魔女図書館の最強賢者、二度目の人生は見習い司書に   作:メソポ・たみあ

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第3話 進化していない

 

 転生してから六年の月日が経った。

 

 メルティナの肉体もすくすくと成長し、今や立派な六歳。身体も随分大きくなった。

 とはいえ、両親の背丈と比べればまだまだ小人同然だけれど。

 

「メルティナ~、ご飯にするわよ~」

「はーい」

 

 台所の方から聞こえてくる母ロベリアの声に対し、適当な返事を返す。

 しかしついつい目と指先の動きを止められず、ペラリ、ペラリと薄い紙をめくっていく。

 

 返事したにもかかわらず姿を現さないので、私の様子を見にロベリアがやってきてしまった。

 

「メルティナ、また本を読んでいたの?」

「うん」

 

 私は床に座り込んで、本を読んでいた。それもえらく分厚い本を。

 

 本のタイトルは〝魔法の進化、及び変遷の歴史〟。

 その名が示す通り、魔法に関する進化の歴史がまとめてある本だった。まあ、入門書の類である。

 

 それなりに面白くはあったが、一つ言えるのは、六歳児が読む内容ではなかったな。

 

「メルティナったら、またそんな難しい本を読んでいたの? もっと絵本とか読んでもいいのに……」

「や。こういう本が面白い」

 

 さも六歳児ぶって答える私。

 子供らしく喋らない子供など親からすれば不気味以外の何者でもないだろうから、両親と会話する時はできるだけ幼稚に喋るよう心掛けている。

 

 ……もっとも、六歳でこんな小難しい本を読んでいる時点で既に不気味と思われているかもしれないが。

 

 

 ――転生してからできるだけ多くの本を読み、両親や村人の話に耳を傾けてきたことで、この五百年後の世界のことはそれなりにわかってきた。

 

 まず人々の生活様式や慣習など。

 これは当然と言うべきか、当時から大きく変わっている。

 

 身近な例を挙げるなら、今現在の(メルティナ)自身の身分でもある農民の扱い。

 五百年前の『聖プロトゴノス帝国』では、特に田舎においては農奴制の色合いが強かった。

 勿論地域にもよるが、基本的に農民は領主に一生涯隷属し、生まれた土地に縛り付けられ、死ぬまで農作物を税として納め続けるべきとされていた。

 

 例外的に土地を去る時というのは、前世の私のように孤児となって引き取り手がいなかった場合や、なんらかの罪を犯して領地を追われた時などに限っていた。

 あとは魔法を扱う才能があって頭もいいと領主に認められた時なんかに、勉学のために土地を離れて都会へ送られるケースがあったかな。

 

 しかし五百年経った現在では、農奴制はほぼ完全に消え去っている。

 一応農民は農作物を領主に税として納める義務はあるが、引っ越しや移転で生まれた土地を離れるのは自由だし、収穫した農作物が余ったら自由に売買することも許可されている。

 

 何故これが許されるようになったのか――見方を変えれば何故可能になったのかと言うと、農作物を安定して大量に栽培する魔法が広く普及したからだ。

 

 五百年前も農作物を疫病から守ったり成長を促進させたりする魔法は研究されていたが、当時はまだ研究途中といった感じで、効果も限定的だった。

 しかしその魔法が確立され、さらに本を通して全国に普及したことで、村に一人魔法を扱える者がいれば安定して農作物を収穫できるという環境が整えられたのである。

 

 これによって国や領主は飢饉に怯える必要もなくなり、農民たちは農作物を売ってお金を貯める余裕もできて、農奴制が崩壊した――という流れだ。

 

 長い歴史の中では、それでも私腹を肥やすために農奴制を維持しようとする悪徳領主もいたらしいが、農民らの反乱を起こされたりして結局は消えていったらしい。まさに時代の流れというヤツである。

 

 そんな感じで、今の世界は前世の頃と比べてかなり様変わりしている。

 そんな変化した世界のことを本などを通して知っていくのは、なんだか新鮮で面白い。こういう体験は個人的にはとても好きだ。

 

 ……だが一方で、この五百年後の世界で未だに腑に落ちない部分もある。

 それは――魔法に関して。

 

 これまで何冊か現代魔法の基礎理論に関する本は読んだし、今読んでいた〝魔法の進化、及び変遷の歴史〟という本を読んでもやっぱり同じ印象を抱いたのだが……「現代の魔法は五百年前と比べて進歩(・・)という領域を出られていないのでは?」と思ってしまうのである。

 

 間違いなく、五百年前の魔法と比べて、現代の魔法は着実に進歩している。

 先に農作物の例で挙げたように昔なら難しかったことが可能となって、世相に影響を与えた魔法だってしっかりある。これは充分に凄いことだ。

 

 だがなんというか、あまりにも正当に歩みすぎている気がする。

 どんな本を読んでみても、魔法の基礎的な部分が五百年前から変わっていない。

 

 魔力を持って生まれた人間が、人や本を通して魔法を学び、体内で魔力を練って魔法を発動する。

 これは極めて基礎的な部分である一方、そこが何一つ変化していないというのは、穿った言い方をしてしまえば魔法や魔力に対しての理解にあまり変化が見られないと言えてしまうようにも思える。

 

 要は〝魔法それ自体にとっての革新(ブレイクスルー)〟が起こっていない。

 やっていることが五百年前と変わっていないのだ。

 

 五百年前の魔女である私が現代魔法に関する本を読んでも、割とすんなり内容を理解できてしまうのがその証左だと思う。

 農作物を安定して収穫する魔法に関しても、それはあくまで〝農業〟の世界にとっての革新(ブレイクスルー)。魔法それ自体にとっての、とは言い難い。

 

 長い時を経てもやっていることが変わっていないのに、それを進化(・・)と呼べるだろうか?

