔法を発動し、砂のゴーレムへ攻撃を加えていく。

〝嵐〟属性の魔法を何度も発動するも、砂の巨体を吹き飛ばしたと思った矢先に再生されてしまう。

 

 仕方なく発動する魔法を〝水〟、〝炎〟、〝樹〟などの属性に切り替えて果敢に攻めるも、結果は全て同じ。

 そうしている内に――遂に砂時計の砂が、下のガラスの中へと全て落ち切った。

 

「そこまで」

 

 マーガレットが時間切れを宣言。

 ウィリアムは膝から床に崩れ、がっくりと項垂れた。

 

「ゼェ……ゼェ……チ、チクショウ……!」

 

 額から滝のように汗を流し、激しく息を切らすウィリアム。

 魔力は消費しすぎると術者の生命力、つまりは体力を奪っていく。

 

 これは体内に保有している魔力が底をつき、それでも魔法を発動しようとして人体が無理矢理に体力を魔力へと変換するために起こる現象だ。

 

 そうして体力まで完全に底をつくと、待っているのは――〝死〟。

 ウィリアムは魔力を消費し尽し、かなりギリギリまで体力もすり減らしたようだが、最後の一線を越えなかったのは賢明だな。

 

「さてと……」

 

 ウィリアムの失敗を見届けたマーガレットは、続けて私の方へと視線を送ってくる。

 

「メルティナ・ロウレンティア。あなたは、この砂人形を倒せるかしら?」

 

 試すように、聞いてくる。

 その眼差しはあくまでも鋭く冷徹。

 

 相手がウィリアムであろうと私であろうと、自らが課した試練ならば平等に評価するという彼女の意志が汲み取れる。

 

 そんな彼女に対し、

 

「…………はぁ」

 

 私はポリポリと後頭部を掻き、ため息を漏らした。

 

茶番(・・)、ですね」

「……なんですって?」

「最初は驚きましたけど、砂のゴーレムが攻撃魔法を受けている様子を見ている内に、流石に気付いちゃいましたよ」

 

 ――そう、私は気付いた。

 

 どう考えたって、砂のゴーレムがあんなにもダメージを受けないのはおかしい(・・・・)

 ならばなんらかの仕掛け(トリック)があるはずだ、と。

 

 そして私が導き出した答えは――コレ(・・)だ。

 

「〝解放(λύω)〟〝真実( ἀλήθεια )〟。我が(まなこ)を曇らせる偽りの世界から解き放ち、真実の光景を白日の下に晒し給え――【解幻の魔法(ディウス・フィディウス)】」

 

 魔力を練り、詠唱し、発動。

 

 すると目の前に立っていた砂のゴーレムの身体に、ザッと雑像(ノイズ)が走る。

 その雑像(ノイズ)は見る見るうちに大きく乱れ、最終的に――砂のゴーレムは、私たちの目の前から完全に消失した。

 

 巨体が消え去る様はまるで砂のゴーレムだけが現実から切り抜かれたかのようで、どこか私たちの〝目〟が解放されたかのような感覚があった。

 

 砂のゴーレムが突如として消え去る光景を目撃したウィリアムと赤毛の少女は、驚きのあまり瞼を大きく見開く。

 

「「こ、これは……!?」」

「【幻惑の魔法(イルージョン・ミスト)】ですよ」

 

 驚く二人対し、私は説明してあげる。

 

「私たちは、マーガレット館長の幻惑の魔法にかかっていただけなんです。砂のゴーレムなんて、初めからどこにもいなかったんですよ」

「な、なんだと!? しかし館長がそんな魔法を発動した素振りは……!」

「〝霧〟属性の【幻惑の魔法(イルージョン・ミスト)】は、魔力が尽きない限り一定の場所に霧として漂わせておくことができます。大方、私たちがこの場所に来る前から魔法を発動して待ち構えていたのでしょう。それに術者の力量によっては霧を極限まで薄めて透明に近付け、肉眼で見えないようにすることもできるはず」

 

 淡々と語る。

 しかし私は「もっとも」と言葉を加え、

 

「そんなのは、あくまで理論上のお話ですが。長時間に渡って幻惑効果のある霧を漂わせておくなんて、途方もない魔力がなければ不可能です。それに限りなく透明な霧の生成など、並大抵の知識や想像力ではまず実践できない……」

 

 今目の当たりにした魔法がどれだけ凄い芸当なのか、ウィリアムたちに言って聞かせる。

 そしてマーガレットの目を真っ直ぐ見据えて、

 

「――お見事です、マーガレット・ヴァリアンテ館長。あなたはまさに、〈魔女図書館〉の館長を任されるに相応しい魔女だ」

 

 彼女を賞賛する。

 

 私は正直、嬉しかった。

 これほど人物が、私の後継者として〈魔女図書館〉を守ってくれていることが。

 

 彼女は超一流の魔女だ。

 魔女としての修練も申し分ないほどに積んでおり、魔法に関する知識だって並外れている。

 

 下手をすれば、〈魔女図書館〉に貯蔵される本のほとんどを一読はしているかもしれない。

 そう思わせられるほどには、卓越した知識と技量を持っている。

 

 彼女がどれほど〈魔女図書館〉を愛しているのかは、まだわからない。だが「自分がこの場所を預かっているのだ」という誇りは明確に感じ取れる。

 

 私はいずれ〈魔女図書館〉の館長に返り咲いてやるつもりだが――それまでは、彼女に館長の椅子を預けておいてもいいだろう。

 そう思える安心感が、マーガレットにはある。

 

 私の賞賛を受けたマーガレットは、

 

「……フッ、館長に相応しい魔女、ね」

 

