魔女図書館の最強賢者、二度目の人生は見習い司書に   作:メソポ・たみあ

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第7話 ただいま、私の〈魔女図書館〉②

 

 そんな感じで、私と試験官の男が睨み合っていた――そんな時であった。

 

 

「……なにか、問題事かしら?」

 

 

 私の背後から、そんな女性の声が聞こえてくる。

 その声に誘われ振り向くと――そこに立っていたのは、長身の美しい魔女だった。

 

 年齢はたぶん三十歳前後。

 背丈はおそらく百七十センチ近くあり、淡い碧色の髪を腰下まで伸ばしている。

 顔立ちもとても整っており大人の女性といった風貌で、紅い口紅がどことなく妖艶さも醸し出している。

 服装は紫色のローブに三角帽子、それと大きな杖と、まさに魔女のお手本のような出で立ちだ。

 

 ――私は一目でわかった。

 この女性、かなり腕利きの魔女。

 それも膨大な魔力を持った魔女だと。

 

 人間に宿る魔力というのは、通常目に見えない。

 その人間がどれだけの魔力を持つかというのを正確に知りたければ、専門の知識と魔法を会得した魔女なり魔導士なりにお願いして測定してもらい、国が指定した測定表に数値として記入してもらうしかない。これは昔も今も一緒だ。

 

 だが魔法に長らく関わって経験値を積んでくると、目の前の人物がどれだけの魔力の持ち主なのか、なんとなくわかる(・・・)ようになってくる。

 

 これはほとんど直感のようなモノなのだが、大きな魔力を持つ者の傍に寄るとビリビリと肌を刺されるような……そんな感覚を覚える気がするのだ。

 

 この魔女はまさにソレだ。

 肌を刺してくるような威圧感を感じる。

 五百年前でもこれだけの魔力の持ち主はそういなかったように思う。

 

 しかもそれだけではない。

 彼女からは十二分に魔法の勉学や修練を積んできたという、風格のようなモノも感じ取れる。

 これは魔法に限った話ではないが、その道に通ずる本物のプロフェッショナルというのは、佇まいでわかるモノだ。

 

 この女性は紛れもない一流の魔女。

 もし当時の私の弟子になっていたら、一番弟子になっていたかもしれない。そう思わせるだけのなにかがある。

 

 そんな覇気のある魔女を見た試験官の男は、目を丸くして驚く。

 

「マ……マーガレット館長(・・)……!」

「司書試験の当日は揉め事を起こすなと、言っておいたはずなのだけれど」

 

 冷たい眼差しで試験官の男を睨み付けるマーガレットという女性。

 

 ……館長(・・)? 今、この魔女を館長と呼んだか?

 となると、彼女が〈魔女図書館〉の現館長(・・・)

 

 う……ぬ……むぅ~~~ん……。

 

 創設者にして初代館長である私を差し置いて、よくも館長などと!

 ……という嫉妬心を覚えると同時に、まあこの人だったら妥当な気もするな、という気持ちがない交ぜになって、なんとも感想に困る。

 

 いやでも嫉妬心の方が勝るかな。

 だって私の〈魔女図書館〉だもの。

 

「それで、一体なにを騒いでいたの?」

「はっ! この田舎者の子供が偽物の証明書を提示したので、追い払おうとしていたところです!」

 

 ザッと姿勢を正して答える試験官の男。

 

 ん? おい待て。なんかさっきと言ってること違うんですけど?

 直前まで田舎者だって理由でいちゃもん付けてたくせに、今度は証明書が偽物だぁ?