 五百年前もの歳月があれば「凄い、魔法のレボリューションだ!」「なにそれ魔法なの!? もう魔法じゃなくない!?」みたいな、初見では脳が理解を拒むレベルの革新めいたなにかがあってもいい気がするのだけども。

 

 う~ん例えば、魔法の基礎理論が根本から覆るような世紀の大発見があって、魔力が全くない人物が扱える魔法が発明され、冷めた料理を入れてチン♪と音を鳴らせば一瞬で温まる箱だとか、魔法を発動しっぱなしにしなくても勝手に衣服を洗ってくれる選択桶だとか、使い魔として呼び出さなくても自立して部屋の掃除をしてくれる箒だとか……そういうのが出てきていてもいい気がするのに。

 

 もっと釈然としないのは、戦いに関する魔法――〝攻撃魔法〟に関してだ。

 

 魔法の中には、当然他者を傷付けるためのモノだって存在する。

 これらは人を襲うモンスターから身を守ったり、戦争のために使われたりする。

 

 個人の護身用魔法から敵国の兵士を一瞬で葬り去る対群魔法まで、種類も威力も種々様々。

 かつて魔女の中には、兵士として攻撃魔法を専門に学ぶ者だっていた。

 

 私が転生してから読んだ本の冊数など、まだまだたかが知れている。

 だから現代の攻撃魔法に関して、もう全部わかったなどとは口が裂けても言えないのだが……少なくとも今まで読んだ本に記述されていた内容から抱いた印象を、率直に言わせて頂く。

 

 現代の攻撃魔法、五百年前からなにも進歩していない。

 なんなら、下手をすると退化している可能性まである。

 

 これまで読んだ本に記載されていた攻撃魔法は、どれもこれも私が知っているモノばかりだった。

 たま~に知らない攻撃魔法が載っていたとしても「ああ、あの魔法の派生か」とすぐに理解できてしまう程度の代物。

 

 どうして攻撃魔法が進歩していないのか?

 本から読み解く限り、その理由はおそらく『聖プロトゴノス帝国』が長らく戦争をしていないから。

 

 驚くべきことに、この五百年間一度も他国と戦争をしていないらしい。

 なので攻撃魔法を進歩させる必要性がなかったようなのだ。

 

 平和が続くなら新しく兵器を作る必要がないのと同じように、新しい攻撃魔法も編み出す必要はなくなる。

 野生のモンスター相手ならば昔ながらの攻撃魔法でも充分。

 そういう風潮が続いた結果、進歩が止まってしまったのだろう。

 

 喜ばしいやら、複雑な気持ちになるやら……。

 いやまあ、国が平和なのは間違いなくいいことではあるが。

 

 もっとも、それら魔法の情報は今まで読んだ本から断片的に得た情報に過ぎない。

 さらに色々な本を読んだり都会に出てみたりすれば、また新たな発見がある可能性は大いにある。

 むしろそうあってほしいとすら思う。だってその方が発見があって楽しいし。

 

 ともかく、だ。

 現代の魔法と五百年前の魔法に大差がないのは、ある意味では好都合。

 

 何故なら、私の知っている魔法がまだ通用する可能性があるし、新しい魔法を覚えるにも大きな苦労がかからないことを意味するから。

 

 今世でだって魔女になりたいからね。

 それに前世で培った経験と知識がどれだけ通用するかも試したいし。

 

「メルティナは本当に賢いのね。大きくなったら魔女になれるかもしれないわ」

「えへへ」

「さ、本を読むのもいいけれど、ご飯にしましょう。そろそろあの人も帰ってくるでしょうから」

「はーい」

 

 今度こそ読書を諦め、本を床へとおいて母ロベリアと仲良く手を繋ぐ。

 そうして料理が置かれたテーブルの方へと歩いていく。

 

 今日の料理はふんわり焼けた白パン、豆サラダ、オムレツ、野菜の酢漬け(マリネ)、それと表面がカリカリになるまで焼いた厚切りのベーコン。

 五百年前の感性を持つ私としては、これは農民の食事としてはかなり豪華に見える。とっても美味しそうだ。

 

 ごく普通の農民がこれだけ良質な食事にありつけるようになったのも、やはり農業世界に革新(ブレイクスルー)が起こった恩恵なのだろう。農業の進化は食事の進化に直結するから。

 

 パン一つ見ても、きめ細かい質のいい小麦を使っているのがわかる。

 昔は真っ黒で歯が折れそうなほど固いパンが当たり前だったのに。

 ああ、やはり進化とは素晴らしい。

 

 なんてことを思いながら席に座ると、

 

「ただいま。帰ったぞ」

 

 タイミングよく父トドックも帰宅。

 母ロベリアは幼い私の健康を気にして毎日同じ時間にご飯を作ってくれるので、日によってはトドックの帰りが間に合わない時もある。

 でも今日は家族三人仲良く食事ができそうだ。

 

 私たち家族は、三人で席に着いて食事を始める。トドックは妻の作った料理を美味しそう食べていたのだが、

 

「そういえば、今日村長が言ってたんだけどな」

「あら、なぁに?」

「〈魔女図書館〉の司書が、近く【魔導書(グリモワール)】の回収のために隣国へ送られるらしいんだ」

 




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