 ようやく冷徹な表情を崩し、柔らかな笑みを浮かべる。

 

「あなた、随分偉そうなことを言うのね。一体何様のつもりかしら?」

「え? あ、いや、つい……」

「それに随分あっさりと私の魔法を破ってくれるじゃない? あなた、本当に何者?」

「わ、私は別に~、どこにでもいるごく普通の一般魔女ピーポーで~……」

 

 しどろもどろになって答える私。

 

 本当は普通(・・)とは言えないけれど。

 なにせ転生者だし。それに〈魔女図書館〉の初代館長だし。

 でもそんなこと信じてもらえないだろうから言わないが。

 

「ところで、【幻惑の魔法(イルージョン・ミスト)】を破ったあなたの魔法……詠唱の発音に聞き覚えがないわ。でも私の知る限り、古代西方式魔法の詠唱に近かったように感じられた。違う?」

「おお、よくご存知ですね」

「――古代西方式魔法は、既に扱える者が途絶えた失われた魔法とされているはずなのだけれど」

 

 ――ギクリ

 まずい、誘導尋問だったぞ。

 

 そういえば、なにかの本を読んだ時ちょこっと書いてあったかもしれない。

 古代西方式魔法は失われた技術だって。

 忘れてたワケじゃないけど、ついうっかりしてた。

 

「どうして、あなたがそんな魔法を会得しているの?」

「そ、それは~……実家にあった本が古くて、たまたま詠唱の仕方が載ってて~」

「……」

 

 もの凄い疑いの目を向けてくるマーガレット。

 もう信じようという気配が一ミリもない。

 

 うぅ、やめて、そんな目で見ないで……。

 私はただの転生者……五百年前にはまだ古代西方式魔法が使われていただけで……。

 

 それに実は、今発動した古代西方式魔法には〝複合転化(シュレーフリ)のねじれ魔法〟も含まれていたりするけど、余計に話がこじれそうだから黙っておこう……。

 

 私は心の中で必至に言い訳を考えるが、

 

「……まあいいわ。これ以上は聞かないでおいてあげる。言えない秘密の一つや二つ、誰にだってあるものね」

 

 マーガレットはそう言うと、それ以上疑念の目を向けるのはやめてくれる。

 

「メルティナ・ロウレンティア、今から最後の質問(・・)をします。私をがっかりさせない答えを返して頂戴ね」

「! はい」

「あなたが〈魔女図書館〉の司書になろうとする理由はなに? 一体なにを成すために、司書になろうと言うかしら?」

 

 それは、最後にしては意外な質問だった。

 

 いや、嘘。やっぱり意外でもないか。

 つまり志望動機ってワケだもんな。

 

 ならありのまま答えてやろう。

 

「私が司書になる理由は――世界に散らばった【魔導書(グリモワール)】を、全て回収するためです」

 

 淀みなく、ハッキリと答える。

 するとマーガレットは、とても驚いたような顔をした。

 

「【魔導書(グリモワール)】を……?」

「はい。〈魔女図書館〉に保管されていた【魔導書(グリモワール)】が何者かに盗まれ、世界中に散らばり、平和を脅かしていると両親に聞きました。私は【魔導書(グリモワール)】の脅威から人々を守りたいんです」

 

 ……うん、まあ、嘘は言っていない。

 ぶっちゃけ私は自分で書いた黒歴史本を回収して、これ以上世間様に自らの恥ずかしい過去を晒したくないだけだ。

 私は私の尊厳を守りたい、ただそれだけ。

 

 でもそれが結果として世界の平和に繋がるというのなら、モノはついで。

 やってやろうじゃないか。世界平和ってヤツを。

 

 私の答えを聞いたマーガレットは、

 

「ア……アッハッハッハ! 凄い、その回答は流石に予想外だったわ!」

 

 初めて大声を上げ、目尻に涙を浮かべて愉快そうに笑う。

 それは今までの冷徹なイメージからは想像もできない姿だった。

 

 ほえ~、この人笑うんだ……。

 

「あなた、本気で言っているの? だったら中々大きく出た(・・・・・)わね」

「わ、笑うことないじゃないですか。司書を目指すなら、皆それくらい思っていると思いますよ? ね?」

 

 私はクルリと振り向き、背後にいた赤毛の少女に尋ねてみる。

 すると彼女はビクッと肩を震わせ、ブンブンと頭を縦に振った。

 

「ふへ!? そ、そうですね、アタシもそう思ってます……!」

「ですって」

 

 再びマーガレットの方を見る私。

 彼女は目尻の涙を指先で拭き取り、

 

「フフ、面白い。本当に気に入ったわよ、メルティナ・ロウレンティア」

 

 息を整え、改めて私のことを見つめる。

 

「〈魔女図書館〉三十一代目館長マーガレット・ヴァリアンテが、この場であなたに合格(・・)を言い渡します。明日から私直属の〝見習い司書〟として働くように。いいわね?」

「は、はい! ありがとうございます!」

「あなたには、色々期待しているわ」

 

 この瞬間、私の司書試験は合格という形で無事幕を閉じた。

 

 

 ――こうしてかつて〈魔女図書館〉を創設した〝賢者〟は、なんの因果か五百年後の世界にて見習い司書として働き始める。

 でも改めて考えると、再スタートを切る感じがあってなんだか楽しいかもしれない。

 

 待っていろよ、黒歴史本たち。

 なんとしても、お前らを回収してやるからな……!

 私の尊厳のために……!

 

 あ、ちなみに私と面接試験を共にしたウィリアムとかいう貴族令息は、司書試験に落ちたとかなんとか。

 めでたしめでたし。

 




第一章はここまでとなります。
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