 凄いなぁ、厚顔無恥とはまさにこのことだ。

 

「ちょっと、さっきと言ってることが違うじゃん! それにこの証明書は偽物なんかじゃないってば!」

「うるさい、このクソガキめ! マーガレット館長の前で口答えなど許さないぞ!」

 

 口論になる私と試験官の男。

 

 もう怒った。もうムカついた。

 こうなったらこの男を魔法で吹っ飛ばしてでも、無理矢理会場に入って――

 

「……」

 

 プンスカと怒る私を、マーガレットは黙って見つめる。

 しかし数秒ほど無言になった後に試験官の男の方を向いて、

 

「あなた、気付かない(・・・・・)?」

 

 尋ねた。

 それに対し試験官の男は、不思議そうに首を傾げる。

 

「は……? なにをでしょうか?」

「気付かないなら、もういいわ」

 

 言い捨てるようにマーガレットは言うと、今度は再び私の方を見てくる。

 

「ねぇ、お嬢さん」

「? はい?」

「今から問題(・・)を出すから、答えて頂戴」

「……??? はぁ……」

 

 突然そんなことを言われ、思わず気の抜けた返事をしてしまう私。

 だがマーガレットは相変わらず真っ直ぐにこちらを見つめ、

 

「西方式魔法の基礎でもある〝属性(エレメント)〟。その四大元素と二大原素とは?」

 

 そんな問題を出してくる。

 ……なにそれ、基礎中の基礎なんだけど。

 普通に答えていいのかな?

 

「四大元素は〝火〟〝風〟〝水〟〝土〟。二大原素はこれら四大元素を生み出したとされる原初の()である〝光〟と〝闇〟ですよね」

「なら、それらを基にした派生属性とは?」

 

 続けての問題。正直答えるの面倒くさいなと思ったりもしたが、仕方ないので私は「派生属性は――」と話し始めた。

 

 

四大元素からなる派生属性

 火+火=〝炎〟

 火+風=〝雷〟

 火+水=〝霧〟

 火+土=〝鋼〟

 

 風+風=〝嵐〟

 風+水=〝音〟

 風+土=〝砂〟

 

 水+水=〝氷〟

 水+土=〝樹〟

 

 土+土=〝岩〟

 

 

二大原素を基とした派生属性

 光+光=〝極光〟

 光+火=〝強化〟

 光+風=〝免疫〟

 光+水=〝治癒〟

 光+土=〝浄化〟

 

 闇+闇=〝極闇〟

 闇+火=〝弱体〟

 闇+風=〝病〟

 闇+水=〝毒〟

 闇+土=〝呪〟

 

 

 これら二十の属性が、四大元素と二大原素を組み合わせた西方式魔法の派生属性となる。

 私たちが発動する魔法(・・)は、そのほとんどがこの中のいずれかの属性と特徴を持つ。

 

 ――〝四大元素〟と〝二大原素〟というのは、『聖プロトゴノス帝国』で一般に普及している〝西方式魔法〟の根底にある概念であり、基礎理論だ。

 

 まずこの世界『アルカディア』には、大きく分けて三つの魔法体系が存在する。

 

 一つ目は主に西側の大陸及び国家で主に扱われる〝西方式魔法〟。

 二つ目は主に東側の大陸及び国家で扱われる〝東方式魔法〟。

 そして三つ目がそのどちらにも属さない〝精霊魔法〟。

 

 一言で魔法と言っても、この三つはそれぞれ概念からして異なる。

 

 先も言ったように西方式魔法は〝属性(エレメント)〟と言って「万物は〝火〟〝風〟〝水〟〝土〟そして〝光〟と〝闇〟によって構成されている」という考えが根底にあり、そのイメージに基づいて体内で魔力を練って、魔法へと変換して出力する。

 

 対して東方式魔法は〝五行思想(エーテル)〟という概念に基づいており、「万物は〝火〟〝水〟〝木〟〝金〟〝土〟そして〝陰〟と〝陽〟によって構成されている」とし、このイメージに沿った魔法が生み出される。

 

 西方式も東方式もそれぞれに近しい部分はあるし、長い歴史の中で互いに影響を与え合ってきた経緯があるので、似通っているのはなんら不思議ではない。

 

 とはいえあくまで異なる概念同士。

 西方式魔法を学んだ者がポンと東方式魔法を発動できたりはしないので、魔法は魔法でも基本的には別の分類だ。

 

 そしてそれ以外の魔法である精霊魔法であるが、これは一種の自然信仰(アニミズム)から派生した魔法と言ってもいいだろう。

 

 この世界には〝精霊〟という存在がいる。

 彼らは言うなれば「物質に宿る意志を持った魔力」であり、自然を自然たらしめてくれている、ある種()のような存在でもある。

 

 この〝精霊〟というのは人の手によって生み出すことも可能で、人間が魔法によって生み出した個体を〝人工精霊〟、自然界に元々存在していた個体を〝天然精霊〟と呼ぶ。

 

〝人工精霊〟はなんらかの物質を触媒として召喚すれば、使い魔として使役することが可能だ。

 この〝人工精霊〟を生み出す技術も『聖プロトゴノス帝国』ではごく一般的に普及していて、家政婦や執事の代わりとして家の中や町の中で働いてもらっている光景も珍しくはない。

 

 一方、〝天然精霊〟はそう簡単に使い魔になどできない。

 大自然そのものの化身でもある彼らは誇り高く警戒心も強く、人間に対して友好的とは言い難い。

 オマケに個体によっては途方もない魔力を有していることもあり、人の手に負えない場合もあるという。

 

 そこで供物や祈祷を捧げることにより〝天然精霊〟を奉り、敬い、そうすることでその土地の守り神(・・・)となってもらった彼らから力を借りるのが原初の精霊魔法だ。

 

 この精霊魔法はどちらかと言えば魔法の技術が発展していない少数民族とか、古の伝統や風習を大事にして「人間は大自然と共生すべき」と考える一部地域でのみ扱われることが多い。少なくとも私はそう認識している。

 

 もっとも『聖プロトゴノス帝国』内で〝天然精霊〟の研究はあまり進んでおらず、現在でも未解明とされる部分は多いのだが。

 なにせこの国が位置するエリュシオン大陸では〝天然精霊〟を使役する精霊魔法を扱う地域が全く存在せず、調べるにはわざわざ他の大陸まで足を運ばねばならない。

 場合によっては鬱蒼とした密林の生い茂る未開の地とか、東の果てにある小さな島国とか、そういう遥か彼方の異国の地まで赴かねばならないこともある。

 

 遥か昔、それこそ五百年と言わず二千年とか三千年くらい前にはエリュシオン大陸内でも〝天然精霊〟を使役する精霊魔法は使われていたそうなのだが、西方式魔法の発展と共に姿を消していき、いつの間にか跡形もなく失われたのだとか。

 

 ――とまあ、私はマーガレットに対しそんなことをクドクドと言って聞かせた。

 ちょっと話が横道に逸れたりもしたが、関係あることしか言ってないし怒られるとかはないだろう。

 

「――っていう感じの答えで、如何でしょう?」

「……」

 

 私の答えを聞いたマーガレットは口元に指先を当て、なにやら思案するようにこちらを見てくる。

 

 ん~、まだ回答としては不十分かな?

 まあ基礎的なことしか言ってないしな。

 それなら、

 

「ちなみに『聖プロトゴノス帝国』では、四大元素と二大原素の中から二つの〝属性(エレメント)〟を組み合わせる技術が一般的とされていますが――三つ(・・)、あるいは四つ以上(・・・・)の〝属性(エレメント)〟を組み合わせる技術も存在しますよね」

「――!!」

「現代で再現できる人は少ないようですが、〝複合転化(シュレーフリ)のねじれ魔法〟を用いれば全く新しい――というより理論上は無限の属性(・・・・・)を生み出すことが可能です」

 

 なんの気なく、私は追加の回答を提示。

 これくらい答えられれば文句あるまい、と思って。

 

 しかし――私の答えを聞いたマーガレットは、両目を大きく見開いて驚愕の表情を露わにする。

 

「どうやって知ったの?」

「へ?」

「〝複合転化(シュレーフリ)のねじれ魔法〟なんて、どうやって知ったの? 答えなさい」

 

 どこか鬼気迫る雰囲気で、彼女は私に詰め寄ってくる。

 

 あれ? 私、なにかマズいこと言っちゃったかな?

 変だなぁ、〝複合転化(シュレーフリ)のねじれ魔法〟が禁忌になったなんて話、どの本を読んでも見かけなかったんだけど……。

 

「え、そ、その、実家にあった本にその一文が載ってて……」

「そんな、とうの昔に失われた魔法(・・・・・・・・・・・)について記述した本なんて、もうずっと世に出ていないはずよ。それこそ何十年も」

「ふぇ? そ、そうなんですか? あ、あはは、私の実家は田舎なので、昔の本が都合よく残っていたのかも~、なんて~……」

「…………」

 

 もの凄く疑わしいモノを見る目で私のことを睨んでくるマーガレット。

 

 いやまあ、実家の本に載ってたなんていうのは嘘なんだけど。

 というかそもそも、本に載っていなくたって私が知ってるのは当然だし。

 

 だって――〝複合転化(シュレーフリ)のねじれ魔法〟は、私が生み出した技術であり理論だもの。

 正確に言えば、前世の私が。

 

 この〈魔女図書館〉の中にも、私がそれについて記した本がちゃんと眠っているはず。

 ……保存状態が悪くて、ボロボロに朽ち果てたりしていなければの話だが。

 

 扱いが難しい魔法だから普及しなかったんだろうなっていうのは、この時代に転生して薄々気付いてたけど……しかしまさか、こんなに驚かれるほどとは。

 

 マーガレットは再び無言となるが、

 

「……なにか、魔法を見せて」

「はい?」

「なんでもいいわ。なにか魔法を見せて頂戴」

「な、なんでもいいんですか……?」

「早く」

 

 そう言って、私に魔法を発動するよう催促してくる。

 

 さっきからなんなんだ、この人?

 私に問題出したり魔法を使えって命令してきたり。

 性根の腐っている試験官の男との間に割って入ってきてくれたのは、ありがたいけどさ。

 

 ちぇ、面倒だなぁ。

 でもここで断れば余計面倒なことになるだろうし、大人しく従っておこう。

 

 そうだなぁ、ここは怪しまれないように、できるだけ単純なヤツにしておくか。

 それでいて現代の魔法らしいモノを、っと。

 

 私はマーガレットたちから少し離れ、体内で魔力を練ると、

 

「火と火、我が魔力を炎の牙と鱗へ変え、宙を這う灼熱と化せ――【炎蛇の魔法(フレイム・スネーク)】」

 

〝炎〟の魔法を発動した。

 直後、魔力で生成された火炎の蛇が現れ、私の身体を包むように宙で渦を巻く。

 私の周囲は炎蛇の発する灼熱により高温となるが、術者である私自身はちっとも熱くない。

 とはいえこの炎蛇に触れたり牙で噛まれたりすれば、ただではすまないだろう。

 

炎蛇の魔法(フレイム・スネーク)】は火属性に火属性を掛け合わせた、炎属性の攻撃魔法だ。

 パッと見は炎蛇という〝人工精霊〟を召喚しているように映るかもしれないが、この蛇はあくまで炎で形を作っているだけ。

 なので意志はなく、私が敵と見做した相手に対して飛んでいくだけのシンプルな魔法である。

 

 魔法というのは、如何に頭の中で精密なイメージを作れるかによって、威力や効果が変わる。

 さらに術者の魔力量や出力によっても差が生じるため、仮に二人の術者が同じ魔法を使ったとしても、全く同じ結果となることはない。

 

 魔法に対する知識、イメージ、そして魔力の量、魔力の出力……それらが高い次元でまとまることを、魔女や魔導士たちは才能(・・)と呼ぶ。

 逆にそれらがまとまらなければ「才能がない」などと罵られるのだ。

 

 もっとも、私は才能なんて言葉にさほど関心がないけれど。

 確かに魔力量や出力は大きい方がいいだろうし、頭がいいに越したことはないだろうが、それよりも魔法が好きであることの方が大事だと思う。

 もっと言えば、好きなことを好きなままであり続ける忍耐かな。

 

 私は本と魔法が好きで、それ以外に興味がなかった。

 その結果、前世では〝賢者〟などと呼ばれるようになった。

 

 だけど私は所詮、好きなことを好きなだけやって、好きなことに全力になって生きただけ。

 名声を得ようだなんてこれっぽっちも思っていなかった。

 

 それでも名声が付いてきたことを考えれば、私にとってはやはり才能なんかよりもそっちが真実(・・)だったのだろうと思う。

 

 私は魔力を遮断し【炎蛇の魔法(フレイム・スネーク)】の発動を終え、炎蛇を消し去る。

 そしてマーガレットの方を見た。

 

「これで満足ですか?」

 

 ハァ、とため息交じりに尋ねてみる。

 するとマーガレットはじっとこちらを見つめたまま、

 

「…………ええ、ありがとう。あなたの証明書を見せて頂ける?」

 

 そう言ってきたので、私は自分の証明書を彼女に手渡す。

 彼女はしばし証明書を眺めた後、私に返してくれた。

 

 マーガレットは、今度は試験官の男の方へと振り向く。

 

「この子を試験会場に通しなさい。これは館長命令よ」

「え? い、いやしかし……!」

「それと、あなた確かクズネツォフとかいう名前だったわね。あなたいらないわ。今日でクビ(・・)よ」

「…………は!?」

「聞こえなかった?〈魔女図書館〉の司書に無能は必要ない。だからクビだと言ったの」

 

 マーガレットの言葉を受け、顔を真っ青にして愕然とする試験官の男。

 彼は信じられないといった様子で、口をパクパクとさせる。

 

「せ、説明を求めます! どうして俺がクビなんですか! 俺は無能なんかじゃ――!」

「あなた、この子がどれだけの魔力を持っているか気付けなかったでしょう? それに、私の目がノースウッド領の領主印を本物か偽物か見抜けないような節穴だと思った?」

「……!」

 

 ドバッと試験官の男の額から大量の脂汗が滴り落ち始め、頬の筋肉が引き攣って痙攣を起こし始める。

 

 まさか〈魔女図書館〉の館長様が、田舎の領主印をきっちり把握しているとは思いもよらなかったのだろう。

 適当なことを言いすぎたな。無能というか、阿呆だ。

 

「証明書に押された領主印は間違いなく本物。それに彼女の証明書には〝ノースウッド領歴代最高成績〟と書かれてあるわ」

 

 マーガレットの言葉に釣られて、私は改めて自分の証明書を見返してみる。

 すると端っこの方に、確かに〝ノースウッド領歴代最高成績〟とちっちゃく書かれてあった。

 今初めて気付いた。

 

「ノースウッド領の現領主は、昔から魔女や魔導士の育成に力を入れていることで有名でね。残念なことに、ここ数年は司書試験に受かる人材が出てこなかったのだけれど……あの地域は田舎でこそあれ、魔法のレベルが高いことで少しばかり名が知られているのよ。あなたは、そんなことすら知らなかったのでしょうけれど」

「う、うぅ……!」

「そんなノースウッド領で、歴代最高成績を収めたほどの逸材……。あなたはそれを田舎者だとバカにした挙句、私が証明書の真贋(しんがん)を見抜けないと疑いもしなかった。これは無能の証明にとどまらず、この私マーガレット・ヴァリアンテを侮辱したに他ならないわ」

 

 マーガレットの口調に明確な怒りと侮蔑が宿る。

 

 ……知らなかった、ウチの領地って魔法のレベル高かったんだ。

 てっきり、むしろその逆なのかと……。

 

 でも確かに思い返してみれば、私が初めて司書試験のことを聞いた六年前から、毎年領内から司書試験へ挑む者を輩出してたらしいもんな。

 受験資格を得るための試験にもちゃんと領主が参加して、自分の目で受験生たちのことを審査してたし。

 

 そう考えると、私って実は凄い?

 でも全然実感が沸かないんだけど。

 

「退職の手続きは、私が直々に、今日中に済ませてあげる。その恥知らずな顔を、二度と〈魔女図書館〉に出さないで」

「く……くそぉ……っ」

 

 もはや反論もできず、その場に崩れ落ちる試験官の男。

 マーガレットは私の方を向くと、

 

「――メルティナ・ロウレンティア」

 

 私の名を呼んだ。

 

「は、はい!」

「あなたの試験結果……楽しみにしておくわね」

 

 彼女はそう言うと、私の前から去っていった。

 この後、私も無事に試験会場へと入れたのだった。

 




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